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2019.11.27

大都市圏オフィス需要調査2019秋

~拡大する働き方改革とオフィス需要の変化~

ここ数年、企業では人材確保や生産性向上などを目指した働き方改革が進められており、従来の固定的な働き方から、場所や時間に捉われない働き方を導入する企業が増えてきた。これらの潮流はオフィス需要に量的・質的な影響を与えるものと思われる。

そこで、ザイマックス不動産総合研究所では2016年秋より、オフィス利用の実態や働き方に関して半年に一回調査を行い、オフィス需要との関係について継続的に分析を行っている。本レポートはその第7回調査の結果を公表するものである。

主な調査結果
  • 1.オフィス需要の変化(2018年10月〜2019年9月)
  • 過去1年におけるオフィスの利用人数が「増えた」企業の割合は36.5%で、「減った」(13.0%)を上回った。オフィス面積を「拡張した」企業の割合は8.7%で、「縮小した」(2.8%)を上回った。また、賃料単価(共益費込)が「上昇した」企業(22.6%)も「下落した」企業(1.2%)を上回り、「上昇した」割合は調査開始当初より増加。オフィス需要は堅調である。【図表1・2・3】

  • ・ 39.1%の企業が、現在入居中のオフィスを手狭だと感じている。
  • ・ 景況感DIは3.1と過去最低で、「悪い」「やや悪い」と回答した割合が増加している。
  • ・ 人手が「不足している」「やや不足している」と感じている企業は、約7割に上る。

  • 2.働き方改革の推進
  • 「現在、働き方改革に取り組み中」「すでに実施済み」であると回答した企業は合わせて62.6%で、「これから取り組む予定・検討中」を含めると7割を超える企業が働き方改革に取り組むことになる。【図表7】

  • ・ 働き方改革に取り組む目的を過去調査と比較すると、「長時間労働(残業、休日勤務)の是正」(60.2%)や「従業員のリフレッシュ・健康促進」(47.8%)が増加していた。
  • ・ 働き方改革の効果を「非常に感じている」「やや感じている」と回答した企業は約6割。

  • 3.働く場所の多様化(テレワークの推進)
  • 約8割の企業が何らかのテレワークを実施している。テレワークする場所や制度の整備率は伸びており、働く場所を多様化させる取り組みが進んでいる。【図表11・14・15】

  • ・ 33.2%の企業が、テレワークするための場所や制度の整備に取り組んでいると回答。「在宅勤務制度」は21.8%で最多、「レンタルオフィスの利用」は15.1%で、1年前と比較すると倍増しており、働く場所の多様化が進みつつある。
  • ・ 企業規模別では大企業(従業員数1,000人以上)でのテレワーク整備率が最も高い。「レンタルオフィス、シェアオフィス等」は全ての企業規模において伸びている。業種別でみても幅広い業種でテレワークする場所の整備が進み、「レンタルオフィス、シェアオフィス等」と「自社サテライトオフィス等」については、金融・保険業の伸びが特に大きかった。
  • ・ 「テレワークができるような制度の整備・活用」に興味がある企業は、約8割(77.4%)に上る。
  • ・ 「在宅勤務制度」や「レンタルオフィス、シェアオフィス等」といったテレワークする場所や制度を導入している企業では、未導入企業よりもオフィスの1人あたり面積が小さい。
  • ・ 「健康経営・ウェルビーイング」に注力している企業では、そうでない企業と比較して、「仕事と育児・介護などの両立支援」や「従業員のワークライフバランス向上」を重視している割合が高く、実際にテレワークを実施している割合も高かった。

  • 4.トピックス:東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開催期間中の交通混雑対策
  • 東京都にオフィスがある企業では、何かしらの対策をする企業は未だ4割弱(38.2%)にとどまり、まだ具体的な対策が決まっていない企業(「これから対策を考える」、「未定・わからない」)及び「対策する予定はない」企業は6割以上となった。【図表27】


