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【WORKTREND㉚】社員を惹き付けるオフィスの条件 グローバルトレンドからヒントを得る

「WORKTECH22 Tokyo」レポート

世界的な知識ネットワーク「ワークテック(WORKTECH)」のオンラインカンファレンスが2022年12月に開催され、不動産やテクノロジー、建築、デザインなどの有識者による最新トレンドの共有が行われた。多彩なスピーカーの中から、ワークプレイスの未来を示す2名の講演を抜粋して紹介する。

オンラインで講演するジェレミー・マイヤーソン氏(画面右上)

オフィスの「ソーシャル価値」の重要性高まる

ワークテックアカデミー理事のジェレミー・マイヤーソン(Jeremy Myerson)氏は、ハイブリッドワークへの移行過程でみられている企業の対応と、ワーカーの心理、それらを踏まえて今後ワークプレイスが目指すべき方向性について語った。

「働く場所と時間のフレキシビリティへの志向は世界的な傾向で、背景にはいくつかの要因があります。気候変動、少子高齢化、DX(デジタルトランスフォーメーション)などのほか、仕事から何を得たいかという価値観の見直しや、ウェルビーイングへの配慮など非常に多くのシフトが起き、それらがオフィスの価値を変えています。

2006年に英国政府はオフィスの6つの価値を示しました。コモディティ商品として売買できるという点での『交換価値』、オフィスビルの生産性からみた『用途価値』、企業イメージや評判に貢献する『イメージ価値』、ポジティブな相互交流を起こす場としての『ソーシャル価値』、環境負荷を軽減する『環境価値』、シンボル・審美感といった『文化価値』です。

これら6つは今もすべて重要ですが、なかでもパンデミックで重要性が顕著になったのが、『イメージ価値』『ソーシャル価値』『環境価値』の3つです。特に社会的なつながりやネットワークを強化するオフィスの『ソーシャル価値』は、在宅勤務の増加とともに重要性が高まりました」。

ハイブリッドは「双方の最善」か「双方の最悪」か?

「この新時代への対応に多くの企業が取り組んでいますが、進み具合にはバラつきがあります。我々が作成した図をご覧ください。縦軸は企業のシステム統合の進み具合、具体的にはDXとオフィス再設計のレベルを示し、横軸はハイブリッドワークの受容度を示しています。多くの企業は両軸とも低い傍観者タイプに分類されます。新しいテクノロジーやオフィスの再設計に投資せず、様子見を続け、なかには従業員にオフィス出社を強要している企業もあります。

企業の取り組みの特徴による4分類(WORKTECH Academy / Brivoを基にザイマックス総研作成)

また、DXとオフィス再設計には積極投資しているものの、ハイブリッドワークには消極的な回帰者タイプは、従業員のデジタルワーク体験を高める代償としてオフィス出社を要求します。JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスが採用した戦略です。放浪者タイプはその逆で、当初からハイブリッドワークを受け入れつつも、必要なDXやオフィスの再設計には取り組まず、ワーカーに選択肢を与えないまま見切り発車した企業です。システム統合とハイブリッドワークの両方を採用し、ワーカーのフレキシビリティを高めた革新者タイプと呼べる企業はまだ多くありません。

革新者タイプの企業例として、2022年4月に新オフィスを稼働したレゴがあります。彼らはハイブリッドワークを『双方の最善(Best of Both)』と呼び、週3日はオフィスで働くよう従業員に求めました。そのうえでオフィス面積の3分の1を料理教室やスポーツ、音楽演奏などに参加できるソーシャルスペースにし、リモートワークでは得られないオフィスならではの体験を提供しています。

一方、米国イェルプ社のCEOはハイブリッドワークを『双方の最悪(the worst of both worlds)』と呼んで完全リモートワークに移行し、ワーカーがオフィスを一日単位でレンタルできるホテリングモデルを導入しました。このように企業は今、オフィス回帰、完全リモートワーク、ハイブリッドモデルなどさまざまな戦略へと移行しています」。

「静かな退職(Quiet Quitting)」への対抗策

「ワーカーも変化への対応に苦心しています。ユニスペース社の調査*によると、欧州では64%のワーカーが、通勤費用の捻出(編注:自腹が一般的)や家族のケア、オフィス環境の悪さなどを理由にオフィスに戻りたくないと考えていることがわかったのです。また、パンデミックの当初には多くの人が退職したり、都市から地方に移住したりする動きがみられましたが、今起きているのは『静かな退職』と呼ばれる現象です。実際に辞めるわけではないけれど特に頑張りはせず、生活のために必要最低限だけ働く人が増えています。組織の士気や生産性に影響を及ぼすのは言うまでもありません。

