2022.06.15
大都市圏オフィス需要調査2022春②働き方とワークプレイス編
~企業のサテライトオフィス導入率は 25%、中小規模企業にも拡大~
1. はじめに
コロナ禍を機にテレワークが急速に普及し、場所や時間に捉われない柔軟な働き方が定着しつつある。それにともない、企業のオフィス需要にも変化がみられるようになっている。
ザイマックス不動産総合研究所では2016年秋より、企業のオフィス利用の実態や働き方に関して半年に1回アンケート調査を行い、オフィス需要との関係について継続的に分析を行ってきた。本レポート「②働き方とワークプレイス編」は、その第12回調査結果のうち、主に企業のオフィスの使い方やテレワークなどの利用実態と今後の意向を示す結果をまとめたものである。なお、同日公表の「①需要動向編」(*1)では、オフィス需要の実態と今後の方向性を示す結果をまとめている。
- ・ 今後オフィスにあるとよいと思うスペースを聞いた結果では、「リモート会議用ブース・個室」(46.5%)や「リフレッシュスペース」(33.1%)、「集中するためのスペース」(31.8%)などが現在の導入率より高い結果となった。
- ・ オフィス内の固定席とフレキシブルな座席の割合について、「全て固定席」と回答した企業は38.6%で、約6割の企業はフレキシブルに利用できる座席を用意している。
- ・ 在宅勤務制度の導入率は51.9%、サテライトオフィスの導入率は25.1%であった。
- ・ サテライトオフィス導入企業のうち、23.8%が過去1年間で初めて導入したと回答。従業員数100人未満の企業では28.4%に上り、利用が拡大している。
- ・ 約6割の企業が、テレワークによって「健康経営、ウェルビーイング」のメリットを得られると考えている。
2. 調査結果
2.1. メインオフィスの使われ方
入居中のオフィスにあるフレキシブルなスペースを聞いた結果、「オープンなミーティングスペース」(52.0%)や「フリーアドレス席」(34.8%)が上位に挙がった【図表1】。
【図表1】フレキシブルなスペース
また、現在の状況に関わらず、今後(1~2年程度先まで)オフィスにあるとよいと思うスペースについて聞いた結果、46.5%の企業が「リモート会議用ブース・個室」を選択し、現在の導入率(31.8%)を上回った【図表2】。そのほか、「リフレッシュスペース」(33.1%)や「集中するためのスペース」(31.8%)、「電話専用ブース・個室」(20.7%)も現在の導入率よりも10ポイント以上高い結果となり、今後オフィスへの導入が広がる可能性が示唆された。
【図表2】今後あるとよいと思うスペース
オフィス内の座席(会議室を除く)のうち、固定席と【図表1】で示したようなフレキシブルなスペースにある座席の割合を聞いた結果が【図表3】である。「全て固定席」は38.6%にとどまり、約6割の企業は多かれ少なかれフレキシブルに利用できる座席を用意していることがわかった。また、「全てフレキシブルな座席」と回答した企業の割合は8.0%であった。
【図表3】固定席とフレキシブルな座席の割合
固定席とフレキシブルな座席の割合について今後の意向を聞いたところ、「現状維持」(64.5%)が最も多かったものの、24.5%の企業は「フレキシブルな座席の割合を高めたい」と考えていることがわかった【図表4】。
【図表4】固定席とフレキシブルな座席の割合の今後の意向
「フレキシブルな座席の割合を高めたい」と回答した企業にその理由を聞いたところ、「在籍人数の増減に対応するため」(49.6%)と「テレワークにより出社人数が減ったため」(49.1%)が上位に並んだ【図表5】。在籍人数分の固定席を用意する従来のレイアウトではなく、働き方の変化による出社人数の増減に柔軟に対応できるレイアウトが求められていることがうかがえる。また、「社内のコミュニケーション活性化」(44.6%)や「テレワーク導入等により新たなニーズが生まれたため」(27.6%)などの回答からは、ポストコロナの働き方に適したオフィスレイアウトの再検討が進む可能性が示唆された。
【図表5】フレキシブルな座席の割合を高めたい理由
2.2. 働き方とテレワーク
働き方に関する取り組みについて、対象の一部・全部を問わず、少しでも取り組んでいるものがあるかどうかを聞いた【図表6】。モバイルワークに関する施策(上位3項目)は半数以上の企業が導入していた。そのほか、上位には「資料・書籍等のペーパーレス化」(49.4%)、「フレックスタイム制度の整備・活用」(37.3%)などが並んだ。
