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2020.07.15

コロナ危機における企業の働き方とワークプレイス

~全国企業調査および企業ヒアリングより~

2020年春、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、日本政府が企業に対して時差出勤やテレワーク等を推奨したことにより、多くの企業やオフィスワーカーは働き方の見直しを余儀なくされた。なるべく自宅から出ず、人に会わずに働くという制約は、在宅勤務をはじめとするテレワークの推進を半ば強制的に促したとみられ、今日まで働き方改革の文脈において行われてきたワークプレイスに関する議論を活発化させる契機ともなっている。

そこで、ザイマックス総研では緊急事態宣言解除から間もない6月4日~16日、全国の企業を対象に、コロナ危機下の働き方やワークプレイスに関するアンケート調査を行った。また、4月後半~6月にかけては、ザイマックスが運営する法人向けサテライトオフィスサービス「ZXY」利用登録企業のうち30社にヒアリング調査を行い、非常事態下での取り組みや苦労、率直な感想といった生の声を収集した。

本レポートはそれらの調査結果をもとに、コロナ危機における企業の対応とそれによってみえた課題、今後のオフィス戦略に対する現時点での考え方などを明らかにし、アフターコロナ(現在対峙している危機が収束し、行動制限が解除された後の社会)における企業の働き方とワークプレイスのヒントを提示することを目指すものである。なお、企業アンケートではコロナ危機下に限らず平常時のオフィス需要や働き方に関する調査項目も設けており、その結果は定期レポート(*1)の最新版として近日中に発表予定である。

*1 関連レポート:2019年11月27日公表「大都市圏オフィス需要調査2019秋

1.コロナ危機下の働き方

まず、新型コロナウイルス感染拡大への対策として実施した施策を聞いた【図表1】。もっとも多かったのは「在宅勤務」で91.5%の企業が実施しており、次いで「時差出勤」が76.6%となった。

【図表1】新型コロナ対策として実施した施策

*2 レンタルオフィス、シェアオフィス等、賃貸借以外の利用契約に基づくワークプレイスサービス

各施策の導入状況を企業属性別にみると、いくつかの特徴がみられた。

企業規模別では、大企業ほど実施率が高い傾向があるものの、一位の在宅勤務については従業員数100人未満の企業でも88%が実施しており、企業規模にかかわらず幅広く取り組まれたことがわかる【図表2】。一方、自宅以外の場所でのテレワークを示す「専門事業者が提供するサテライトオフィス等の利用」と「自社が所有・賃借するサテライトオフィス等の利用」については、大企業の利用が目立った。

【図表2】新型コロナ対策として実施した施策(企業規模別)

オフィスの所在地別では、東京23区がテレワーク関連施策の実施率について比較的高い傾向がみられた一方、時差出勤に関しては大きな差はみられなかった【図表3】。

【図表3】新型コロナ対策として実施した施策(オフィス所在地別)

業種別では、「情報通信業」の在宅勤務や事業者サテライトオフィス利用率が比較的高い【図表4】。情報通信業は過去の調査でも、これらテレワーク関連施策の導入率が他業種に比べて高く、テレワークしやすい環境がもともと整っていたと考えられる。一方、「医療,福祉」は全体的に実施率が低いことから、働く場所や時間に柔軟性をもたせづらい状況がうかがえる。

【図表4】新型コロナ対策として実施した施策(業種別)

ここで、全体の9割以上の企業が実施した在宅勤務に注目したい。

コロナ危機対策として在宅勤務を実施した企業のうち、64.5%はコロナ危機を機に初めて導入したことがわかった【図表5】。また、29.8%はコロナ危機を機に在宅勤務を強化・拡大しており、コロナ危機が企業のテレワーク活用を急速に後押ししたといえるだろう。

【図表5】在宅勤務導入のきっかけ

ちなみに、コロナ危機対策として「自社が所有・賃借するサテライトオフィス等」を利用した企業についても、コロナ危機を機に初めて導入した割合が33.3%と、一定数いることがわかった【図表6】。

【図表6】自社サテライトオフィス導入のきっかけ

今般のコロナ危機における働き方としては在宅勤務が注目されたが、自宅環境や家族の状況によっては自宅で働くことが難しい人もいるため、その対策としてサテライトオフィスを導入した企業があるようだ。

