在宅勤務とサテライトオフィスを使い分ける

郊外のサテライトオフィスで職住近接を実現する
郊外のサテライトオフィスで職住近接を実現する

コロナ以前の一極集中的な働き方には戻れない

今、コロナ禍を機に在宅勤務を体験した多くのオフィスワーカーが、多少の戸惑いや不満を感じつつも「仕事自体はどこでもできる」という実感を深めているのではないでしょうか。そんなワーカーたちにとって、仮にコロナ禍が終息したからといって従来の「満員電車で都心オフィスに毎日通う」働き方を再び受け入れることは難しいかもしれません。

一度アップデートされた価値観は不可逆で、合理性なく古い状態へ戻ることには多大なストレスが伴います。企業が一方的に従来通りの働き方を強要すれば、組織への不信感や仕事に対するモチベーション低下といった弊害が生じかねません。それだけ今般のコロナ禍は、社会全体の価値観を変革させる大きな転換点となっているのです。

一方で、企業もオフィスワーカーも本格的に体験した今だからこそ、在宅勤務のさまざまな課題が浮き彫りになってもいます。こうした状況のなか、自宅に代わるテレワークの場所として注目されているのが「サテライトオフィス」です。サテライトオフィスでのテレワークは、在宅勤務と何が違うのでしょうか。それぞれのメリット・デメリットを、企業とワーカー双方の視点から整理してみます。

法人向けサテライトオフィスサービス台頭の理由

サテライトオフィスとは、企業が従来のオフィスとは別に、従業員のテレワーク拠点として用意するワークプレイスのことで、企業が自前で設置するものや、専門事業者が提供するサービスを法人契約して利用するものがあります。特に働き方改革の機運が高まった2016年頃からは、後者の法人向けサテライトオフィスサービスの拠点数および提供事業者数が増え*1、他業種からの新規参入も相次ぐなど、市場が活況を呈しています。

ザイマックス総研が2020年6月に行った企業調査でも、回答企業の13.4%が「専門事業者等が提供するサテライトオフィス等」を利用していると回答しました*2。コロナ禍の影響により、不特定多数で共有するコワーキングタイプなどの需要は一時的に抑制されているものの、企業のテレワーク導入自体は加速しており、長期的にはサテライトオフィスサービスの需要も伸びていくでしょう。

企業がテレワークの受け皿として、在宅勤務などの選択肢もある中でサテライトオフィスサービスを選ぶ理由はいくつかあります。

まず、オフィスと自宅の「いいとこどり」ができるワークプレイスが求められていること。企業はワーカー以上に在宅勤務の課題を感じています。前述の調査では、「ペーパーレス対応が不十分」「ネットワーク環境の整備が不十分」「マネジメント(業務、勤怠、評価等)が難しい」「従業員が負担するコスト(光熱費・通信費・什器)の対応」など多数の課題が挙げられました*2。自宅に代わるテレワーク拠点を用意することで、これらの一部が解消できるうえ、職住近接に伴う従業員のワークライフバランス向上や組織へのエンゲージメント強化、生産性向上といった、在宅勤務と同等あるいはそれ以上のメリットを得ることができます。

加速するビジネススピードにマッチ

二つ目はコスト面の柔軟性です。なるべく多くの従業員の通勤負荷を軽減するため、テレワーク拠点には数の網羅性が求められますが、たとえば賃借ビルにすべて自前でサテライトオフィスを造り込むとなると物件探しから契約までさまざまな手間が掛かるうえ、初期投資や賃料、維持管理費などのコスト負担が重くなります。場所や面積も固定的になり、たとえ不要になっても簡単には解約できません。その点、月額制や従量課金制で利用するサテライトオフィスであれば、最初から多くの拠点が用意されていて、実際に使ったぶんだけ利用料を支払えばよいのでトライアル利用しやすく、契約数の増減も容易です。この柔軟性が、加速するビジネスのスピード感にマッチし、アジリティ(敏捷性)を重視する企業から評価されています。

三つ目は、多様な人材の有効活用を目的とした「人フォーカス」の潮流に合致する点です。人フォーカスとは、企業側の都合だけでなく働く人の快適性やモチベーションを重視し、個人のニーズに沿った働き方を企業が志向するトレンドのこと。コロナ禍により過度な人手不足感は一段落したものの、少子高齢化が進む日本においては育児世代や高齢者、外国人などを含む多様なワーカーが働きやすい環境を整え、人材をつなぎとめ、一人ひとりにパフォーマンスを発揮してもらうことの重要性はますます高まっています。

個人のニーズはコロナ禍によって、毎日都心オフィスに通勤するような固定的な働き方を避け、働く場所と時間を自らコントロールする方向へ向かい始めています。ワーカーのこうしたニーズに応えるための第一歩がテレワーク環境の整備であり、立地面でも機能面でも多様な選択肢を提供できるという優位性から、多拠点展開するサテライトオフィスを選ぶ企業は増えていくでしょう。「ワーカーのメリットが企業のメリットとして還元される」という働き方改革の根底にある発想は、ポストコロナにも引き継がれていくと考えられます。

