“コロナ強制在宅”で企業が感じた課題、解決のカギは「原因の切り分け」

“コロナ強制在宅”で企業が感じた課題、解決のカギは「原因の切り分け」

コロナ在宅を実施した企業の6割超が「在宅ビギナー」

2020年春、コロナ禍により多くの人や企業が働き方の見直しを余儀なくされました。特に、4~5月にかけて発出された緊急事態宣言において政府は「人との接触機会を8割削減」するよう求め、企業に対する在宅勤務導入の外的圧力は過去最高に高まったといえます。

実際、ザイマックス総研が今年6月に行った企業調査では、回答企業の91.5%がコロナ危機対策として在宅勤務を実施しており、このうち6割超はコロナ危機を機に初めて在宅勤務を導入した「在宅勤務ビギナー」であることがわかりました*。働き方改革で推奨されながらも道半ばであった企業のテレワーク導入が、コロナ危機により半ば強制的に促されたといえるでしょう。

ただし、在宅勤務を取り入れたすべての企業で新しい働き方が定着するかは未知数です。コロナ危機対策として在宅勤務を実施した企業のうち55.4%は、緊急事態宣言解除直後の6月初旬には、在宅勤務の利用を緩和、もしくはすでにやめていたのです。

6月初旬の在宅勤務の継続状況

6月初旬の在宅勤務の継続状況

さらに、コロナ危機きっかけで在宅勤務を始めた「在宅ビギナー」企業だけでみるとこの割合は66.2%(緩和43.2%、やめた23.0%)に高まることもわかりました。半強制的な形とはいえ、働き方改革のチャンスともいえる在宅勤務導入をたったの数か月でやめてしまった企業には、どのような理由があったのでしょうか。

「在宅でできない業務」とは? BtoBでは取引先企業の影響も

同調査では、コロナ禍(特に緊急事態宣言下)の特殊な状況を踏まえ、在宅勤務を実施しなかった企業も含む回答者全体に「在宅勤務に関して困ったことや課題」を聞きました。

その結果、1位は「在宅勤務ではできない業務がある」で、8割近い企業が選択。2位以下には「ペーパーレス対応が不十分」「決裁等の電子化対応が不十分(ハンコ文化)」が続き、こうした要素が在宅勤務の支障となっている状況がみえてきました。

在宅勤務に関して困ったことや課題

在宅勤務に関して困ったことや課題

また、自由記述には、紙やハンコを扱う業務以外にも「在宅勤務ではできない業務」の具体例が寄せられました。たとえば「『製品を実際に試したい』というお客様への対応」や「対面での商談を希望する取引先対応」、「社内決裁等はすべて電子化されているが、社外との契約に押印が必要で出社しなければならない」など、自社の取り組みだけでは解決しづらい課題を抱えている企業は少なくないようです。特にBtoB企業は、取引先企業のテレワーク浸透度や意識レベルに合わせざるをえない部分もあり、社会全体の変革が求められています。

「原因の切り分け」が解決への第一歩

こうしたアンケートやヒアリングを重ねていくと、コロナ禍のテレワーク導入に関して企業が抱えている悩みや課題の大部分は、「環境整備(ICT・自宅環境など)」「仕事の進め方」「コミュニケーション」「従業員マネジメント」のいずれかに分類でき、さらに「環境整備」に関する課題は、比較的早期に対処できている企業が多いことがわかってきました。一方で「コミュニケーション」や「従業員マネジメント」に関してはまだ試行錯誤中の企業が大勢で、ベストプラクティスを求めて議論が活発化しています。

つまり、課題の種類によって対処の難易度が異なることを理解し、優先順位をつけて対処していくことが、テレワーク導入をスムーズに進める一つのポイントとなりえそうです。前述の「在宅勤務ではできない業務がある」も、できない原因が環境整備の不備・不足であるならば、適切な設備投資や運用ルール策定などによって解決が可能かもしれません。