企業ヒアリングでも、「東京2020大会対策として予定していた社宅の空き部屋のサテライトオフィス化を、コロナ休校などの対応として前倒しし、子育て世代向けに解放したところ好評だった」「原則在宅を推奨していたが、自宅で働きづらくて出社してしまう人にはサテライトオフィスを推奨した」などの声が聞かれた。また、「今までサテライトオフィスは移動効率を上げるための時短ツールという位置付けだったが、今回社内アンケートを行ったところ、社員の約半数は自宅で働きづらいということがわかったので、在宅勤務に代わる選択肢として拡充していきたい」と、コロナ危機によってサテライトオフィスの必要性を認識したという企業もみられた。

なお、自社サテライトオフィス導入のきっかけを企業規模別にみると、従業員数1000人未満の中小企業では大企業に比べ、コロナ危機を機に初めて導入した割合が高いことがわかった【図表7】。過去の調査でも、コスト負担のあるサテライトオフィス等の活用は大企業から広がっていたが、今回のコロナ危機によって中小企業でも活用が促され、今後の定着につながる契機となるかもしれない。

【図表7】自社サテライトオフィス導入のきっかけ(企業規模別)

次に、在宅勤務を実施した企業(【図表1】)に対し、政府による緊急事態宣言が解除された6月初旬時点の継続状況を聞いたところ、43.4%が継続していた一方、55.4%は緩和、もしくはすでに廃止していた【図表8】。

「その他」に寄せられた自由回答には、「育児・介護等の事情のある人のみ継続」「健康不安者のみ継続」といった限定的な運用に移行した例もみられ、企業の推奨・指示による全面的な在宅勤務は、緊急事態宣言が発出された4~5月をピークとしてその後減少したと考えられる。

【図表8】6月初旬時点の在宅勤務の継続状況

在宅勤務の継続状況を企業属性別にみてみると、企業規模別では、大企業の57.6%が継続している一方、中小規模の企業では緩和や廃止に移行している割合が比較的高いことがわかる【図表9】。

【図表9】6月初旬時点の在宅勤務の継続状況(企業規模別)

オフィス所在地別では東京23区がもっとも継続している割合が高く、反対に大阪市はすでにやめている割合が高いなど、新型コロナウイルス感染者数の多い主要都市間でも対応に差があることがわかった【図表10】。

【図表10】6月初旬時点の在宅勤務の継続状況(オフィス所在地別)

業種別では「情報通信業」がもっとも継続している割合が高く(61.8%)、やめている割合が高いのは「医療,福祉」(28.6%)や「不動産業,物品賃貸業」(28.2%)であった【図表11】。

【図表11】6月初旬時点の在宅勤務の継続状況(業種別)

また、在宅勤務を導入したきっかけ(【図表5】)別に6月の継続状況をみると、コロナ危機以前から在宅勤務を導入していた企業では64.9%が継続していた【図表12】。一方、コロナ危機を機に初めて導入した企業の66.2%は緩和・廃止に移行していたが、32.6%は継続していた。この32.6%の企業のうちの何割かは、アフターコロナにおいても在宅勤務をはじめとするテレワークを活用する可能性があるだろう。

【図表12】6月初旬時点の在宅勤務の継続状況(導入のきっかけ別)

続いて、【図表1】の新型コロナウイルス感染対策として実施した施策の総合的な評価を「支障なく実施している」「一部に支障がある」「全面的に支障がある」の三段階で聞いたところ、49.9%の企業が「支障なく実施している」と回答した【図表13】。

【図表13】コロナ対策の評価

この評価を、在宅勤務の継続状況とあわせてみると、「支障なし」と回答した企業の半数は6月も在宅勤務を継続していた反面、「全面的に支障がある」と回答した企業では半数以上が在宅勤務をやめていたことがわかった【図表14】。

【図表14】6月初旬時点の在宅勤務の継続状況(コロナ対策の評価別)

2.在宅勤務の課題と対策

4~5月にかけて発出された緊急事態宣言において、政府は人との接触機会を8割削減するよう求め、企業に対する在宅勤務導入の外的圧力は過去最高に高まった。そうした状況を踏まえ、在宅勤務を実施しなかった企業も含む回答者全体に対して「在宅勤務に関して困ったことや課題」を聞いた結果が【図表15】である。

