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考え抜かれたインフラとカルチャー浸透。成長企業の人的資本経営を支えるオフィス

マネーフォワード

「人的資本経営」の考えが広がり、社員への投資を積極的に行う企業が増えている。一方で、働く人に影響を与えるはずのオフィス環境を、経営上の重要事項と捉える企業はまだ少ない。多くの企業では、オフィス戦略が総務部に丸投げされているのが現状だ。

2012年創業のIT企業であるマネーフォワードは、人材戦略においてオフィスが果たす役割を重要視し、社長直轄の全社横断プロジェクトとして本社オフィスのリニューアルを実施した。プロジェクトの背景や進め方、完成したオフィスを通して、成長企業にとってのオフィスの役割を考える。

新フロアに導入された「コネクトエリア」(提供:マネーフォワード)

人数5倍へ、変化の局面で求められたオフィスとは

マネーフォワードは2023年4月、入居していた東京・港区の本社オフィスを1フロアから2フロアに借り増し、既存フロアも含めてリニューアルを行った。

主な理由は組織の急速な成長だ。入居した2018年と比べ、リニューアル時点で人数は約5倍になっていた。特に2020年以降は、社会的なDX化の加速を受けて拡大戦略に舵を切り、新規採用を強化していた。また、コロナ禍を機にそれまでの完全出社からハイブリッドワークへと移行したことで、会社の規模や働き方とオフィスとの間にズレが生じていた。

プロジェクトには人事、デザイン、カルチャーなどの担当者を含む全社横断チームで臨み、中心的な役割はIT部門にあたるCIO室(当時)が担った。要件整理から不動産会社との交渉、人員計画に基づく設計、工事管理など、一般的には総務部が担うような実務全般をIT部門が取り仕切ったのは、ネットワーク環境などのハード面の改善を重視したためだ。

「コロナ禍で出社時にリモート会議を行う人が増え、ネットワークの弱さや、リモート会議用のスペース不足が社員から不満の声として上がっていました。IT企業は人が価値創出の源泉であり、働く環境の良し悪しは業績や組織の成長に直結します。せっかく出社しても自宅より働きづらい、という状況を早急に改善するためには、通信などの知識を持つCIO室が主導するのが効率的でした」と、CIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)としてプロジェクトを牽引した現Workplace本部 本部長の高野蓉功氏は振り返る。

Workplace本部 本部長 高野蓉功氏

ハイブリッドワーカーに最適なインフラを整備

社長を含む全社横串で「今の経営フェーズに必要なオフィス」を議論した結果、リニューアル後のオフィスはABWスタイルとなった。オフィス内にさまざまな機能のスペースを配置し、業務内容や気分にあわせて働く場所を自律的に選べる設計だ。当時の従業員数約2,000人、原則週1日出社の働き方をベースに、必要な席数や会議室数を想定していった。

特徴的なのは、6~10人ほどで使える「チーム席」エリアだ。横並びに座る一般的な島形レイアウトとは異なり、楕円に近い有機的な形や互い違いに座る形のデスクを組み合わせ、顔やモニターを見せ合いながらチームで作業に取り組みやすい席が多数用意されている。

チーム席の一例。形や席数の異なるパターンが複数用意されている。

「組織成長にはチームで集まって議論することが大切だと考えていますが、増床前は席が足りず難しかった。出社したら確実にチームで集まれるよう、什器などのハード面はもちろん、運用面でも試行錯誤しています」と高野氏が話すとおり、予約システムによる予約制などを経て、現在は各部署・チームが何曜日に何席必要かをWorkplace本部がヒアリングし、曜日ごとにチーム席を割り当てる方法に落ち着いた。

個人単位のフリーアドレス席もあるが、たとえば営業とエンジニアでは求める静かさが違うため、チームごとにエリアを区切った方が使いやすいことも運用過程でわかってきたという。稼働状況などを鑑み、現在では執務スペースの約8割をチーム席が占めている。