個人差が大きすぎる在宅デメリット

では、個人にとってサテライトオフィスを使うメリットとは何でしょうか。こちらも企業にとってのメリット同様、在宅勤務のデメリットをカバーし、オフィス勤務と在宅勤務のいいとこどりができる場所として捉えられているようです。ただし、在宅勤務を経験したオフィスワーカーにヒアリングしたところ、ワーカーの場合は感じるデメリットに個人差が大きいことがわかりました。

たとえば自宅環境の差が顕著です。「仕事用の机や椅子がなくて腰痛になりそう」「モニターが家にないので作業効率が落ちる」「マンションの無線LANを使用しているが通信速度が遅い」「ワンルームなので仕事も食事も睡眠もずっと同じ部屋でオンオフが切り替えづらい」など、ファシリティ面の不満を感じている人が少なくない一方で、自宅に書斎やワークスペースがあったり、もともと趣味のためにパソコン環境を充実させていたりして、むしろオフィスよりも快適かつ効率的に働ける環境だという人もいました。

また、在宅勤務の支障としてよく挙げられる同居家族についても個人差が大きい部分です。一人暮らしであれば関係ありませんし、同居していても、たとえば「配偶者も別の部屋で仕事中なのでお互い邪魔はしない」といった声がある一方、「リビングで仕事をしているので、子供(学生)が家にいると周りをウロウロされて気が散る」「同居している親に『家にいるけど勤務中』ということをなかなか理解してもらえず、頻繁に声を掛けられてしまう」など、家族の理解度によっても差があるようです。さらには「家にいると大喜びで散歩をねだってくる犬」「オンライン会議で自分が喋るときだけ一緒に鳴き出す猫」という思わぬ伏兵も。在宅勤務にこの種のやりづらさを感じている人には、サテライトオフィス勤務が有効な代替手段となるでしょう。

最適解が無いから選べるようにする

よく槍玉に上げられるメンタルヘルスへの影響にしても、他人と会うことがストレス発散になる人もいれば逆にストレスを感じる人もいますし、家に籠っていることへの耐性にも個人差があります。運動不足による健康リスクも、通勤が唯一のエクササイズだった人と、意識的に運動習慣を持っている人とを同様に扱うことはできないでしょう。

在宅勤務を行うということは、自宅環境や家族構成、生活習慣といったワーカーのプライベートな領域が仕事に介入してくるということであり、企業が最適解を求めるのは非常に困難です。生産性の低下を懸念して「週○回は出社すること」とルールを設ける企業も少なくありませんが、在宅勤務によって生産性が下がるか、それとも上がるかは、人によってかなり違うと理解することが大切でしょう。こうしたグラデーションを踏まえて企業がすべきことは、在宅勤務で問題ない人は自宅を、環境を変えた方がパフォーマンスを発揮できる人はサテライトオフィスを、タイミングによっても都度各自が選べるような環境を提供することではないでしょうか。

集まる価値と偶発性確保の問題

一方、サテライトオフィスでも解決が難しい、いわば「遠隔で働くことのデメリット」といえる意見もありました。

特に多かったのはコミュニケーション面。テレワークが続く日々でオンライン会議が重宝される反面、「会議の前後に歩きながらしていたような気軽な相談や雑談がゼロになった」「画面上では部下の顔色や雰囲気がわからず、対面よりもメンタル不調に気付きづらい」など、リアルで会う価値の再発見ともいえる意見がきかれました。

この対策として、最近では郊外サテライトオフィスの専用区画をプロジェクト拠点として使ったり、比較的近隣に住むメンバー同士が中間地点のサテライトオフィスに集まったりすることで、職住近接を保ちながら、リアルで会う・集まる価値を得るような活用事例も広がっています。ソロワークに特化した在宅勤務と違い、サテライトオフィスは立地やサービスタイプによって用途を使い分けられる点もメリットであるといえるでしょう。

また、「会社に揃っている書籍や雑誌が気軽に見返せない。必要なものが決まっている場合は取り寄せればいいが、バックナンバーをなんとなく眺めることでアイデアが浮かぶような機会は減っている」といった意見もありました。雑談もそうですが、テレワークにおける偶発性の確保は今後の課題となりそうです。

もちろん、テレワークだけですべてをカバーする必要はありません。多くの人が経験したからこそみえてきたテレワークの弱点から、従来の集まるオフィスの存在価値があらためて洗い出されてきた今をワークプレイス戦略策定のチャンスと捉えることもできるでしょう。出社かテレワークか、テレワークでも在宅勤務かサテライトオフィス勤務か、どれか一つに絞るのではなく、それぞれの長所を理解したうえで「いいとこどり」をして、各自がその都度「最適」を選べる環境が、人材の多様化が進むポストコロナの日本には求められるのではないでしょうか。

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