加速するフレキシブル・ワークスペース台頭の理由

仕事とワークスペースをメインテーマとする世界的な知識ネットワーク「WORKTECH Academy」(ワークテック・アカデミー)では、グローバルトレンドを俯瞰する多彩な記事を発表しています。今回はその中から、フレキシブル・ワークスペース市場のグローバルな成長の要因に関する、インスタント・グループの最新の研究結果をご紹介します。

ザイマックス総研はWORKTECH Academyのグローバル会員として、今後も当サイトにて、同アカデミーの記事を日本の皆さまに共有していきます。ご期待ください。

記事原文:Getting to grips with the irresistible rise of flexible workspace

フレキシブル・ワークスペース市場の急速な(不動産業界がぐらつくほどの)拡大を、真に後押ししている要因は何なのだろうか? ザ・インスタント・グループ(The Instant Group)のジョン・ウィリアムス(John Williams)氏が、最新のリサーチを引き合いに出しながら、コンシューマライゼーションがいかに業界の状況を変化させているかを説明する。

オフィスなどの商業用不動産における変化は、幅広い社会経済学的トレンドによってもたらされているが、その多くはビジネスの他の分野にも既に多大な影響を及ぼしている。多くの点で、不動産業界は流行という行列の最後尾にいるように感じられる。変化に対する抵抗が非常に大きく、テクノロジーの採用に腰が重く、どちらかというと動きがないからだ。

過去10年間で、消費者行動は劇的に変化した。デジタルテクノロジーの出現により、商品やサービスの提供と消費にまつわる期待の移り変わりが促されている。この「コンシューマライゼーション」は、顧客の期待を満たすことに今一度焦点を当て、より多くの選択肢を提示するとともに、大規模な情報収集モデル(aggregator models)に基づいてデータ主導の決定を下すことに慣れた消費者を生み出している。要するに、消費者は、自分の求めるものを、求める時に、適正な価格で得ることに慣れているのだ。

35歳未満のワーカーにとっては、今やフレキシビリティが仕事の重要な特徴の一つとなっている…

社会のデジタル化によって、休日、旅行、ホテル、消費者向け商品や、その他の消費財に関する選択が容易になった。グーグル(最新情報を求めて毎日数十億ものウェブページが検索されている)が提供する選択の透明性は、私たちの市場の見方を劇的に変化させ、B2B市場にも影響を及ぼしている。特に若い世代は、データに基づいて決定を下し、大規模なデータセットにアクセスすることに慣れており、それを苦もなく処理して自分の決断の根拠としている。

デジタルテクノロジーはまた、中・高齢者層がかつて想像もしなかった方法で、社会における空前のつながりをもたらしている。若い世代は、リモートワークをしたり、Skype(スカイプ)やWhatsApp(ワッツアップ)などの閉じたソーシャルメディアを活用して仕事を探し、コラボレーションし、リサーチしたりすることに、元来抵抗がない。だが、その他の年齢層のワーカーにとっても、ワークプレイスの認識は比較的短期間で根本的に移り変わっており、私たちをオフィスに結びつけていた絆は切れてしまっている。5G技術の導入によってさらなる高度化が期待される動画技術のおかげで、決まった物理的な場所に出勤する理由はますます弱まっていくだろう。

直近の消費者の動向として(上述によって一部裏付けられているが)、グローバル都市からのゆるやかな脱出と、都市生活に対する認識の変化が挙げられる。手頃な住宅の不足と高額な交通費という問題に直面している多くのワーカーは、ネット環境に容易に接続できることから、自分の働く場所について疑問視するようになった。リモートワークで勤めることは、かつては昇進面で「負け組」と見なされてきたが、今や35歳未満のワーカーにとって、フレキシビリティ(柔軟性)が仕事の最も重要な特徴の一つとなっている。彼らは働く時間と場所を選びたがり、9時~17時の定時勤務はますます時代錯誤的なものとして見なされつつある。

一般消費者の嗜好に向かうワークプレイス

消費者の物の見方に関するこのような変化は、今やビジネス界にも反映されており、企業は自社の労働力が求めるフレキシビリティを見習ってさらに機敏な選択肢を追求している。イノベーションと変化の速度がデジタル化によって大幅に推進されているという認識のもと、事業計画サイクルは短縮されている。旧来の企業は、そのビジネスモデルを絶えず進化させ変化を追求しないかぎり、もっと機敏なスタートアップ企業に座を奪われるかもしれない。今や多くの分野にブラックホールがあり、数十年の歴史をもつ老舗企業が、崩壊しつつある自社のビジネスモデルを捨てられないばかりに衰退を免れずにいる。

昨今、こうした傾向が強まっていることを受け、最高経営責任者(CEO)はますます、景気後退に備えて事業計画を策定するようになっている。これに伴い、プライスウォーターハウスクーパース(PWC)社の最新のCEO調査によれば、自社の今後の業績に対する自信が16%低下しているという。

興味深いことに、ガートナー社の新たな調査によれば、市場の厳しさがより増すと予想されるなか、ビジネス上の優先順位に関するCEOの焦点は、単純な成長目標へと戻ってきている。一方で、「労働力」と「企業構造の変化」については重要と見なされてはいるものの優先順位が下がっていた。厳しい市場でどのように成長を遂げるかを問う質問に対して最も多かった回答は、新市場(商品分野だけでなく地理的な観点においても)への拡大であった。

