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【WORKTREND㉑】グローバル:新しい働き方を理解するための7つのモデル(前編)

仕事とワークスペースをメインテーマとする世界的な知識ネットワーク「WORKTECH Academy」(ワークテック・アカデミー)では、グローバルトレンドを俯瞰する多彩な記事を発表している。今回はその中から、2022年第一四半期に発表した「Seven models to make sense of the new world of work」のトレンドレポートをご紹介する。

本トレンドレポートでは、7つの理論モデルを中心に、それぞれ異なる角度から新しい働き方を実現するために、企業が現在直面している実践的な課題を探り、ワークプレイス革新の実践の参考材料を提示するものである。

前編では「ハイブリッドワーク」「リーダーシップ」「サステナビリティ」の3つのモデルについて、後編では「データ主導のワークプレイス戦略」「テクノロジー」「デザイン」「ウェルビーイング」の4つのモデルについて解説する。

モデル1:ハイブリッドワーク~ハイブリッドワーク戦略の成功企業と失敗企業の違いは、決定的な4つの要素にある~

ハイブリッドワーク戦略をどう捉えるべきか

ハイブリッドワークが登場したが、多くの企業では、効果的な導入戦略を策定するために多くの課題を抱えている。シーメンス社の調査(*1)では、ハイブリッドワーク戦略の取り組み状況について「技術プラットフォームも含め完全に導入できている」企業は27.1%にとどまった。一方、「技術も含め準備が完全に整っており、すぐに実行できる」(34.2%)と「一部の技術を導入したが、まとまった戦略はない」(36.8%)は合計で7割以上であり、企業は長期的にハイブリッドワーク戦略を目指しているもののまだ実行段階に移せていないことがわかる【図表1】。

【図表1】企業のハイブリッドワーク戦略の取り組み状況
【図表1】企業のハイブリッドワーク戦略の取り組み状況

ロンドン・ビジネス・スクール経営実践論専攻のリンダ・グラットン教授は、「企業がこの移行を成功させるには、組織的な関心事だけでなく、個々のワーカーの関心事も考慮したハイブリッドな労働形態を設計する必要がある」と述べている。そして研究の結果、ハイブリッド戦略を正しく策定するためには、以下4つの要素に取り組むことが重要であると結論づけた。

  • ジョブとタスク:企業の生産性を高めるには、さまざまなジョブとタスクを分類し、それぞれの生産性を高める主要なドライバーを把握することが重要である。たとえば、集中するための時間と静かなスペースや、プロジェクトを管理するための共同作業スペース、イノベーションのためのコラボレーションスペース、やる気を持続させるための取り組みなどが必要であろう。
  • 従業員の好み:調査やインタビュー、ワークペルソナ分析を組み合わせてワーカーの好みを理解することは、採用したハイブリッドモデルがうまく機能しているかどうかを知るために不可欠である。
  • プロジェクトとワークフロー:ハイブリッド戦略を成功させるためには、企業はプロジェクトとワークフローを把握し、どのように仕事が行われるのかを考慮する必要がある。
  • 包括性と公平性:不公平感は生産性を低下させ、燃え尽き症候群を増加させるため、包括性と公平性がハイブリッド戦略の基礎となる必要がある。

さらにグラットン氏は、「ハイブリッドモデルを正しく実行すれば、より有意義で生産性が高く、アジャイルで柔軟なワークライフが実現できるだろう。多くの企業にとって、今は働き方を再設計するための『一生に一度の機会』であろう」と主張した。そして、企業がハイブリッドワークへの道のりのどの位置にいるのかを確認するために、【図表2】場所と時間に関するマトリクスが役立つだろう。

「どこでも、いつでも」モデル:場所と時間における働き方施策

グラットン氏の場所と時間に関するマトリクスでは、時間と場所が拘束された「従来のオフィス、9-to-5(9時から17時までオフィスにいる)」から、「どこでも、いつでも」のハイブリッド型への移行を示している。

【図表2】場所と時間に関するマトリクス
【図表2】場所と時間に関するマトリクス

パンデミック以前から、企業は従業員に働く場所や時間の柔軟性を提供することを試みていたが、完全なハイブリッドモデルを取り入れた企業はごくわずかであった。今、その状況は変わりつつある。グラットン氏によると、企業は「生産性と従業員の満足度を大幅に高めることができるフレキシブルな働き方施策にしっかりと狙いを定めている」。つまり、場所と時間の両面に柔軟性を取り入れるということだ。

