【WORKTREND⑧】グローバル:6つの企業アーキタイプ⑤Data Drivers
コロナ危機より1年 ポストコロナでの企業とワーカー
前回に引き続き、「WORKTREND」シリーズのグローバルテーマ第5弾として、英国のWORKTECH Academyによる「What Should Companies Do Next? Q1 Trend Report 2021」の内容を日本の読者向けに紹介する。
コロナ禍での企業とワーカーを取り巻く状況分析と6つのアーキタイプ
WORKTECH Academyが、ポストコロナでの企業とワーカーを取り巻く状況について、さまざまな検証と洞察を経た結果、組織を以下の6つのアーキタイプ(原型)にグループ化している。今回は⑤Data Drivers:情報を駆使する企業について、概要を説明する。
コロナ禍における企業のアーキタイプ6分類
①Choice Champions:従業員に選択肢を与える企業
②Tech Investors:新テクノロジーへ投資する企業
③Resolute Returners:オフィスに回帰する企業
④Wellbeing Watchers:従業員のウェルビーイングを最優先する企業
⑤Data Drivers:情報を駆使する企業
⑥Space Shapers:スペースを再構成する企業
Data Driversはデータスキルを活用し、パターンの変化、従業員の新たな期待への対応や、安全なオフィス回帰などのための戦略を探っている
Data Driversは、パンデミックをきっかけに、データを企業戦略の中心に据えた企業である。データは、復活への道筋を描くための分析のフレームワークを提供している。Data Driversは、大量の新しいデータの取り込みと分析に重点を置いているだけでなく、企業内で情報を駆使する文化を発展させて、将来の混乱に対する耐性を高めようとしている。
Data Driversは、パンデミックが発生してから数週間で分析機能を集結し、データに基づいた洞察によって、コロナ禍が引き起こした問題に対するビジネス的な解決方法を導き出した。そしてそれらを現在、従業員の保護とサポート、戦略的および財務的な決定、サプライチェーンにおける安全性・リスク・コストの管理、これまでにない新たなデジタル化による顧客の取り込みなどの戦略モデルへと進化させている。
マッキンゼーは、企業の70%が、データアナリティクス戦略をより広範な企業戦略に統合させることに失敗していると報告している。ただし、Data Driversはこの限りではない。Data Driversは早い段階から、デジタル、文化、ビジネスの戦略を統合する方針に移行し、過去1年間にわたって、日々得られるデータを利用することで従業員と顧客の期待の変化を理解し、ワークプレイスがどうあるべきかの試行錯誤を続けてきた。そして、この混乱のさなかに起こりうる変化を予測し、スペースやエネルギーの効率的な利用といった点でデータアナリティクスをうまく利用している。
IBMの研究において「データ錬金術」とも表現されるデータに基づく意思決定の実践は、ワークプレイスとの相関性が高く、実用的な解決法も導き出している。しかし、このアーキタイプが直面する1つの課題として、膨大な量のユーザーデータの収集に関するセキュリティとプライバシーの懸念が挙げられる。パンデミックにおける健康面でのデータの追跡と収集は、データ収集に対する一般市民の態度を「和らげた」が、Data Driversはこれらのリスクを注意深く見ていく必要がある。これらのシステムが倫理的で透明性があると保証することは、これまで以上に重要となる。
Data Driversは、すでに強固なITインフラの基盤と、ITを中心とする企業文化を持っているが、人材戦略、ワークプレイスの設計、企業ポリシーの各領域を円滑につなぐ戦略とプロセスを継続的に開発する必要がある。データを駆使するモデルを通じて競争上の優位性を維持するためには、どの領域間にも穴があってはならない。
Data Drivers企業例
■Fidelity International:米国ボストンに本社を置く投資信託会社のFidelity Internationalは、従業員に対する実証的な調査から得られるデータを活用している。この仕組みには2つのデータの流れがある。1つはアプリを使ったアプローチで、従業員が訪問者管理やデスクの予約システムにアクセスできるようにしたライブデータ、もう1つはその記録されたデータで、組織のリーダーが不動産の効率化と有効性に関する意思決定を行うために利用している。これらのデータに基づくインサイトを、オフィスに戻るための戦略立案に役立てるとしている。
■LinkedIn:米国カリフォルニアに本社を置くソーシャルネットワークサービスのLinkedInは、Glintと呼ばれる調査ツールを通じて、従業員の働き方に関するデータを収集している。デジタルツールは自社のプラットフォームに組み込まれており、従業員から継続的なフィードバックを収集している。これと人事部門によって収集された人事分析データにより、従業員のさまざまな働き方や働く場所の傾向を特定している。
■British Airways:英国ハーモンズワースに本社を置く航空会社のBritish Airwaysは、パンデミック以前からアラン・チューリング研究所と共同で予測分析システムを構築していたため、コロナウイルスが世界を襲ったとき、その脅威に対する備えがあった。航空会社は一夜にして乗客の75%を失っただけでなく、顧客がいつ戻るかまったく見当もつかない状況となり、フライトの予定を組むための既存の方法はあっという間に時代遅れとなった。そこで同社は、「動的予測」システムを通じて、顧客からの旅行リクエストだけでなく、ニュースサイクル、過去の価格変更への対応、その他のさまざまな独自データや公開されているデータを基に、フライトの経路を変更し、フライトチケットの価格調整ができるようにした。
■ScotiaBank:カナダのトロントに本社を置く金融サービス会社ScotiaBankは、500人の従業員に対して、データ分析に基づく「エコシステム」と呼ばれるABW(「Activity Based Working」の略:業務内容にあわせて働く場所を選択する、時間や場所に縛られない新しい働き方を示す)の取り組みを導入した。各エコシステムからのデータ収集および分析により、各グループ従業員のワークプレイス使用状況や、日常的に行われている業務内容などを把握している。また、組織内の異なる国や地域のデータを比較し、従業員がチーム間でどのように働いているのか、業務パターンの理解にも取り組んでいる。エコシステムモデルは成功しており、現在7,000人がこのシステム下で働いており、2024年までに12,000人が組み込まれる予定である。
以上、今回は6つのアーキタイプのうち、⑤Data Driversについて概要を説明した。次回は⑥Space Shapersについて紹介予定である。
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