WORKTREND

【WORKTREND⑬】「出社率」という新たな概念で複雑化するオフィス需要

オフィス縮小トレンド発生、面積意向は現状の6割へ

コロナ禍によりテレワークが急速に広がったことで、オフィスに出社する人が減り、従来のオフィス面積を見直す動きがみられ始めている。

ザイマックス総研が2016年から半期ごとに行っている企業調査では、毎回、過去1年間のオフィス面積について「拡張した/変化なし/縮小した」のいずれかを聞いている。調査開始以来、長らく「拡張した」が「縮小した」を上回っていたが、2021年4月調査(*1)で初めて「縮小した」が「拡張した」を上回った。今後の意向についても「縮小したい」が「拡張したい」を上回るようになり、長らく堅調であったオフィス需要は、コロナ禍を機に停滞したといってよいだろう。なお、今後オフィスを縮小したい企業は、現在の面積から平均で6割程度にしたいと考えていることもわかった。

また、これらの結果を景況感別にみると、景況感が悪い企業(*2)は良い企業と比べてオフィス面積を縮小した・したい割合が高く、オフィス面積縮小は、不況下におけるコスト削減手段の一つと捉えられている状況がうかがえる。

コロナ禍以降は「好況だけど縮小したい」企業が増加

しかし、コロナ禍以前の調査結果と比較すると、必ずしもそれだけではないことがわかる。景況感が良い企業についても、過去調査と比べるとオフィス面積を縮小したい意向が大幅に高まっているのだ。この転換はコロナ禍発生直後の2020春調査でみられ、2021春調査でさらに顕著になっている。

データ元:ザイマックス総研「大都市圏オフィス需要調査2021春」

従来、企業が必要とするオフィス面積は「1人あたり面積×人数」というシンプルな計算式で算出され、オフィス面積に影響を与える要素は多くなかった。しかし、コロナ禍において日本政府は「出勤者数の7割削減」を要請し、企業はオフィスに出社する従業員数をコントロールする必要に迫られた。これにより「出社率」という新たな概念が登場したことで、オフィスの必要面積に影響を与える要素が増え、計算式は複雑化したのである。コロナ禍を機に、オフィス需要の構造が変わったといえるだろう。

コロナ禍以降、東京オフィス市場の空室率は上昇傾向にある。加えて、多くの企業はコロナ禍収束後もテレワークを続ける意向を持っており、どの程度のワーカーが都心オフィスに戻ってくるかは未知数だ。出社率100%に戻らなければ、都心オフィス需要はデータが示す通りに縮小するかもしれない。

分散すればワークプレイス需要の総量は増えるか

ただし、たとえ都心オフィス需要が縮小しても、分散型の働き方へ移行することで、今まで「働く場所」ではなかった場所に新たな床需要が生まれる可能性がある。その兆しはすでにみえ始めている。

「コロナ強制在宅」は働く場所の常識を見直す契機になると同時に、自宅だけで働くことの限界や課題も浮き彫りにした。家の狭さや同居家族、ネットワーク環境の不足、マネジメントに関する不安などなど。その結果、人の多く住む郊外において「自宅以外の」ワークプレイス需要が急激に高まり、郊外におけるワークプレイス供給が本格化している。さらに、郊外エリアはもともとオフィス物件が乏しいため、商業施設や駅構内、ホテル、銀行、マンション共用部など、今まで働く場所とみなされていなかった場所にもワークプレイスが浸み出しているのが現在起きている事象である。

実際に企業の需要も、こうした新たなワークプレイスに向かっている。たとえば前述の調査では、既存オフィスを縮小したい企業はサテライトオフィスの現在の利用率および今後の利用ニーズが高いほか、働く場所の立地について「本社機能は都心に置き、郊外に働く場所を分散させる(在宅勤務を含む)」意向が高いことがわかった。既存オフィス縮小は、都心オフィスと郊外のテレワーク拠点を使い分ける「ハイブリッド戦略」に向けた取り組みの一環であり、単なるコスト削減だけが目的ではないことが推察される。

データ元:ザイマックス総研「大都市圏オフィス需要調査2021春」

つまり、たとえ今後都心オフィス需要の数%が減るとしても、代わりに郊外や地方(すでにテレワークを前提とした地方移住のトレンドは生まれている)にまでワークプレイスが分散していくとなると、むしろ床需要の総量は増える可能性がある。もちろんその場合、求められているのは従来の画一的なオフィスビルではなく、立地や機能面の多様なニーズに対応する、付加価値の高いワークプレイスとなるだろう。

オフィス縮小トレンドは減速する可能性も

ただし、2021年7月に行った企業調査では、「縮小したい」(24.3%)が半年前の結果(30.0%)と比べて有意に減少していた(*3)。グローバルでも、たとえばKPMGが世界11カ国のCEO500人を対象にした調査(2021年1~3月)によると、オフィス面積を縮小すると回答した割合は17%で、2020年8月調査の69%から大幅に減ったという(*4)。これらのデータだけで判断することはできないが、コロナ禍を機に盛り上がったオフィス縮小トレンドが、コロナ禍の長期化にともない落ち着きつつあるのかもしれない。

長引く「コロナ強制テレワーク」は、集まる価値を再発見する契機ともなった。いずれコロナ禍が収束すれば、反動でオフィスに回帰するトレンドが想像以上に盛り上がる可能性や、景気が回復して企業の人材採用が活発化することでオフィス需要が盛り返す可能性もあるだろう。日本に先行してワクチン接種が進んだ欧米諸国では、ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェース、アマゾン、ネットフリックスといった有名企業を含む多くの企業がテレワーク撤回やオフィス回帰を宣言している。

また、新たな概念「ソーシャルディスタンス」を考慮することで、テレワークによる必要面積の減少分が相殺されるかもしれない。現時点で想定できるだけでも多くの不確定要素があり、これらすべてがオフィス需要の見通しを複雑化させている。感染者数が最高値を更新し続け、収束の目途が立たない日本において、都心オフィス需要の動向には引き続き注視が必要だ。

  • *1 出所:ザイマックス総研2021年6月9日公表「大都市圏オフィス需要調査2021春
  • *2 現在の景況感を「良い/やや良い/どちらともいえない/やや悪い/悪い」の5段階で聞き、「悪い」または「やや悪い」と回答した企業を「景況感が悪い企業」、「良い」または「やや良い」と回答した企業を「景況感が良い企業」とした。
  • *3 出所:ザイマックス総研2021年8月13日公表「働き方とワークプレイスに関する首都圏企業調査 2021年7月
  • *4 出所:「KPMG 2021 CEO Outlook Pulse Survey」

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