グラットン氏の研究では、日本企業の富士通が「どこでも、いつでも」モデルの代表事例として挙げられている。同社はさまざまなワークスペースを組み合わせたエコシステムの開発に取り組んでおり、グローバルコーポレート部門総務・人事本部長平松浩樹氏はそれを「ボーダーレスオフィス」と表現している。このエコシステムには、イノベーション活動で最大限の連携を図るための「ハブ」、プロジェクトの調整を促す「サテライト」、集中作業をサポートする「シェアオフィス」などが含まれ、従業員に多様な働く場所の選択肢を提供する。

また、ノルウェーのエネルギー企業であるEquinor社は、新しいテクノロジーを活用して働く場所と時間を再設計している。同社は、最先端のビデオやデジタルツール、ロボット工学を駆使して、エンジニアが自宅から北海のガス拠点を遠隔点検する体制を整えた。

ハイブリッドワークに取り組む企業の例

先進8社のハイブリッドワークの取り組みを紹介する(*2)。

会計事務所大手 KPMG:ロックダウン後のより柔軟な働き方を目指す動きの一環として、16,000人の従業員に週1日の早退を許可した。最高経営責任者ジョン・ホルト氏は、「パンデミックは、どこで働くかではなく、どのように働くかが重要であることを証明した」と述べた。

航空会社 British Airways:出社と在宅勤務を組み合わせた働き方を許可する予定。人事部長のスチュアート・ケネディ氏は、「我々のビジネスに合ったハイブリッドワークモデルを見つけることが目的だ」と述べた。

多国籍企業 Unilever:オフィスから24時間以内に通える範囲に住むことを義務付ける「合理的な通勤時間」条項の導入を発表。フレキシブルワークが浸透するなか、より安価な農村地域や海外への移住を希望する従業員がいるが、オフィスから離れすぎてはならず、たとえば緊急会議に出席する必要がある場合、前日の通知でオフィスに出勤できなければならないと述べている。

Wells Fargo銀行:週3日出勤のフレキシブルなハイブリッドモデルを発表。それに伴って固定席を完全に廃止し、誰がいつ来るかに応じて席を交代で使用するルールとした。

自動車メーカー Mercedes-Benz:従業員が隔日で出勤する、出社率50%のハイブリッド型の働き方を採用。

会計およびコンサルティング会社 PwC:恒久的なリモートワークを導入した大手企業の一つであり、4万人の米国顧客サービスの従業員に対し、バーチャルで働いたり、好きな場所に住むことを無期限に認めている。バーチャルで働くことを選択した従業員は、重要なチーム会など対面の打ち合わせのために月に最大3日、オフィスに出社する必要がある。

グローバル投資銀行 野村証券:各部門の裁量のもと、毎月最低40%の出社率とする計画を発表。

テック大手 Zoom:オフィス回帰の準備としてハイブリッドワークを採用。最高財務責任者ケリー・ステッケルバーグ氏は、「まだ試行錯誤中であり、このプロセスは容易ではない」と主張した。

モデル2:リーダーシップ〜マネジャーにとって、これほど厳しい時期はない。打ち勝つには、マネジメント術に対してより全体的で人間的なアプローチを取ることが重要である~

共感がもたらす変化

パンデミックの紆余曲折を経て人々を管理することは非常に困難であり、ハイブリッドワークの出現は、リーダーシップに新たな複雑性をもたらしている。

Humu社のレポート(*3)によると、今日の中間管理職は「かつてないほど困難かつやりがいのない仕事」であることが判明した。多くのマネジャーは、絶えずストレスや疲れを感じており、自身のキャリアの優先順位に注意を払うことができていない。そのため、彼らは自ら仕事を辞め、企業経営の中間層を衰退させ、「大辞職」の一因となっている。また、ギャラップ社によると2021年、管理職の燃え尽き症候群は25%増加した。

従来の支配的で階層的なリーダーシップモデルは、新しい時代に通用せず、パンデミックよりずっと以前にすでに時代遅れになっていた。グローバルな職場ではすでに、より応答的で、謙虚で共感的なリーダーシップモデルの兆しが現れている。しかし、幻滅し、疲弊した管理職の流れを食い止めるには、マネジメント術はさらに進化する必要がある。