(関連調査)
・2016年秋調査(第1回)「大都市圏オフィス需要調査2016 <需要動向編>」…2017年1月12日公表
・2016年秋調査(第1回)「大都市圏オフィス需要調査2016 <働き方の変化とオフィス編>」…2017年1月30日公表
・2017年春調査(第2回)「大都市圏オフィス需要調査2017 <需要動向編>」…2017年8月2日公表
・2017年秋調査(第3回)「大都市圏オフィス需要調査2017秋」…2017年12月7日公表
・2018年春調査(第4回)「大都市圏オフィス需要調査2018春」…2018年7月3日公表
・2018年秋調査(第5回)「大都市圏オフィス需要調査2018秋」…2018年12月18日公表
・2019年春調査(第6回)「大都市圏オフィス需要調査2019春」…2019年6月26日公表


1.  オフィス需要の変化(2018年10月〜2019年9月)

1-1. 利用人数、面積、賃料単価(共益費込)の変化

  • オフィスの利用人数が「増えた」と回答した企業の割合は36.5%で、「減った」と回答した企業の割合(13.0%)を上回った。
  • オフィス面積を「拡張した」企業の割合は8.7%で、「縮小した」企業の割合(2.8%)を上回った。
  • 賃料単価(共益費込)についても、22.6%の企業が「上昇した」と回答し、「下落した」(1.2%)を大幅に上回った。

過去1年(2018年10月〜2019年9月)におけるオフィスの利用人数、オフィス面積および賃料単価(共益費込。以下同様)の変化は以下の通りとなった。

利用人数は、「増えた」と回答した企業の割合が、「減った」と回答した企業の割合を23.5ポイントと大きく上回った【図表1(下段)】。また、オフィス面積が「拡張した」と回答した企業の割合も、「縮小した」と回答した企業の割合を5.9ポイント上回った【図表2(下段)】。賃料単価が「上昇した」と回答した企業の割合は、「下落した」と回答した企業の割合を21.4ポイント上回った【図表3(下段)】。

過去6回の調査(2016年秋、2017年春、2017年秋、2018年春、2018年秋、2019年春)をみてもこの傾向に大きな変化はなく、特に賃料単価については調査開始当初の2016年秋と比較すると「上昇した」の割合が大幅に増加しており、需要は引き続き堅調といえる。こうした企業の需要の伸びが、大都市圏におけるオフィス需給のひっ迫につながっていると考えられる。

【図表1】オフィスの利用人数の変化

【図表2】オフィス面積の変化

【図表3】賃料単価の変化


1-2. 手狭感、景況感、人手不足感

  • 約4割の企業が、入居中のオフィスを「かなり狭い」「やや狭い」と感じている。
  • 30.1%の企業が現在の景況感を「良い」「やや良い」と感じている一方、27.0%の企業は「悪い」「やや悪い」と回答した。
  • 人手が「不足している」「やや不足している」と感じている企業は、約7割に上る。

入居中のオフィスの面積についてどのように感じているかを聞いたところ、39.1%の企業が「かなり狭い」「やや狭い」と回答した【図表4】。これは「かなり広い」「やや広い」と答えた企業の割合(12.9%)を上回っており、2016年秋調査から引き続き、潜在的な拡張ニーズがあるとみることができる。過去6回の調査をみてみると、手狭だと感じている企業の割合は2017年秋から2018年春にかけて増加、以降は横ばいとなっている。

【図表4】手狭感


景況感について「良い」「やや良い」と回答した割合と「悪い」「やや悪い」と回答した割合の差をみるため、「良い」「やや良い」の合計割合から「悪い」「やや悪い」の合計割合を引いた値を「景況感DI」として表示したのが【図表5】である。今回の調査では、30.1%の企業が「良い」「やや良い」と回答しているが、「悪い」「やや悪い」と回答した割合も27.0%となった。DIは3.1で調査開始以来最低となり、景況感が悪化していることがうかがえる。

【図表5】景況感DI


また、人手不足感について聞いてみると、人手が「多い」「やや多い」と回答した企業4.3%に対し、「不足している」「やや不足している」と回答した企業が67.6%で、人手が多いと感じている企業を大幅に上回った【図表6】。顕著な人手不足感がみてとれる。

【図表6】人手不足感


2.  働き方改革の推進

2-1. 働き方改革の推進

  • 62.6%の企業が、「現在、働き方改革に取り組み中」もしくは「すでに実施済み」と回答。
  • 働き方改革に取り組む目的を過去調査と比較すると、「長時間労働(残業、休日勤務)の是正」(60.2%)や「従業員のリフレッシュ・健康促進」(47.8%)が増加していた。
  • 約6割の企業が、働き方改革の効果について「非常に感じている」「やや感じている」と回答。