実際に、コロナ危機を受けて4月から完全在宅勤務に踏み切ったある情報通信企業では、初期に従業員向けのアンケートを行い、課題や不満を感じている人には詳細をヒアリングして、理由を細分化することで対処していったといいます。たとえば、仕事に適した家具やモニターが無いことが原因ならば購入費の補助を検討する、子どもが家にいることが原因ならば、一斉休校期間が終われば自然解消されるものとして割り切る、といった具合です。

同じ企業に属していてもワーカーは、担う業務も、自宅環境も、性格や能力もさまざまであり、在宅勤務がうまくいかないとしたら、その理由もさまざまであると考えるのが自然です。「うまくいかない」を組織全体の総合評価として捉えるのではなく、原因を切り分けて個別に対処することは解決への第一歩となり、アフターコロナにも通用する新たな働き方につながると考えられます。

企業ヒアリングの声(一部抜粋)

環境整備(ICT環境、自宅環境など)系

  • VPN利用が急増して接続しづらい。緊急度の高い人に優先的に使わせる運用ができていない。
  • 当初は貸出用Wi-Fiルーターなどの機器が足りず、慌てて購入した。
  • 出社希望者の約半数は、家族からのプレッシャーで家に居づらいと感じていることがわかった。
  • 情報漏洩の懸念からコンビニプリントを禁止しており、印刷できない問題が発生している。

仕事の進め方系

  • 民間同士では電子化のやりとりも進んできているが、公的機関や行政関連の電子化が進んでいないために出社せざるを得ない部門がある。
  • コロナ以前は本社勤務者のみテレワークを利用していたが、コロナを機に全体に拡大したことで、特殊なソフトを使う技術者や現場担当者など、在宅勤務できない社員から「ずるい」という声が上がっている。

コミュニケーション系

  • 軽い相談がしづらく、これまでその場で解決できたことがメールや電話になるため仕事が増えた印象。
  • ITリテラシーのレベル差によってコミュニケーションの質に関して感じることが違う。新人研修をオンラインで実施したが、新人たちは問題なさそうな一方で先輩社員が困惑している様子もあった。
  • 大部分の業務が在宅で可能だとわかった一方、若手の教育や、新しいものを生み出す熱量のある会議など、一部の業務は対面が必要であると感じた。
  • ディスカッションやブレストがやりづらい。今後もテレワークを継続する前提で、ファシリテーターを決めるなど、オンライン上でうまく議論する方法を試行錯誤中。

従業員マネジメント系

  • ずっと一人でいることにストレスを感じる人と平気な人、社員の性格により反応が二極化している。
  • トライアルやルールが決まったうえでの在宅勤務と違い、先がみえない状態で続けているため従業員のモチベーション管理が難しい。他のメンバーの業務内容や今のモチベーションが把握しづらい。
  • 「本部長がリモート会議が苦手」という理由で出社している部署があり、教育・啓発が課題。

一方で、「やってみたら意外とできた」という意見も多かったのは印象的でした。たとえば、コロナ危機以前からテレワーク制度はあったものの利用者がほぼいなかったというメーカー企業の担当者は、「顔を合わせないとできないと思っていた業務がオンラインで遅滞なく進んでいる。今回慣れた人たちからテレワークが定着していくだろうし、出張も減ると思う」と話しました。

他のメーカー企業も、「緊急事態宣言解除後も元に戻したくないという意見が多かったので当面は全面在宅を続け、将来的にも元の体制に戻るのではなく、自宅以外の場所の選択肢を増やす方向で協議を始めた」といい、在宅勤務をコロナ危機下の一時的な対応と捉えている企業は少ないようでした。

導入歴が浅くてもテレワーク活用に前向きな企業は共通して、今般のコロナ危機による強制的な働き方の変化を「改革のチャンス」と捉え、危機収束後までを見据えた課題解決に取り組んでいるという特徴がみられました。コロナ禍の長期化が確実視され、もはや収束後もコロナ以前と同じ世界には戻らないだろうといわれるなか、変化に前向きで柔軟な企業とそうでない企業との差は、中長期的に開いていくのかもしれません。

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