【WORKTREND⑦】グローバル:6つの企業アーキタイプ④Wellbeing Watchers
コロナ危機より1年 ポストコロナでの企業とワーカー
前回に引き続き、「WORKTREND」シリーズのグローバルテーマ第4弾として、英国のWORKTECH Academyによる「What Should Companies Do Next? Q1 Trend Report 2021」の内容を日本の読者向けに紹介する。
コロナ禍での企業とワーカーを取り巻く状況分析と6つのアーキタイプ
WORKTECH Academyが、ポストコロナでの企業とワーカーを取り巻く状況について、さまざまな検証と洞察を経た結果、組織を以下の6つのアーキタイプ(原型)にグループ化している。今回は④Wellbeing Watchers:従業員のウェルビーイングを最優先する企業について説明する。
コロナ禍における組織のアーキタイプ6分類
①Choice Champions:従業員に選択肢を与える企業
②Tech Investors:新テクノロジーへ投資する企業
③Resolute Returners:オフィスに回帰する企業
④Wellbeing Watchers:従業員のウェルビーイングを最優先する企業
⑤Data Drivers:情報を駆使する企業
⑥Space Shapers:スペースを再構成する企業
従業員の健康とウェルビーイングを企業戦略の中心に据えることで、共感を通じて業績向上を目指す企業
Wellbeing Watchersは、「公衆衛生上の危機から抜け出す最善の方法は、人々の心身の健康に着目することである」という信念を持つ企業である。彼らは、従業員のエンゲージメント(パンデミックが進行するにつれて低下していることがわかっている)に関する各国の調査に細心の注意を払い、その改善のために行動することを約束している。Wellbeing Watchersによる施策は、リーダーシップやメンタルヘルスプログラムなどの新しいモデルや、自然を感じるバイオフィリックデザイン、音響の最適化、人間工学に基づいた家具の導入など多岐にわたる。
Wellbeing Watchersは、従業員のウェルビーイングをサポートするために選択肢と柔軟性を提供するという点で、ChoiceChampionsと多くの特徴を共有している。しかし、オフィスの境界を越えて従業員に対する責任を引き受ける点で、彼らはさらに一歩進んでいるといえよう。パンデミック以前にみられたウェルネス主導企業は、人を中心とした職場環境を確保するため、主にオフィスの設計に心を砕いていたが、Wellbeing Watchersは、新しい形態である「思いやりのあるリーダーシップ」を採用し、従業員がどこで働いていようとも注意深く、慈悲深く見守っている。
以前のように、リーダーがフロアを一瞥してメンバーの様子を見ることができなくなったため、企業はオフィスを越えて従業員の心身の健康を確保するための積極的な措置を講じるようになった。Wellbeing Watchersは、在宅勤務中の従業員にとって最高の業務環境と設備を提供することはもちろん、オフィスについても重要な調整を行っている。彼らが際立って素晴らしい点は、従業員に業務を円滑に遂行させるためなら経済的負担を厭わないという決意である。Wellbeing Watchersは、思いやりが伴わない柔軟性だけでは不十分であることを認識している。
このグループに属する組織の主な課題は、より人間中心の業務環境の開発とビジネス目標の達成との間の適切なバランスを見つけることである。ウェルビーイングへの多額の投資は、エンゲージメントと生産性の面で成果を生み出さねばならない。最適なバランスは、従業員が自身のウェルビーイングと創造性を最も高める働き方を選択できるように、企業がさまざまな仕事の選択肢を提供しながら、オープンかつ共感的な方法で従業員をサポートするところにあるだろう。
Wellbeing Watchers企業例
■Netflix:米国カリフォルニアに本社を置く動画配信サービス企業のNetflixは、Ginger社のような行動医療サービスや従業員支援計画(EAP)などのサービスを従業員に提供し、メンタルヘルスに関する自社の悪評と闘っている。Netflixのワークプレイスエクスペリエンスディレクターであるサラ・エスコバー氏は、ロックダウンと在宅勤務の期間中、「従業員にとって心理的安全性がこれまで以上に重要になっている」と述べている。
■Facebook:米国カリフォルニアに本社を置くソーシャルメディア大手のFacebookは、各従業員が自宅で快適かつ生産的な環境を設計できるように2,000米ドル(約22万円)を支給し、さまざまな家具メーカーやディーラーがまとめて掲載されているWebサイトまで提供している。また、家具のセットアップ、人間工学の知見に基づくサポート、ビデオ会議によるコンサルティングという3つのサービスや、福利厚生としてメンタルヘルスサポートなどを提供している。
■EY:英国ロンドンに本社を置くアドバイザリーサービス会社のEYは、従業員のメンタルヘルスに関する包括的なサービスを強化している。従業員は無料のモバイルアプリにアクセスして、感情的な回復力の構築、睡眠習慣の改善、EYまたは外部の専門家との1対1のカウンセリングなどを行うことができる。また、育児や高齢者介護、障害のある家族の世話などをしている従業員のためのグループカウンセリングや、不安や社会的孤立、圧迫などを感じている従業員に向けたマインドフルネスのエクササイズセッションなども提供している。
■Financial Times:英国ロンドンに本社を置く新聞社のFinancial Timesは、従業員のメンタルヘルスに焦点を当てている。メンタルヘルスアンバサダーの社内ネットワークを動員し、さまざまなトピックについて従業員に定期的な1対1のカウンセリングとオーダーメイドのウェビナーを提供している。Financial Timesは、パンデミックの最中に社会的関係性やネットワーキングに関して苦労した経験から、従業員がオンラインで会って「つながりを保つ」ためのセッションを隔週で開催するようになった。
