共用会議室からサウナまで、入居者のウェルビーイングをサポートするオフィスビル
JPタワー大阪/日本郵政不動産
近年、新築オフィスビルに入居テナント専用の共有スペースを設け、付加価値を提供する動きがトレンドになりつつある。その事例の一つが、「JPタワー大阪」のオフィスサポートフロアだ。JPタワー大阪は2024年3月に竣工、JR大阪駅に新設された西改札口や歩行デッキ、西梅田方面へつながる地下通路に直結する大型複合ビルである。商業施設・ホテル・劇場・オフィスの連携により、地上と地下の両方で回遊性が格段に向上している大阪駅周辺にさらなる賑わいをもたらすJPタワー大阪のオフィスサポートフロアが入居者にもたらす価値とはどのようなものか。日本郵政不動産 開発本部 鈴木 聡氏に伺った。
サポートフロアで「出社したくなるオフィス」を目指す
日本郵政不動産でオフィスビルの入居テナント専用スペースを充実させる取り組みは、遡れば東京のJPタワー(2012年竣工)から始まり、JPタワー名古屋(2015年竣工)で本格的に導入された。「自社ビルにサポートフロアを用意しているケースは多いですが、マルチテナントビルでの事例はまだ少ないと思います。日本ではJPタワー名古屋が先駆けといえるかもしれません。名古屋での取り組みも好評でしたし、昨今の共用部充実のトレンドに合わせて、JPタワー大阪では名古屋を超えるような共用部づくりに取り組みました」(鈴木氏)。
「選ばれるオフィスになるために、充実した共用部があることは重要だと思います。コロナ禍以前からもそのような発想はありましたが、コロナ禍を受けて拍車がかかりました。当初、会議室と食堂を同じフロアに設ける予定でしたが、コロナ禍での働き方の変化を受けて個室ブースなどの機能を充実させるため、会議室と食堂は別のフロアに設けることにしました。また、サウナ、フィットネスルームなどワーカーの心身を整える機能も加えた結果、より大規模なものになりました。オフィスに出社しなくてもいいという考え方もあるなかで、『出社したくなるオフィス』を意識しました」(鈴木氏)というサポートフロアについて、以下で詳しく紹介していく。
共用会議室の充実で40~1,200坪の多様な規模のテナントに対応
JPタワー大阪のサポートフロアは主に、共用会議室エリア「SESSION」(17階)、食堂・サウナ・屋上庭園などを備えた「ReSORT」(9階)、ラウンジ「倶楽部 梅三」(8階)で構成される。いずれも入居テナント専用で、うち予約が必要なスペースは入居者専用サイトから予約する。
17階の共用会議室エリアは、約1/5フロア(約200坪)に大小さまざまな会議室15室と個室ブース18台が用意されている。「みんなで楽しみながら打合せができる空間というコンセプトで、SESSIONという名前は『ジャズセッション』『ジャムセッション』などの『セッション』に由来しており、各会議室にはアルファベット順に音楽にまつわる場所のネーミングをしています」(鈴木氏)。
「基準階は分割して最小約40坪から貸し出しており、SESSIONを活用することで専有部を小さく抑える借り方も想定しています。一方で、フロア単位で入居し、余裕のある専有部に自社でファシリティを充実させているような大規模テナントのワーカーも、気分転換にSESSIONで働くなど有効に活用いただいています。40〜1,200坪のさまざまな規模感のテナントが入居できることがこのビルの強みですので、いろいろなテナントのニーズに対応できるようにしています」(鈴木氏)。
食堂・サウナ・屋上庭園を回遊してリフレッシュ
9階の「ReSORT」は、食堂・屋上庭園・サウナを「くるくると歩きながらリフレッシュしてほしい」という意図から曲線を多用した回遊性の高いデザインになっている。「Re(再)SORT(整う)という名前のとおり、ワーカーがここに立ち寄ることで心身が整う空間です」(鈴木氏)。
