わが社もできる?テレワーク本音のところ ~<企業編>導入のヒント満載 働き方先進5社座談会~

働き方先進5社座談会
座談会には、テレワーク導入に積極的な企業の担当者約100名が集まった。

人材確保や生産性向上を目的に、テレワークを導入する企業が増えつつあります。ザイマックス不動産総合研究所が2017年10月に実施した企業調査では、約3割の企業が「テレワークするための場所や制度を整備している」と回答しました。例えば、在宅勤務制度のある企業は19.2%、社外のサードプレイスオフィス等を従業員に利用させている企業は6.7%など、働く場所が少しずつ多様化している状況がうかがえます。

一方で、導入にあたっては課題や不安を抱える企業も少なくないようです。働く場所や対象者、勤怠管理、マネジメント、ICT環境整備などなど……テレワーク導入前に検討すべきことは多く、導入後も利用促進や効果検証などが必要となります。

そんな悩める実務担当者の方々に向け、ザイマックスでは今年3月、同社が運営するサードプレイスオフィス「ちょくちょく…」(*1)を利用する“ワークスタイル先進企業”5社をスピーカーに迎えた座談会を開催しました。各社の経験や成果、今後に向けての課題や展望など、トライアンドエラーを重ねてきたからこそ話せる貴重な声を紹介します。

「ちょくちょく…」登録ユーザー3600人超を対象に行ったテレワーカーアンケートの結果とあわせて、企業と個人、それぞれの視点を見比べても面白いかもしれません。

わが社もできる?テレワーク本音のところ
<個人編> テレワーカー3600人に聞いた!実態アンケート
<企業編> 導入のヒント満載 働き方先進5社座談会 今回はこちら。

*1 「ちょくちょく…」とは・・・首都圏で31店舗を展開する企業向けサードプレイスオフィス。契約企業の従業員(登録ユーザー)は、業務や私生活の都合に合わせて好きな店舗を利用できる。移動時間効率化やワークライフバランス向上などの効果が期待でき、2018年3月現在、約500社7万ユーザーが登録中。https://mwo.infonista.jp/

登壇企業(五十音順)※肩書は座談会時点のもの

サントリーホールディングス
スピーカー:総務部 文野潤也氏/竹舛啓介氏
2008年より全従業員(工場勤務除く)を対象にテレワーク制度を導入。東京の主要部署はお台場に置いているが、従業員の通勤利便性を考慮して外部のサードプレイスオフィスを活用。
住友商事
スピーカー:人事厚生部 山田裕志氏/小菅健太氏
2017年に第1回テレワークトライアルを1000名規模で実施し、2018年春に第2回を実施予定。2度のトライアルを踏まえ、2018年秋の本社移転のタイミングで、原則全社員を対象としたテレワーク制度を導入予定。
日立ソリューションズ
スピーカー:人事総務本部 労政部 小山真一氏/齊藤正絵氏
ワークスタイル改革運動として全社キャンペーンを打ち出し、トップから率先して推進。2016年からは自社製品も活用しながらテレワークを積極導入し、事業化や営業支援にもつなげている。
富士通
スピーカー:総務部(働き方改革担当) 高柳望氏
2017年より、全社員35,000名を対象にテレワーク勤務制度を導入。職場単位で導入を進め、2018年春時点で約7割の職場が活用している。利用回数制限は設けず、自宅や社内外のサードプレイスオフィスなどを活用した柔軟な働き方を推進。
リクルートホールディングス
スピーカー:働き方変革推進部 馬立純一氏
2015年からテレワークやフリーアドレスのトライアルを開始。社外サードプレイスオフィスの利用も浸透し、2年間で対象7,500名の内1,200名の利用実績あり。ザイマックスとはちょくちょく…の開発時点から協同。

「サードプレイスオフィス」と「在宅勤務」の使い分け

在宅勤務制度だけでなく、「ちょくちょく…」などの多様なワークプレイスを利用している理由について教えてください。

富士通 高柳氏(以下富士通)
:在宅勤務は育児・介護を抱える人や作業に集中したい人、サードプレイスオフィスは、営業担当などがアポイントの合間に立ち寄るため、というように使い分けられています。単身者など、自宅が狭くて仕事に向かないという声もありますね。もともと自宅や社内サテライトオフィスでのテレワークが浸透してきていたので、外部のサードプレイスオフィスを導入する際も選択肢が増えるだけ、という印象でスムーズでした。
日立ソリューションズ 小山氏(以下HISOL)
:以前は自宅のみ、一部の業務のみ、などテレワークの利用条件を制限していたため、利用者数は2桁台と伸び悩んでいました。そこで、課長以上の管理職と裁量勤務者、育児・介護を抱える総合職社員を対象に、サードプレイスオフィスやカフェなど、いつでもどこでもテレワークを許可することに。業務内容にも制限を設けず、運用の自由度を高めました。
サントリーホールディングス 文野氏(以下サントリー)
:当社は郊外拠点の利用率が高く、自宅付近の「ちょくちょく…」を利用する社員が多いようです。お台場への通勤が遠いので、自社のサテライトオフィスを増やしてほしいという要望があったんですが、固定費を考えて外部サービスを併用することになりました。在宅勤務制度もあるものの、公私が切り替えづらいという声もあって。

