ポストコロナに戻るべきオフィスとは? WORKTECH 20 Tokyoレポート

コロナ禍を受けオンライン開催となった「WORKTECH 20 Tokyo」

世界中が新型コロナウイルスという脅威に見舞われ、変化を迫られた2020年。仕事やワークプレイスをテーマに毎年世界各地で開催されるグローバルカンファレンス「WORKTECH(ワークテック)」の東京会場も今年はオンラインに移行し、10月7日から3日間配信されました。

「WORKTECH」はイギリスのUnwired Ventures社が主催する世界的な知識ネットワークであり、ライブイベントでは不動産やテクノロジー、サービス、建築、デザインといった業界関係者が集まって新たなトレンドを生み出しています。今年はコロナ禍の影響を受けて今まさに変わりつつある、働き方およびワークプレイスに関する世界中の最新情報が共有されました。なかでも日本企業のオフィス戦略のヒントとなるポイントをご紹介します。

1.オフィス回帰を視野に入れ始めたグローバル

国内外のスピーカーによる10講演が配信された今回、主な焦点の一つとなったのが、ポストコロナにおいてオフィスの果たす役割についてでした。日本のみならず世界中でテレワークが急速に普及したからこそ、逆に集まるオフィスの存在意義が再考され始めています。特に、欧米諸国ではロックダウンの長期化に伴いワーカーの孤独感やメンタルヘルスの問題が顕在化し、オフィスに戻る動きも強まっており、「戻る価値のあるオフィス」の姿が模索されているようです。

企業の本社は単なる空間から『体験』へシフト

WORKTECH理事のジェレミー・マイヤーソン氏は、まずウィズコロナの現状について「偶然の出会いや社員間の交流を促すような方向感だった過去20年のオフィスの進歩が逆戻りし、仕切りや隔たりが戻ってきている。深刻な破壊が起きたといえるだろう。ソーシャルディスタンスを確保した職場や働き方を考え直さなければならない」と指摘。

そのうえでポストコロナのオフィスについては、安心安全に対する要請から非接触ビルマネジメントをはじめとするテクノロジーの発展が促されるとともに、「明確な目的を持ち、積極的に人とつながるために不定期で訪れるホスピタリティ重視の場所へ進化する」と予測しました。

「明瞭化と最適化に重きを置いていた従来のワークプレイスは、効率面では優れていますがインスピレーションを促す空間とはいえません。企業の本社がルーティンワークではなくプレゼンやイノベーション、交流のための場となるとすると、今よりも『より良い体験』に重きが置かれるようになるでしょう。好奇心や喜び、共感性のある優れた体験をワークプレイスが提供することで個々の創造力が高まりイノベーションが生まれ、職場内の信頼性も高まるのです。もちろん効率性は大切ですが、ポストコロナを迎えるにあたっては新たな次元に進む必要があります」。

スターバックス世代を惹きつけるオフィス

同様にオフィスの魅力向上を訴えたのが、世界でもっとも有名なスマートビル「The Edge」を開発したOVG Real Estate & EDGEの創設者 クーン・ヴァン・オストゥルム(Coen van Oostrom)氏です。

同氏はスマートビルが取得する空気の質や日光、騒音、人口密度等に関するさまざまなデータの活用可能性に言及し、「コロナ危機以前から、大企業は従業員の生産性や健康、幸福度などを追求し、データで把握することを望んでいました。高い湿度や乾燥が人々のパフォーマンスを下げることは実験で証明されていますから、そうした研究結果と照らし合わせ、ワーカーの生産性にビルが寄与することもある程度可能でしょう。将来的にオフィス事業者は単なる床貸しではなく、そうした付加価値までを保証するサービスモデルになるかもしれません」と語りました。

「ただし、スマート技術やデータ活用は目的を達成するための手段でしかありません。ワクチン開発後も在宅勤務は続けられるでしょうから、オフィスに来て同僚と交流してもらうには通勤時間に値する”誘惑”が必要です。

たとえば吸い込まれるようなアトリウムや吹き抜け階段、外気を感じられる屋外空間があり、素晴らしいコーヒーを提供すること。人間中心設計に基づき、人々が楽しい場所だと感じられるような空間が、オフィスビルの未来であると確信しています。特にスターバックス世代にとってオフィスは社交の場であり、若く優秀な人材を惹きつけるためにも魅力的な空間の価値は下がりません。オフィス業界は規模が縮小する代わりに、質が飛躍的に向上するでしょう」。

リモートワークで失われるものを理解し再構築する

元アフガニスタン米軍・国際軍最高司令官 スタンリー・マクリスタル(Stanley McChrystal)氏
元アフガニスタン米軍・国際軍最高司令官 スタンリー・マクリスタル(Stanley McChrystal)氏