  • Unispace『The Reluctant Returner』

対抗するにはワーカーエクスペリエンスの管理と、組織構造の抜本的な見直しが必要です。IT、人事、総務といった旧来のサイロ的発想から脱却し、ワーカーの体験価値や満足度を考慮した統合的なアプローチが求められます。ワークプレイスを再考するうえでも、ワーカーを個性豊かな個人とみなし、異なるニーズを意識してデザインすべきです。オフィスに行く目的や求める価値は人それぞれ違います。ワーカーはワークプレイスの消費者であり、セールスポイントを訴求すべき対象なのです。

組織のリーダーは、メインオフィスが『企業ブランドにとってフラッグシップの役割を果たしているか』を問うべきでしょう。こうした新しい考えのもと、人々を磁石のようにワークプレイスに引き寄せる新しい役職(ホスト、キュレーター、ブロードキャスターなど)も生まれています。小売業における旗艦店が、SNSなどを介してブランディングに活用されるのと同じことです。

ワークプレイスの設計において物理的な安全性や快適性はもちろん大切ですが、より高い次元を目指さなければなりません。アイデンティティや帰属意識の醸成、ウェルビーイング、関係構築、生産性向上などを支援するデザインに移行すべきです。そのための高度なデジタルデータ活用において、不動産業界は遅れをとっています。オフィスを単なる入れ物とみなす発想を捨て、人の感情と体験を重視し、持続可能でスマートなワークプレイスを創出できるか否かが大きな課題となっているのです」。

出社する理由は「ネットワーキング」と「体験」

マイヤーソン氏が示した「人中心の魅力的なワークプレイス」という方向性の、具体的なヒントを提示したのがアンワーク CEOのフィリップ・ロス(Philip Ross)氏だ。同氏は行く理由が明確化された先進オフィスの事例を紹介し、ポストコロナに求められるオフィスの要素を予測した。

自身の新著を紹介するフィリップ・ロス氏(画面右上)

「従業員の出社をルール化している企業もありますが、オフィスをマグネット化して自発的に来てもらう方がエキサイティングですね。レゴはこの好例です。行きたくなるオフィスの要素の一つがネットワーキング、つまり人が集まりつながる機能を備えること。もう一つはエクスペリエンスです。素晴らしい体験をしたいという人々の期待は大きなトレンドになっています。

これらの機能を満たす場の例として、セールスフォースが2022年、サンフランシスコから車で2時間半ほどの自然豊かな場所にオープンした宿泊施設が挙げられます。1度に200~300人の社員が訪れて食事や散策、ワークショップやキャンプファイヤーといった活動をしながら2日半ほどを過ごします。同社は年間1万2,000人がこの場所を訪れることを目標とし、普段はばらばらに働く社員同士が自然に交流する機会を創出しています」。

所属意識を感じられるサードプレイスの増加

「都心への週5日通勤がなくなったことは、都市の姿を再考する契機ともなりました。パリで考案された『15分都市』は、徒歩圏内に職・住・遊などの機能を集め、長距離通勤を避けて余暇を楽しむという考え方です。また、最近では『ポリセントリック・シティ(多極的な都市)』なる概念も生まれ、会社のオフィスは数ある目的地の一つにすぎないという考え方が広がっています。

選択肢の一つにすぎない場所に来てもらうにはどうすればいいのか。そのヒントがフレックスオフィスにありました。欧米では最近、作業スペースが確保できるだけでなく、所属意識を感じられるようなメンバーシップ型のサードプレイスが増えています。たとえば、音楽レーベルが運営する音楽業界人専用のコワーキングスペースなどです。我々は研究の一環でベニスにあるギルドの集会堂を調べました。同業者たちが集まる、いわば最初のメンバーシップクラブともいえる建物です。所属意識や仲間意識の醸成は、特定の場所に人を引き付けるための面白いアイデアだと思います。

それから、ここ数年はすっきりと洗練されたオフィスが主流でしたが、今また雑然としたワークプレイスへの回帰が起きています。ヒューレット・パッカードが創業したガレージや、ソニーが創業したデパートの一角のような、です。都市の単位でみても、密度の高さと多目的用途の複雑さが地区を活性化し、魅力を高める傾向がみられています。

ダイバーシティも依然もっとも重要な要素の一つです。新著では、これからのワークプレイスの象徴としてサンゴ礁を挙げました。サンゴ礁には多様な生物が棲み付き、互いにコラボレーションしながら共存する生物だけが生き残るという特徴があります。究極のダイバーシティとエコシステムです。これからのワークプレイスも同様に、ダイバーシティとエコシステムは必須要件となります。多様な人々の共存だけが成功を導くようになるのです」。

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