コロナで20年逆行するオフィスの進歩と、コンパクトシティへの転換

ジェレミー・マイヤーソン/WORKTECH Academy 理事、Royal College of Art 研究教授

コロナ禍によって世界の仕事やワークプレイスに何が起きているのでしょうか。そして、企業はどのように適応し、将来への戦略を策定していくべきなのでしょうか。WORKTECH Academy理事 ジェレミー・マイヤーソン(Jeremy Myerson)氏は2020年10月に開催された「WORKTECH 20 Tokyo」で、ニューノーマルの未来予想図を語りました。前後編にわたって紹介します(本記事は前編)。

WORKTECH 20 Tokyo:Place
オンライン開催された「WORKTECH 20 Tokyo」で講演するマイヤーソン氏(右上)

回答者の7割が新テクノロジーへの投資を優先

今般のパンデミックはワークプレイス、そして世界経済モデルにとって過去70年間で最大の破壊といえます。日本政府は企業にテレワークを推奨し、人との接触や外出自粛を求め、ワークスタイルは瞬く間に変転しました。世界中で同様のことが起き、ロックダウンなどが解除されても完全に元に戻りはしないでしょう。在宅勤務が定着するか、出勤とリモートワークを組み合わせたハイブリッドモデルが生まれるか。ワークプレイスの目的や未来が考え直されています。

今重要なのは、コロナによってどのようなトレンドが破壊され、どのようなトレンドが促進されたかを見極めることです。いくつかの分野について考えていきます。

まず、コロナで大きく進歩したテクノロジー分野について。テクノロジーの応用により、在宅勤務に抵抗を感じていた多くの企業やワーカーが新たな働き方への移行に成功し、イノベーションが実現しています。EYによるCEOを対象とした大規模調査によると、回答者の71%が今後新テクノロジーへの投資を優先するつもりであり、その対象にはソフトウェアやクラウドサービスだけでなく、コラボレーション・ハードウェアも含まれるそうです。WORKTECH Academyでは今後、4つのキー分野でテクノロジー投資が進むと予測しています。

今後テクノロジー投資が進む4つの分野

まず、1つ目はリモートコラボレーション。ビデオ・ファーストの影響が本格化しています。マイクロソフトが提供するリモートコミュニケーションツール「Teams」は、今年3月のたった1週間で1.2億人もの新規ユーザーを獲得したそうです。

2つ目は非接触ビルマネジメント。ウイルス汚染に対する不安感から、たとえばスマートフォンでエレベーターの操作やコーヒーの注文ができるアプリ、照明やAV機器を声で操作できるボイステクノロジー搭載の会議室などが広がるでしょう。

3つ目はオートメーション技術です。今回のパンデミックをきっかけに、肉体労働の職場のみならず、オフィスにおけるロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)などの技術活用が急増しています。未来のワークプレイスには、照明も空調も不要で24時間稼働するロボット専用の仕事部屋が備えられるかもしれません。日本はこのオートメーション技術で先進しているものの、「人間に寄り添い能力を強化させる」という観点については今後もう少し検討する余地があるでしょう。

4つ目は、トラッキング技術やそのデータ分析・活用に関する技術です。建物内にいる人をトラッキングし、空席や環境状態を管理することで職場復帰の安全性を確保することができます。ポストコロナにオフィスに戻る際、必ず求められるテクノロジーです。

信頼関係を損なうマイクロマネジメント

テクノロジー分野ではこれだけの変化が起きていますが、他方、もっと人間的・文化的な問題も存在します。特にコロナ禍で深刻なのがワーカーのメンタルヘルスの問題です。

リモートワーク実施中、ある者は家族全員と同じテーブルで作業をし、ある者は完全な孤独と向き合っています。メンタルヘルス協会の調査によると、イギリスの成人の1/4近くがパンデミックにより孤独を感じており、ミレニアル世代である25~34歳ではその割合は1/3以上になるそうです。孤独の健康被害はたばこを1日15本吸うのと同等であるといわれ、うつややる気の低下、バーンアウト(燃え尽き症候群)の原因にもなります。企業は対策に本腰を入れなければなりません。

また、従業員に対する文化的なアプローチも刷新する必要があります。コロナ禍において従業員が払っている犠牲は、減給や一時解雇、衛生管理規定、外出自粛、新ソフトウェアの導入、健康診断など多岐にわたります。これらを乗り越えるためには、企業と社員との間にあらためて信頼関係を構築することが重要です。

信頼を育むための第一歩は、どの点で信頼が損なわれているかを知ることです。たとえば、部下に作業内容をいちいち報告させるような「マイクロマネジメント」は不信感の表れです。社員全員が自分の役割を担い、行動に責任をとらなければなりません。協調性のある環境をつくるには管理職とメンバーとの間にオープンで正直な対話が必要です。日本はこの点において課題を多く抱えています。

