【事例】働く場所のフレキシブル化で戦略的にオフィスを縮める

働く場所のフレキシブル化で戦略的にオフィスを縮めるイメージ図
 

働き方改革の一環としてオフィスレイアウトを刷新し、戦略的にオフィス面積を縮小・効率化する企業の動きが生まれています。背景には、採用活発化によりオフィスで働く人数が増えているにも関わらず、都心部を中心にオフィスの空室が不足し、賃料が高止まりしているといった状況があります。

また、テレワークの広がりに伴って働く場所の分散が進み、オフィスに滞在する人数が流動的になっていることから、収容人数の増減に対応しやすいフレキシブルなレイアウトプランが受け入れられているという事情もあるようです。

逆にいえば、テレワーク活用と柔軟なオフィスレイアウトを一体的に考えることで、オフィスコストを効率化し、従業員も働きやすい場所でより柔軟に働くことができるようになります。オフィスの中と外に多様な場所の選択肢を持つこうした働き方は近年、ABW(Activity Based Working)と呼ばれ、注目されています。

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ここでは、オフィスレイアウトの工夫やテレワーク活用によって、固定的なオフィス面積を戦略的に縮小・効率化した企業2社の事例をご紹介します。

事例1:ワンフロア化にこだわり、面積半減でも快適オフィス

2018年、従業員100名規模のとあるIT企業が、東京駅至近の一等地へ本社オフィスを移転しました。きっかけは、入居していたオフィス賃料の値上げ。「どうせ高くなるなら、社員みんなが満足できるオフィスに変えよう」と移転プロジェクトが始まりました。

もともと入居していたオフィスは2フロア借りていて、人数に対して面積が広く、使っていないスペースが多い上にコミュニケーションもとりづらかったといいます。また、築年数が古く、空調や水回りなどの快適性にも不満がありました。プロジェクトリーダーを担った人事部門のA氏は、「社員の大半がエンジニアで、顧客企業に常駐しているメンバーも多いため帰属意識の醸成が課題だった。本社に帰ってきても居場所がなかったんです。だからオフィス内の居心地を良くして、“帰ってきたくなるオフィス”を目指しました」と振り返ります。

全国的にオフィス空室が不足する中で理想のオフィスを実現するため、同氏は物件探しに2年、さらにレイアウトの考案に1年かけました。都心部への立地改善やBCP対応のほか、特にこだわったのがワンフロアオフィスにすること。「以前はフロアの違う人同士、ちょっとした打ち合わせをするにも不便だったので、ワンフロア化で従業員同士が自然と顔を合わせられるオフィスにしたかったんです」。

最終的に選んだオフィスは移転前の約半分の面積でしたが、移転を機にペーパーレス化を推進し、保管資料のストレージを約1/3まで削減。さらに古い事務机を人数の融通がきく長テーブルに替えるなど、限られたスペースを広く使えるよう工夫しました。また、リフレッシュスペースやオープンなミーティングスペースなど、用途を特定せずフレキシブルに使えるスペースを新たに設けたことで、顧客先から戻ってきたメンバーの居場所となり、普段顔をあわせない者同士の会話も生まれています。

移転によって面積が半減しても、オフィス内の快適性は向上し、従業員を対象とした移転後の満足度調査では高評価が得られました。「オフィス賃料の総額は上がりましたが、IT企業はエンジニアの生産性が企業利益に直結する業種。オフィスの快適性や居心地の良さには投資していきたい。移転して社内の会話が増えたし、同僚や会社への愛着にもつながることを期待しています」とA氏。今後は、移転時に社員の抵抗で断念したフリーアドレス化も再検討し、オフィスをよりフレキシブルに進化させていく予定だといいます。

事例2:店舗スペースの活用で本社オフィス縮減

集まるオフィスを充実させる企業がある一方、集まるオフィスは最小限にして、働く場所の分散化を推し進める企業の例もみられます。その一つが、アパレルの企画・製造・販売までを一貫して行うとある企業です。

同社では、全国にある直営店の事務所スペースをサードプレイスオフィスとして活用し、従業員の移動時間削減などにつなげています。以前から店舗で事務作業を行う機会は多かったものの、より効率的に活用するため、モバイルPCの支給などICT環境を整えることで「本社に戻らないとできない仕事」を解消してきました。

同時に、都心部の本社オフィスでは固定席をフリーアドレス席に替えることで、段階的に執務スペースを減らし、その分ミーティングスペースなどの比率を増やしてきました。自席に長時間座って働くよりも、打ち合わせや外出で動き回っている社員が多いため、固定席にスペースを割くのは無駄だと感じていたそうです。「お客様との接点は店舗なので、オフィスの無駄をなくして店舗に投資し、従業員の働きやすさにつなげる方が当社には合っています」と総務部門のB氏が話す通り、将来的には本社オフィス面積を縮小していく方針だといいます。

また、ワークライフバランスの観点から在宅勤務の導入も検討中。郊外店舗もあるため、自宅と店舗間を行き来するだけで仕事が完結できれば、都心オフィスへ時間をかけて通勤する必要性は今以上に低くなるでしょう。

「その場合、散らばった社員がぱっと集まれる場所としてレンタルオフィスサービスの利用も想定しています。複数の立地で契約すれば、その時集まるメンバー全員にとって都合の良い場所を都度選べるでしょう。ただ、本社を完全になくすわけではなく、社の方向性を共有する場所として残るとは思います」。

業務内容や社風に適した戦略を

紹介した2社はそれぞれ、自社によりフィットする働き方(集まって働く/分散して働く)を見極め、その働き方に最適なオフィスの在り方を策定したうえで、本社オフィスを戦略的に縮小しています。

テレワークのメリットの一つとして、よくオフィスコスト縮減の効果が挙げられます。例えば、都心のオフィス面積を一部郊外や従業員の自宅に分散させることによって、オフィス賃料を下げるという考え方ですが、それによって従業員の働きやすさやモチベーションに悪影響を与え、生産性が下がってしまっては本末転倒です。大切なのは、テレワークを活用するのであればオフィスレイアウトも一体的に設計し、オフィスの中でも外でも働きやすい環境を総合的に考えることではないでしょうか。

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