フレキシブルオフィスへの代替化進むニューヨークと東京の違い

フレキシブルオフィスへの代替化進むニューヨークと東京の違い

2018年5月に開催された「WORKTECH18 NewYork」に参加するため、働き方×オフィス編集部はニューヨークを訪問しました。

前編ではWORKTECH18 NewYorkで語られた内容や現地視察をもとに、ニューヨークのオフィスに関する最新潮流をご紹介しました。後編ではニューヨーク市行政による職住近接や都市のデジタル化への取り組み、東京との違いについてレポートします。

記事前編:オフィスのサービス化が加速するニューヨーク最新潮流

フレキシブルオフィスの主要顧客は個人から企業へ

weworkに代表されるフレキシブルオフィスサービスも、その在り方が変容しています。ニューヨークのフレキシブルオフィスはこれまで、スタートアップや個人事業主、中でも弁護士・税理士など、顧客と出会う機会を求める個人のコワーキングニーズを受けて拡大してきました。しかし最近では東京同様、一般企業が自社の従業員に利用させるケースが増えているようです。

これにはニューヨークの賃料上昇に加え、ビジネスのスピード感が高まる中で5~10年単位の賃借契約を嫌う企業側と、顧客のパイ拡大を狙う事業者側双方の意図が影響しています。フレキシブルオフィスに本拠を構える企業も増えており、従来の長期にわたるオフィス契約から短期利用への移行が進む可能性もあるでしょう。

さらに、働き方やオフィス需要の変化に危機感を持つビルオーナーや不動産投資家も、オフィスサービス市場のプレーヤーとして参入しつつあります。従来のようにただスペースを貸すだけではなく、weworkやconveneのようなノウハウを持った事業者と組み、ビルの改修・建設から関わることで多様なオフィスサービスを提供する事例がみられています。こうした取り組みについても、やはり個人ではなく一般企業がメインターゲットとされており、サービスの多様化に伴い企業のオフィス利用の在り方は今後大きく変わっていくと考えられます。

フレキシブルオフィスの主要顧客は個人から企業へ
weworkがブルックリン地区で建設中の「DOCK72」プロジェクトには多数の投資家が参加している。建物内には入居企業のためのワークプレイスや会議スペース、フードホール、フィットネスジム、バスケットコート、テラス、バー、屋上ラウンジといった多様なスペースが配される予定。

職住近接を推進する行政の取り組み

ワークプレイス環境のみならず、実はニューヨーク市自体が、フレキシブルな働き方と相性の良い都市でもあります。

ニューヨーク市では2010年頃から都市のデジタル化を目指し、市政のデジタル統括を担う役職(Chief Digital Officer)を設けて先進的な取り組みを進めてきました。中でもフレキシブルワークに貢献する取り組みの一つが、街中の古い公衆電話ボックスを高速Wi-Fiスポットとして活用する「LinkNYC」というプロジェクトです。

「LinkNYC」のWi-Fiスポットは、メールアドレスを登録するだけで誰でも無料で接続できるうえ、充電やタッチパネル操作による経路検索も可能です。2018年9月現在、マンハッタンを中心に設置数は1700ポイントを超えて今後も増設予定で、街中どこにいても高速インターネットにアクセスできる環境が整いつつあります。

また、東京都心部と比べて人口密度が高く、職住近接が進んでいるとされるマンハッタンでは、自転車で通勤しやすい街づくりも進んでいます。

ニューヨーク市は市民の健康増進や大気汚染対策のために自転車利用促進に力を入れていて、2013年にはシェアバイクシステム「Citi bike」の運営を開始しました。パスを購入したユーザーは、市内約750箇所(2018年9月現在)に設置された専用ステーション(駐輪スペース)の自転車を自由に使い、好きなステーションで乗り捨てることができる仕組みで、ニューヨーカーの短距離移動手段として定着しつつあるそうです。

職住近接を推進する行政の取り組み
citibikeの専用ステーション。ユーザーは市内の好きなステーションで自転車を乗り捨てることができる。

今後は新たなバイクシェアサービスの参入や、自転車専用レーン拡充などのインフラ整備も計画・検討されており、ニューヨーク都心部における自転車通勤人口はより増えていくと予想されます。その結果、ますます職住近接の傾向が加速するとともに、仕事と生活の境界もあいまいになり、従来のオフィス以外の場所で働くフレキシブルな働き方が加速していくとみることもできそうです。

東京との比較

今回ニューヨークで見てきた新たな働き方やオフィストレンドは、日本の私たちにも参考になるものです。しかし抱えている課題や背景が違うため、そのまま取り入れれば良いというものではありません。

例えば前述の通り、ニューヨークでは固定的な賃借オフィスへの入居を完全に廃止し、フレキシブルオフィスに本拠を構える企業が増えつつあります。背景には、長期のオフィス契約がビジネスのスピード感にマッチしなくなったことに加え、個人だけでなく企業も、フレキシブルオフィスが持つコミュニティ形成機能を求めるようになったという状況があるようです。つまり、オフィスにハコ(=物件)だけでなく、ナカミ(=サービス)を求める傾向が強まっているといえます。

対して、現状、東京企業の多くは、コワーキングオフィスに移動時間の効率化を求めています。営業担当者が顧客先から顧客先への移動中、立ち寄るために契約するイメージです。世界の主要オフィスエリアの中でも面積が広く、移動時間が長い東京都心部だからこそのニーズかもしれません。

そのため日本では、アメリカのように賃借契約から短期利用オフィスへの代替化が進むというよりは、固定的な本社オフィスとフレキシブルオフィスを必要に応じて使い分ける「ハイブリッド型」のオフィス活用が主流になっていくと考えられます。

企業のテレワーク導入率に着目しても、アメリカの85%に対して日本は11.5%(*)と大きな差があります。この状況を無視して、いきなり本社などの“集まるオフィス”を廃止し、従業員の働く場所を分散させても良い結果は得られないでしょう。

今回WORKTECHで紹介された「ABW」の概念は、働く場所の選択肢を複数持つ新しい働き方として、日本企業でも注目されつつあります。フレキシブルオフィスサービスが増えているのは日本もグローバルトレンドと同様ですが、本社オフィスとともに選択肢として活用する、という点で、日本では独自の進化を遂げていくかもしれません。

(*)総務省「テレワーク推進に向けた政府の取組について」(2016年6月発表)より

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