「現在、働き方改革に取り組み中」であると回答した企業は44.6%に上り、「すでに実施済み」と合わせると62.6%の企業が働き方改革に着手していることがわかった【図表7】。2018年秋調査と比較しても、このスコアは21.1ポイント増加しており、働き方改革に取り組んでいる企業は過去最多となった。また、「これから取り組む予定・検討中」と回答した企業も12.2%おり、「現在、働き方改革に取り組み中」「すでに実施済み」と合わせると、74.8%と7割を超える企業が働き方改革に取り組むことになる。

【図表7】働き方改革への取り組み実態


働き方改革に取り組む目的としては例年と変わらず「生産性の向上」(61.4%)が高かった【図表8】。今回の調査では、2018年秋調査では6位だった「長時間労働(残業、休日勤務)の是正」(60.2%)が2位で、7.5ポイント伸びており、「従業員の満足度向上」が3位で57.2%だった。「従業員のリフレッシュ・健康促進」(47.8%)は増加傾向にあり、企業の働く環境における健康意識が高まっているのかもしれない。

【図表8】働き方改革の目的


働き方改革を「実施済み」「取り組み中」と回答した企業に対し、働き方改革の効果について聞いた【図表9】。「非常に感じている」「やや感じている」と回答した企業は合計で約6割(64.2%)に上るが、2018年秋調査と比べると6.5ポイント減少した。

【図表9】働き方改革の効果実感


具体的な効果としては「長時間労働(残業、休日勤務)の是正」(43.4%)や「従業員のワークライフバランス」(31.9%)が上位に並んだ【図表10】。「長時間労働(残業、休日勤務)の是正」については、【図表8】でみたとおり、これを目的として働き方改革に取り組む企業も多いことから、他の項目と比べて一定の効果を感じられている企業が多いようだが、「従業員のワークライフバランス」は2017年秋調査から減り続けていることがわかる。

2018年秋調査と比較すると、働き方改革に取り組む企業(【図表7】)は増えているのに対し、「働き方改革の効果実感」や「働き方改革の具体的な効果」は全体的にスコアが下がっている。働き方改革関連法が2019年春より順次施行されていることから、まず「長時間労働の削減」に重点を置く企業が増えている一方で、取り組む企業が増えているからこそ、その結果に対する期待度のハードルが高まり、多少の変化では効果を実感しにくくなっているのかもしれない。

【図表10】働き方改革の具体的な効果


3.  働く場所の多様化(テレワークの推進)

3-1. テレワーク推進の取り組み

  • 79.1%の企業が、モバイルワークやテレワークするための場所や制度の整備等、従業員がテレワークするための何らかの施策に取り組んでおり、ICT投資を行っている企業は76.4%いる。
  • 33.2%の企業が、テレワークするための場所や制度の整備に取り組んでいると回答。最も整備されている割合が高いのは「在宅勤務制度」(21.8%)であった。「専門事業者等が提供するレンタルオフィス、シェアオフィス等の利用」(15.1%)は、1年前と比較して約2倍に増加しており、働く場所の多様化・分散化が進みつつある。
  • 企業規模別では従業員数1,000人以上の大企業が、オフィスの所在地別では東京23区が、テレワークするための場所や制度の整備に積極的に取り組んでいる。業種別では、金融・保険業が「専門事業者等が提供するレンタルオフィス、シェアオフィス等の利用」、「自社が所有・賃借するサテライトオフィス等の設置」の伸びが大きかった。
  • 働き方に関する取り組み状況と興味度合いをあわせて聞いたところ、最も多く取り組まれているのはモバイルワークで、「テレワークができるような制度(勤怠管理や人事評価など)の整備・活用」は、興味がある企業を含めると、将来時点において約8割(77.4%)の企業が取り組む可能性がある。

全体の約8割(79.1%)の企業が、モバイルワークやテレワークするための場所や制度の整備等、従業員がテレワークするための何らかの施策に取り組んでおり、その割合は増加している【図表11】。