1位は「在宅勤務ではできない業務がある」(77.3%)で、ほかの選択肢と比べ突出して高かった。2位以下の「ペーパーレス対応が不十分」(45.9%)、「決裁等の電子化対応が不十分」(44.8%)といった状況が、在宅勤務ではできない業務がある原因となっているのかもしれない。

【図表15】在宅勤務に関して困ったことや課題

「その他」に寄せられた自由記述では、「社内決裁等は全て電子化されているが、社外との契約に押印が必要で出社しなければならない」など、自社の取り組みだけでは解決できない課題があることもわかった。特にBtoB企業は、顧客企業のテレワーク推進度に影響されると考えられ、社会全体の変革が求められる。

また、この結果には業種ごとの特徴がみられた。【図表16-①】【図表16-②】はどちらも、各業種がそれぞれの項目を選択した割合を記した同じ表であり、①は項目ごとに選択率の高かった上位5業種の割合を、②は業種ごとに選択率の高かった上位5項目の割合を色付けしている。

まず、【図表16-①】(項目ごとに選択率の高かった上位5業種の割合を色付け)より、強い課題を感じている項目が多い業種と少ない業種があることがわかる。例えば、「製造業」や「建設業」、「運輸業,郵便業」は他業種と比べてどの項目も選択率が高いことから、より多くの課題を強く感じているといえるだろう。また、コロナ危機対策としての在宅勤務実施率(【図表4】)が比較的高かった「情報通信業」は、他業種に比べて選択率が総じて低いものの、「従業員の生産性・業務効率への懸念」や「従業員のメンタルヘルスケアが難しい」など、働く個人にフォーカスする課題を比較的強く感じているようだ。

【図表16-①】在宅勤務に関して困ったことや課題(業種別)
※項目ごとに選択率の高かった上位5業種の割合を色付け

次に、【図表16-②】(業種ごとに選択率の高かった上位5項目の割合を色付け)からは、業種によって課題に感じている内容に若干の差があることがわかる。例えば、「卸売業,小売業」や「運輸業,郵便業」、「医療,福祉」は、他業種よりも「職種等により在宅勤務できる人とできない人の不公平感がある」という課題を強く感じている。これらはテレワークでの代替が困難な現場のある業種であるためと考えられる。また、「不動産業,物品賃貸業」、「運輸業,郵便業」、「教育,学習支援業」、「医療,福祉」は「ネットワーク環境の整備が不十分」という課題を強く感じているようだ。

【図表16-②】在宅勤務に関して困ったことや課題(業種別)
※業種ごとに選択率の高かった上位5項目の割合を色付け

緊急事態宣言下の働き方に関しては、企業ヒアリングでも多くの悩みや課題の声が聞かれ、その大部分が「環境整備(ICT環境、自宅環境など)」「仕事の進め方」「コミュニケーション」「従業員マネジメント」のいずれかに関する内容であった。多くの企業はこれらの課題解決に向けて目下取り組み中であるが、環境整備に関する課題については早期に対処している企業も多いことがわかった。

調査結果1位の「在宅勤務ではできない業務がある」(【図表15】)も、できない原因が環境整備に関する不備・不足であるならば、適切な設備投資や運用ルール策定などによって解決が可能かもしれない。

実際に、コロナ危機を受けて完全在宅勤務に踏み切ったある情報通信企業では、初期に従業員向けのアンケートを行い、在宅勤務に課題や不満を感じている人には詳細をヒアリングして、理由を細分化することで対処していったという。例えば、仕事に適した家具やモニターが無いことが原因ならば購入費の補助を検討する、子どもが家にいることが原因ならば、一斉休校・休園期間が終われば自然解消されるものとして割り切るなどだ。「上手くいかない」を総合評価として捉えるのではなく、その原因を細分化して個別に対処することが解決への第一歩となると考えられる。以下、企業ヒアリングで聞いた話の一部を紹介する。

 環境整備(ICT環境、自宅環境など)

● VPN利用が急増して接続しづらい。緊急度の高い人に優先的に使わせる運用ができていない。

● 貸出用Wi-Fiルーターなどの機器が足りず、5月に入ってようやく必要分を確保できた。

● 出社希望者の約半数は、家族からのプレッシャーで家に居づらいと感じていることがわかった。

● 情報漏洩の懸念からコンビニプリントを禁止しており、印刷できない問題が発生している。


 仕事の進め方

● 民間同士では電子化のやりとりも進んできているが、公的機関や行政関連の電子化が進んでいないために出社せざるを得ない部門がある。

● 今までは本社勤務者のみテレワークを利用していたが、今回全体に拡大したことで、特殊なソフトを使う技術者や現場担当者など、在宅勤務できない社員から「ずるい」という声が上がっている。


