WORKTREND

【WORKTREND③】グローバル:6つの企業アーキタイプ①Choice Champions

コロナ危機より1年 コロナ禍での企業とワーカー

2020年、未曽有の地球規模での新型コロナウイルス(以下、コロナ)のパンデミックにより、世界は一変した。世界中の人々の働き方、日常生活の過ごし方、生き方、生活習慣、価値観までもが変化し、「ニューノーマル」という言葉も生まれた。
世界中の企業やワーカーを取り巻く状況も、感染対策のための都市封鎖や日常生活の制約などによるさまざまな影響と、昨今急激に加速していたデジタル・IT技術の進歩が相乗効果をもたらし、現在、大変革の渦中にあるといえよう。

新シリーズ「WORKTREND(ワークトレンド)」では、ニューノーマルの「ワーク」にどのようなトレンドが生まれ、将来に向けてどのように変わっていくのか予測することを目的に、いくつかのテーマで情報発信をしている。テーマの一つである「グローバル」では、現在、世界の企業・職場・ワーカー・ワークプレイス等に起きているさまざまな現象を分析し、日本企業の参考になる情報を発信していきたい。

今回は「グローバル」テーマの第1弾として、英国のWORKTECH Academy(仕事とワークスペースをメインテーマとする学識者・専門家・実務家による世界的な知識ネットワークで、グローバルトレンドを俯瞰する多彩な記事を多数発表)が2021年第一四半期に発表した「What Should Companies Do Next?Q1 Trend Report 2021」を日本の読者向けに紹介する。このレポートは、コロナ危機より1年経過した現在に起こっている事象を分析した調査結果および企業が次にとるべき中長期的戦略などについて紹介したものであり、ポストコロナのワークプレイス戦略に頭を悩ませる日本企業にヒントを提供するものとなるだろう。

ポストコロナ企業とワーカーを取り巻く状況分析と6つの企業アーキタイプ

WORKTECH Academyは、ポストコロナ企業とワーカーを取り巻く状況について、グローバルに網羅したネットワークからの様々な情報への検証と洞察を経た結果、組織を以下6つのアーキタイプ(原型)にグループ化している。

Choice Champions:従業員に選択肢を与える企業
自社の従業員に、柔軟で自由な働き方の選択肢を与える企業。
これからの新しい職場戦略の基礎となるタイプ。

Tech Investors:新テクノロジーへ投資する企業
コロナ危機を、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)など新テクノロジーへの投資を一気に促進する好機と捉えている企業。

Resolute Returners:オフィスに回帰する企業
コロナ危機収束後には、以前のように全従業員をオフィスに戻し、企業文化・イノベーション・学習・生産性などの改善を目指す企業。

Wellbeing Watchers:従業員のウェルビーイングを最優先する企業
従業員の心身の健康を重視し、従業員を公衆衛生危機から守る企業。

Data Drivers:情報を駆使する企業
より柔軟性に富むべく、情報を企業の戦略と文化の中心に据えている企業。

Space Shapers:スペースを再構成する企業
コロナ危機を絶好のチャンスとして、不動産ポートフォリオを合理化しコストを削減する企業。

なお、これらのアーキタイプはそれぞれが排他的なものではない。たとえば、①Choice Champions(従業員に選択肢を与える企業)の要素と、②新テクノロジーへの大規模な投資とを組み合わせることは可能である。また、③Resolute Returner(オフィス回帰企業)グループに分類される企業が、④従業員のウェルビーイングや⑤データ分析などに配慮することもあるだろう。

さらに、企業は時間の経過とともにこれらのモードを切り替えていくことも可能である。たとえば、オフィス面積の削減から着手し、次第により具体的なWFA(Work From Anywhere:どこからでも仕事ができる)モデルへと切り替えていくことも可能である。

①Choice Champions:どこにいても仕事ができる現在増加中のモデル

従業員の働き方に柔軟性と自由度を与えることを企業戦略の基礎としたい企業は、「従業員を信頼すること」を学ぶ必要がある

Choice Championsとは、自社の従業員に、働き方に関する柔軟性と選択の自由を付与することを、自社の新たな戦略の基礎としている組織・企業であり、現在世界的に増加しているモデルである。Choice Champions企業は、生産性を向上するために、自社の従業員各々が自身に最も適した方法で仕事を遂行できることがもっとも重要であると認識している。ポストコロナのワークプレイスについて、自宅とオフィスのみの単純な二者択一ではなく、企業の長期的成長のためには、従業員が仕事を遂行するための一連の複合的かつ柔軟な選択肢を開発し、複数の方法を備えたエコシステム全体を構築する必要がある。