【図表11】テレワークの実施割合


全体の76.4%の企業が、「スマートフォンやモバイルPC等により、どこでもメールやスケジュールがチェックできる仕組みの活用」や「モバイルワークができるように、従業員にスマートフォンやモバイルPC、タブレットなどのIT端末を支給」、「スマートフォンやモバイルPC等により、外出時でもオフィス同様のネットワーク環境で仕事ができる仕組みの活用」のうち少なくとも一つは取り組んでいると回答しており、7割以上の企業が効率的な働き方を実現するため、何らかのICT投資を行っていることがわかった【図表12】。2018年秋調査と比較すると、その割合は9.7ポイント伸びている。具体的なICT投資の内容をみても、全ての項目で取り組む企業の割合が増えている【図表13】。

【図表12】テレワーク支援のためのICT投資

【図表13】ICT投資の内容


また、全体の33.2%の企業は、テレワークするための場所や制度の整備をしていると回答した【図表14】。

最も整備されている割合が高いのは「在宅勤務制度」(21.8%)だが、2018年秋調査から最も伸びているのは「専門事業者等が提供するレンタルオフィス、シェアオフィス等の利用」(15.1%)で2倍近く伸びている。「自社が所有・賃借するサテライトオフィス等の設置」(10.1%)をしている企業も一定数みられ、働く場所の多様化・分散化が少しずつ進んでいる様子がうかがえる【図表15】。

【図表14】テレワークする場所や制度の整備

【図表15】テレワークする場所や制度の内容


こうした取り組みには、企業規模(従業員数)や業種による差がみられた。

企業規模別では、大企業ほど整備率が高い傾向がみられた【図表16】。2018年秋調査と比べると、「レンタルオフィス、シェアオフィス等の利用」は全ての企業規模において伸びていることがわかった。また、中小企業(従業員数「100人未満」および「100人以上1,000人未満」の企業)では、「在宅勤務制度の整備・活用」よりも「レンタルオフィス、シェアオフィス等の利用」、「自社が所有・賃借するサテライトオフィス等の設置」の伸び率が大きく、こうしたテレワークする場所の整備は、企業規模問わず広がっていることがうかがえる。

【図表16】企業規模別にみた、従業員がテレワークする場所の整備状況


オフィスの所在地別でみると、いずれの取り組みについても東京23区の導入率が高い傾向がみられた【図表17】。東京23区は過去調査と比べても導入率が伸びており、特に「レンタルオフィス、シェアオフィス等の利用」と「自社が所有・賃借するサテライトオフィス等の設置」の整備が進んでいる状況がみられた【図表18】。

【図表17】オフィスの所在地別にみた、従業員がテレワークする場所の整備状況

【図表18】東京23区の従業員がテレワークする場所の整備状況


業種別でみても、幅広い業種でテレワークする場所の整備が進んでいた。「レンタルオフィス、シェアオフィス等の利用」と「自社が所有・賃借するサテライトオフィス等の設置」については、金融・保険業が最も伸びていた【図表19】。また、情報通信業も2018年秋調査と比較して「レンタルオフィス、シェアオフィス等の利用」が12.8ポイント伸びている。

【図表19】業種別にみた、従業員がテレワークする場所の整備状況


働き方に関する複数の施策について、現在の取り組み状況と興味の度合いをあわせて聞いた結果が【図表20】である。全体で最も多く取り組まれているのは、「スマートフォンやモバイルPC等により、どこでもメールやスケジュールがチェックできる仕組みの活用」などのモバイルワークで、取り組み予定の企業を含めても最も回答割合が高かった。次いで「従業員のスキルアップ・研鑽・リカレント教育の支援」「フレックスタイム制度の整備・活用」が続き、「テレワークができるような制度(勤怠管理や人事評価など)の整備・活用」は、興味がある企業を含めると全体で約8割(77.4%)に上る。「従業員満足度(ES)調査の実施」は、現在取り組んでいなくても興味がある企業が41.6%と多かった。

【図表20】働き方に関する取り組み状況


<PICK UP>テレワークする場所の整備状況別にみる、
オフィスの1人あたり面積

テレワークの取り組み別にオフィスの1人あたり面積(中央値)を算出すると、どの取り組みについても導入済みの企業の方が、未導入の企業よりも1人あたり面積が小さいことがわかった【図表21】。

