【WORKTREND⑥】グローバル:6つの企業アーキタイプ③Resolute Returners
コロナ危機より1年 ポストコロナでの企業とワーカー
前回に引き続き、「WORKTREND」シリーズのグローバルテーマ第3弾として、英国のWORKTECH Academyによる「What Should Companies Do Next? Q1 Trend Report 2021」の内容を日本の読者向けに紹介する。
コロナ禍での企業とワーカーを取り巻く状況分析と6つのアーキタイプ
WORKTECH Academyが、ポストコロナでの企業とワーカーを取り巻く状況について、さまざまな検証と洞察を経た結果、組織を以下の6つのアーキタイプ(原型)にグループ化している。今回は③Resolute Returners:オフィスに回帰する企業について説明する。
コロナ禍における組織のアーキタイプ6分類
①Choice Champions:従業員に選択肢を与える企業
②Tech Investors:新テクノロジーへ投資する企業
③Resolute Returners:オフィスに回帰する企業
④Wellbeing Watchers:従業員のウェルビーイングを最優先する企業
⑤Data Drivers:情報を駆使する企業
⑥Space Shapers:スペースを再構成する企業
リモートワークによる企業文化、メンタルヘルス、人材育成への懸念が高まる中、大手金融企業は従業員をフルタイムでオフィスに戻そうとする活動をリードしている
Resolute Returnersは、企業文化、イノベーション、教育、生産性を向上させる最善の方法は、全員をオフィスに戻すことであると考えている。これらの企業は、リモートかつ柔軟な働き方に限界があることを指摘し、リモートを永続的な働き方にすることには消極的だ。彼らは、物理的なオフィスがビジネスを繁栄させるための中心的な触媒とみなしている一方で、ある程度の再計画と再設計も必要になると認識している。
Resolute Returnersにとって、オフィスに戻ることは、技術の進歩に対する抵抗ではなく、学習する文化を構築するために従業員の協働スペースがいかに重要であるかを正当に評価した結果である。パンデミックの間、特に金融業や法律事務所では、リモートワークで「肩越しの」実習と指導の側面が失われることが大きな懸念事項であった。シティグループのCEO、ジェーン・フレイザー氏は、この問題を明らかにした多くの大手銀行経営者の1人である。フレイザー氏は、「誰もが最終的にはオフィスに戻ると信じている。人材育成や企業への帰属意識の育成などの文化的観点からも、従業員同士は一緒にいる方が良いと思っている」と述べている。
Resolute Returnersは、従業員がリモートおよび在宅勤務の蜜月を最初は楽しんだものの、今は一転苦労のタネとなり、オフィスに戻ることを強く望んでいるという従業員調査を拠りどころにしている。また、日々の通勤時間が無くなったことで、在宅勤務で延々と一日中働くことになり、マイクロソフトがトレンド調査で「デジタル疲れ」と表現した症状を起こす人が増えていることも指摘している。最初は新鮮だったビデオ通話やチャットは、いまや外部刺激もなく単調なものだと思われている。
一方で、同調査は、安全性の点からも、コロナ前にみられたような騒々しく高密度になるオープンプランのオフィスへ回帰するべきではないとしている。具体的にはより囲いを増やし、プライバシーを確保するなど、新しい時代に適したオフィスの再設計が必要であろう。
2020年の夏にみられたソーシャルディスタンスをとるための緊急措置、たとえば、オフィスでの一方通行や暫定的なデスクスペーシングなどを、今後は本格的に、健康に配慮したデザインへと置き換えていく必要があるだろう。特に上司に職場に戻るよう強制された従業員たちから雇用者側への信頼が損なわれる可能性もあるからである。
Resolute Returnersは、適切なオフィス設計とテクノロジーソリューションを使って、従業員を中心に考えられた安心安全かつ効率よく働けるオフィス作りに努力する必要があるだろう。
Resolute Returners企業例
■ゴールドマン・サックス:米国NYに本社を置く投資会社ゴールドマンサックスのCEOであるデイビッド・ソロモン氏は、リモートワークモデルについて、「異常」で、できるだけ早く修正する必要があり、「私たちにとって理想的ではなく、ニューノーマルではない」と述べた。オフィスでの長時間勤務の再来は、かつて厳格な職場文化について会社を批判していた若手銀行員にとって厳しいものとなるだろう。以前、若手銀行員のマネージャーが夕方のおやつで彼らをなだめようとしたときには、社名は「ゴールドマンスナック」に改名されたと揶揄されたこともあった。
■JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー:米国NYに本社を置く投資銀行JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーの最高経営責任者であるジェイミー・ダイモン氏も、在宅勤務の妥当性に疑問を投げかけている。「どのようにして文化と人格を構築するのか。どのようにしてきちんと学ぶつもりなのか」と。また、ダイモン氏は「多くの仕事は会議ではなく、人々がアイデアを共有する会議の前後に行われる」とも述べている。現在、同社の画期的な新本社の建設がNYで進んでおり、より多くの従業員がそこに統合される予定である。一方で、ダイモン氏は、全従業員25.5万人の10%が将来的には自宅でフルタイムで働く可能性があるとも述べている。