■Salesforce:米国サンフランシスコに本社を置くCRM大手のSalesforceは、パンデミック初期の段階で調査を行い、従業員がウェルビーイングに関してどのように感じているかを把握し、在宅勤務への移行における問題点を特定した。その結果、育児休暇の延長などの変更が行われた。また、テレワークの設備が自宅に整っていない従業員をサポートするため、機器や設備の購入代として250米ドル(約2万8,000円)までを経費として認める制度も導入した。
マネージャーがチームメンバーのメンタルヘルスをサポートするための5つの方法
ハーバードビジネスレビューによると、パンデミックが始まって以来、世界の従業員の42%がメンタルヘルスの低下を経験していることがわかっている。この時、マネージャーはチームメンバーをサポートするために何ができるだろうか。
■あえて弱みを見せる パンデミックにあっての希望の光の1つは、メンタルヘルスの問題が特異なものではなくなったということだ。ほとんどの人がある程度の不具合を経験したといえる。ただし、それは、人々(特に権力のある人々)が自らの経験をお互いに共有しない限り、意味をなさない。上長がリーダーとして自身のメンタルヘルスの問題について正直に打ち明けることで、メンバーも自分自身の問題について話しやすくなるだろう。
■健康的な行動を自ら実践する メンタルヘルスが大切だと口にするだけではダメだ。チームメンバーがセルフケアを優先したり、オン・オフを切り替えられるよう、自ら実践して示すことが重要だ。多くの場合、マネージャーはチームメンバーのウェルビーイングや仕事の進捗にフォーカスしすぎて、自分自身のケアを忘れがちである。マネージャーは、燃え尽き症候群にならないように、たとえば日中に散歩をしていることや、セラピーを受けていること、または国内や近場へ旅行に来たり休暇をとったりしている(そして実際にメールをオフにしている)ことなどをメンバーに共有すべきである。
■Check-inを通じてつながる文化を構築する 直属のメンバー一人ひとりに対して、意図的に日々のコミュニケーションをとることがこれまで以上に重要になっている。今は、多くの人が自宅で仕事をしているため、誰かが苦労している兆候にマネージャーが気付くことが困難になっている。マネージャーは、部下への「元気かい?」などという簡単なあいさつを超えて、どのようなサポートが役立つかなど、具体的な質問をすべきである。部下の話にじっくりと耳を傾け、疑問や心配ごとを引き出そう。もちろん、無理に聞き出そうとしてはならない。それは信頼の欠如やマイクロマネジメントへの欲求ととられる可能性があるからである。
■柔軟性を提供し、包括的であること チームのニーズやマネージャー自身のニーズは変化し続けるということを認識しよう。特に変化の激しい環境下では、定期的に部下とコミュニケーションの機会を持つべきである。そういった会話はメンタルヘルスを標準的かつ習慣的にサポートすることにつながっていくだろう。チームが何を必要としているかについて推測してはならない。彼らはおそらく異なる時間に異なるものを必要としているだろう。それらの各ニーズに合わせてカスタマイズした解決策を提示するなど、積極的に柔軟性を示すべきである。
■十分なコミュニケーション 組織の変更や更新について、チームに常に通知する必要がある。変更された労働時間と規範は明確にしなくてはならない。仕事量の希望、優先順位、必要に応じて何の業務の予定を移動できるかなどを確認することで、従業員のストレスを取り除くことができるだろう。
出典:Ways Managers can support Mental Health. Harvard Business Review, 2020
効果的なリーダーシップは従業員のエンゲージメントを向上することができる
2020年の夏、Gullup(米国のワシントンD.C.に本社を置く、世界30ヵ国に拠点を持つ世論調査及びコンサルティングを行う企業)は2000年に指標の追跡を開始して以来、従業員エンゲージメントが最大に落ち込んだことを報告した。これはオハイオ州立大学の調査結果に基づくものであり、従業員のメンタルヘルスの低下がエンゲージメントの低下に関連しているという警鐘とともに、それらは効果的なマネジメントによって相殺されるということも記されている。
このオハイオ州立大学の調査によると、優れたリーダーシップは、従業員のストレスレベルを軽減し、従業員に対するさまざまな社会的行動を通じてエンゲージメントを向上させることができるという。この調査は、ビジネスリーダーが従業員の感情的なニーズに注意を払い、共通の目的を掲げて彼らを団結させることによって、成果を出すとともに、従業員のエンゲージメントも維持できることを強調している。
この調査の中で、中国のIT企業がパンデミックのピーク時、数週間にわたって1日2回の従業員調査を行った結果が示されている。そのデータによると、時間の経過とともに従業員の思考はパンデミックに向けられ、不安のレベルが上昇し、その結果、彼らは仕事に従事しなくなったという。
そしてまた、マネージャーが、業務に優先順位をつけ、従業員のニーズに理解を示し、彼らを勇気づけるなど、最高のパフォーマンスを生み出すために思いやりのあるリーダーシップを発揮したときに、従業員のストレスが軽減され、エンゲージメントが増加したとされている。
出典:Pandemic related stress leads to less employee engagement, Ohio State News, 2020
以上、今回は6つのアーキタイプのうち、④Wellbeing Watchersについて説明した。次回は⑤Data Driversについて紹介予定である。
関連記事
職位ではなく業務に応じて選べるワークスペースが従業員のパフォーマンスを高める
ゲンスラー社「英国ワークプレイス調査2016」結果レポート
英国のオフィスワーカーを対象とした調査から、働く場所の選択肢を与えることが従業員の満足度や生産性、イノベーションのカギとなる可能性が示されました。
【フランスの働き方改革④】ワークスペース最大手が目指すフレキシブルワークの未来
IWG フランス
世界1,100都市以上でフレキシブルスペースを展開するIWGは、「テレワークの最も効果的な頻度は週2回」とされるフランスでそのデメリット解消を目指しています。