オフィスの「サービス化」が加速するニューヨーク最新潮流

オフィスの「サービス化」が加速するニューヨーク最新潮流

「WORKTECH18 NewYork」に参加

2018年5月17~18日、ニューヨークで「WORKTECH18 NewYork」が開催され、世界中から参加者が集まりました。

「WORKTECH」(ワークテック)は、ワークスタイル変革と不動産・ワークスペースをメインテーマとする世界的なカンファレンスです。2011年から毎年各国で開催され、不動産やIT、サービス、建築、家具といった業界関係者を集めて新たなトレンドを生み出そうとしています。今年4月には東京で「WORKTECH18 Tokyo」が開催されるなど、今後は日本でも働き方とオフィストレンドの指標として注目度が高まりそうです。

前編ではWORKTECH18 NewYorkで語られた内容や現地視察をもとに、ニューヨークのオフィス最新潮流をレポートします。

不動産テックの広がり

「WORKTECH18 Tokyo」に引き続き今回のカンファレンスでも、AIやIoT、センシングといったテクノロジーを使い、オフィスで働く人々の生産性を向上するためのソリューションが多数紹介されました。

例えば、Amazon Web Services ゼネラルマネジャーのコリン・デイヴィス氏は、スマートスピーカーのオフィス向けサービス「Alexa for Business」を紹介。室内環境コントロールや会議室予約、リモート会議のセッティング、備品注文、ファイル検索といったオフィスでの日常業務を音声指示だけで行えるサービスで、従業員の生産性向上に寄与するとしています。同氏は今後、オフィスにも音声インターフェイスツールの導入が広がり、市場は100億ドル(約1兆円)を超えるであろうと語りました。

このほか、ワーカーの移動やコミュニケーションといった行動データを計測・蓄積して生産性向上につなげたり、オフィス内の各スペースの利用状況を可視化して効率的な利用を支援したりするための最新技術が提示され、サービス提供各社によるブース出展も盛り上がりをみせました。不動産テックと呼ばれる分野の中でも、オフィスワーカーの働き方に寄与するこうしたソリューションの活用は、今後一般的に浸透していくのではないでしょうか。

また、ニューヨークのオフィス開発においては、スマートビルディングの採用が進んでいる状況も共有されました。スマートビルディングとは、ビル運用・管理の効率化に必要な技術が組み込まれた次世代型のビルのこと。セキュリティ管理やエネルギーマネジメントのほか、例えばセンサー技術によって共用部の集積率を測り、利用率の低いスペースを有効活用するような最先端ビルの事例も増えつつあるようです。

ABWのレイアウトプランが主流に

こうしたテクノロジーに加え、無線LANやモバイル端末の普及による後押しもあって、グローバルなオフィストレンドとしてはABW(Activity Based Working)の発想を取り入れたレイアウトプランが広がりつつあります。

ABWとは、オフィス内に集中スペースやリラックススペース、同僚とカジュアルに雑談できるスペースといった多様なスペースを取り揃え、ワーカー自身が業務に合わせて選べるようにするレイアウトプランのことです。オフィスワーカーの仕事がより知識創造型へ移行し、従来の作業効率重視のオフィスプランが適さなくなってきたことから注目度が高まっています。

さらに、こうした自律的で選択肢のある働き方そのものを指す概念としてもABWが使われ、働く場所の選択肢がオフィスの外にも広がっている状況が指摘されました。つまり、勤務先オフィスだけでなく、サードプレイスオフィスや自宅といった多様な場所を選んで働くワークスタイルそのものをABWと呼ぶのです。今回のカンファレンスでは企業のABW推進を専門とするオフィスコンサルタントも登壇し、「時間と場所に依存しない働き方」の有効性を語りました。

多様化するオフィスサービス

ニューヨークでは、企業の働き方のフレキシブル化が進んでいるだけでなく、パートタイムやプロジェクトベースなど、個人単位で働くワーカーも日本以上に多いといわれています。こうした状況を受け、そのニーズを満たす多様なオフィスサービスも登場し、市場が拡大しつつあります。

例えば、今回のカンファレンス会場となった「convene」は主に中小企業向けに会員制ワークプレイス(会議室や大型ホール、プライベートオフィス、コワーキングスペース等)を提供しています。2009年の設立以降、全米22拠点(2018年9月現在)まで拡大してきた同社サービスの特徴がホテルレベルのホスピタリティです。各拠点にはコンシェルジュやITチームが常駐して会員企業の困りごとに対応し、共用エリアではウェルネスに配慮したフードやドリンクを24時間提供、従業員向けのフィットネスプログラムなども企画しています。また、会議やイベント会場として利用する際は、専任シェフによる季節の料理が参加者に振る舞われます。

WORKTECH当日は会場中央にフードカウンターが設置され、オーガニックコーヒーやフレッシュジュース、チアシード入りのヨーグルト、わかめサラダといったヘルシーフードが並び、イベントの体験価値そのものを高めていました。

ソフト面の付加価値を提供するこうしたオフィスサービスは、面積効率を重視する“ハコ貸し”とは一線を画すものであり、従業員満足度やウェルネスに対する関心の高まりを受けて今後拡大していく可能性があります。convene 共同創設者兼チーフ・イノベーション・オフィサーのクリス・ケリー氏は「(将来的に)ビルオーナーは“ブランド”に、テナントは“メンバー”に、ワークプレイスは“サービス”になるだろう」と語りました。

前編はここまで。後編では、ニューヨーク市による職住近接への取り組みや、東京とニューヨークとの違いについてご紹介します。

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