食堂は、JPタワー名古屋での稼働状況を参考に、什器の幅や並ぶスペースなどに余裕を持たせたほか、オペレーションや導線を工夫して快適性を高めた。会計時にはトレーを置くだけで食器の裏についたチップが自動認識されるため、スムーズに支払いが完了する。また、西日本ではまだ珍しい無人コンビニも設置しており、カメラを通して遠隔で年齢確認を行うことでタバコの販売もできる。
食堂の先には約1,500㎡の屋上庭園が広がっている。「リフレッシュのほか、散歩会議など、コミュニケーションの場としても利用していただければ。ウェルビーイングの実現や入居者同士のコミュニケーションを誘発するねらいで月1回程度で実施している従業者向けイベントにも利用していきます」(鈴木氏)。
充実したサポートフロアのなかでも一際珍しいサウナについては、「東京の神田で訪れたサウナが平日の昼間でも賑わっているのを見て需要を感じ」、導入された。「働き方が柔軟になってきているので、オフィスビル内にあれば昼休みのリフレッシュにも使ってもらえるのではないでしょうか」と鈴木氏は話す。男女別にサウナ(定員4名)、アイスルーム、シャワーがあるほか、フィットネスも併設されており、1時間500円で利用できる。
採用面接や商談など、多様なシーンで使える異空間なラウンジ
社交クラブをイメージしてつくられた「倶楽部 梅三」は、約100坪のバーカウンター付きラウンジで、重厚かつ高級感あふれる雰囲気が特徴だ。
「JPタワー名古屋で、ドアを開けた瞬間に異空間の広がるラウンジは特にご好評いただいたので、大阪ではもっと驚いてもらえるような異空間を目指しました。接待や社内のコミュニケーションによく利用されています。仕事終わりに『ちょっと梅三行く?』と誘いやすいので、私自身も上司などと利用しています」(鈴木氏)。アルコールの提供は17時以降で、日中も採用面接や商談などいろいろな使われ方がされている。什器のうち窓側の半分は動かしやすいものを中心に設置しており、立食パーティ等のイベントにも便利だそうだ。
選ばれるオフィスは入居者が満足するオフィス
サポートフロアを計画するにあたっては、今回実現しなかったアイデアも含め、ワーカーが楽しめる工夫を様々に検討したという。「月1回のイベントも、入居者の方に楽しんでもらえるように、という想いで開催しています。これまでに、ワインセミナーやビールの試飲会を実施しました。今後は朝ヨガイベントやビアガーデン、屋上庭園に大きなスクリーンを用意して行う映画鑑賞イベントなどを計画しています。サポートフロアがあることを理由に入居を決めたテナントもいますし、入居率やスペースの稼働率が上がるなかでも引き続き、お客様のニーズに応じて日々改善していきたいと思っています」(鈴木氏)。
「ウェルビーイングを感じながらいきいきと働ける環境が、『出社したくなるオフィス』という付加価値になると思っています。こうした取り組みにより入居者に満足してもらえることは今後のテナント誘致につながります。実際にJPタワー名古屋を気に入って大阪の入居を決めてくださった企業もあります。これからのオフィスはビル全体、ひいてはエリア全体でワーカーや企業をサポートするトレンドが鍵となっていくでしょう。今後建設予定のビルでも共用部を充実させたオフィスを検討したいです」(鈴木氏)。
関連記事
【WORKTREND㉟】センサ技術でよりよい職場へ。非言語情報を生かし、セレンディピティを誘発する
荒川豊/九州大学 大学院システム情報科学研究院 教授
進化したセンサ技術を用いて働く環境をどのように改善できるか、センサ技術の最先端に携わる専門家に話をうかがった。
【WORKTREND㉜】顔見知りが増えコミュニティが育つ。リアルな空間に集まる価値とは
平田美奈子/CIC Tokyo ゼネラル・マネージャー
企業のオフィスが「訪れる価値のある場所」であるためには何が必要なのか。コロナ禍中でも多くの入居者を引き付けてきたシェアオフィスからヒントを探る。