レンタルオフィス、シェアオフィス等の利用企業は1人あたり面積が2.80坪(未導入企業は3.96坪)、自社サテライトオフィスを導入している企業は3.00坪(同3.90坪)となり、働く場所の分散が、従来のオフィススペースの効率化に寄与している可能性が考えられる。今後もフレキシブルで多様な働き方が進めば、従業員の働く場所が分散し、本社などの固定的なオフィススペースの使い方やオフィス需要にも影響を及ぼす可能性があるだろう。

【図表21】テレワークする場所の整備状況別にみる、
オフィスの1人あたり面積(中央値) 


3-2. 健康経営・ウェルビーイングに注力している企業の特徴

  • 注力しているテーマとしては「生産性の向上」が最多(55.3%)。生産性向上につながる働き方を実現するため重視していることでは、「業務の効率化(作業の効率化)」(76.7%)のほか、約半数の企業が、「従業員のモチベーション向上」(50.4%)、「社内のコミュニケーション活性化」(49.3%)を重視していた。
  • 「健康経営・ウェルビーイング」に注力している企業では、そうでない企業と比べて「仕事と育児・介護などの両立支援」と「従業員のワークライフバランス向上」を生産性向上につながる働き方のために重視している割合が、20ポイント以上高かった。
  • 働き方に関する施策の取り組み状況についても、「健康経営・ウェルビーイング」に注力している企業は、そうでない企業と比較して、各種の施策について取り組んでいる割合が高かった。「テレワークができるような制度(勤怠管理や人事評価など)の整備・活用」は19.4ポイントの開きがあったほか、「フレキシブルなオフィスレイアウトの導入」では導入率に2倍の差があった。

現在全社的に注力しているテーマを聞いた結果が【図表22】である。「生産性の向上」(55.3%)を注力テーマに掲げる企業が最も多く、次いで「営業力強化」も約半数の企業が注力している(50.5%)。3位となった「業務改革(コスト削減)」(39.8%)は、1位の「生産性の向上」と密接に関連しているものと考えられる。「健康経営・ウェルビーイング」に注力している企業は、13.1%となった。働き方改革に取り組む目的(【図表8】)で「従業員のリフレッシュ・健康促進」が過去調査と比較して増えていることからも、健康的な働く環境への意識は、引き続き高まっていくと推察される。

【図表22】注力しているテーマ

生産性向上につながる働き方を実現するために重視していることを聞くと、「業務の効率化(作業の効率化)」が76.7%で最も多かった【図表23】。また、約半数の企業が、生産性向上のために「従業員のモチベーション向上」(50.4%)や「社内のコミュニケーション活性化」(49.3%)を重視していることもわかった。

【図表23】生産性向上につながる働き方のため、重視していること


ここで、【図表22】でみた「健康経営・ウェルビーイング」を注力テーマとして挙げている企業に着目し、どのような特徴があるのかをみていきたい。

まず、「健康経営・ウェルビーイング」に注力している企業とそうでない企業で、生産性向上につながる働き方を実現するために重視していることに差があるかどうかを調べた【図表24】。最も違いがみられたのは「従業員のリフレッシュ・健康促進」で32.7ポイントの差があったほか、「従業員のワークライフバランス向上」(23.9ポイント差)、「仕事と育児・介護などの両立支援」(23.3ポイント差)、「従業員が仕事に集中しやすいこと」(19.6ポイント差)、「従業員が働く場所や時間のフレキシブル化」(16.7ポイント差)などで開きがみられた。

【図表24】健康経営・ウェルビーイングへの注力別にみた、重視項目


また、「健康経営・ウェルビーイング」に注力している企業とそうでない企業で、働き方に関する取り組み状況の違いをみると、「テレワークができるような制度(勤怠管理や人事評価など)の整備・活用」で19.4ポイントと特に大きな差があった【図表25】。ほかにも、「フレキシブルなオフィスレイアウトの導入」では導入率に2倍の差(11.8ポイント差)、「在宅勤務制度の整備・活用」(16ポイント差)、「専門事業者が提供するレンタルオフィス、シェアオフィス等の利用」(16.1ポイント差)、「フレックスタイム制度の整備・活用」(12.6ポイント差)などで開きがあることがわかった。