Choice Championsの場合、WFH(Work From Home:在宅勤務)モデルは、より柔軟性を備えたWFA(Work From Anywhere)モデルに変わりつつある。こうしたハイブリッドな状態は、人間中心主義的な発想に基づいており、不動産や人事、ITの運用だけでなく、採用にも影響を及ぼしている。WFAモデルでは、部分的または完全に遠隔地にいる人材を採用することもできるため、企業の従来の採用方法は大きく変わるだろう。

Choice Champions企業は、自社の従業員が、どこで、どのように働いても、いつも彼らが正しい選択をすると信頼しており、次のステージへの移行を促すためにリーダーシップモデルを適応させている。あらゆる場所や接点から仕事に接続できるChoice Champions企業の働き方を、小売業における「オムニチャネル」になぞらえて「オムニチャネルワーク」と表現する人もいる。小売業におけるオムニチャネルとは、あらゆる顧客接点(実店舗やECサイト、スマホアプリ等)を連携することで単一のシームレスな体験を顧客に提供するものであり、この発想はワークプレイスにおいても、フィジカルとデジタルの両方のチャネルを融合させる際の参考になるだろう。

また、WFAモデルは、従業員の体験やエンゲージメントを重視する、働く人中心のアプローチを採用している。Choice Champions企業ではオムニチャネルワーカーが台頭し、モバイルデバイスとクラウドベースのテクノロジーを組み合わせて、自分にとって最も生産的だと思われる場所や環境から仕事に参加するようになるだろう。

一方で、大企業がこのアプローチを採用し始めると、いくつかの重要な課題に直面することもあるだろう。たとえば、さまざまなワークプレイスが企業の基準を満たしているか否かを確認する責任は誰にあるのか、WFAモデルは給与にどのような影響を与えるのか、常に従業員全員がオフィスにいない場合、オフィスコストをどのように再配分すべきか、などである。これらの課題を踏まえて、Choice Champions企業は、多くの組織的な再構築を行う必要が出てくるだろう。

Choice Champions企業例

■Spotify
スウェーデンの音楽ストリーミングプラットフォームであるSpotifyは、WFAモデルを採用し、これにより6,550人の従業員が、フルタイムでオフィスにいるのか、フルタイムで自宅にいるのか、あるいは異なるチャネルを組み合わせて仕事をするのかを選択できるようにした。また、従業員に作業モードを自由に選択できる機会も与え、自分にとって最も効果的に働ける場所と時間を選択できるようにしている。ちなみに、その選択によって給与に影響を受けることはない。また、静かなスペースや共有デスクスペース、コラボレーションエリアなど、従業員の好みに合わせたオフィススペースのデザインの変更もしている。

■Salesforce
顧客管理ソリューションを提供するSalesforceは、従業員同士がつながりを深め、仕事と家庭のバランスをとりながら公平に働ける職場づくりを目指している。新ガイドラインでは今後の働き方について、フレックス、完全リモート、原則オフィスの3つの選択肢を提示しており、フレックスを選んだ場合、仮想上ではできない業務のために週3回までオフィスに出社することができるようにしている。

■Slack
ビジネスコミュニケーションプラットフォームのSlackは、従業員の勤務時間の選択を推奨している。Slackは、従業員の業務を周囲と同期させる必要はないとの認識から、「主に9時から17時まで働くべき」という考えを取り除き、従業員が自分にとって働きやすい時間帯に働くことを奨励している。また、1,664人の従業員の大多数に永続的かつ柔軟な労働方針を導入すると発表している。

■Twitter
ソーシャルメディア大手のTwitterは、すべての従業員が希望すれば自宅で「永遠に」働くことができると発表した。Twitterの恒久的なリモートワークポリシーへの移行はコロナ危機以前よりすでに存在していたが、さらに加速したといえよう。2018年、CEOのジャック・ドーシーは、自身が自宅で仕事をすることで生産性が向上した経験を踏まえ、従業員にも在宅勤務を推奨するメールを送信している。

