テクノロジーが仕事と暮らしを融合する WORKTECH 19 Tokyoレポート

日本のみならず海外でも生産性の高い働き方に注目が集まり、働き方と働く場所の変革が進んでいます。2019年4月4日、日本初開催となった前年に続き、「WORKTECH 19 Tokyo」が東京・虎ノ門で開催されました。

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「WORKTECH」(ワークテック)は、ワークスタイル変革やワークスペースをメインテーマとするグローバルカンファレンスです。イギリスのUnwired Ventures社によって2011年から毎年世界各地で開催され、不動産やIT、サービス、建築、インテリアといった業界関係者が集まって知識共有やネットワーキングを行い、新たなトレンドを生み出そうとしています。

今回の東京会場では、国内外で活躍するスピーカーによる10講演とパネルディスカッションが行われ、働き方とワークプレイスに関する最新情報が共有されました。日本企業へのヒントも提示された多彩なプログラムの中から、ポイントをダイジェストでお届けします。

1.ワークプレイスのデジタル化で仕事は人間中心へ

トップバッターを務めたUnwork社 CEO フィリップ・ロス氏は「ジェリービーンワーキング」について講演した。
トップバッターを務めたUnwork社 CEO フィリップ・ロス氏は「ジェリービーンワーキング」について講演した。

今回は複数の講演で、ワークプレイスへの各種テクノロジー導入が進むことにより、前回もメインテーマとなった「人間中心のオフィス」という視点がより具体的に実現されつつあることが強調されました。

ビルはソーシャルネットワークになる

例えばUnwork社 CEOのフィリップ・ロス氏は今後、ジェネレーションZ(1990年代後半~2010年頃に生まれた世代)が労働参加することによって組織の流動化が進み、一緒に働く人や働く場所などについて個人が多様な選択肢を持つ働き方「ジェリービーンワーキング」が加速すると予測しました。

「スマートフォンで常にネットワーク接続し、オンラインゲームでの協力プレイに親しんできたZ世代は、どこにいてもメンバーとつながって協働できるような働き方を求めます。彼らに必要なのは組織図通りに人を分けるオフィスではなく、例えば今一緒に働くべきスキルを持つ人は誰でどこにいるのか、といった情報をリアルタイムに得られるようなデジタルアプリです。

今後、仕事に関するあらゆるデータはクラウド上で処理・保持されるようになり、ジェリービーンワーキングは加速度的に実現されます。同時にオフィスの床面積は必須ではなくなるかもしれません。しかし一方で、多くのワーカーは人と一緒に働きたい、自宅は仕事に適していないと感じているはず。ですから働く場所は進化する必要があります。高度にデジタル化されたオフィスビルはヒエラルキーの床を破壊し、ソーシャルネットワークのように人を集めてつなぐ役割を担うようになるでしょう。そういうワークプレイスが、優秀なデジタル依存世代の活躍を支えます」。

ファシリティ・マネジャーからコンシェルジュへ

シドニーの開発プロジェクト「Oculus」について説明するBVN社 CEOのジェームズ・グローズ氏。
シドニーの開発プロジェクト「Oculus」について説明するBVN社 CEOのジェームズ・グローズ氏。

BVN社 CEOのジェームズ・グローズ氏もロス氏同様、オフィスビルの新しい役割を指摘しました。「21世紀の仕事は選択することであるといわれますが、空間についても個人が多様な選択肢を持つべきです。その方法として、ビルにコミュニティ形成機能を持たせ、働く場所と個人の生活空間を統合する試みがなされています。

例えば“垂直のコミュニティ”をコンセプトに開発されたシドニーの『Oculus(オキュラス)』は、地上フロアに公園や飲食店、コワーキングスペース、ジムなどを設置することで周辺地域と接続しています。また、オークランドのコワーキングビル『B:HIVE(ビー・ハイヴ)』は、建物入り口から内部へレストランやカフェが広がっていて、仕事の領域と外部との境界が曖昧になっています。テナント区画は可動式のパーテーションで区切るだけですし、ビルの中心には吹き抜け階段が通っていて、移動の際にはコワーキングスペースやバーなどの共有エリアを通る必要があります。

「B:HIVE」エントランスの様子(写真は公式サイトより)
「B:HIVE」エントランスの様子(写真は公式サイトより)

どちらの事例もビルの内側と外側、自社と他社、仕事と生活などがフラットに統合され、多様なスペースをユーザーが主体的に選択できるよう設計されています。こうしたビルにはファシリティ・マネジャーではなくコンシェルジュがいて、ユーザーにサービスを提供し、仕事とコミュニティをブレンドする支援をします。Z世代が求める帰属感、つまり『ここにいる意味』を醸成することがこれからのオフィスビルの役割であり、建築家の仕事となるでしょう」。

人と人との相互作用を誘発するオフィス

ワークプレイスにおけるテクノロジー活用の方向性を示したのが、2015年に竣工した世界最先端スマートビル「The Edge」の開発を手掛けたPLPアーキテクチュア 取締役の相浦みどり氏です。同氏はビルが人に働きかけ、イノベーションのドライバーとなる未来を語りました。

「Edgeではテクノロジーによって持続可能性やウェルビーイングを高水準で実現しましたが、次に考えているのは人と人との相互作用を誘発するワークプレイスです。建築面では偶発的な出会いを生む動線や、移動の目的となるアメニティやイベントスペースの配置などが有効でしょう。ソフト面では人とのつながりを調整・後押ししてくれるコンシェルジュやソーシャルプラットフォーム、さらに今後はソーシャルネットワークアナリシス、つまり個人同士の関係性を分析してより意義ある出会いや相互作用を促す仕組みも登場するかもしれません。コミュニティ中心のテクノロジー活用に注目が集まっていくでしょう。