【図表6】働き方に関する取り組み状況
また、【図表7】はテレワークする場所に関する施策として、「在宅勤務制度」と「サテライトオフィス」(「専門事業者等が提供するサテライトオフィス等の利用」と「自社が所有・賃借するサテライトオフィス等の設置」の2つのうちどちらか1つでも選択)の導入率について経年変化を示したものである。在宅勤務制度の導入率はコロナ禍発生後から大幅に増加したものの、今回の調査では1年前の結果を下回った。一方、サテライトオフィスの導入率は年々増加しており、今回は25.1%となった。
【図表7】在宅勤務制度とサテライトオフィスの導入率
オフィス所在地別にみると、東京23区のサテライトオフィスの導入率(30.5%)はほかの地域の2倍以上であり、過去調査と比較しても増加していることがわかる【図表8】。
【図表8】<オフィス所在地別>在宅勤務制度とサテライトオフィスの導入率
従業員数別では、在宅勤務制度・サテライトオフィスともに従業員数が多い企業ほど導入率が高い【図表9】。また、サテライトオフィスの導入率は全企業規模で伸びており、特に「100人未満」の企業では1年間で2倍近い増加(11.2%→21.8%)がみられた。
【図表9】<従業員数別>在宅勤務制度とサテライトオフィスの導入率
業種別では、サテライトオフィスの導入率がいずれの業種でも増加している【図表10】。
【図表10】<業種別>在宅勤務制度とサテライトオフィスの導入率
現在の状況に関わらず、今後(1~2年程度先まで)取り組みたいテレワークする場所に関する施策を聞いた結果が【図表11】である。2021春調査と比べ、在宅勤務制度(42.7%)は10ポイント以上低下した一方、サテライトオフィス(32.1%)は微増した。テレワークが普及するなか、その手段としてサテライトオフィスの存在感が増しているといえる。
【図表11】今後取り組みたいテレワークする場所に関する施策
次に、【図表7】でサテライトオフィスを導入していると回答した企業に対して、過去1年間(2021年4月~2022年3月)で整備状況に変化があったかを聞いた【図表12】。23.8%が「初めて導入した」、16.1%が「拠点数・契約サービスが増えた」と回答し、約4割の企業が過去1年間にサテライトオフィスの利用を拡大していることがわかった。
【図表12】サテライトオフィスの整備状況の変化
この結果を従業員数別にみると、特に従業員数の少ない企業ほど過去1年間で「初めて導入した」割合が高い傾向がみられ、「100人未満」では28.4%が該当した【図表13】。また、「1,000人以上」では「拠点数・契約サービスが増えた」が25.2%に上った。先行する大規模企業から中小規模企業にも、サテライトオフィスの利用が拡大している状況がうかがえる。
【図表13】<従業員数別>サテライトオフィスの整備状況の変化
テレワークによって「健康経営、ウェルビーイング」「オフィスコスト効率化」「人事面(採用、離職率低下)の優位性」「生産性向上」という4つのメリットを得られると思うか否かを聞いた結果が【図表14】である。「健康経営、ウェルビーイング」のメリットが得られると思う(「非常に思う」と「やや思う」の合計)と回答した企業の割合は約6割に上り、4つのなかで最も高かった。
【図表14】テレワークによって得られると思うメリット
この結果を、テレワークの導入状況別(*4)に比較したものが【図表15】である。サテライトオフィスと在宅勤務制度を併用している企業は、どの項目でも6割以上がメリットを得られると思うと回答しており、テレワークのメリットを高く評価していることがわかった。
【図表15】<テレワーク導入状況別>テレワークによって得られると思うメリット
2.3. ワークプレイスに関する価値観
コロナ禍収束後、メインオフィスを設置する物件にあるとよい要件を聞いたところ、「セキュリティ性能が高い」(59.7%)が最も多く、次いで「ビルの清掃衛生・維持管理状態が良い」(57.7%)や「耐震性能が高い(新耐震、免震・制震等)」(57.3%)などが並んだ【図表16】。また、今回調査から選択肢を変更したため単純比較はできないものの、2021春調査よりも「自然光が入る」(37.3%)や「スマートテクノロジーを採用している(非接触等)」(18.0%)、「ビルが環境認証・ウェルネス認証を取得している」(11.4%)などが伸びており、オフィスビルに求められる価値が多様化しつつある状況がうかがえる。