サードプレイスオフィスの活用方法とその効果

サードプレイスオフィスをどのように活用し、どんな効果が得られていますか。例えばちょくちょく…会員へのアンケートでは、事務系職種は「自宅近くのサードプレイスオフィスをよく使う」、営業系職種は「取引先近くをよく使う」と、ニーズによって使い分けられている実態がわかりました。

サントリー
:当社ではもともと朝活や時差Biz(*2)を推奨していたこともあって、朝の利用率が高いです。テレワーク自体は2010年から導入しているため、カフェなどでのタッチダウン的な使い方は浸透していました。サードプレイスオフィスでは自宅近くの拠点に1日こもって集中作業をするなど、それぞれ使い分けされているようです。
*2 時差Biz…東京都が2017年より推進する、通勤ラッシュを回避するため通勤時間をずらす運動。
HISOL
:テレワーク推進のメリットについて社内でアンケートを行ったところ、「仕事の効率が上がった」「仕事と私生活の両立がしやすくなった」といった声が多く聞かれ、約3割の社員が「会社に対する満足度が高まった」と回答しました。
また、定性的な効果だけでなく、短時間勤務者の勤務時間延長といった具体的な効果も出ています。75名中11名がより長く勤務できるようになり、さらに内7名はフルタイム勤務に復帰しました。中部支社から東京本社へ異動になった社員が、週2日だけ東京オフィスへ出社し、残りはテレワークで働くなど、単身赴任が解消できた例もあります。
リクルートホールディングス 馬立氏(以下リクルート)
:当社では一度でもサードプレイスオフィスを使った社員のうち8割以上がリピートしており、1人あたりの利用回数が非常に多いです。その内4割が営業担当で、サードプレイスオフィスを拠点として複数の顧客をまわって直帰するような使い方が中心のようです。また、ターミナル駅を最寄りとする拠点の利用が全体の6割以上で、過半数が1回につき2時間以下の滞在ですので、タッチダウン的な活用が多いことがわかります。
富士通
:サードプレイスオフィスのトライアル後のアンケートでは、資料作成などの個人作業で使った人が最多だったほか、顧客先を訪問する前後に立ち寄るなど、社内外のミーティングに利用したという声もみられました。また、利用によって生産性が向上したと答えた社員が98%、トライアル終了後も継続利用したいと答えた社員が99%と、非常に前向きな結果となりましたので、引き続きサードプレイスオフィスを活用していくことを決めました。

在宅勤務やテレワーク制度を導入しても、業務によって利用できる人とできない人が出てくるかと思います。従業員間の公平性についてはどうお考えですか。

サントリー
:全員が同じ頻度で同じ働き方をするわけではないので、公平性の実現は難しいと考えています。個人の満足度アップというより、我々は競争戦略として取り組んでいるので、より効率的な働き方をできる範囲でやっていければ。業務によって頻度は違ってもまったく利用しない人はいないだろうから、全員に機会はあるし、みんなで前に進もう、というコミュニケーションをしていけたらと思っています。

サードプレイスオフィス導入にあたっての進め方

サードプレイスオフィスをどのように導入し、利用促進していったのでしょうか。また、マネジメント面など制度を変更した点はありますか?

住友商事 山田氏(以下住友商事)
:まず、全社公募で参加者を募り、1ヶ月半のトライアルを1,000名規模で実施しました。公募という形をとったため、意欲の高い社員が多く参加したこと、さらに利用促進キャンペーンを強く打ち出したこともあって、トライアル期間中のサードプレイスオフィス利用者率は41%と高い結果となりました。また、本社オフィスが晴海にあるため、大手町等への外出と絡めて利用することで時間の有効活用ができたことも高い利用率につながったのではないかと思います。
リクルート
:グループが多いので、ホールディングスで一括契約し、促進の度合いや進め方は各社にお任せしています。当初、まずは一度使ってもらおうと、メールで使い方を紹介する動画を配信したんですけど、メール開封率は40%、動画再生率はたった2%と失敗に終わりました…。結果的に一番効果があったのは、アナログなやり方ですが、各組織長の理解を深め、効果的な活用方法を組織ごとで考えてもらうことですね。
労働時間管理については、出退勤時に上司へチャットで報告するなど、今まで以上に積極的にコミュニケーションをとることでカバーしています。
サントリー
:使い方には極力制限をかけないようにしています。というのも過去の反省として、2007年に育児介護者のみを対象にテレワークを導入した際、数名しか利用しなかったんです。日本人のメンタリティとして、自分しか使えない制度は利用しづらいことがわかりました。2010年にルールを撤廃し、朝5時から夜10時まではいつでも働けるようにした結果、現在は4,500名程が制度を活用しています。業務目標や時間管理のルールは変えずに、あくまで場所だけを変える、というのが当社の方針です。ただ、場当たり的にテレワークしても生産性は上がらないので、週次単位できっちり就労計画を立てることは徹底しています。
HISOL
:「とりあえずやってみよう」という社風のため、導入にそこまでハードルは感じませんでした。ただ、当初サードプレイスオフィスの利用料を人事負担としたのですが、トライアル期間終了後にいざ各部署負担へ切り替えると、途端に利用率が1桁まで落ち込んでしまったんです。人事負担に戻したところすぐに利用率が回復したため、こういった点も利用促進に強く影響することがわかりました。
また、これまでは管理職と裁量勤務者のみサードプレイスオフィスの利用を許可していましたが、それ以外の社員が出張に同行した際に行き場がない…といった問題が出てきたため、4月からは総合職社員全体が使えるようルールを改訂する予定です。
勤怠管理面では、勤務時間や業務が把握できるようなITツールと、スカイプでのコミュニケーションとを併用して、社員の「働きすぎ」を抑止しています。

