職位ではなく業務に応じて選べるワークスペースが従業員のパフォーマンスを高める
ゲンスラー社「英国ワークプレイス調査2016」結果レポート
仕事とワークスペースをメインテーマとする世界的な知識ネットワーク「WORKTECH Academy」(ワークテック・アカデミー)では、グローバルトレンドを俯瞰する多彩な記事を発表しています。今回はその中から、2016年に英国のオフィスワーカーを対象に実施された「英国ワークプレイス調査2016」の結果レポートをご紹介します。
ザイマックス総研はWORKTECH Academyのグローバル会員として、今後も当サイトにて、同アカデミーの記事を日本の皆さまに共有していきます。ご期待ください。
- 記事原文:Survey shows widening space gap between bosses and junior staff
- 英語のレポート:Gensler UK Workplace Survey 2016
英国のワークプレイス:持てる者と持たざる者との隔たり
英国のオフィス環境を、あらゆる働き手にとってもっとよいものにすることは可能か?
調査方法
ゲンスラーでは、11の業界における英国のオフィスワーカー1,200人超を対象とするパネル調査を行い、英国のワークプレイスの現状を診断し、従業員のパフォーマンスと体験を向上するチャンスを見出そうとした。その目指すところは、ワークプレイスのデザインと組織のイノベーションとの関係に関する詳細な情報を明らかにし、英国のオフィス環境を向上するカギとなる戦略を特定することであった。回答は、米国およびアジアで実施された調査と同様に、ゲンスラーのオンライン調査ツールWorkplace Performance Index®(WPISM、ワークプレイスパフォーマンス指標)を用いて集めた。回答者は、ワークプレイスにおけるあらゆる世代と階層、さまざまな規模の企業を代表しており、地理的にも英国全土に散らばっていた。
- *イノベーション・スコア・・・イノベーション、リーダーシップと創造性に関する6項目を評価した平均値
背景
2008年にゲンスラーによる前回の「英国のワークプレイス調査」が実施された直後に、英国は経済的衰退期に入り、2009年の第1四半期には英国のGDPが2.6%も低下した。景気後退はワークプレイスに甚大な影響を及ぼし、企業は生産性のレベルを維持もしくはさらに向上しつつ、コストの削減を強いられた。多くの企業が社内のスペースの使い方を効率化し、より効率的な新しい働き方を開発したが、そうはしなかった企業も存在した。英国の生産性が他の国々から後れをとり続けているなか、今日の仕事のあり方を支え、将来の変わりゆくニーズを満たす上で、物理的な職場環境が最大限の効力を発揮することが極めて重要である。
全体像
経済回復期にいるにもかかわらず、英国統計局(Office of National Statistics)からの最新の数値によれば、英国の労働者1人当たりのGDPは、日本を除く他のG7国家よりも低い。
結果
英国のワークプレイスは、経営・管理の立場にいる人を大いに優遇している。経営幹部の地位にいる人が高性能の空間を与えられていることは驚きに値しないかもしれない。だが、英国の職場における持てる者と持たざる者との隔たりは甚大であり、それはイノベーションを追求する組織に重要な課題を投げかけている。格差の最も顕著な例は、個人専用オフィスの割り当てに見られる。上級経営幹部の89%が個人専用オフィスを持っているのに対し、組織の下位のレベルでは23%にとどまり、その影響はあらゆるパフォーマンスと体験の尺度に現れている。
- *WPIスコア・・・ワークプレイスの有効性と機能性を定量的に総合測定する、ゲンスラー独自のワークプレイスパフォーマンス指標
英国の800万人超の従業員はオープンプラン式の環境で働いているが、そのような環境の多くは最適な設計がなされていない。英国では、間仕切りの無いオープンプラン式の文化が確立されており、大多数のワーカー、特に組織の下位レベルの人はオープンプラン式の環境で働いている。しかし、ベーシックなオープンプラン式の環境は、囲まれた空間のある環境と同様に、往々にして仕事の活動をサポートできておらず、結果として仕事満足度、パフォーマンス、仕事における人間関係が損なわれている。この問題のカギは、仕事をする空間が一つしかないという点である。我々のデータからは、オープンプラン式の環境も、囲まれた環境以上ではないにしても、同じくらい効果的になりうることが示されている。ただし、従業員が、より効果的に働き、最適に利用するための多様な空間を有している場合に限る。
昔ながらのワークプレイスの慣行と、選択肢の不足が、パフォーマンスの足を引っ張っている。多様な空間が用意されているだけでなく、最も効果的な場所と時間を選んで働く自由があることは、英国および全世界のワーカーにとって重要なパフォーマンス要因である。自身が所属する組織をイノベーション尺度で高く評価した従業員は、仕事をする上でより幅広い選択肢を与えられ、多様なスペースを利用していた。こうした働き方を実現するには、適切な空間のみならず、適切な慣行も必要となる。例えば、経営の改革は開放的な環境への移行を促す可能性があり、また、仕事に応じて働き方を選ぶアクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)の環境は大きな成功をもたらすだろう。
調査結果が意味すること
オープンプラン式に対しては、より考慮されたアプローチをとる必要がある。効果的なワークプレイスとは、個人の仕事と集団の仕事の双方をサポートするものであるが、囲まれた空間や選択可能で多様なスペースを利用できないオープンプラン式の環境は、これらの役割を果たしえないだろう。オープン式を採用する場合には、個人の仕事と協働的な仕事のそれぞれにとってふさわしい空間を、個別に用意することがカギとなる。そして組織によっては、よりオープンになることが最良の選択肢ではない場合もあるし、囲まれたオフィスが必ずしも悪いわけでもない。要は、画一的なスペースだけしか用意されていないオフィスでは、あらゆる用途に対応することができないのである。
ワークプレイスの種類と選択肢を広げる。英国のワーカーは、ほとんどの業務をいまだに自席でこなしているが、このことがパフォーマンスの損失につながっているように思われる。従業員にもっと多様な空間と、現在の業務とワークスタイルに最適な時間と場所で働く選択肢を与えれば、満足度とパフォーマンスは向上することだろう。
空間を職位ではなく仕事のニーズに合わせて割り当てる。オフィスにおける自分の空間が、階層よりも仕事の必要性にしたがって割り当てられていると回答した従業員は、ワークプレイスによってよりよい体験がもたらされていると回答する確率もはるかに高かった。英国のあらゆるレベルの職場に共通する、現在のワークプレイスにおけるパフォーマンスの問題を考えると、職位や年功序列ではなく必要性に合わせて空間を割り振る戦略は、企業のあらゆるレベルに関わり、向上するチャンスとなるはずだ。
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