 コミュニケーション

● 軽い相談がしづらく、これまでその場で解決できたことがメールや電話になるため仕事が増えた印象。

● ITリテラシーのレベル差によってコミュニケーションの質に関して感じることが違う。新人研修をオンラインで実施したが、新人たちは問題なさそうな一方で先輩社員が困惑している様子もあった。

● 大部分の業務が在宅で可能だとわかった一方、若手の教育や、新しいものを生み出す熱量のある会議など、一部の業務は対面が必要であると感じた。

● ディスカッションやブレストがやりづらい。将来的にもテレワークを継続する前提で、ファシリテーターを決めるなど、オンライン上で上手く議論する方法を試行錯誤中。


 従業員マネジメント

● ずっと一人でいることにストレスを感じる人と平気な人、社員の性格により反応が二極化している。

● トライアルやルールが決まったうえでの在宅勤務と違い、先がみえない状態で続けているため従業員のモチベーション管理が難しい。他のメンバーの業務内容や今のモチベーションが把握しづらい。

● 「本部長がリモート会議が苦手」という理由で出社している部署があり、教育・啓発が課題。


対して、「やってみたら意外とできた」という意見も多かった。例えば、コロナ危機以前からテレワーク制度はあったものの利用者がほぼいなかったというメーカー企業は、「顔を合わせないとできないと思っていた業務がオンラインで遅滞なく進んでいる。今回慣れた人たちからテレワークが定着していくだろうし、出張も減ると思う」と話した。他のメーカー企業も、「緊急事態宣言解除後も元に戻したくないという意見が多かったので当面は全面在宅を続け、将来的にも元の体制に戻るのではなく、自宅以外の場所の選択肢を増やす方向で協議を始めた」といい、在宅勤務をコロナ危機下の一時的な対応と捉えている企業は少なかった。

3.アフターコロナのワークプレイス戦略

ここまで在宅勤務にフォーカスしてきたが、コロナ危機を経験した日本企業はアフターコロナにおいて、オフィスとテレワークのバランスといったワークプレイス全体の戦略をどのように考えていくのだろうか。3章では、その指針となる現在の考えについて確認する。

まず、現在入居中のオフィスについて、ワーカーに安心・安全な環境が提供されていると思うか否かを5段階で評価してもらった【図表17】。「非常にそう思う」「ややそう思う」の合計は56.4%で、過半数の企業はワーカーに安心・安全なオフィス環境を提供しているとする一方、「わからない」も19.6%に上った。

【図表17】オフィスの安心・安全に関する評価

各評価の理由を自由記述で聞いた結果、「そう思う」の理由は「在宅勤務によりオフィス内での人との接触が最低限になっている」「換気やパーテーションにより感染対策が徹底されている」「十分なディスタンスがとれる広さがある」など、新型コロナウイルス感染対策を評価する意見が多く、おのずと「そう思わない」の理由はその裏返しとなった。例えば、「在宅勤務や時差出勤が許可されていない」「換気設備が古く窓も開けられない」「狭いオフィスなのでディスタンスを確保できず、三密の状態で働いている」などである。

今回のコロナ危機は人々の衛生観念や安心・安全に対する意識を底上げし、こうした意識変革は企業のオフィス需要に影響を与えるものと考えられる。将来のワークプレイスには新たに、健康や感染症予防に配慮した設計・運用などが求められるようになるとともに、企業の取り組みに対するワーカーの評価もシビアになる可能性があるだろう。

次に、コロナ危機収束後のワークプレイスの方向性について、考えに近いものを選んでもらった結果が【図表18】である。1位は「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける」で、46.5%と半数近い企業が選択した一方、「収束後は以前同様に戻り、あまり変わらない」(26.5%)が2位となった。

コロナ危機をきっかけに、ワークプレイスの選択肢の多様化や、健康や感染症対策に配慮したオフィス設計・運用への見直し、BCP対策の重視など、オフィスの在り方を進化させる方向で考えている企業が一定数いることがわかった。アフターコロナにはこうした企業と、元の状態に戻る「回帰派」との間でオフィス戦略の差が開いていくと考えられる。