ソーシャルディスタンスの確保が常識となり、リーダーがオフィスで部下を監視できなくなった今、新たなリーダーシップモデルの構築が求められています。その一つの解が、共感性あるリーダーシップでしょう。共感性の高いリーダーがいる組織は危機的状況への対応力が高く、イノベーションを起こしやすいといわれているためです。

コンパクトシティへの転換

ここまで「テクノロジー」「人」「文化」に関して話してきましたがもう1つ、大きな変化が起きている分野が「場所」です。

コロナ禍は世界の都市構造に大きな影響を与えるでしょう。これは決して未知の現象ではなく、歴史を振り返れば、過去にも伝染病が都市や建築に変革をもたらしてきました。ペストに悩まされた各都市はスラムをなくして公共空間を確保し、黄熱病やコレラをきっかけに排水システムが導入されました。ニューヨークのセントラルパークも公衆衛生対策として計画されたものです。

今回のパンデミックでは、世界中の都市で行われたロックダウンにより道路から車が、空から飛行機が消え、空気の質が向上しました。専門家はこの状況を、よりサスティナブルな都市計画を行う一生に一度の機会だと言っています。これは自動車の支配をなくし、自転車道と歩行者エリアを広げ、小さな公園を設けて都市の緑を増やすことを意味しており、応用性の高い公共空間やフレキシブルなワークスペース、屋外活動を重視した都市設計などへの注目が高まっています。

以前から世界経済フォーラムをはじめとする多くの組織が、住まいや職場を含む諸機能が近接した「コンパクトシティ」を支持してきましたが、コロナ禍でその動きが加速しているといえるでしょう。東京は世界の都市のなかでも特に通勤時間が長く、その弊害が指摘されてきましたね。コンパクトシティでは人々が職場の近くに住むため、通勤時間の短縮やそれに伴う大気汚染・騒音の減少、エネルギー消費の低下などのメリットがあります。

つまりコンパクトシティは、「大衆が遠く離れた郊外住宅地域から中枢のビジネス街に通う」という20世紀モデルを覆すものです。テクノロジーによって今以上にリモートワークの可能性が広がるポストコロナの世界では、大都市圏の周辺部に新たなエリアが出現し、「中枢のビジネス街」というこれまでの概念は一変します。ビジネス街そのものが消滅することはないし、人が集まりやすい中心部の価値が失われるわけでもありませんが、これまでと違う特徴を持つようになることは間違いありません。結果として、オフィスビルのデザインにも影響が出るでしょう。

過去20年の進歩が逆戻りしているオフィスデザイン

WORKTECH 20 Tokyo:Design
コロナ禍でオフィスに仕切りや隔たりが戻ってきている(イラスト出典:『THE NEW YORKER』)

オフィス分野では深刻な破壊が起きています。過去20年にわたる進歩が逆戻りしていると言えるほどです。近年、ワークプレイスの設計として主流となりつつあったオープンプランや、偶然の出会いを促す動線、社員間の交流を増やす共同食堂などは、どれも旧態依然とした管理発想のオフィスから脱却し、知識労働に適したワークプレイスを目指す流れのなかで生まれてきました。しかしそんな場所で働くことはいまや歓迎されず、むしろオフィスに仕切りや隔たりが戻ってきています。この状況を踏まえ、ニューノーマル水準の安心安全を確保したワークプレイスや未来の働き方を、我々は今一度考え直さなければなりません。

ソーシャルディスタンスや感染予防を確保しつつクリエイティビティを発揮するための糸口として、アクティビティベース(活動内容に基づいて場所を選べる)なオフィスプランは一つの有効な策ではないかと思います。もともと「集中」「休憩」「コラボレーション」など多様な目的に適した屋内外の空間を用意していたオフィスでは、従業員それぞれが密を避けつつ、今すべき仕事に適した静かな場所を見つけて快適に作業しています。

重要なのは、オフィス内の「どこで働くか」という自由と権限を社員に与え、それぞれが自ら安心できる場所を発見できるようにすることです。オープンプラン型のオフィスに人を詰め込むという選択肢はもうありません。さらにはリモートワークも広がり、オフィスの外にも働く場所の選択肢が生まれています。そんななか、ポストコロナにおける企業のオフィスとはどのような役割を担うものになるのでしょうか。

前編はここまで。後編ではポストコロナのオフィスを予測します。

Jeremy Myerson(ジェレミー・マイヤーソン)/WORKTECH Academy 理事、Royal College of Art 研究教授

ジャーナリスト、編集者として『デザイン』『クリエイティブ・レビュー』『ワールド・アーキテクチャー』などに携わり、1986年に『デザインウィーク』を創刊、初代編集長を務める。1999年にRoyal College of Artでデザインに関する研究機関Helen Hamlyn Centre for Designの設立に参加し、2015年9月まで16年間監督した。同年10月にUnwiredと共に、世界的な知識ネットワークであるWORKTECH Academyを設立。韓国、スイス、香港のデザイン機関の諮問委員会にも参加するなど、グローバルに活躍する。

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