作家兼研究者のラマ・ギーラウォ氏は、新著(*4)において「共感的であることは優しいことを意味しない。共感は、デザイン業界では『人を中心に考え積極的に関わる』というポジティブなイメージがある一方、ビジネスにおいて共感を示すリーダーは、押しつけがましい、感情的すぎる、プロではない、などと受け取られる可能性がある。この考え方を変え、日々の仕事に遊びや実験を取り入れ、勇気づけられるような考え方がリーダーに望まれる」と主張している。

  • *4Rama Gheerawo、『Creative Leadership – Born from Design』(2022)

ギーラウォ氏は「共感」を、「明晰さ」「創造性」とともに3つのコアバリューの1つとする「クリエイティブ・リーダーシップ」の新たなモデルを提唱した【図表3】。共感がなければ、リーダーが明晰さや創造性を発揮しても的外れなものになる可能性が高いと述べている。

「クリエイティブ・リーダーシップ」モデル

ギーラウォ氏らが開発した「クリエイティブ・リーダーシップ」モデルは、シニアリーダー、ジュニアリーダー、そしてリーダーになることを想定していない人々(最も多いグループ)という3つのタイプの人々のためのものである。このモデルは、共感、明晰さ、創造性に基づいた変革のプロセスであり、個人、グループ、組織、テクノロジー、プロジェクトに適用できるものと定義されている。

【図表3】「クリエイティブ・リーダーシップ」モデル
【図表3】「クリエイティブ・リーダーシップ」モデル

このモデルは、クリエイティブな産業の実績を参考にしているが、ほかの分野にも通用する。その焦点は普遍的な人間の価値にあり、イノベーション、文化構築、体験学習、個人の成長において実践的に応用することが期待されている。このモデルは以下の原則に基づいている。

  • 誰もがリーダーシップの可能性を持っており、ほとんどの人がこれらの3つの価値にアクセスできる。
  • 創造性とは、自分自身や他人によい影響を与えるアイデアを生み出すための普遍的な能力である。
  • 共感とは、21世紀のリーダーの特徴であり、重要な価値として認識されている。
  • 明晰さは、ビジョンや方向性、コミュニケーションをつなぎ、調整するものである。

このモデルはデザイン主導型である。リーダーシップの分野では珍しいことだが、近年デザインはイノベーションと人材変革のカギとみなされるようになってきている。また、このモデルは、神経科学とデザインの関連性にも基づいており、個人の健康やウェルビーイングが効果的なリーダーシップを発揮するために必要であることを認識している。

ギーラウォ氏は、クリエイティブ・リーダーシップの3つの価値には、自我や頑固さ、自尊心や価値の欠如、恐怖やストレスなどの感情的な障壁から、時間やリソースなどの外的要因まで、複数の障壁があると述べている。しかし、彼の研究のためにインタビューを受けたリーダーたちは、「他人のリーダーシップを引き出すこと」や「自分のチームを輝かせること」が組織にとって重要であると認識している。

モデル3:サステナビリティ~ニューノーマル時代におけるサステナビリティ戦略は、場所中心から人中心へ~

グリーン施策の見える化

パンデミック以前から、企業はサステナビリティをアピールする必要に迫られていたが、現在の地球の気候変動により、サステナビリティは企業の最重要課題として位置づけられるようになった。より多くの企業がサステナビリティの目標と成果を世の中に証明するよう求められている。

ただし、サステナビリティを測るための普遍的な指標はない。企業は、オフィス内のグリーンな環境を遵守していることを証明するためにBREEAMやLEEDなどのビル認証取得に取り組むことができるが、新たにエコシステムが広がりつつあるオフィス外の環境はどうだろうか。

新しい働き方によって、サステナビリティに関する話題は大きく変わった。パンデミック以前はオフィスの環境改善に重点が置かれ、ネットゼロの目標は主に不動産の炭素とエネルギーのフットプリントを削減することだった。より持続可能なワークスタイルや行動を支援することはあまり重視されていなかった。しかし、新しいハイブリッドワークの世界では、サステナビリティの取り組みがオフィスの壁を越えて広がっていく必要がある。

通信会社のマニーペニー社とワークテック・アカデミーが共同開発したサステナビリティのための新たなマトリクス【図表4】は、ESG(環境、社会、ガバナンス)戦略と新しい働き方の整合に悩む企業にとって、さまざまな戦略の実践に役立つものである。このマトリクスは、唯一のワークプレイスとしてのオフィスからの脱却や、ワーカーのサステナビリティ意識の高まり、環境保護促進活動の成長を反映している。