【図表24】および【図表25】の結果から、「健康経営・ウェルビーイング」を掲げる企業は、そうでない企業に比べて、従業員が柔軟に健康的に働けることへの意識が高く、実際にも多様な働き方や働く場所の選択肢を用意している割合が高い傾向にあるようだ。

【図表25】健康経営・ウェルビーイングへの注力別にみた、働き方に関する取り組み状況


3-3. 働き方改革および働く環境を整備する上での懸念事項/阻害要因

  • 「費用対効果が不明瞭」と 回答した企業が約4割(38.8%)で1位、「情報セキュリティ上のリスクが高い」(30.6%)、「従業員の管理・マネジメントがしづらい」(30.4%)が続いた。

働き方改革および働く環境の整備にあたって、どのような懸念事項・阻害要因があるかを聞いたところ、「費用対効果が不明瞭」と回答した企業が約4割(38.8%)と、最も多かった。また、「情報セキュリティ上のリスクが高い」(30.6%)、「従業員の管理・マネジメントがしづらい」(30.4%)と感じている企業も約3割で、働く時間や場所をフレキシブル化させていく中での関門といえそうだ【図表26】。

【図表26】働き方改革および働く環境を整備する上での懸念事項/阻害要因 


4.  トピックス:東京2020オリンピック・パラリンピック
競技大会開催期間中の交通混雑対策

4-1. 東京2020大会開催期間中の交通混雑への対策

  • 何かしらの対策を検討している企業は未だ4割弱(38.2%)にとどまり、残りの6割以上は、まだ具体的な対策が決まっていない(「これから対策を考える」、「未定・わからない」)、または「対策する予定はない」のが現状である。
  • 何かしらの対策を検討している企業の中では、「時差出勤」(72.2%)を検討している企業が最も多かった。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催期間中、東京都心では交通混雑が予想され、通勤への影響が懸念されているが、企業ではどのような対策を検討しているか聞いてみた【図表27】。

オフィス所在地が東京都の企業に絞りみてみると、何かしらの対策を検討している企業は38.2%にとどまり、残りの6割以上は「これから対策を考える」(26.6%)、「未定・わからない」(23.2%)、「対策する予定はない」(12.1%)となっている。開催まで残り1年を切った現時点でも、問題意識が広く共有されるには至っていないようだ。

【図表27】東京2020大会開催期間中の交通混雑対策の有無


何かしらの対策を検討している企業の中では、「時差出勤」(72.2%)や「有給休暇取得の推奨」(57.9%)を検討している企業が多かった【図表28】。これらは考えられる対策の中でも比較的取り組みやすく、実施するにあたってのハードルが低いのかもしれない。ただ、多くの企業が時差出勤のみを実施した場合、その効果は交通混雑のピークがスライドするだけの限定的なものとなるだろう。そういった懸念を解消するためにも、レンタルオフィス、シェアオフィスやサテライトオフィス等のテレワークする場所を整備することが、より有効な対策になりえるだろう。働き方や働く場所を多様化していくことの重要性は、昨今の働き方改革における社会的要請に加えて、東京2020大会を間近に控える今、一層高まっているのではないだろうか。

【図表28】東京2020大会開催期間中の交通混雑対策の内容


5.  まとめ

過去1年における利用人数、面積、賃料単価、どの変化についても、増え幅が減り幅を上回っており、堅調なオフィス需要が続いている【図表1~3】。特に賃料単価では、調査開始当初からの伸びが顕著であった。

また、【図表7】が示す通り、企業の働き方改革への取り組みは着実に進んでおり、働き方改革に取り組んでいる企業では約6割が効果を感じている【図表9】。一方、1年前と比較すると効果の実感度が下がっていることから、働き方改革の社会的な進展に伴い、その結果に対する期待度のハードルが高まっている様子がうかがえた。働き方改革が進むにつれて、在宅勤務制度やレンタルオフィスなどのテレワークする場所や制度の活用も進んでおり、従業員がテレワークするための何らかの施策に取り組んでいる企業は約8割となった【図表11】。テレワークする場所の整備状況を企業の属性別にみても、企業規模や業種に関わらず幅広い企業で進んでいることがわかった【図表16~19】。テレワークができるような勤怠管理や人事評価などの制度の整備・活用は、興味がある企業を含めると、将来的には約8割の企業が取り組む可能性があり(【図表20】)、働く場所の多様化は今後も進むと考えられる。