これからの働き方×オフィスについて

2018年には東京都心で大規模なオフィス供給が予定されており、大企業を中心に都心への統合移転などの動きが出てくると予想されます。一方、テレワーク活用といった分散の流れも生まれていますが、こうした状況を受け、今後、働く場所はどのように変遷していくとお考えですか。

リクルート
:我々の働き方変革の目的は、イノベーションの創出を加速させることです。生産性を上げて時間を作り、今までできなかったことに時間を投資して、そこから受けた刺激から新しいものを生み出したい。ですので、本社オフィスの面積を減らしていくのではなく、イノベーションを起こすために、わざわざ通勤時間をかけて行く価値のあるような場所へつくり変えていくにはどうしたらよいかを考える必要があると感じます。
富士通
:テレワークやフリーアドレスを前提として、オフィスのあり方を考えていくつもりです。
また、事業継続性の観点からも、本社オフィス以外の多様な働く場所が必要だと感じています。今年1月に大雪が降った日は、帰宅困難を避けるため、途中からテレワークに切り替えて在宅勤務や自宅近辺のサテライトオフィス利用を推奨しました。非常時に戸惑わないよう、普段からどこでも働けるようにしておくことが重要になってくると思います。
HISOL
:テレワークによって、通勤時間削減や私生活の充実といったメリットを感じている一方、総労働実時間の縮減についてはまだまだ課題です。そのため、仕事のやり方そのものを見直し、短時間で生産性を上げられるような働き方にシフトしていきたいと考えています。
住友商事
:本社オフィスが晴海から大手町へ移転予定ですが、働く場所に捉われず、どこででもパフォーマンスを発揮できるような働き方の実現が必要だと考えます。そのためにも、テレワークは非常に大切な取り組みです。
第1回トライアルの反省も踏まえ、テレワーク導入にあたってのポイントをご紹介すると、まず1つは「性善説に立つこと」。制度を厳しくすればするほど効果的な運用ができなくなり、多様で柔軟な働き方の実現が難しくなります。2つ目は「組織単位で実践すること」。利用者が少数派だと、どうしても多数派に引っ張られてしまって結局変化がなかったり、利用していない方から不満の声が上がったりと前向きに進みません。そして、3つ目は「まずはやってみること」。特にマネジメント層による実践の大切さを感じています。
サントリー
:我々はテレワーク制度を運用する上で、「働きやすい会社」ではなく「活躍できる会社」を目指す、という少し厳しいメッセージを打ち出しています。例えば、なるべく時短勤務をせずにいつでもどこでも働いてもらって、その代わりキャリア実現をサポートします、と従業員に伝えています。テレワークや在宅勤務制度は全て手段の一つ。目的は競争力や生産性の向上なので、その点は見失わないようにしたいです。ホワイトカラーはどこででも働ける時代ですから、オフィスの意義とは何なのか、あらためて考えていきたいと思います。

終わりに

働き方に対して意識的な企業の特徴として、担当者が信念をもって取り組んでいることが挙げられます。

今回の座談会ではその信念の一端を垣間見るとともに、各社が今もトライアルの段階であり、試行錯誤を重ねながら前進していることがわかりました。実践上の苦労や課題といった生の声は、今後の導入において参考になるのではないでしょうか。

ちょくちょく…会員に対して実施したアンケートでは、現在の仕事環境として「業務に合わせて、オフィス・自宅・サードプレイスオフィスなど働く場所を選択して仕事をしている」と回答した人が39.8%に上りました。また、ちょくちょく…の利用効果として69.2%が「集中して仕事ができた」と回答しており、働く場所の選択肢を持つことで、単純な時間削減以上の効果を得られる場合が多いようです。

生産性向上が求められる今、先進企業から始まった“働く場所を複数持つ”というオフィス戦略が、一般的に広がりを見せるかもしれません。

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