未来のオフィスは立地より「ミッション」が重要になる

オリー・オルセン/ザ・オフィス・グループ 共同設立者兼共同CEO

TOGが展開するフレキシブルオフィス
TOGが展開するフレキシブルオフィス。50を超える拠点で内装デザインはすべて異なる(写真はTOG公式サイトより)

2019年11月、働き方やワークスペースをメインテーマとする国際的カンファレンス「WORKTECH(ワークテック)」のロンドン会場において、ザ・オフィス・グループ(以下TOG)共同設立者兼共同CEOのオリー・オルセン氏は、モデレーターのジェレミー・マイヤーソン氏とともにフレキシブルオフィス市場の今と未来を俯瞰する講演を行いました。「ミッション」という軸で語られたその内容をご紹介します。

左:ザ・オフィス・グループ 共同設立者兼共同CEO Olly Olsen(オリー・オルセン) 右:ワークテック・アカデミー 理事 Jeremy Myerson(ジェレミー・マイヤーソン)
左:ザ・オフィス・グループ 共同設立者兼共同CEO Olly Olsen(オリー・オルセン)
右:ワークテック・アカデミー 理事 Jeremy Myerson(ジェレミー・マイヤーソン)

居心地は、イノベーションやテックよりも大切

我々TOGは、ロンドンを拠点にシェアオフィスや貸会議室などのフレキシブルなワークスペースを計51拠点展開しています(2019年11月時点・開発中を含む)。ここまで来るのに20年かかりました。20年前、サービスオフィス市場にはまだ「ミッション」や「ブランドデザイン」といった概念が登場しておらず、サービスと完成品を提供することがすべてでした。高価で、当たり障りがなく、一時的に過ごす場所でしかないと見なされていたサービスオフィスの進化を目指して事業を展開してきました。

フレキシブルスペースの開設場所を選ぶ上で、私と共同CEOのチャーリーが用いる基準は「そこで働きたいか?」、それだけです。現代のワークスペースに、イノベーションとテクノロジーが導入されていることは承知していますが、それ以上に肝心なのは、そこで働く人々が快適さを感じる必要があるということです。

例えば、現在ポートフォリオにある2500部屋のうち、窓のない部屋は数えるほどしかありません。働く環境に自然光があることはとても重要だからです。時には旧警察署や鉄道駅など、オフィスビル以外にもワークスペースを設けてきました。また、街の特色や建物の歴史を踏まえたうえで各拠点の内装をデザインするので、拠点ごとに見た目の印象は異なりますが、常にそこで働く顧客を重視していることは変わりません。画一的でないスペースを提供してきたことが、結果的にスタートアップから大企業まで多様なタイプの顧客を惹きつけることにつながりました。

屋上テラス
屋上テラスやバルコニーなど、外気にアクセスできるスペースが多くの拠点に設けられている(写真はTOG公式サイトより)

サービス/コワーキングという二つの流れが融合

ジェレミー・マイヤーソン:フレキシブルスペースは現在、ビジネスの面だけでなく創造的・知的な観点からも利用されるようになっていますが、その中で明確な二つの流れがあると思います。一つは従来型のサービスオフィス。サービス、快適さ、サポート、カスタマイズ、もてなしを提供しますが、コミュニティについては考慮されてきませんでした。一方、社会運動として始まったコワーキングムーブメントでは、精神(ethos)や雰囲気(vibe)、エンゲージメントといった価値に終始し、機能性や快適性が必ずしも充分ではなかった。これら二つをどのように進化させてきたのでしょうか。

一つの解が、ワークスペースをミッション主導で考えるという発想です。ミッションとはつまり、ユーザーが何を期待してその場所を選ぶのかということ。ミッションについて考えるきっかけとなった出来事があります。我々がショーディッチ地区で運営していたコワーキングビルのエレベーターがあるとき故障し、6週間も使えなくなったのです。しかし、そのビルの利用者たちは階段を使い、苦情も言わず退去もしませんでした。

何故か。彼らはサービスや設備を求めて利用料を払っていたのではなく、そのビルにいること自体に価値を感じていたからです。そこでは誰もが扉を開け放したまま共に働き、相互につながっていました。それが対価を払うに値することであると、私はそのとき初めて気付きました。

同じ頃、別の拠点でもエレベーターが使えなくなったのですが、こちらの利用者たちは不満を言って補償を求めました。彼らはサービスや設備に対価を払っていると考えていたのでしょう。人がある空間にいる目的や理由は様々です。フレキシブルスペースは今後、サービス/コワーキングといった二項対立ではなく、それらが提供してきた価値を組み合わせてユーザーの期待に応える、第3の次元に移行すると思います。

TOGのメインターゲットである法人顧客についても、近年はサービスオフィス的なものとコワーキング的なものの中間を求める傾向があります。サービスレベルの高さだけを求めるだけではなく、またコワーキングによって得られる刺激や雰囲気やコミュニティだけあればいいというわけでもない。従来のサービスオフィスが提供してきた快適さやサポート、カスタマイズといった価値とコワーキングが生む価値をどう融合させるか、そのミックスのバランスが鍵になってきていると感じます。

本社オフィスとフレキシブルスペースが競合する時代へ

気を抜けない点は、我々の提供するサービスレベルが顧客企業の本社オフィスより劣る場合、社員たちはフレキシブルスペースに来てはくれないということです。企業とユーザーがフレキシブルスペースに求めているのはセンターオフィスと同等またはそれ以上に優れた空間であり、もはや立地利便性の高さなどだけでは競争力が保てない。我々は他のフレキシブルスペース業者と競合するだけでなく、従来の企業のセンターオフィスとも競合しつつあります。

一方で、この市場の拡大を確信してもいます。2億5,000万平方フィート(約2,300万㎡)のロンドンオフィス市場のうち、フレキシブルスペースが占める割合は6%ほど。現在のニーズからしてその割合が増えるのは間違いない。さらに、この2億5,000万平方フィートに、自宅や大英図書館、スターバックスで働く人々は含まれていません。将来のワークプレイスの総量は、現在観測されているオフィスビル市場だけに留まらないのです。

フレキシブルスペースが増えている今でも、スターバックスで働く人はたくさんいます。フレキシブルスペースの滞在価値がスターバックスより低ければ、価格面から考えても当然の選択でしょう。大英図書館も同様です。フレキシブルスペースが進化することで、そういう人たちの需要も新たに取り込む余地があります。

locationではなくspaceでワークスペースを選ぶ

TOGでは今後、特定分野に特化したニッチなワークスペースについて探索したいと考えています。ユーザーの業界や志向に合わせたスペースのカスタマイズが進み、そこに集まる企業や個人の横のつながりが生まれ、ビジネスの成功を後押しするような場所です。これもミッション主導のワークスペースの一つの形です。

我々プロバイダーがワークスペースの担うミッションを拡大し、同時にサービスを拡大し、その中間点である第3の次元に向かうことができれば、ワークスペースはもはや不動産的な意味での単なる場ではなく、すべてのビジネスの成長を支援する環境になるはずです。そのとき、ビジネスを成長させようと考える企業は、働く場所を決めるにあたって立地(location)ではなく空間(space)を選択するようになるでしょう。

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