場所中心から人中心のサステナビリティ戦略へ

新しいサステナビリティモデルでは、オフィスワークからフレキシブルワークまで、企業主導から従業員主導の行動まで、ワークプレイスにおける持続可能な企業の4つの分類を表している。

【図表4】サステナビリティのための新たなマトリクス
【図表4】サステナビリティのための新たなマトリクス
  • プレイスメーカー(Place-maker):組織がサステナビリティの取り組みを主導する責任を担い、オフィスビルの環境認証に重点的に取り組んでいるタイプ。スマートテクノロジーやリサイクル施設、エネルギー効率の高い設計、持続可能な輸送システムを活用し、地球環境への影響を改善しようと注力している。このタイプの多くの企業は、目標達成に向けて新しいビルの設計に取り組んでいる。
  • 変革メーカー(Change-maker):仲間の影響力を通じてオフィス内の変革を促すタイプ。場所を基本としながらも、社会的支援と仲間同士の励ましによってグリーンな行動を後押しすることの重要性を強調している。ある調査によると、環境保護推進を図る「グリーン・チャンピオン」の任命は、経済的なインセンティブがなくても従業員に環境保護活動を奨励する効果的な方法の一つとされている。
  • 選択肢ギバー(Choice-giver):会社から強制されるものではなく、フレキシブルな働き方ができるような制度を整備・活用し、オフィスの壁を越えて従業員自身によるより持続可能な選択を促すタイプ。より環境に優しい行動は、人々が地元でフレキシブルに働くことで生じると信じている。
  • 調整者(Arbitrator):従業員に代わって家庭や地域コミュニティにおけるサステナビリティの意思決定に介入し、サステナビリティをオフィスビルの外にまで広げているタイプ。オフィスの出社人数が減り、物理的な管理が難しくなっている現状では、企業の責任がオフィスの周囲のみに留まるべきではないと考えている。

サステナビリティに取り組む企業の例

サステナビリティを実践しているグローバル企業5社を紹介する。

コンピュータ・ソフトウェア Adobe Systems:建物のポートフォリオに対して22のLEED認証を取得しており、そのうち8つがプラチナレベルであることから、同社のオフィスは世界で最も環境性能の高いビルの一つとされている。ネットゼロエネルギーを目標とし、2000年以降、環境に優しい備品の導入や原生植物による造園により、水の使用料を60%以上削減している。

製薬大手 Genentech:「グリーン・ジーン(Genes:遺伝子)」と呼ばれるチームを特設し、従業員の教育とサステナビリティ意識の向上を目指して毎月ゲストスピーカーを招待したり、映画鑑賞会や年に一度のエコ・パーティーを開催したりしている。グリーン・ジーンが導入したベストプラクティスには、社員食堂のコンポスト化や、従業員がサステナビリティのアイデアを投稿できるウェブフォーラム、ペットボトルの削減などがある。

デザイン及びエンジニアリング会社 Arup:「ワーク・アンバウンド(Work Unbound)」と呼ばれるフレキシブルワークモデルを導入。これは、15,500人の従業員が週7日間から勤務日を選択できるようにすることで、より持続可能なアプローチを促すことを目的としている。同社は、従業員の移動が減ることで、2030年までに事業全体のネットゼロエミッションの目標に近づくことができると述べている。

クラウドコンピューティング・サービス会社 Salesforce:すでにグローバル・ネットワーク全体で温室効果ガス排出量ネットゼロを達成し、二酸化炭素排出量の見える化や効率的なカーボンフットプリントの算出を可能にするクラウドサービスを提供している。COP26では、より持続可能なビジネスの実践を働きかけた。また、『環境に配慮した在宅勤務』ガイドを発行し、在宅勤務をより持続可能なものにするための提案を行っている。

電気機器メーカー Schneider Electric:カナダのコーポレート・ナイツ社が2021年に発表した「世界で最も持続可能な100社」で1位を獲得。新しいシュナイダー・サステナビリティ・インパクトのプログラムは、2021年から2025年にかけて、これまでの目標を大幅に加速させたものとなる。また、同社は初めてグローバル・ネットワーク内の100以上の市場において、地域社会に活力を与えるという地域目標を設定する。

後編へ続く

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