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【WORKTREND㉙】事例:オフィスは「エクスペリエンスプレイス」へ

富士通

富士通は2020年7月、働き方改革のコンセプト「Work Life Shift」を発表した。社員の仕事と生活を企業としてサポートし、ウェルビーイングの実現を目指すものである。その1年後、アフターコロナに向けて進化した「Work Life Shift2.0」の考えをもとに新オフィス「Fujitsu Uvance Kawasaki Tower」が完成。その役割や新オフィスでの取り組みを中心に、富士通のこれからの働き方・働く場に対する考えを、総務本部 ワークスタイル戦略室長 赤松 光哉氏にインタビューで伺った。

Borderless Officeで自律的に働く

富士通では「Borderless Office」という考え方に基づき、社員が目的ごとに働く場所を「Hub Office」「Satellite Office」「Home & Shared Office」から選べる働き方を推進している。

対面の場であるHub Officeは首都圏に4拠点あり、どの拠点のどのフロアで働くかも各個人がその都度目的にあわせて選ぶ。役員以外は完全フリーアドレスで、フロアの8割がコラボレーション用エリアで占められている。一方、ソロワークの場所としてはコロナ禍で在宅勤務が普及したが、「自宅に環境が整っていない」という社員もいるため、利尻島から石垣島まで全国のShared Officeを契約し、契約中の11社・約2,100拠点をまとめて検索できるシステムも自社開発した。Hub Officeと自宅の中間的な役割に位置付ける自社拠点内のSatellite Office「F3rd」は、セキュリティやネットワークの優れた場所として全国20拠点・約3,400席を整備している。また、働く場所の制約をなくすため、Hub Officeではペーパーレス化や個人ロッカーの廃止、郵便物をオフィスまで取りに来なくて済む運用のルール化などを徹底した。

このように働く場所を拡充してきた結果、Hub Officeへの出社率は2割程度(2022年10月時点)となった。コロナ禍の長期化にともない社員をオフィスに戻す企業もみられ始めているが、富士通では今後も社員に一律的な出社を求める予定はないと赤松氏は話す。「よく『アフターコロナの働き方』を問われますが、当社は当初より出社するのかテレワークで勤務するのかは、各組織、各社員が自律的に判断するように促しています。各自が最適だと判断した結果であれば、完全出社でも完全リモートでも構いません。ただし、自律と自分勝手は違いますから、チームや業務の状況を鑑みて判断してもらうことは大前提になります」。

社員の自律性を尊重した真のハイブリッドワークを目指すからこそ、Hub Officeには出社するメリットが必要となる。そこで目指したのが、ただ働くだけの場所(ワークプレイス)から特別な体験ができる「エクスペリエンスプレイス」への進化であった。

リアルコミュニケーションを楽しむ新オフィス

エクスペリエンスプレイスを実践する場として、2021年7月から新オフィス「Fujitsu Uvance Kawasaki Tower」が稼働した。ほぼ一棟借り(69,400㎡)のオフィスには現在グループ約9社の15,000人が登録されているが、登録者以外の富士通グループ社員ももちろん利用できる。今後新オフィスの登録人数は増える見込みだが、想定人数の3割(約6,000人)が出社しても無理なく働ける数のワークポイントを用意している。

また、他拠点でも重視してきた対面の場としての機能を強化し、1on1ミーティングなど機密性の高い会話や電話ができるボックス、従来拠点の4倍のホワイトボードなどを設置したほか、リモートでは体験できないコミュニケーションを増幅させる工夫をしている。「経営層との対話の場『タウンホールミーティング』は会議室の中ではなく、オフィスの真ん中で経営層を社員が囲み、さらにはテレワークをしている社員もリモートで見られるハイブリッドスタイルで実施しています。新人研修は専用施設ではなくオフィス内で行うことで、先輩社員を近くに感じながら研修を受けてもらうことができます。また、パートナー企業とのコミュニケーション促進も意識し、上階に『F3rdX』という社外向けサテライトオフィスを設けてパートナー企業とのタッチポイントを増やす取り組みも行っています」(赤松氏)。

