WORKTREND

【WORKTREND⑨】グローバル:6つの企業アーキタイプ⑥Space Shapers

コロナ危機より1年 ポストコロナでの企業とワーカー

前回に引き続き、「WORKTREND」シリーズのグローバルテーマ第6弾として、英国のWORKTECH Academyによる「What Should Companies Do Next? Q1 Trend Report 2021」の内容を日本の読者向けに紹介する。

コロナ禍での企業とワーカーを取り巻く状況分析と6つのアーキタイプ

WORKTECH Academyが、ポストコロナでの企業とワーカーを取り巻く状況について、さまざまな検証と洞察を経た結果、組織を以下の6つのアーキタイプ(原型)にグループ化している。今回は⑥Space Shapers:スペースを再構成する企業について説明する。

コロナ禍における企業のアーキタイプ6分類

Choice Champions:従業員に選択肢を与える企業

Tech Investors:新テクノロジーへ投資する企業

Resolute Returners:オフィスに回帰する企業

Wellbeing Watchers:従業員のウェルビーイングを最優先する企業

Data Drivers:情報を駆使する企業

Space Shapers:スペースを再構成する企業

Space Shapers:スペースを再構成する企業イメージ

パンデミックによる変化を利用したオフィスの合理化の際、やりすぎと性急さに注意

Space Shapersは、パンデミックを、不動産ポートフォリオを再構築および合理化するための一生に一度の好機と見なしている組織である。Space Shapersが取り組む方法は多くの場合、オフィススペースを減らし、不動産コストを削減することである。しかし、一部のSpace Shapersは、より想像力に富んだダイナミックな方法で、従業員のためにチームベースの環境を創り出している。法律事務所や金融機関などの専門性のある企業は、オフィススペースの削減と再構築の面で最先端といえよう。

たとえば、英国ロンドンに本社を置き19か国に展開している法律事務所のLinklatersは、従業員が勤務時間の最大50%をリモートで働けるようにするなど、革新的でグローバルなアジャイルワーキング(迅速かつ適応的に作業を行うことを目的とした業務の見直しや、円滑にコラボレーションするための環境の整備などによって実現する新たなワークスタイル)ポリシーを採用した先駆者的企業である。

また、同じく英国ロンドンに本社を置く法律事務所のAllen&Overyは、個々の状況に応じて、弁護士と従業員がオフィスで働く時間を従来の60%(または週3日)に削減した。ライバル事務所のDLA Piperも、国際的なリモートワークの制度を導入し、米国以外の世界各国の従業員と共同経営者に対して週2日の在宅勤務を認めている。

大手銀行グループは、企業がパンデミック後の新たな事業機会を模索するなか、最大40%のオフィススペースの合理化を発表した。メディア企業でも、英国の地方紙などはハイブリッドな未来のために容赦なくワークスペースを合理化している。

しかし、Space Shapersにとって最大の危険性は、強硬かつ性急すぎるワークスペースの削減に潜んでいる。

専門的なサービス業務における肩越しのメンタリングには、若手社員が見習いとして効果的に学べるという側面があるが、それはオフィス環境に日常的にいなければ失われてしまうだろう。

仮に、新しいモデルが、スペースのコスト削減と従業員への報酬(ライフスタイルにおける柔軟性の付与や技術サポートなど)を組み合わせていない場合、従業員の企業への信頼と忠誠心が損なわれる可能性がある。

最も進歩的なSpace Shapersは、単にオフィススペースを削減するだけでなく、チームワークとコラボレーションが最優先される21世紀型の仕事を体現するべく、オフィススペースを再考する組織である。

このシナリオでは、オフィスの再設計は全体を通して効果的になるように考案されており、新しいテクノロジー分野に対する予算も含まれている。
新たなオフィススペースモデルは、企業経営者のコスト削減への意識だけでなく、創造性を発揮したものであるべきだ。

Space Shapers企業例

■Lloyds:英国ロンドンに本社を置く大手金融・保険グループのLloyds Banking Groupは、在宅勤務が従業員にとってより永続的な働き方になることを見越して、今後2年間でオフィススペースを20%削減する予定である。同社は、6万8,000人の従業員の77%が、将来的に週3日以上の在宅勤務を希望した意向を踏まえ、オフィススペースを削減することを決定した。最高財務責任者であるウィリアム・チャーマーズ氏は、オフィススペースについて、従業員が一人で机に座っている場所ではなく、チームワークのためにより多くのスペースが提供されるものになると確信していると述べている。

■HSBC:銀行におけるオフィススペースの削減は、コストを削減し、収益を改善する取り組みの一環である。英国ロンドンに本社を置く世界最大級のメガバンクであるHSBCは、現在、英国だけで4万人を雇用しており、66か所で330万平方フィート(約30万m2)のオフィスがあるが、パンデミックによって引き起こされた職場の変化が長期的なものとなることを見越して、今後数年間でロンドンおよび世界中の他の都市にあるオフィスの40%を廃止すると発表した。しかし、英国ロンドンのドックランズにある46階建ての建物にあるグローバル本部は今後も維持し続けるとしている。