【図表18】アフターコロナのワークプレイスの方向性

この結果を企業規模別でみると、従業員数1000人以上の大企業ほど「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける」(63.8%)や、「テレワークを拡充し、メインオフィスを縮小する」(20.2%)など、テレワークを拡充してワークプレイスを分散させる意向が強い【図表19】。一方、「以前同様に戻る」は従業員数100人未満の企業がもっとも多く(31.2%)、企業規模によりアフターコロナの方向性に差があることがわかった。

【図表19】アフターコロナのワークプレイスの方向性(企業規模別)

オフィスの所在地別では、東京23区が「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける」(51.1%)や、「テレワークを拡充し、メインオフィスを縮小する」(17.2%)など、テレワークを拡充してワークプレイスを分散させる意向が強く、「以前同様に戻る」は23.1%ともっとも低かった【図表20】。

【図表20】アフターコロナのワークプレイスの方向性(オフィス所在地別)

業種別では、「情報通信業」が「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける」(62.0%)の割合が高かった【図表21】。また、「以前同様に戻る」は「不動産業,物品賃貸業」や「教育,学習支援業」、「医療,福祉」など、コロナ危機対策として在宅勤務などの実施率が低かった業種で高い傾向がみられた。

【図表21】アフターコロナのワークプレイスの方向性(業種別・項目抜粋)

<PICKUP>テレワークを強力に推進する「オフィス縮小派」の声

【図表18】の通り、アンケートでは「ハイブリッド派」(メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける)と「回帰派」(以前同様に戻る)という二つの方向性が多い結果となった。しかし、東京に本社を置く一部の大企業のなかには、テレワーク拡充を前提にメインオフィスを縮小する「オフィス縮小派」が一定数いることが、ヒアリングにより明らかとなった。

例えば、ある情報通信企業は「2000坪のオフィスに毎日平均4名程度しかいないような状況なので、働く場所の分散化が進むことは間違いない。今回強制的に在宅勤務に振り切ったことで、満員電車通勤の非効率さが改めて課題認識されたことも大きい」と、アフターコロナに向けた改革の意欲を示した。

そもそもテレワーク推進に積極的な企業のなかには、コロナ危機以前から、テレワーク活用を前提としたオフィス縮小の検討を始めていた企業が少なくない。ある建材メーカーではすでに昨年度、執務エリアを社員数の7割に圧縮する縮小移転を完了しており、並行して進めていたテレワークの準備がコロナ危機下で功を奏した。

また、ある商社では「在宅勤務が上手く機能しているため、経営企画から都心オフィスの圧縮を検討するよう言われ始めた。テレワークとフリーアドレス席の運用によるオフィス縮小移転はかねてより希望していたので、その後押しになっている」という。ただし課題もある。「昨年度に一部部門のペーパーレス化プロジェクトが頓挫した経緯があり、今後全社的なペーパーレス化が実現できるかは疑問。現行オフィスの執務エリア削減にはペーパーレス化の実現が必須なので、段階的かつ慎重に進めたい」。

この商社同様、動き出しの早いオフィス縮小派は、現時点で浮上している懸念や課題を洗い出し、具体的な検討を始めている。グローバル展開する大手通信事業者は、「都心オフィスのワンフロアを返し、浮いたコストをシェアオフィス契約や在宅勤務環境整備の費用に充てようという意見が出ている一方、ソーシャルディスタンスを考慮してオフィスの1人あたり面積を広げるため、オフィス減床はしないという意見もある。両方を叶えるために固定席をフリーアドレス化する案もあるが、感染経路の特定が難しいなどの懸念もある」と話す。

ある食品メーカーでは以前から、本社オフィスや自宅、サテライトオフィス等のどこで働いてもよい制度づくりを進めていたが、今回の強制在宅勤務では業務内容によって向き不向きがあることがわかったため、業務ごとに推奨されるワークプレイスを整理したガイドラインの作成を検討しているという。また、工場勤務社員はもともとこの制度の対象外であったが、コロナ危機の経験を踏まえ、遠隔でも可能な工場業務の洗い出しを進めるなど、テレワーク導入の動きを加速させている。「極端な話、本社オフィスを少し居心地悪くしてでも出社を必要最低限に抑え、テレワーク活用を強力に推進するという方向性もありえます」と意気込みを語った。

