未来を見据えた付加価値向上オフィスと、包括的なサービスで入居者をサポート
大阪梅田ツインタワーズ・サウス/阪急阪神不動産
近年、新築オフィスビルに入居テナント専用の共有スペースを設け、付加価値を提供する動きがトレンドになりつつある。入居企業のワーカー専用のサポートフロア「WELLCO」を有する大阪梅田ツインタワーズ・サウスのほか、梅田エリアを中心に数多くのオフィスビルを管理運営する阪急阪神グループが提供する付加価値について、阪急阪神不動産 開発事業本部 小林 英樹氏に伺った。
首都圏との格差解消をサポートするオフィスの実現
2022年2月に竣工した大阪梅田ツインタワーズ・サウスの3つのオフィスコンセプト「つながる梅田の中心」「おもてなしサービスのあふれるビル」「ウェルビーイングを実感」が決まったのは、2017年のことだった。「当時、日本ではまだウェルビーイングという言葉は浸透していませんでした。工期が長いビルなので、すでに流行っているものではなく未来を見据えたテーマを設定したのです。コロナ禍発生によって多くの企業で働き方やオフィスのあり方を改める動きが進み、結果的に時代にマッチしたコンセプトになりました」と小林氏は振り返る。
「全国に拠点を持つ企業のオフィスは、首都圏(本社)では大規模ビル内の数千坪のスペースにユニークな機能をそろえる一方、関西(支社)では100坪未満で最低限の設えとなるケースが多いため、多くの企業で首都圏と関西の地域格差が課題となっていました。当ビルのサポートフロア『WELLCO』は、テナントの執務スペースの面積効率化を推奨するというよりも、首都圏と関西での地域格差解消をサポートしたいという発想で整備しました。当初は、ランチタイムにしか使われないのではないかという懸念もありましたが、オフィスはコミュニケーションの場だという考え方が追い風となり、社内ミーティングなどさまざまなシーンで利用いただいています。首都圏と遜色ない充実した執務スペースを持つ企業のワーカーでも、時には普段と違う場所で働きたいニーズもあるようです」(小林氏)。
多様な働き方をサポートする機能が充実
WELLCOという名前はウェルビーイングの「WELL(良い)」とコラボレーション・コミュニケーションの「CO」を合わせたものである。「ワーカーがポテンシャルを100%発揮できるように、働く・食事・仮眠・運動といったさまざまな機能を持つ共用部にした」(小林氏)という、約1,000坪のサポートフロアを以下に紹介していく。
コンシェルジュが常駐する受付の奥にはソファ席主体のラウンジが広がり、ラウンジ中央には種類豊富なドリンクを揃えたバーもある。「ラウンジでは商談や一人作業をする方が多いです。夜にはバーで珍しいビールや日本酒などのアルコールも提供しています。21時まで営業しているので、残業で打ち合わせをしたメンバーで1杯飲んで帰るという場面にもちょうどいいです」(小林氏)。ラウンジの奥には集中作業に適したワークブースがあり、取材時にも多くの利用者がいた。
「フィットネスは、トレーニングというよりも身体を整えるバイク・ラン・ストレッチ用のマシンを用意しています。暑い時期は外回り後にシャワーだけ利用していただくのもいいですし、日によってはインストラクターが常駐しているほか、ヨガレッスンなどのサービスも提供しています。男女4席ずつ用意している仮眠室は、昼休み明けに10~15分程度利用する方が多いです」(小林氏)。ほかにも、マッサージルーム、搾乳室などワーカーのウェルビーイングを支える機能が充実している。
フロアの半分程を占めるカフェ(WEST/EAST)では、栄養士監修の定食やヌードルを提供し、健康的な食生活をサポートしている。また、低層部の阪神梅田本店から出張販売している日替わり弁当も人気で毎日売り切れるそうだ。
「食事の時間以外は仕事スペースとしても利用可能で、席数が多いので人数の多いミーティングに重宝されています。カフェEASTはイベント等による貸し切りにも対応しており、小上がりスペースを活用したセミナーや、キッチンと連携した懇親会等で多くのご利用をいただいております」(小林氏)。
包括的なサービスで梅田エリアの付加価値向上
「WELLCO完成以降、コロナで稼働率が落ちた貸会議室や空き区画を活用し、既存ビルでも順次テナント専用共用部の充実を図っています。たとえば大阪梅田ツインタワーズ・ノースでは、オフィスロビーの一区画に仕事やランチができるスペースを新設しました。無人運営ですが、コミュニケーション型アバターロボット(newme)を通じて、大阪梅田ツインタワーズ・サウスのコンシェルジュと遠隔でコミュニケーションをとることで、有人と同等のサービスを提供しています」(小林氏)。
また、2021年から、新しい働き方を支える個室型サテライトオフィス「阪急阪神ONS powered by point 0」も提供開始している。「鉄道会社を中心とする企業グループであるので、京都や千里ニュータウンなどの居住エリアからの電車移動を促すために、梅田エリアで商業施設やオフィスを展開してきました。コロナ禍発生により人が電車に乗らなくなったことを受け、会社や自宅以外でも快適に働けるようにと、沿線に計画しました。沿線の価値向上に加え、梅田のオフィスビルの付加価値となるよう、入居テナントへは割引価格で提供しています。職住近接目的の利用を想定していましたが、コロナ禍が明けてからは、三宮や京都といったビジネスエリアの拠点を中心に営業担当者のタッチダウン利用も増えています」(小林氏)。
これらのほかにも、「梅田エリアにストックが集中している強みを活かしたサービス展開をしている」(小林氏)という。「WELLCOのカフェEASTは、テナント企業の貸し切り利用だけでなく、阪急阪神ビルマネジメントが企画し月2回程度で開催する無料イベントにも利用されます。イベント自体は当ビル竣工前から実施しており、阪急阪神のビルで働くワーカー約35,000人を対象に会社や入居ビルの枠を超えた繋がりや学びをサポートしています。ワーカー個人が満足することにより、まわりまわって経営者に阪急阪神のビルの魅力が伝わると思います。また、阪急阪神のビルに入居していればどのビルの貸会議室もテナント割引で利用できますし、サークル活動のサポート、グループ商業施設の優待特典などさまざまなサービスを受けられるので、特定の『○○ビル』ではなく、阪急阪神のビルに入居しているという感覚になっていただければと考えています」(小林氏)と続けた。
ウェルビーイングの次に目指すオフィス
これからのオフィスビルづくりについて、小林氏は「基準階は標準仕様に差がなくなり、他社との差別化が難しくなっている」と話す。「近年、ZEBやゼロカーボンなどをキーワードに環境面が重視されてきたことに加え、コロナ禍以降は従業員のリテンションや健康経営が注目されるようになりました。WELLCOのようなウェルビーイングをサポートする機能は、ワーカーが喜ぶだけでなく経営層に刺さる要素になっているのです」(小林氏)。
「このトレンドを受け、現在デベロッパー各社は共用部の付加価値向上や入居者向けイベント等のサービスに注力していますが、その先はどうなるでしょうか。たとえば、働き方の変化により専有部と共用部のバランスが変わってくるかもしれませんし、環境面や建築コストを考慮するとセットアップオフィスや逆に一部スケルトンで仕上げることが合理的といえるかもしれません。未来を見据えながら、『2030年以降のオフィスビルはどうなるか?』『ウェルビーイングの次のキーワードは?』という問いの答えを模索していきます」(小林氏)。
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