オフィスは人を収容する場所から、人を活性化する場所に役割を変え、付加価値の高い体験を提供するオフィスは優秀な人材を引き付けます。デロイトではEdge入居後、採用応募率が2.5倍に増加しました。さらに今後、AI導入などにより働き方が劇的に変わると、それに対応するためのスキルーー例えば学び続け、物事のコアを見出すセンスを磨き、既成概念に縛られずに思考するようなスキルを支えるスペースも重要になってくるはず。変化に適応し、人間の可能性を引き出す環境とはどのようなものかを考え続けたいと思います」。

2.日本企業の生産性向上に向けて

一方で国内のスピーカー達からは、日本の労働生産性の低さという足下の課題に対し、ワークプレイスによって解消する提案がなされました。

例えば、ザイマックス不動産総合研究所 代表取締役社長 中山善夫氏は、集約型の本社オフィスと分散して働くためのワークプレイスを並行して整備・活用する「ハイブリッド戦略」を提言。テレワークに注目が集まる中、ただバラバラな場所で働くのではなく、集まって働く場所の価値を高めるオフィス戦略が必要であることを改めて示しました。

「企業調査*1によると、オフィス戦略として本社機能を集約する意向は現状だけでなく近未来においても高位のまま推移しているほか、集まって働くことが創発やイノベーションにつながるという見方が強いことも確認されています。集約と分散それぞれのメリットを上手く組み合わせることが、ワーカーの生産性やワークライフバランス向上、ひいては企業の人材確保や業績向上につながる好循環を生み出すでしょう」。

一方で、企業による分散型ワークプレイスの整備が進んでいない状況を指摘し、そこが不動産業界の新たなビジネスチャンスとなることにも言及しました。「米国・マンハッタンのサードプレイスオフィスが賃貸オフィスマーケットの1.7%程度を占めているのに対し、東京は0.5%強と3分の1に留まり*2、これから拡大する余地がある。あらゆるモノやコトのサービス化が注目される中、不動産においても従来の不動産ビジネスの枠を超えて付加価値を提供していく必要があります」。

  • *1 同社が受託・実施した「オフィスの未来に関する調査」(一般社団法人不動産協会)より。
  • *2 面積ベース。日本はザイマックス不動産総合研究所が推計、米国はYardi Matrix社調べによる。

また、カンファレンスの最後に行われたパネルディスカッションでは、行政、鉄道事業者、シェアオフィス事業者など異なる立場の登壇者が、日本の社会問題ともいえる通勤ストレスにフォーカスし、次世代型ワークプレイスが担う役割について意見を交わしました。

パネルディスカッションに登壇した5名。左から、リコーリース 常務執行役員 中村徳晴氏、東京急行電鉄 フューチャーデザインラボ 永塚慎一氏、ザイマックス ジザイワーク事業部長 長田健登氏、国土交通省 土地・建設産業局不動産業課 飯沼宏規氏、モデレータのザイマックス不動産総合研究所 主任研究員 石崎真弓氏。
パネルディスカッションに登壇した5名。左から、リコーリース 常務執行役員 中村徳晴氏、東京急行電鉄 フューチャーデザインラボ 永塚慎一氏、ザイマックス ジザイワーク事業部長 長田健登氏、国土交通省 土地・建設産業局不動産業課 飯沼宏規氏、モデレータのザイマックス不動産総合研究所 主任研究員 石崎真弓氏。

法人向けシェアオフィスサービス「ZXY」を提供するザイマックスの長田健登氏は、同サービスの利用者アンケートの結果、テレワークする理想的な場所として『自宅』を選んだ人が回答者の15%に留まったことに触れ、「自宅以外の多様なワークプレイスが求められている」と指摘。「今後は郊外への出店を加速し、通勤ストレス軽減と生産性向上に貢献したい。郊外にはオフィス物件が少ないため、商業施設や金融機関の余剰床にワークスペースを整備する取り組みも進めていて、職住近接からさらに一歩進んだ『ワークライフミックス』が実現されつつあります」。

郊外で働ける環境づくりの事例として、リコーリース 中村徳晴氏は、同社が埼玉県大宮市のオフィスにZXYを併設して従業員のワークライフバランス向上につなげる取り組みなどを紹介。「学生が社会人になるうえで最も戸惑うのが通勤。そのストレスを解消することは人材確保にも有益です。サテライトオフィス利用により職住近接が実現され、特に育児世代の女性社員の満足度向上に手応えを感じています」と話しました。

最後に国土交通省 飯沼宏規氏は、不動産が日本の生産性を支えていくうえでの行政の役割について語りました。「オフィス・住宅・まちを一体的に捉えた施策により、人々の暮らしや仕事を場所的・時間的制約から解放するのがあるべき方向性。1日24時間を充実させる『真に人に優しい不動産』をキーワードに、国交省としても未来の不動産の在り方を考えていきます」。

3.まとめ

海外がミレニアル世代、さらにはその次のZ世代に焦点を当て、彼らの生産性を上げるような働き方やワークプレイスを目指しているのに比べ、日本は少子高齢化を背景にオフィスワーカーの多様化が進み、高齢者や女性、障害を持つワーカーなどの働きやすい環境整備が求められています。優先順位が異なるため、グローバルトレンドをそのまま追えばいいわけではありませんが、「選択肢を与える」という視点で考えればZ世代も高齢者も、すべての人が働きやすいワークプレイスをつくるヒントになるのではないでしょうか。

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