【図表16】メインオフィスを設置する物件にあるとよい要件
同様にコロナ禍収束後、サテライトオフィスを設置する物件にあるとよい要件を聞いた結果が【図表17】である。1位の「セキュリティ性能が高い」(49.1%)をはじめ、ワーカーの安心・安全や快適性にかかわる項目が上位となり、【図表16】のメインオフィスに求める要件と大きな違いはみられなかった。テレワークの普及にともない、ワーカーがサテライトオフィスで終日働くようなケースも増えており、ワークプレイスとして求められる品質はメインオフィスと変わらなくなっているのかもしれない。
【図表17】サテライトオフィスを設置する物件にあるとよい要件
最後に、コロナ禍収束後の働く場所の立地について考えを聞いた【図表18】。ハイブリッドワーク志向を意味する「本社機能は都心に置き、郊外に働く場所を分散させる(在宅勤務を含む)」は37.2%と、「働く場所を都心部に集約させる」(12.3%)を大きく上回った。しかし、それ以上に「わからない」(40.5%)が多く、ワークプレイス戦略についてまだ決断しかねている企業が多いことがわかる。
【図表18】コロナ禍収束後の働く場所の立地
この結果をオフィス所在地別にみると、東京23区はハイブリッドワーク志向が比較的強い傾向(42.7%)がみられた【図表19】。また、大阪市・名古屋市は「わからない」と回答した企業が過半数を占めた。
【図表19】<オフィス所在地別>コロナ禍収束後の働く場所の立地
3. まとめ
本レポートで紹介した複数のデータから、サテライトオフィスの利用が拡大しているだけでなく、大規模企業から中小規模企業へ、東京23区から地方へと利用の裾野が広がっている状況が確認された。コロナ禍の長期化にともない在宅勤務制度の急拡大はいったん落ち着くと同時に、テレワークの手段として、サテライトオフィスの価値が企業に認知され、存在感が増しつつあるのかもしれない。
また、「①需要動向編」で確認したとおり、多くの企業はコロナ禍収束後に出社とテレワークを使い分けるハイブリッドワークを志向している。ハイブリッドワークが広がると、メインオフィスに求められる役割も変わるだろう。同じ企業内でも出社する人とテレワークする人が混在することになり、従来のような固定席の執務スペースだけでは対応できなくなると考えられる。部署や支社などによっても出社状況が異なるなかで、ハイブリッド会議(対面参加者とリモート参加者が混在する会議形態)が一般的になり、リモート会議用の個室や、ハイブリッド会議に適したスペースなども必要になるかもしれない。今後、メインオフィスとテレワーク拠点からなるワークプレイス全体を、企業がどのように構築していくのか、引き続き調査していく。
調査期間
2022年4月12日~4月24日
調査対象
・ザイマックスグループの管理運営物件のオフィスビルに入居中のテナント企業
・法人向けサテライトオフィスサービス「ZXY(ジザイ)」契約企業
・ザイマックスインフォニスタの取引先企業
上記合計 44,324件
有効回答数
1,537件 回答率:3.5%
調査地域
全国(東京都、大阪府、愛知県、福岡県、神奈川県、埼玉県、千葉県、その他)
調査方法
メール配信による
調査内容
- 入居中オフィスについて
- ・ 契約形態/オフィス種類/所在地/契約面積/賃料単価(共益費込)/在籍人数
- ・ 手狭感/出社率(実態・意向)
- オフィス利用とテレワークの実態
- ・ フレキシブルなスペースの有無/座席数(実態・意向)/固定席とフレキシブルなスペースの座席の割合(実態・意向)
- ・ 働き方に関する取り組み状況/テレワークの場所に関する施策の取り組み状況/サテライトオフィスの整備状況の変化
- ・ テレワークにより得られるメリット
- オフィス需要の変化(2021年4月〜2022年3月)
- ・ 面積の変化とその内容・理由
- ・ 賃料単価の変化
- ・ 在籍人数の変化
- 今後のオフィス需要の見通し
- ・ 景況感
- ・ 在籍人数の見通し
- ・ 面積の意向とその内容・理由
- ・ あるとよいと思うフレキシブルなスペース/取り組みたいテレワークの場所に関する施策
- ・ メインオフィスの物件にあるとよい要件/サテライトオフィスの物件にあるとよい要件
- ・ 働く場所の立地
- 企業属性
- ・ 業種/従業員数/従業員の平均年齢
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