■Reach:英国ロンドンに本社を置く、英国の大手新聞社の1つであるReachは、国内の15拠点を除くすべてのオフィスを閉鎖する予定である。結果、同社のサービスが提供されている地域のほとんどに拠点がないことになる。同社は、ほぼすべてのジャーナリストに将来的には自宅で恒久的に仕事をすることになると伝えており、全国のオフィスの閉鎖を促しているが、その代わりに、ベルファスト、ブリストル、バーミンガム、リーズ、リバプール、ロンドン、マンチェスターなどの主要都市に会議室を備えたハブオフィスを維持し続けていくと述べている。

■The British Petroleum Company(BP):英国ロンドンに本社を置く石油・ガス等のエネルギー関連事業大手のBPは、オフィスを拠点とする従業員2万5,000人に対し、勤務時間の40%を在宅勤務にすると発表した。また、同社はロンドンのセントジェームズスクエアの本社を売却する予定である。BP Work‑Lifeと名づけられたこのハイブリッドモデルは、従業員に「柔軟性があり魅力的でダイナミックな」働き方を提供している。

目的を達成するための新しい空間形成モデル

将来的な金融機関のワークプレイスイメージ

多くの企業は、よりハイブリッドな未来を見越して、不動産ポートフォリオの再評価をしている。しかし、ワークプレイスのイノベーションコンサルティング会社であるUnWorkは、従来のデスクベースの業務は在宅勤務で最も生産性が向上するとの報告を踏まえ、不動産ポートフォリオの再評価とは、単に各部署のワークスペースの割合を減らすことではなく、むしろ一連の目的を達成するためのスペースとしてオフィスを再構築することにあると述べている。

図1では、オフィススペースを特権的部分、公的部分、私的部分に分類しており、オフィスは、さまざまなタイプの活動、エンゲージメント、プライバシーレベルなどによってそれらに分類される。

公的スペースは外向きに面した部分で、建物やフロアに入るときに、エンゲージメントを促し、クリエイティブな感性を活性化させるための場所となる。

私的スペースは内部に焦点を合わせており、実行すべき特定の目的やタスクに合わせて形成されたワークスペースを提供している。特に、対面で行うのが最適とされるさまざまな種類の共同業務をするための場所である。

最後に、特権的スペースとは、企業のブランド、文化、顧客体験のためのハブとして、社内外の関係を構築する場所となる。このモデルは、法律事務所や金融会社などの専門性のあるサービスに特に適用できるものである。

出典:UnWork

オフィス縮小の勢いは冷めるか?

KPMG(本部をオランダアムステルフェーンに置く、世界154か国に20万人の従業員をもつコンサルティング会社)の新しいレポートによると、グローバル企業の経営者はオフィス縮小への熱意を失っていることがわかった。2021年の同社の「CEO Outlook Pulse Survey(企業経営者の動向見通し調査)」では、パンデミック後の生活について500人のグローバル企業の経営者に質問し、4分の1(24%)がコロナ危機によってビジネスモデルが永遠に変わったと考えていることを明らかにした。

しかし、6か月前と比較すると、グローバル企業がオフィス面積縮小する可能性は低くなっている。今回の調査では、パンデミックの影響でオフィススペースの縮小を検討しているグローバル企業の経営者はわずか17%にとどまった。対照的に、2020年8月に行われた同様の調査では、経営者の69%が、今後3年間でオフィススペースを削減する予定だと述べていた。これは、オフィスの縮小がすでに行われたか、パンデミックの長期化に伴い、その戦略が変更されたことを示している。

同社のレポートによると、企業経営者を夜も眠れないほどに悩ませているのは、完全にリモートで従業員を管理することへの不安、そしてサイバーセキュリティへの懸念である。主にリモートで働く人材を採用しようとしている企業はわずか5分の1(21%)である。これは、企業の4分の3がそうしようとしていた2020年の同調査と比較すると、重大な変化である。

一方、サイバーセキュリティは、規制、税務、サプライチェーンの懸念に先立って、同調査でも、グローバル企業の経営者の最大の懸念事項として挙げられている。

出典:2021 KPMG CEO Outlook Pulse Survey

以上、今回は6つのアーキタイプのうち、最後の⑥Space Shapersについて説明した。

「WORKTREND」シリーズでは、今後も企業にもワーカーにも有益な情報を発信していく予定である。これらのレポートが、コロナ禍の中、企業やワーカーにとって、ハイブリッドでより明るい未来の仕事を導くための戦略の参考になれば幸いである。

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