喫緊の課題であったリモート会議環境については、CIO室が主導したネットワーク増強に加え、4~6名用の会議室や1on1用個室など、リモート会議にも使える大小60以上の個室を設けることで解消した。CIO室の観点は、会議室の予約システムやリモート会議用のカメラ付きサウンドバーなどの選定・導入にも活かされた。また、フォンブースや1名用の集中ブース、会話禁止のフォーカスエリア、オンライン配信用スタジオなどの多様なワークスペースが導入され、ハイブリッドワーカーに最適なインフラが整備された。

広角カメラで参加者全員を映せるリモート会議用のサウンドバーを、全会議室に導入。ハイブリッド会議でのコミュニケーションハードルを下げる狙いがある。
予約システムもCIO室が選定。Googleカレンダーと連携しており、会議室備え付けのタブレット上でも予約・キャンセルなどの操作ができるため、空予約や超過利用を防ぎやすい。
「MokuMoku」と名付けられた1名用の集中ブース。空いていれば予約なしで利用できる。

人を大事にすることは、働く環境を大事にすること

前述のとおり、マネーフォワードは社員を価値創出の源泉と捉え、人的資本経営を推進している。2023年度の決算期には人材戦略レポート「Talent Forward Strategy 2024」を公開し、オフィス環境や働き方についても情報を開示した。また、コーポレートサイトや採用サイトでも働く環境に関する情報を積極的に発信している。

「人材戦略においてはカルチャー(※)への共感を大切にしており、独立したカルチャー浸透の専門部署もあります。オフィスリニューアルの際にもカルチャー浸透を担う部門が『Connect』というコンセプトを決めました」と高野氏が話すとおり、オフィスは会社のカルチャーを表現する場でもあるという。「Evolution」「Fun」「Teamwork」といったカルチャーは新オフィスのデザインや運用面に落とし込まれ、そこで働くだけで自然と同社のカルチャーを体感できるような空間が志向されている。

※ 「Speed、Professional、Teamwork、Respect、Evolution、Fun」の6つ

新オフィスのコンセプトを象徴して新設された「コネクトエリア」は、社員同士の交流促進を目的としたオープンな空間で、同社の有価証券報告書でも紹介された。簡易なキッチンもあり、仕事はもちろん食事や休憩、イベントなど多目的に利用できる。また、場所を用意するだけでなく、18時以降はアルコールを含む飲料を無料提供したり、ゲーム感覚で相互理解を深められる質問カードを設置したりと、運用によっても社員交流を促そうとしている。

上:コネクトエリア。
下左:ビールなどを1日1缶無料で配布。(提供:マネーフォワード)
下右:質問カードはカルチャー浸透部門が作成したもの。オレンジ色は仕事、青色はプライベートに関する質問となっている。

採用においてもオフィスの役割は大きい。「オフィスに積極投資している理由は、人を大事にすることと働く環境を大事にすることがほぼ同義だと考えているからです。その姿勢や取り組みを発信することで興味を持ってくれた応募者もいます。また、内定した方には入社前にオフィスに来てもらい、オフィスが体現するカルチャーを感じてもらったうえで入社の判断をしてもらっています。そのおかげかはわかりませんが、入社後のギャップは少なく定着率も高いです」(高野氏)。

組織の成長フェーズにあわせてアップデート

リニューアルから1年半、社員の声を反映しながら運用を改善してきたこともあり、新オフィスの評判は上々だという。一方で、従業員数は2,400人に増え、週2日出社への体制変更もあった。用意した900席は再び不足しつつあり、現在新たな増床計画が進んでいる。

休憩用のリフレッシュスペースにサブモニターを設置し、仕事でも使えるようにしている。

「人員増加は折り込み済みで、段階的に拡大していく戦略でした。先に大きなオフィスを造り込むより、組織の成長フェーズに合ったオフィスをその都度考え、今後もアップデートを重ねていくと思います」と高野氏は語る。新フロアの具体的な計画はこれからだが、チームで集まる機能を重視する方針は変わらず、当面の人員計画にハイブリッドワーク前提で対応できる規模にするという。

また、マネーフォワードは東京以外にも国内7拠点、海外3拠点を開設し、地方や海外でのエンジニア採用を強化している。2023年の本社リニューアル後、オフィス戦略の専門部署として独立したWorkplace本部は今後、全拠点を統一的に管理し、働きやすさやカルチャー浸透といった役割を各オフィスで実現していくことになる。

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