テレワークができる場所や制度を導入している企業のオフィスの1人あたり面積は、導入していない企業に比べて小さく、特にレンタルオフィス、シェアオフィス等を利用している企業の1人あたり面積が小さいことがわかった【図表21】。働く場所の多様化に伴ってメインオフィスの1人あたり面積が効率化する傾向がみてとれ、オフィス需要への影響を追っていく必要があるだろう。

さらに今回は、どのような企業がなにを重視し、その結果どのような働き方をしているのかを分析するため、実際の取り組みだけでなく、全社的に注力しているテーマや、生産性向上につながる働き方を実現するために重視していることについても調査した。その結果、健康経営・ウェルビーイングに注力している企業では、そうでない企業と比べて、仕事と育児・介護などの両立支援や従業員のワークライフバランス向上を重視している割合が高く、これに伴いテレワークを実施している割合も高かった【図表24・25】。健康経営・ウェルビーイングを注力テーマとして掲げる企業では、従業員がフレキシブルに、よりよく働ける環境整備への意識が高く、実際に働き方の選択肢も多く用意している傾向にあることが示唆された。

来年には東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開催が控えており、開催期間中は東京都心での交通混雑が予想されているが、今回の調査ではまだ対策が決まっていない企業が過半数を占めることがわかった【図表27】。本番が近づけば企業は対策の必要に迫られ、働き方改革や働く場所の多様化を真剣に考えていくことになるであろう。場所に縛られない柔軟な働き方への移行は今後も加速し、在宅勤務やレンタルオフィス、シェアオフィスなどの導入・活用が進めば、働く場所があらゆる場所に分散していくだろう。人口動態などの量的側面に加え、働き方改革といった社会的要因によるオフィス需要の質的変化についても、引き続き注視していきたい。

調査概要

調査期間

2019年10月

調査対象

・ザイマックスグループの管理運営物件のオフィスビルに入居中のテナント企業

・ザイマックスインフォニスタの取引先企業

上記合計 3,536社

有効回答数

1,386社  回答率:39%

調査地域

全国(東京都、大阪府、愛知県、福岡県、神奈川県、埼玉県、千葉県、その他)

調査方法

メール配信およびアンケート用紙配布による

調査内容

  • 入居中オフィスについて
  • ・ 契約形態/オフィス種類/所在地/契約面積/賃料単価(共益費込み)/利用人数/手狭感
  • 会社について
  • ・ 景況感/人手不足感/企業タイプ/注力しているテーマ
  • オフィス需要の変化(2018年10月〜2019年9月)
  • ・ 利用人数の変化
  • ・ 面積の変化
  • ・ 賃料単価の変化
  • 働き方改革の取り組み状況
  • ・ 働き方改革の取り組み実態/目的/効果実感/具体的な効果
  • ・ 経営の方向性として、生産性向上のために重視していること
  • 働く環境
  • ・ 働き方に関する取り組み状況
  • ・ 生産性向上につながる働き方を実現するために、重視していること
  • ・ 働く環境を整備するにあたり、興味のある取り組み
  • ・ 働き方改革および働く環境を整備する上での懸念事項・阻害要因
  • 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会開催期間中の交通混雑対策
  • ・ 検討している対策
  • 会社属性
  • ・ 業種/本社所在地/従業員数/従業員の平均年齢/設立年
  • 回答者属性
  • ・ 部署/役職/年代


回答企業属性(上段:全体に対する割合、下段:企業数)


回答者属性(上段:全体に対する割合、下段:回答者数)



レポート内のグラフに関して
・構成比(%)は、小数点第2位を四捨五入しているため内訳の合計が100%にならない場合がある。
・図表15・16・17・18・19・21は、主要なテレワークする場所や制度を抜粋して掲載している。
※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
※当社の事前の了承なく、複製、引用、転送、配布、転載等を行わないようにお願いします。

参考:働き方×オフィス 特設サイト

英語版:Metropolitan Areas Office Demand Survey Autumn 2019

レポートに関するお問い合わせ

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