■Netflix:米国カリフォルニアに本社を置く動画配信サービス企業のNetflixは、従業員全員をオフィスに戻したいと考えており、他のハイテク大手企業、特にシリコンバレーの大手とは著しく対照的である。Twitter、Facebook、Googleなどが在宅勤務を拡大している一方で、Netflixは異なる方針をとっている。Netflixの共同最高経営責任者であるリード・ヘイスティングス氏がウォールストリートジャーナル紙に語った内容によると、遠隔での業務環境では何のプラス面も見いだせず、「特に、国際的に直接会うことができないことは純粋なマイナス面だ」と述べている。しかし彼は、オフィスへの完全な復帰は新型コロナワクチン接種の効果により影響されるだろうと考えている。
■バークレイズ:英国ロンドンに本社を置く金融機関バークレイズの最高経営責任者のジェス・ステーリー氏は、在宅勤務は持続可能ではないと考えている。ステーリー氏はブルームバーグ紙に「これらの大規模な金融機関が持つべき文化とコラボレーションを維持することは、ますます困難になるだろう」と述べている。バークレイズは2021年にスタッフをオフィスに戻せると期待していたが、8万人のスタッフのうち4分の3はまだ在宅勤務を続けている。
オフィス復帰のための従業員サポート
ゲンスラー研究所が2,300人以上のアメリカ人従業員を対象に実施した調査によると、自宅でフルタイムで働きたいと思っている従業員はわずか12%であった。また44%は、平日は家ではなく職場に戻りたいと思っている。一方で、従業員のニーズには重要な変化もみられ、その適応策として、オフィスの”密”回避や各ワークスペースの増加といったソーシャルディスタンス対策、パンデミック前からパフォーマンスを低下させると判明していた騒音への対策、気分転換への対策などが含まれている。
これらの提案の多くは、オフィスをより安全に感じることに関連している。10人中6人の労働者は、オフィスに頻繁に出社する場合は各自に割り当てられた固有のデスクを望んでいる。職場ではプライベートスペースに対する需要がより高まっており、従業員にとってプライバシーの確保はパンデミック前よりもはるかに重要度が増している。企業はまた職場の快適性について真剣に考える必要があるだろう。
また、この調査では、社員が在宅勤務によって最も喪失しているものとは、テクノロジーにアクセスしたり、コミュニティの一員になることだけではなく、社員同士が顔を突き合わせて会議を開催したり即座に交流することであると述べている。若手社員は年上の社員よりも生産性が低く、在宅勤務の経験に満足できていないだろう。
さらに、この調査では、コロナパンデミック中、企業における最も価値の高い設備とは、信頼できるテクノロジー関連のヘルプデスクの存在であるが、オフィスが再開し始めると、屋外スペース、フィットネスエリア、健康および予防のためのケアサービスへ移行していくと予測している。
出典:Gensler US Work from Home Survey 2020
Resolute Returnersが直面する5つの課題
フォーブスは、オフィスに戻る際に直面する課題として以下の5つを挙げている。
1.オフィスの配置管理と情報漏洩の制限 人々をオフィスに再配置する際、企業はどのようにリスクを管理するのか?従業員や訪問者がオフィスに入室する際に確認する内容の例としては、最近の旅行、コロナの検査結果、症状、身近で発症した人の有無などである。企業は、このような記録を手動で管理したり、デジタル化で一元管理することもあるだろう。従業員が自身の症状を自己申告できるシステムにより、企業は従業員の情報漏洩のリスクを回避する可能性を高めることができるだろう。
2.従業員の機密保持 健康診断と医療記録に関して、従業員はある程度のプライバシーが守られる権利がある。健康診断からの医療記録の機密性に関するガイダンスがあり、企業は従業員の健康診断を可能な限り非公開にするための領域を確保する必要がある。毎日の体温チェックの結果を含む、特定の従業員に関するすべての医療情報は、機密性を維持するために、従業員の人事ファイルとは別ファイルに保存する必要があるだろう。
3.柔軟な勤務形態の実施 人生は今のところ予測可能なものではない。企業は従業員を仕事に復帰させる際に柔軟性を優先する必要があるだろう。また、コロナに感染した従業員、または家族の看病をする必要がある従業員に有給休暇を与える必要がある。そして、従業員をオフィスに復帰させる際とさせた後それぞれに段階的なアプローチをとる必要がある。従業員をオフィスに復帰させる際には、各個人のニーズを考慮に入れる必要がある。オフィスは間違いなく最適な職場環境だが、通勤に公共交通機関を利用する従業員は、混雑したバスや電車において高いリスクに直面しているからである。
4.明確かつ一貫したコミュニケーションの維持 コロナに関する新情報が毎日入手可能になっている中、企業は従業員の安全を確保し、ビジネスを円滑に運営するために講じられている対策について、従業員と定期的にコミュニケーションをとることが重要である。情報は常にアップデートし、社内ポータルサイトで簡単に見られるようにする必要がある。
5.活気に満ちた職場文化を維持する オフィスの再開に着手したほとんどの企業は、従業員の基本的な健康と安全に重点を置いている。しかし、オフィスが満員になったときに従業員の元気を維持する方法を見つけることも課題である。チームでの仕事帰りの飲食やカラオケはもはや選択肢にないが、創造性を発揮して士気を高める機会はたくさんある。雑学クイズのゲームを壁に投影したり、仮想コーヒーブレイクを設定して従業員に社交やくつろぎの機会を与えたりすることは、比較的少ない投資で価値が見込まれるだろう。
出典:Forbes Business Development Council 2020
以上、今回は6つのアーキタイプのうち、③Resolute Returnersについて詳しく説明した。次回は④Wellbeing Watchersについて紹介予定である。これらのレポートが、コロナ禍の中、企業やワーカーにとって、ハイブリッドでより明るい未来の仕事を導くための戦略の参考になれば幸いである。
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