オムニチャネルワーカーとワークチャネル

【図表1】WORK EVERYWHERE : オムニチャネルワーカーの働き方

【図表1】WORK EVERYWHERE : オムニチャネルワーカーの働き方

オーストラリアのデベロッパーであるMirvacのレポートによると、Choice Champions企業が進めるオムニチャネルワーキングの時代が到来すると、オフィスビルのポートフォリオの使われ方が変わる可能性があるという。

図1は、オムニチャネルワーカーをとりまく複数のワークチャネル(手段・接点)をマッピングしたものである。オムニチャネルワーカーが、デジタルインフラを通じてあらゆる場所からバーチャルクラウド上のオフィスに接続して仕事をする環境を示している。なお、ワークチャネルの重要度と円の大きさが比例している。

この図からもわかる通り、オフィスは今後も、より広範なエコシステムの中で、オムニチャネルワーカーにとって重要なワークチャネルであり続けるだろう。

以下、図1の主なワークチャネルについて説明する。
■目的地型オフィス:その企業におけるイノベーション、コミュニケーション、エンゲージメントを喚起するために行くオフィス。従来のメインオフィスの位置付け。
■トレーニングオフィス:専用の学習や指導のための環境を提供するオフィス。
■スペシャリストオフィス:ライフサイエンスの研究施設や24時間使用できるメディアのニュース発信ルームなど、研究開発活動や特殊な業務に対応するためのオフィス。
■ホームオフィス:コロナ危機以前に比べ、より主要かつ永続的な役割を果たすようになった、在宅勤務者のオフィス、つまり自宅。しかし、オムニチャネルワーカーには他の選択肢もある。
■フレキシブルオフィス:事業者が会員向けに提供する、都市全域に点在するコワーキングスペースおよびその他の「サービスとしてのスペース(space-as-a-service)」。
■ローカルサテライト:通勤時間を短縮するハブアンドスポークモデルのため、ワーカーの家の近くに配置される。

こうしたワークチャネルに加えて、今後はワーカーが顧客企業のオフィスで仕事をすることや、オムニチャネルワーカーが、同業者や専門性を持つ人々とネットワークを築きながら、21世紀のギルドともいえるような、セクター固有の組織や協会で横断的に働くことも一般的になっていくであろう。

  • 出典:Office to Omni-Channel: the rise of the omnichannel worker in a digital age, Mirvac/WORKTECH Academy(2021)

選択できるワーカーは一部だけ
どこからでも仕事ができるWFAモデルへ移行したとき、メリットを享受するのは誰?

マッキンゼーグローバルインスティテュートの調査によると、リモートワークの可能性は、少数の産業、職業、地域に属する、高度なスキルを持ち高い教育を受けたワーカーに集中しており、給与も良い少数派であることがわかる。

2,000の仕事、800の職種、9か国を対象としたマッキンゼーの分析では、世界の労働者の半数以上が、リモートワークの機会がほとんど、あるいは全くないことが明らかになっている。彼らの仕事は、他の人との共同作業をするものもあれば、CTスキャンのように特殊な機械を使用を必要とし、その場で行わなければならないもの、配達のように外出を伴うものもある。そのような仕事の多くは低賃金であり、昨今の自動化やデジタル化などの流れにより駆逐される脅威にさらされている。つまり、一部のワーカーがより多くの選択肢を持つことの裏返しとして、社会的不平等が拡大するリスクがあるということである。

リモートワークの可能性が最も高いセクターには、金融、経営、専門サービス、情報に関する業務が含まれ、最も可能性の低いセクターは建設や農業などである。また、リモートワークの可能性が最も高い活動は、情報収集業務やPC業務などであり、可能性が最も低い活動には、人の介護や機械の操作などが挙げられる。

  • 出典:What’s next for remote work? mckinsey(2020)

以上、今回は6つのアーキタイプのうち、①のChoice Championsについて詳しく説明した。次回は②Tech Investorsについて紹介予定である。

これらのレポートが、コロナ禍の中、企業やワーカーにとって、ハイブリッドでより明るい未来の仕事を導くための戦略の参考になれば幸いである。

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