4.まとめ

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、テレワークをはじめとする新たな働き方を強制的に促し、漸進的であった改革の歩みを一部加速する役割を果たしたといえる。特に、緊急事態宣言において政府が人との接触機会を8割削減するよう求めたことにより、企業に対する在宅勤務導入の外的圧力は過去最高に高まり、多くの企業とワーカーが初めての在宅勤務を経験することとなった。

もっとも、在宅勤務を取り入れたすべての企業で働き方の進化が実現するかはまだわからない。今回の調査結果からみえてきた通り、コロナ危機以前から働き方改革のトレンドのなかでテレワーク導入に取り組んできた企業とそうでなかった企業では在宅勤務に対する評価が分かれ、コロナ危機を機に初めて導入した企業の66.2%は緊急事態宣言解除後、早くも在宅勤務の緩和や廃止に移行していた。

一方、32.6%は解除後も在宅勤務を継続しており、この層がアフターコロナにおいて在宅勤務をはじめとするフレキシブルな働き方を定着させるか否かが、日本の働き方改革の進展を左右するカギとなるかもしれない。導入歴が浅くてもテレワーク活用に前向きな企業は共通して、今般のコロナ危機による強制的な働き方の変化を「改革のチャンス」と捉え、危機収束後までを見据えた課題解決に取り組んでいるという特徴があり、そうでない企業との差が中長期的に開いていくものと考えられる。

また今後、コロナ危機の影響による景気悪化から企業のコスト削減意識が高まり、3章末で言及した、テレワーク活用を前提とするメインオフィス縮小の動きに拍車がかかる可能性もある。この場合に注意しなければならないのは、単なる固定費削減だけが目的になってはならないという点だ。

コロナ危機以前から、ザイマックス総研ではフレキシブルな働き方とワークプレイスの有効性を提言し、ワーカーが自律的かつ快適に働ける環境を持つことが生産性や組織へのエンゲージメントを高め、結果的に企業のメリットとして還元されることを調査研究によって明らかにしてきた。例えば、直近のレポート(*3)では、オフィス内外を問わず多様な働く場所の選択肢を持つワーカーは満足度や生産性向上の効果を感じる確率が高くなるという分析結果を公表している。今回行った企業ヒアリングでも、コロナ危機下のテレワーク活用が上手くいっている企業の多くは従業員アンケートや個別面談などを通してワーカーの声を聞き、より働きやすい環境を整えるために改善を継続していることがわかった。

*3 2020年6月10日公表「これからのワークプレイスを考える

ワークプレイスはそこで働く人のマインドに影響し、働き方を規定し、結果としてパフォーマンスを左右するものであり、企業活動において本来もっと重視されるべき経営課題である。さらに今回のコロナ危機を経験したことで、多くの企業は今後、オフィスの役割の再定義や、メインオフィスとテレワークのバランスの最適化といった課題にも取り組むことになるだろう。企業ごとにベストソリューションは異なるため、各々が自社の特性や優先順位を踏まえて考え、トライアンドエラーを繰り返し、最適解を更新し続ける必要がある。

今後も自然災害や疫病などの予測不能な事象や、さらにはAI(人工知能)の進出などにより、働き方や仕事自体が劇的に変わる機会は一度ならず訪れるだろう。過去からの地続きでは対処できない変化の時代に対応するためにも、企業にとってのワークプレイス戦略の重要性はさらに増していくはずだ。ザイマックス総研としても、多くの企業に戦略立案の指針を示すことを目指し、その動向を注視していく。

調査概要

調査名

大都市圏オフィス需要調査2020春

調査期間

2020年6月4日~16日

調査対象

ザイマックスグループの管理運営するオフィス物件に入居中のテナント企業、法人向けサテライトオフィスサービス「ZXY」利用登録企業、ザイマックスインフォニスタの取引先企業へ配信し、1,795社より有効回答を得た。

調査地域

全国(東京都、大阪府、愛知県、福岡県、神奈川県、埼玉県、千葉県、その他)

調査方法

メール配信

レポート内のグラフに関して
・構成比(%)は、小数点第2位を四捨五入しているため内訳の合計が100%にならない場合がある。
※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
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参考:働き方×オフィス 特設サイト

英語版:Companies’ Work Styles and the Workplace under the Corona Crisis

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