目的に合っていない

このような背景からすれば、オフィスを使う人々の期待が変わってきていることには何の不思議もない。テクノロジーの導入や、アウトソーシング、成果主義の働き方、自律性の拡大などの影響から、入居者によるスペースの利用方法が変化してきている。

このことは今や、従来型のオフィスが大多数の人にとって、もはや目的に合っていないことを意味する。HTS社による最新の研究によれば、入居者が最も重要と見なすアクティビティは往々にして、最もサポートされていないアクティビティでもあるという。したがって、オフィス空間で働く人の70%が「刺激的でない」と感じると回答したことは驚くに値しない。

フレキシブル・ワークスペースを後押しする要因

スペースの供給と入居者の期待との間のミスマッチは、入居者と企業の変わりゆく要望にもっとよく応じようと目論むフレキシブル・ワークスペース業界を、間違いなく刺激し助長している。最近のワークスペースの活用に関するある調査によれば、従来型のオフィスの机の40%が利用されていないだけでなく、大多数の人は静かな空間にいるか会議に出ているという。空間の最大限の活用とコスト削減を目的に生み出された、間仕切りの無いオープンプラン式のオフィスは、いまだフル活用されていないため、結果的に在宅勤務や別の場所でリモートワークをする機会の増加につながっている。

40%の机が利用されていないなら、人々はどこで働いているのだろうか?

大部分の企業と経営陣は、自社のスペースの限界を認識しており、より生産的な環境と従業員エンゲージメントの向上の双方を勝ち得るために出資する意志を示している。弊社の研究によれば、入居者の59%が、グレードAの最上級の賃借料に最低でも10%上乗せして、より高度なアメニティの「サービス契約」スペースに支払う意志があると答えている。

2018年と2019年の回答者の思考における大きな変化として示されたように、フレキシビリティはビジネスの意思決定にとって重要性を増し続けている。コストと場所が依然として最も重要な2大要因ではあるものの、フレキシビリティが初めて建物の設計とレイアウトを上回り、3番目の要因となった。フレキシブルなスペースを最も重要な選択肢であるとしたのは回答者のわずか8%であったが、45%は、それがもたらすメリットはコストを上回るとし、フレキシブルなスペースの活用が今後3年間で増えることを期待していた。

変化への圧力下での適応

市場の供給は、市場原理になかなか適応できずにいたものの、変化への圧力が増すなかでついに従来型のワークスペース市場も適応せざるをえなくなり始めた。これは主に、さらなるユーザー重視、データ・プールへの進出、ユーザー起点で利用できる選択肢の量の増大という形で現れている。ただし、この変化の多くを推進しているのは、やはりフレキシブル・ワークスペースの分野である。そして、従来型の業者は依然として、需要の変化に対する市場の反応において矛盾を抱えたままである。

コワーキングとフレキシブル・ワークスペースの流行については、多くの文書(特に我々自身のデータ)で取り上げられているが、その供給は毎年25~30%の着実な増加を続けている。我々の予測ではこの分野における成長を明言しており、フレキシブル・ワークスペースの提供は2025年までに市場全体の5%から35%へと拡大すると見積もっている。これは、過去10年間の需要と供給にみる成長傾向に基づく、論理的な予測であるといえる。

過去10年間の商業用不動産市場における最大のトレンドもまた、最も誤解されている事項の一つである。同業界では、「コワーキング」、「フレキシブル・ワークスペース」、「サービスオフィススペース」等といった呼称について、かろうじて合意がなされている程度だ。また、業界がどこへ向かおうとしていて、その理由は何かも把握できていない。

フレキシブル・ワークスペースが台頭する根本の原因は、賃貸オフィス市場の原動力そのものの変化である。現時点ではオフィス市場全体の1桁のパーセントを占めるにすぎないが、その地理的範囲の拡大につれて、その影響も広がっている。ロンドン、ニューヨーク市、サンフランシスコ・ベイエリアの市場は世界最大級ではあるものの、最速で成長している市場というわけでは決してない。

商業用不動産業界はどこへ向かおうとしていて、その理由は何かも把握できていない…

フレキシブル・ワークスペースや、それが将来に対して何を意味するかに関する業界の議論の一部は、テクノロジーやWeWork(ウィーワーク)にあまりに多くの焦点を当てすぎている。WeWorkは業界で真に成功している新興企業であり、影響力が多大であることは間違いないが、原因の一つの兆候にすぎず、テクノロジーは単に進歩を後押しするものでしかない。ただし一つだけ、あらゆる市場レポートと我々の予測において意見が一致している点は、フレキシブル・ワークスペースの成長が顧客の選択によってもたらされているという点だ。オフィス市場が生まれて以来、常に主力であり続けた賃貸モデルに代わる一つの方法なのである。

今や市場の選択肢はうなぎ上りに増え続け、もう誰にも手がつけられない状態である。ますます多くのプロバイダーが、利用できるスペースの種類のみならずその調達方法についても、さらに多様なワークスペースの選択肢を提供している。これに呼応して、賃貸契約期間は短くなり、ビルオーナーや投資家は変わりゆく顧客の需要を反映しようと努め、市場の供給は一定のペースで適応しつつある。

筆者:ジョン・ウィリアムス(John Williams)は、フレキシブル・ワークスペース市場のエキスパートであるザ・インスタント・グループのマーケティング部長。商業用不動産市場における幅広い経験を有し、ワークテック・ミュンヘン2019では基調講演を行った。

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