WORKTREND

【WORKTREND㉗】事例:未来のオフィスは人が主役のパーソナライズドされたABW

NTTアーバンソリューションズ

2022年5月、NTTアーバンソリューションズとNTT都市開発はライブオフィスを開設した。予知されたという意味の"foreseen"と、"4つのSCENE"の掛け詞で「未来のオフィス 4×SCENE」と名づけられたとおり、設定された4つのシーン(INTRODUCTION/CASUAL/TEAM/FOCUS)ごとに、ワーカーにとって最適な環境を「予知」するオフィスを目指す実証実験の場となっている。実際にオフィスを見学し、同社が思い描く未来のオフィスや、それに向けた取り組みについて話を伺った。

オフィスは「意識的に向かう場所」になる

コロナ禍を経て、世の中ではテレワークとオフィス出社を組み合わせるハイブリッドワークが当たり前になった。NTTアーバンソリューションズでもリモートワークを基本としながら、それでも必要なオフィスの役割があると考えている。同社はアフターコロナのオフィスは「意識的に向かう場所」になると考え、特に、行動や目的だけでなく好みにより働く場所を選ぶ「personalized ABW」の考え方を提唱している。性格の違いや、どのような場所が落ち着くかなど、一人ひとりの好み、個性、特徴が尊重される新しい働き方だ。働く人がオフィスに行く目的として、コラボレーション(チームワーク、コーチング)、スペシャリティ・ワーク(ここでしかできない仕事、お気に入りの場)、ソーシャライゼーション(交流、刺激、学び)、エンゲージメント(人間関係、文化)をあげ、この目的を達成できることがワーカーにとって行きたくなるオフィスの条件になると考えている。この発想を落とし込んだのが「未来のオフィス 4×SCENE」である。

また、一般的に不動産の開発プロジェクトは事業スパンが長いため、事業スパンが短いデジタルの分野で、将来の街づくりのために実験しておくべきことを検討する場ともなっている。同社が目指す「人中心の街づくり」では、デジタルや空間は人の体験や暮らしをナチュラルに支えるものと位置付けている。

4つのシーンに対応させた実験的取り組み

街づくりと同様、このライブオフィスの特徴である最先端のデジタル技術は、あくまで人の体験や働き方を支えるものとして位置付けられている。

たとえば、エントランス付近には従業員の出社状況や混雑状況を表示したマップモニタが設置され、ワーカー同士の出会いを自然にサポートする。表示される情報はビーコンと地磁気で取得しており、各自のスマホからも確認可能だ。オフィス内でのカジュアルなコミュニケーションや交流を促すために、時間帯や場所ごとに空間になじむBGMやサーカディアンリズムを考慮した照明制御を採用している。

また、大人数のウェブ会議などで、リモートで働く従業員とのコミュニケーションをよりシームレスなものにするため、PSZ(パーソナライズドサウンドゾーン)技術の実証実験が行われている。独自に制作したヘッドホンにより、周囲で他の人が会話をしていても自分の声だけをウェブ会議の相手に届けることができる。スピーカー部分は直接耳に触れていないながらも相手の声が自分にだけ聞こえる仕様になっており、オンラインとオフラインの両方のコミュニケーションを円滑にする。

一方、緑豊かな会話NGのエリアには、囲いのある椅子や昇降デスクなどの多様なファシリティのほか、声量を検知して色が変わるランプなどを設置しており、1人での集中業務が快適に行える。

PSZ技術の実証実験で使用しているヘッドホンを備えた椅子(左)
声量を検知し、黄色や赤に変化するランプ(右)

そのほか、配信でのコミュニケーションを円滑にするためのスタジオ機能や、発電ガラス、会議をラップアップすべきタイミングを照明で知らせる仕掛けなど、実験的な取り組みが随所に散りばめられている。ウェルビーイングを意識したものも多く、ランニングマシーンとデスクが組み合わさったウォーキングデスクでは歩きながら働くことができる。歩くことで覚醒度が高まることが期待でき、リフレッシュのため15分程利用する従業員もいれば、2時間歩き続ける従業員もいるという。瞑想室は茶室を意識した低い入口を通ることで気分が切り替わり、光、香、ミスト、音の演出のなかで瞑想ができる。演出には「集中」と「気づき」の2タイプがあり、心拍や呼吸などのバイタルデータから算出した瞑想スコアをもとにウェルビーイングのためのアドバイスを行っている。

また、将来的に必要な機能やゾーニングが変わる可能性を顧慮し、オフィス内のフレキシビリティを重視している点も特徴的だ。家具の組み合わせで空間を作り込んでいるため、レイアウトは容易に変更できる。会議スペースでは仕切りにカーテンを使用することで、収容人数の増減に対応しやすいうえ、近くを通った人が音漏れを聞いて会話に加わることなどが想定され、限られたスペースで効率的にコミュニケーションをとるための工夫にもなっている。

収集したデータから最適を予知する

このライブオフィスを稼働しながらデータを収集し、生産性向上やウェルビーイング実現を目指して、従業員に働き方をレコメンドする独自の仕組みを構築していく。収集するデータは、電気の使用量や温度・湿度等の室内環境をはじめ、従業員の行動履歴やストレス情報などさまざまだ。瞑想スコアやコーヒーサーバーから得られる購買情報などもその一つである。従業員の位置情報やスペースの予約状況などから、その日出社すべきかどうかや、オフィス内のエリアの使い分け方、瞑想でリフレッシュするタイミングなど、一人ひとりの好みに合い、なおかつ目的が達成できる働き方をレコメンドする。

現在は、どういったデータが生産性やウェルビーイングの指標になるのかを含めアンケートをとりながら検討している段階であり、今後も実験を重ね、利用するデータやレコメンドの仕組みはブラッシュアップされる。たとえば、今はオフィス内を走るロボットに指示を出せば必要な飲み物を持ってきてもらえるが、将来的には多様なデータからロボットがワーカーのストレス状態や好みを感知し、必要なタイミングに好みの飲み物を運んでくるようなサービスも想定している。また、一人ひとりに快適な空調環境を提供する個別の気流制御装置も、現在は自身でスマホから調整する必要があるが、それぞれの好みや体質に合わせて自動制御される未来もあるだろう。会議のラップアップのタイミングを知らせる仕掛けも、会議室の予約状況データをもとに時間で管理するだけでなく、効果的に活用できるデータがないか模索している。

ロボットはドリンクを運ぶだけでなく、リモート勤務者の目として
オフィスにいる人とのコミュニケーションも可能(左)。
個別の空調環境を提供する気流制御装置(右)。

データの収集にあたっては、どこまで収集してよいかという個人情報との線引きも検討すべき課題だ。目的は従業員を監視することではなく、快適なオフィスで喜んでもらうことという前提を意識しながら落としどころを探っていく。そして、「未来のオフィス 4×SCENE」での取り組みを通じて培われる快適な働き方と効率的なオフィス運営を支えるノウハウは、未来のオフィスや街づくりに応用していくという。

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