高いデザイン性や充実した共用部で、中小企業の課題を解決する
フロンティアグラン西新宿/Reqree
オフィスビルの競争力強化のため、大規模新築ビルでは共用部を充実させる動きがみられ始めた。それに伴い、大規模ビルの小割区画と比較される中小規模ビルの競争力強化はより一層求められるだろう。
本記事では、ハード面とソフト面の工夫で中小規模ビルが提供できる付加価値について、フロンティアグラン西新宿を例に、同ビルの企画コンサルティング・運営を手がけるReqreeの代表取締役 髙室 直樹氏、チーフホスピタリティオフィサー 陳 冠伶氏にお話を伺った。
新たな価値軸から不動産を見直し、高稼働オフィスビルへ
フロンティアグラン西新宿は1990年に竣工した、地下3階・地上12階建て、基準階面積約190坪の中規模ビルである。2023年に行われたフルリノベーションで、貸室をセットアップオフィスに改修し、Reqreeの企画コンサルティングにより1階・地下1階のラウンジ等の共用部やソフトサービスが整備された結果、駅から徒歩10分程度とやや不利な立地条件でありながらも高い稼働率を誇る。
「不動産の3要素である立地・グレード・賃料に加え、機能的価値・合理的価値(経済合理性)・感情的価値という新たな価値軸があると考えており、これらの観点からビルを見直すことで評価を高めています。共用部をつくる分レンタブル比が下がるほか、内装コストや運営コストもかかるので単純比較はできませんが、周辺相場の倍近い賃料で成約できています。企業のオフィス探しはある程度候補を絞ったら後は値段勝負となることが多いなか、当ビルならではの付加価値が評価され、近隣にもっと安いビルがあってもお選びいただけています」(髙室氏)。
さまざまな機能が揃うハイエンドな共用部
付加価値の一つが、ビル規模に対して充実した共用部だ。ビルの顔ともなる1階のラウンジはグレード感の高い内装デザインとなっており、カフェスペースや大人数用会議室などが併設されている。
特に中小企業にとって、自社専有区画内に用意することが難しいこうした共用部の整備を重視している背景には、髙室氏の経験が反映されている。「これまでいくつかの会社を立ち上げてきたなかで、いつも課題となったのが来客・商談スペースの確保でした。最初は初期費用を抑えるためにサービスオフィス内の共用部のみを利用可能なプランを選びましたが、利用できるスペースはそう広くないし、有償の応接室をその都度借りると費用もかさみます。通常の賃貸オフィスに入居しても、創業期の限られた資金ではお客様を呼ぶにふさわしいグレードのオフィスは借りられません。堂々とお客様をお招きできるスペースをリーズナブルに利用できる環境が必要だと感じました」(髙室氏)と当時の苦労を振り返る。
共用部のラウンジや会議室は、入居企業の採用活動にも活用されているという。「企業規模を問わず人材採用やリテンションは課題となっています。特に中小企業は大手と比べてブランド力が弱く、人材確保のために魅力的なオフィス環境に投資する財務的な余裕もありません。デザイン性の高い充実した共用部を面接の場などに利用してもらうことは、社内外のワーカーに自社をアピールすることにつながると思います」(髙室氏)。
創業期の事業成長を支えるセットアップオフィス
フロンティアグラン西新宿の貸室は、大小さまざまな31区画全てが会議室やフォンブースの用意されたセットアップオフィスである。一部には、ペット連れで出勤できるペットフレンドリーフロアや、より高級感のある設えでルーフトップテラスの利用も可能なプレミアムフロアもあり、自社にあったオフィスが選択可能だ。
こうしたセットアップの専用区画は初期費用や移転時の原状回復費用が抑えられるメリットがある。さらに、造りこまれたラウンジが備えられていることで、中小規模の企業の経済合理性をより強化している。「成長スピードが早いベンチャーやスタートアップにとって、2~3年で移転する可能性のあるオフィスに高額な内装コストや原状回復コストをかけるのは大きな負担です。ビル側がすべて用意することでテナントのコスト・計画準備の手間・契約面積などの負担が減り、事業成長の支援につながります」と、髙室氏は話す。
「貸室のセキュリティカードは想定利用人数の1.5倍の枚数を発行できるので、在宅勤務者や外回りの多い営業社員など、従業員の出社頻度にばらつきがある企業も柔軟に利用可能です。人員増加で貸室が手狭になっても、ラウンジの利用やより広い区画への館内移転ができる点も評価されています」と陳氏は話す。
ソフトとハードの両面からコミュニケーションを創出
受付にはコミュニティマネージャーが常駐し、内覧や問い合わせの対応のほか、さまざまなイベント企画などにより感情的価値を提供している。「ビジネスの発展には、人と人との交流が欠かせません。さらに、デジタル化の進展で、オフィスの役割としてリアルコミュニケーションの比重が高まるなか、せっかくさまざまな業種の人が集まっているのにコミュニケーションが生まれていないオフィスビルをみてもったいないと感じていました」(髙室氏)と、リアルコミュニケーションを演出する場づくりの重要性を話す。イベント企画は入居者にも好評で、陳氏は「イベントで仲良くなった他社の社員とランチに行く人がいたり、イベントが仕事や出社のモチベーションになっているというお声を聞いたりします」と話す。
リアルコミュニケーションの場としてはラウンジのほかに、入居者なら誰でも利用できるゴルフスタジオやワークアウトエリアなどがある。「ゴルフスタジオは社内イベントの会場や商談の場として利用いただくことも可能です。コロナ禍の影響で、リアルコミュニケーションの場というオフィスの役割がより重視されるなか、こうしたユニークなスペースも交流を生む一助になれば嬉しいです」(陳氏)。
企業規模によって抱える課題は異なり、求めるオフィスも異なる。「今後も刻々と変化する多様なユーザーニーズを的確に捉えたオフィス環境を企画・運営することで、テナント・ビルオーナー双方にご満足いただけるいただけるサービスを目指します」と髙室氏は語る。
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