元米軍司令官のスタンリー・マクリスタル氏は戦地での経験から、物理的に同じ空間で働くことの価値を認識したうえで、それが叶わないコロナ危機下におけるチームマネジメントのノウハウとリーダーの心構えを語りました。

「イラクでは各地に散らばった複数の部隊を迅速に同期させるため、7,500人規模で毎日ビデオ会議を行いました。ビデオ会議では、同じ部屋で会議する場合よりも熱意を込めなければなりません。90分間レーザーのように集中しました。もし私が画面から目を逸らして他の作業をしたら、参加者に大きなメッセージを発信してしまうからです。議論に参加せず仕事を続けようとする人に言い訳を与えないため、厳密に議題を計画し、通信の不具合が絶対起きないように整備させました。これが唯一最大のツールであり、会いに行く選択肢はないと理解しなければなりません。

物理空間では何気ない会話や視線だけで多くの情報が交換され、同僚を見て学ぶ機会やリーダーシップ、職場の雰囲気、モチベーションなどが容易に得られます。対して仮想空間ではこれらの多くが失われ、自動的には再現されません。だから意図的に構築する必要があるのです。チームの概念と感染予防を調和させるのは難しいことですが、オフィスに戻れる日まで現状維持でやり過ごそうとしている企業は負け犬です。賢い企業はこの制限された環境で実験し、落とし穴を学び、今まさに適応しています」。

2.分散化・郊外化が加速する日本スタイル

グローバルでオフィス回帰に焦点があたっている理由の一つにワーカーの反応があるようです。マイヤーソン氏は、イギリスの成人の約1/4、ミレニアル世代(25~34歳)では1/3以上が、今般のパンデミックにより孤独を感じているというメンタルヘルス協会の調査結果を引用し、自宅以外に選択肢のないリモートワークの弊害を指摘しました。

ザイマックス不動産総合研究所 主任研究員 石崎真弓氏
ザイマックス不動産総合研究所 主任研究員 石崎真弓氏

一方で、日本のワーカーの反応はグローバルとは少し異なります。ザイマックス総研の石崎真弓氏は、コロナ禍における在宅勤務の評価に関する各種調査等を引用し、日本の特徴を踏まえた独自のワークプレイス戦略の必要性を語りました。

「日本のワーカーは海外に比べ、在宅勤務によって生産性が下がったと感じている一方、コロナ危機収束後もテレワークを継続したいニーズは高く、日本企業は今後テレワークと出社の最適なバランスを検討していくことになるでしょう。ただし、今回の半強制的な”コロナ在宅”では生産性の観点が不十分だった企業も多く、その一時期の評価に基づいて長期的な方針を検討するのは危険です。また、ジョブ型雇用中心でギグワークが広がり、若年層フォーカスの欧米に対し、日本ではメンバーシップ型雇用がいまだ主流であり、少子高齢化に伴い高齢者や育児世代などの働きやすさが焦点になっているといった特徴があるため、欧米とは異なる独自のスタイルを模索する必要があります。

特に今、大企業を中心に顕在化しているのが、従業員の職住近接を叶える郊外型ワークプレイスに対するニーズです。当社の企業調査では、ポストコロナの方向性として回答企業の約5割が『メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける』と回答しており、今後は中心部の集まるオフィスの機能・規模を見直すと同時に、周辺部にワークプレイスをハブ化していく『ハブ・アンド・スポーク化』が進むのではないかとみています」。

3.まとめ

長寿化で世界に先行する日本において、高齢者をはじめ多様なワーカーが活躍するための一つのアンサーがワークプレイスの郊外分散化です。オフィスへの戻り方を考え始めた海外に対し、日本はコロナ禍によってようやく、硬直的であったワークプレイスの多様化・分散化が真剣に検討され始めた段階といえるでしょう。

日本でも話題を呼んだ『ライフ・シフト』の著者リンダ・グラットン(Lynda Gratton)氏は、提唱していたアクティブ・エイジング(活発な高齢化)のムーブメントがコロナ禍により逆行してしまうことへの危惧に触れつつ、日本の変革への期待を語りました。

「日本を含むあるグローバル調査によると、コロナ以前の働き方に戻りたいと答えた人はたったの9%です。若者だけでなく旧世代も変化を求めています。私は過去、プレゼンティズムの問題を抱える日本企業の働き方を批判してきましたが、やっと変化の兆しがみえてきました。世界は日本の長寿化の実際を学び、長寿化社会への対応のヒントを得ようとしています。日本モデルの成功を期待しています」。

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