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【WORKTREND㊵】「AIによる雇用喪失」と「高齢化による労働力不足」は相殺されうるか

仕事とワークスペースをメインテーマとする世界的な知識ネットワーク「WORKTECHAcademy」(ワークテック・アカデミー)では、グローバルトレンドを俯瞰する多彩な記事を発表している。今回はそのなかから、AIによる自動化が労働力不足を補う可能性に関して考察した、オックスフォード大学のテレンス・タン氏の記事を紹介する。

原文:Will AI fill the labour gaps caused by an ageing population?

テクノロジーの進歩は経済成長の原動力となる一方で、雇用喪失を引き起こす可能性もある。人間の仕事がテクノロジーに奪われることへの懸念は新しいものではなく、デヴィッド・リカードやジョン・メイナード・ケインズなど多くの歴史上の人物が指摘してきた。こうした懸念は今日も続いており、世界経済フォーラム(World Economic Forum, WEF)はAI(人工知能)によって8,500万人の雇用が失われるリスクがあると推定している。

同時に、世界の人口は高齢化し、世界保健機関(WHO)によると生産年齢人口に占める高齢者人口の割合は増加し続けている。この傾向は今後も続き、多くの国で労働力の減少につながると予想される。

高齢化による労働力減少と、自動化による潜在的な雇用喪失。これら2つの現象を勘案すると、当然次のような疑問が生じる。高齢化の影響を受ける国々では、自動化によって労働力不足が補われることを期待してよいのだろうか。

高齢化した職業ほど自動化されづらい?

本稿ではその疑問に答えるため、オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授の指導のもと取り組んだ研究プロジェクトの成果を紹介する。

このプロジェクトでは、米国の2018年標準職業分類で定義された各職業における自動化と年齢分布の関係を調べた。その結果、2011年から2021年にかけて、65歳以上の労働者の増加率が最も高かったのは建設業と採掘業(増加率96.6%)であり、対して介護とサービス業では13.6%と最も低い増加率であった。55歳以上の労働者については、農業、漁業、林業で46.9%と最も高い増加率を記録した一方、生命科学、物理学、社会科学では3.7%の減少となった。予想通り、大部分の職業で高齢化の傾向がみられた。

さらに、各職業における55歳以上の労働者の割合と、その職業がコンピュータ化される確率との関係は、逆相関である可能性があることを発見した。この傾向の統計的有意性を保証するにはさらなる研究が必要だが、仮にこの関係が真実であるとした場合、より高齢化した職業は自動化されづらい傾向があるといえる。

これは管理職のような職業では理にかなっているように思われる。フレイとオズボーンは、管理職は高度な社会的知性が求められるためコンピュータ化のリスクが低いこと、また、管理職はより実務経験のある人に偏るため、年齢が高くなる傾向があることを指摘している。さらに、一般的に仕事が自動化されるリスクが低い高技能労働者は、低技能労働者よりも退職時期が遅い傾向があることを示す既往研究もある。

自然と相殺されることを期待すべきではない

我々の研究では、各職業における年齢分布と自動化可能性との間にはほとんどの場合、有意な関係が認められなかった。したがって各国政府は、自動化による雇用喪失が、高齢化による労働力不足を自然と相殺することを期待すべきではないだろう。我々は政府に対し、これらの問題に対処するため、より積極的な措置を講じることを推奨する。

ChatGPTやMidJourneyなどのAIモデルを生み出した技術進歩により、近い将来、失業が加速する可能性は高い。ゴールドマン・サックスは、世界中で3億の雇用が生成AIによる自動化の危機にさらされていると予測しており、その結果、多くの人が再訓練やリスキリングの必要に迫られるだろう。マッキンゼーのレポートでは、自動化とAIの影響により、2030年までに3億7,500万人が転職を余儀なくされる可能性があると推定している。ただし、この推定では高齢化の影響は考慮されていない。

とはいえ、楽観的な見方もある。世界経済フォーラムとPwCによると、AIは雇用の喪失をもたらす一方で、新たな雇用を生み出すことも期待されている。ゴールドマン・サックスPwCIBMの調査によると、急速に進歩するこのテクノロジーは、生産性の向上によって経済成長に大きく貢献するとも予測されている。

世界中の政府には、AIから得られる経済的利益を戦略的に活用し、高齢化する自国の人口を支えると同時に、高齢労働者のリスキリングに投資するまたとない機会が与えられている。このような二方面からのアプローチは、高齢化と仕事の大規模な自動化の影響をともに緩和するだけでなく、技術の進歩を受け入れる包括的で前向きな社会を創り出すことにもつながるだろう。

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