「コロナ在宅でオフィス不要論」は本当か? オフィス縮小派の声

「コロナ在宅でオフィス不要論」は本当か? オフィス縮小派の声

2020年春はコロナ禍により多くの企業が働き方の見直しを迫られ、在宅勤務導入の機運が過去最高に高まりました。ザイマックス総研が6月に行った企業調査でも、回答企業の91.5%がコロナ危機対策として在宅勤務を実施し、そのうちの6割超はコロナ危機を機に初めて導入した「在宅勤務ビギナー」であったことがわかっています(*1)。

急激かつ同時多発的に発生した日本企業のテレワーク導入の波は、企業のオフィス戦略にも影響を及ぼすものと考えられます。すでにコロナ禍の長期化とテレワーク普及を見据え、「都心のオフィス不要論」など極端な言説も登場していますが、実際にコロナ危機を経験した日本企業は今後、オフィスとテレワークのバランスといったワークプレイス全体の戦略を、どのように考えていくのでしょうか。

オフィスとテレワークを使い分ける「ハイブリッド派」が多数

少なくとも6月の企業調査では、「オフィスが不要になる」兆候はまだみられませんでした。コロナ危機収束後のワークプレイスの方向性について聞いた結果、46.5%と半数近い企業が「メインオフィスとテレワークの両方を使い分ける」と回答し、次いで「収束後は以前同様に戻り、あまり変わらない」(26.5%)が続きます。

一方、「テレワークを拡充し、メインオフィスを縮小する」と回答した企業は14.3%に留まり、それよりも「健康や感染症対策に配慮したオフィス運用への見直し」や「BCP対策の重視」など、従来のオフィスを進化させる方向で考えている企業の方が多い結果となりました。

アフターコロナのワークプレイスの方向性

アフターコロナのワークプレイスの方向性

テレワークを強力に推進する「オフィス縮小派」

ただし、企業規模やオフィスの所在地別でみると様相が少し異なります。従業員数1000人以上の大企業や東京23区の企業は、「テレワークを拡充しメインオフィスを縮小する」意向が比較的高い傾向がみられたのです。

企業規模別「テレワークを拡充しメインオフィスを縮小する」回答率

企業規模別「テレワークを拡充しメインオフィスを縮小する」回答率

オフィス所在地別「テレワークを拡充しメインオフィスを縮小する」回答率

オフィス所在地別「テレワークを拡充しメインオフィスを縮小する」回答率

また、ヒアリングによっても、東京に本社を置く大企業のなかには、テレワーク拡充を前提にメインオフィスを縮小する「オフィス縮小派」が一定数いることがわかってきました。

たとえば、ある情報通信企業は「今2000坪のオフィスに毎日平均4名程度しかいないような状況なので、働く場所の分散化が進むことは間違いない。今回強制的に在宅勤務に振り切ったことで、満員電車通勤の非効率さが改めて課題認識されたことも大きい」と、4月末の時点ですでにアフターコロナに向けた改革の意欲を示していました。

コロナ以前から検討していたオフィス圧縮が加速

そもそもテレワーク推進に積極的な企業のなかには、コロナ危機以前から、テレワーク活用を前提としたオフィス縮小の検討を始めていた企業が少なくありません。ある建材メーカーではすでに2019年度、執務エリアを社員数の7割に圧縮する縮小移転を完了しており、並行して進めていたテレワークの準備がコロナ危機下で功を奏したと話してくれました。

また、ある商社では「在宅勤務がうまく機能しているため、経営企画から都心オフィスの圧縮を検討するよう求められ始めた。テレワークとフリーアドレス席の運用によるオフィス縮小移転はかねてより希望していたので、その後押しになっている」といいます。ただし課題もあるようです。「以前に一部部門のペーパーレス化プロジェクトが頓挫した経緯があり、今後全社的なペーパーレス化が実現できるかは疑問。現行オフィスの執務エリア削減にはペーパーレス化の実現が必須なので、段階的かつ慎重に進めたい」。

オフィス縮小か、拡大してソーシャルディスタンス確保か

この商社同様、動き出しの早いオフィス縮小派は、現時点で浮上している懸念や課題を洗い出し、具体的な検討を始めています。グローバル展開する大手通信事業者は、「都心オフィスのワンフロアを返し、浮いたコストをシェアオフィス契約や在宅勤務環境整備の費用に充てようという意見が出ている一方、ソーシャルディスタンスを考慮してオフィスの1人あたり面積を広げるため、オフィス縮小はしないという意見もある。両方を叶えるために固定席をフリーアドレス化する案もあるが、感染経路の特定が難しいなどの懸念もある」と内情を話してくれました。

ワークプレイス改革に積極的な先進企業にとって、今回のコロナ禍による強制的な在宅勤務活用は現在のボトルネックを炙り出し、改革をスピードアップさせる契機になった面もあるようです。たとえばある食品メーカーでは、以前から本社オフィスや自宅、サテライトオフィス等のどこで働いてもよい制度づくりを進めていましたが、今回の強制在宅勤務で、業務内容によっては向き不向きがあることがあらためて浮き彫りになったといいます。

しかし、「向かない業務があるから」とテレワークを否定するのではなく、業務ごとに推奨されるワークプレイスを整理したガイドラインの作成を検討しているそうです。また今回の経験を踏まえ、もともとこの制度の対象外であった工場勤務社員についても、遠隔でできる工場業務の洗い出しを進めるなどしてテレワーク導入の可能性を探り始めたといいます。「極端な話、本社オフィスを少し居心地悪くしてでも出社を必要最低限に抑え、テレワーク活用を強力に推進するという方向性もありえます」。

働く場所の選択肢を与えることが生産性向上につながる

今後はコロナ禍による景気悪化が予測され、企業のコスト削減意識が高まることで、こうしたオフィス縮小の動きに拍車がかかる可能性があるでしょう。この場合に注意しなければならないのは、単なる固定費削減だけが目的になってはならないという点です。

コロナ危機以前から、ザイマックス総研ではフレキシブルな働き方とワークプレイスの有効性を提言し、ワーカーが自律的かつ快適に働ける環境を持つことが生産性や組織へのエンゲージメントを高め、結果的に企業のメリットとして還元されることを調査研究によって明らかにしてきました。

たとえば直近のレポート(*2)では、オフィス内外を問わず多様な働く場所の選択肢を持つワーカーは、満足度や生産性向上の効果を感じる確率が高くなるという分析結果を公表しています。今回行った企業ヒアリングでも、コロナ禍のテレワーク活用がうまくいっている企業の多くは従業員アンケートや個別面談などを通してワーカーの声を聞き、より働きやすい環境を整えるために改善を継続しているという特徴がみられました。

ワークプレイスはそこで働く人のマインドに影響し、働き方を規定し、結果としてパフォーマンスを左右する重要な経営課題です。さらに今回のコロナ危機を経験したことで、多くの企業は今後、オフィスの役割の再定義や、メインオフィスとテレワークのバランスの最適化といった課題にも取り組むことになるでしょう。企業ごとにベストソリューションは異なるため、各々が自社の特性や優先順位を踏まえて考え、トライアンドエラーを繰り返し、最適解を更新し続ける必要があります。

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