【WORKTREND④】グローバル:6つの企業アーキタイプ②Tech Investors
コロナ危機より1年 ポストコロナでの企業とワーカー
前回に引き続き、「WORKTREND」シリーズのグローバルテーマ第2弾として、英国のWORKTECH Academyによる「What Should Companies Do Next? Q1 Trend Report 2021」の内容を日本の読者向けに紹介する。
コロナ禍での企業とワーカーを取り巻く状況分析と6つのアーキタイプ
WORKTECH Academyが、ポストコロナでの企業とワーカーを取り巻く状況について、さまざまな検証と洞察を経た結果、組織を以下の6つのアーキタイプ(原型)にグループ化している。今回は②Tech Investors:新テクノロジーへ投資する企業について説明する。
コロナ禍における組織のアーキタイプ6分類
①Choice Champions:従業員に選択肢を与える企業
②Tech Investors:新テクノロジーへ投資する企業
③Resolute Returners:オフィスに回帰する企業
④Wellbeing Watchers:従業員のウェルビーイングを最優先する企業
⑤Data Drivers:情報を駆使する企業
⑥ Space Shapers:スペースを再構成する企業
企業は新しいテクノロジーと仮想環境に投資する計画を加速しているが、その過程で従業員へのサポートとトレーニングが必要となるだろう
Tech Investors(新テクノロジーに投資する企業)は、新しいテクノロジーへの大規模な投資を拡大または開始することにより、コロナパンデミックによって発生した強制的なリモートワーク環境をプラスの効果に変えた組織である。
Tech Investorsは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)といったテクノロジーの重要性が高まるなか、物理的分野とデジタル分野の業務のハイブリッドモデルを重視している。
新テクノロジーへの企業の注目度は非常に高い
マッキンゼーのグローバル調査(2020年10月)によると、企業は顧客やサプライチェーンとのやりとりや社内業務のデジタル化をこの1年で3~4年分加速させ、ポートフォリオに占めるデジタルまたはデジタル対応製品のシェアは7年分加速しているという。
また、英国を拠点とするITサービスプロバイダーであるAdvancedのトレンド調査によると、企業が今後1年間で優先的に投資を行う分野として、「ビジネスの存続」と「新テクノロジー」が上位2つに挙がっている。さらに、回答した1,000人の企業の意思決定者のほぼ全員(98%)が、コロナ危機からの世界経済の回復にテクノロジーが大きな役割を果たすだろうと述べている。
このテクノロジーブームにおいてARとVRが最も注目を集める一方、Tech Investorsは従業員の体験やエンゲージメントレベルの変革を試みるために、アバターやXR(Extended Reality: VR、AR、MR(複合現実)などの最先端技術の総称)にも取り組み始めている。XRによって企業は、トレーニングやワークフローから生産性やエンゲージメントまで、仕事のやり方や場所を再考することができる。
IBMの調査によると、XRワークプレイスソリューションは従業員の業務完了までの時間を大幅に短縮し、スキルの迅速な習得を可能にし、エラーとその対応をする緊急電話の必要性を大幅に減少させている。
科学的検証においても、仮想環境が物理環境と同様の影響を与えられるという結果が出ており、特定の作業シナリオは、リモート環境でも十分に模擬体験できることがわかっている。XRは数年前から注目されていたが、今年は大企業がARや仮想環境を導入し、リモートでも物理オフィスに来ても利用できる、活気に満ちたコラボレーティブなワークプレイスを育成することになるだろう。
Tech Investorsの課題は、物理環境と仮想環境のバランスを正しくとることである。そのためにも、従業員への適切なサポートとトレーニングを提供する必要があるだろう。
Tech Investors企業例
■PwC:
PwCコンサルティング合同会社は、リモートワークが続くなか、zoom会議疲れを解消し、従業員が安全かつ公平に働けるようにするため、数千個ものVRヘッドセットを購入している。PwCは2007年に英国で初めてVRヘッドセットの使用を試験的に開始していたが、コロナ危機により2万2,000人のスタッフが在宅勤務を余儀なくされたことで、一層ハイブリッドな働き方への移行を加速した。現在、英国では、VRを介して毎週2~3回のチームミーティングが行われている。
今後18か月の間に7,500万ポンド(約116億円)を投じて、カフェスタイルの会議エリアを備えたオフィスを再設計し、新テクノロジーを従業員に提供する予定である。そのなかには、高品質のマイクやビデオ会議用スクリーンが含まれ、2021年末までにVRヘッドセットのキャッシュ容量を倍増するなど、従業員が自宅で仕事をする際に不都合が生じないよう努めている。
■バンク・オブ・アメリカ: 2021年3月、バンク・オブ・アメリカはVRスタートアップ企業のStrivrと提携して、行員教育にVRを導入すると発表した。金融グループはすでに約400人の行員を対象とした試験的プログラムでこの新技術を活用しているが、将来的には、VRによる学習プラットフォームを同社の5万人の顧客対応担当の行員に拡大し、銀行の支店に数千単位のVRヘッドセットを導入することも想定している。VRに期待される機能として、デリケートな問題(親族の死亡など)を抱えた顧客への対応といった高度な接客のサポートなどを挙げている。
■フィディリティ・インターナショナル: 投資ソリューション提供会社のフィディリティ・インターナショナルの役員は、VR上の仮想講堂において社員から質問を受けたり、VR上の通路を歩いたりしてみせた。現在同社では、営業チームが顧客と交渉する際、実験的にVRを使用している。2020年のハイテクへの支出は前年の2倍以上となっており、今後1、2年はそのレベルを維持するとしている。
■UBS:スイスの銀行UBSは、ロンドン拠点勤務のトレーダーにMicrosoft 製のホロレンズスマートグラスを支給し、自宅でもトレーディングフロアを再現できるようにしている。
ビジネスリーダーのためのデジタルファースト
英国を拠点とするITサービスプロバイダーであるAdvancedによるトレンド調査では、1,000人の企業経営者および幹部に対し、テクノロジーが英国の企業の短期的および将来的な運営にどのように影響するかをヒアリングした結果、以下の通りとなった。
■98%が、テクノロジーは世界経済の回復における主要な役割を果たすだろうと回答。
■59%が、今後1年で、クラウドやその他のテクノロジーへの投資を優先すると回答。
■77%が、コロナ危機により、企業組織が永続的な「デジタルファースト」の姿勢を採用することになるだろうと回答。
■36%が、コロナ危機により、職場環境をビジネスの変化に迅速に適応するためのテクノロジーが企業には必須だと実感するようになったと回答。
- 出典:Annual Trends Survey, 2020 by Advanced
テクノロジーを駆使してビジネスを変革する
マッキンゼーの調査によると、企業はコロナ危機を受けて、テクノロジーへの投資を大幅に加速させた。そして今後もテクノロジーをさまざまなビジネス戦略に組み込んでいくとしている。
また、企業によるデジタルテクノロジーの投資の拡大により、社内の業務パターンが改善されるだけでなく、デジタルソリューションを活用した営業・やり取り等の顧客への接点がコロナ危機以前よりも急増していることも明らかになっている。世界的に見ても、デジタル手法による顧客への接点はコロナ危機前から平均で1.5倍以上に増加した。
下の図1は、顧客へ接点を持つ場合、デジタルを活用することがこの3~4年で著しく増加していることを示している。
【図表1】コロナ危機で急増する顧客接点におけるデジタル活用の割合
- 出典:How Covid-19 has pushed companies over the technology tipping point, October 2020.
McKinsey & Company
以上、今回は6つのアーキタイプのうち、②Tech Investorsについて詳しく説明した。次回は③Resolute Returnersについて紹介予定である。これらのレポートが、コロナ禍の中、企業やワーカーにとって、ハイブリッドでより明るい未来の仕事を導くための戦略の参考になれば幸いである。
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