F3rdX。富士通から独立した人やパートナーが利用可能。

新オフィスは、社員の挑戦的なアイデアを実証実験的に試す場にもなっている。「面白そうなアイデアが社員から上がっても、投資対効果やリスクなどを検討しているうちに風化してしまうことがあると思います。新オフィスではコーポレート部門が面白いアイデアを積極的に後押するようにしています」。例として、愛犬と一緒に働ける「ドッグオフィス」や配信もできるeSportsルームなどが「Fujitsu Uvance Kawasaki Tower」に設けられ、これまでにない特別な体験につながっている。

愛犬を連れてこられる「ドッグオフィス」(左)。
社内のコミュニケーションだけでなく様々な人との繋がりを期待するeSportsルーム(右)。

自社の最先端技術を使い倒す場所

また、新オフィスはさまざまな最先端技術を体験できる場でもある。「自社のテクノロジーを実際に体験し使い倒すことで、お客さまに製品の良さを実体験として説明できたり、新たなアイデアにつながったりすると考えています。フラッパーゲートや入退室、複合機の利用、食堂の精算など、館内のあらゆる認証は静脈認証に置き換えており、効率化、非接触、セキュリティ向上といったメリットを実感できます。静脈認証を利用したワンタイムロッカーは、預けた場所や鍵番号を忘れる心配がなくトラブル削減にもなります」(赤松氏)。

そのほか、富士通の拠点内の混雑度や誰がどこにいるのかをパソコン・スマートフォン画面上でどこからでも確認できる「EXBOARD for Office」やオフィス内にいる人がアバターに置き換わってデジタルツイン空間上に表示されるシステムなど、リアルとバーチャルの真のハイブリッドを実現するためのデジタル活用も進んでいる。

現在のオフィスの状況がデジタルツイン空間上で表示されるシステム。荷物の有無や滞在時間もわかる。

オンラインコミュニケーションでは社内SNSの活用が定着しており、グローバルで約13万アカウント(内8割がアクティブユーザー)、約2,000のコミュニティが稼働、業務上の情報共有やイベント開催のお知らせ、オフィス内の困りごと・相談、趣味の話などが盛んに行われている。富士通の歴史を紹介するコミュニティでは会社の歴史を知ることで愛着が増すなど、多様な効果があるという。このようにデジタルツールを積極的に活用することで、リアルオフィスに行かなくてもリモートでつながれる安心感を担保している。

ワーケーションで社会課題解決も目指す

「現在の課題は、コロナ禍ということもありますが、せっかく出社しても一日中ヘッドホンをしてオンライン会議をしたり個人作業をしたりする社員が多いこと。Hub Officeをコミュニケーションの場として、ドッグオフィスやeSportsルームのような新しいファシリティに挑戦しながら、社員が働く場の使い分けを上手くできるようにカルチャーチェンジさせることで景色を変えていければと思っています」(赤松氏)。

また、働く場所を多様化させる展開としては、ワーケーションの活用が進んでいる。国内のみ、移動費は自己負担、仕事とプライベートは切り分ける、といった簡単な決まりを守れば申請や許可なく利用可能で、現在は個人のレジャーや帰省に伴う利用のほか、チームビルドのためにも利用されている。今後は「ワークだけでなくライフの施策に注力するとともに、自社だけでなく地方自治体や社外の課題解決も目指します」と話すとおり、社員がワーケーション先で自らの副業や趣味を生かし、スキル向上や人脈づくり、さらには地方自治体のDX化への貢献などにも発展することを期待したいという。「ニューノーマルな世界を想定して新しいオフィスをつくりましたが、これからどうなっていくかは未知数です。マスクを外した後の世界を見極めながら、引き続き最適なオフィスと働き方を検討していきたいと思います」(赤松氏)。

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