【WORKTREND㉕】事例:淡路島への本社機能移転、移住社員の仕事・生活・キャリアを支える工夫
パソナグループ
2020年秋、パソナグループは本社機能の一部を兵庫県淡路島へ段階的に移転することを発表した。コロナ禍で多くの企業が働き方や働く場の見直しに奔走するなか、大きな話題を呼んだが、発表から間もなく2年、実際に淡路島に移住した社員はどのように働いているのだろうか。執行役員グループHR部長 細川明子氏にインタビューを行った。
新入社員ほぼ全員が淡路島勤務、変化に強い人材育成を
淡路島への移転には3つの目的がありました。まず1つはBCP対策です。コロナ禍も後押しになり、あのタイミングでの発表となりました。2つ目は真に豊かな働き方・生き方を創造すること、3つ目が新産業の創造です。コロナ禍による景況悪化のなか、地域に根付いた夢のある新産業を創造し、雇用を生み出すことがパソナグループの役割だと考えています。そのため、移住して事業を起こすだけでなく、島内の採用(UIJターンの促進)にも取り組んでいます。
現在までに約350名の社員が淡路島に移住しました。本部機能の移転にともない社命により移住するメンバーもいますが、公募に自ら手を上げて移住するメンバーもいます。チャレンジしたい仕事はもちろん、5~10分程度の通勤時間や安価な家賃で広い住まい、安心で豊かな食材、海も山もある環境で子育てができることなどのメリットに魅力を感じる方が多いのだと思います。驚いたのは、「ご主人の転勤に奥様が帯同する」ケースが一般的だろうと思っていましたが、「ご主人が奥様に帯同する」ケースもみられたことです。ご主人がフルリモートで働けるご家庭もあれば、家族でどのような環境で生きていくかを考えた結果、ご主人が仕事を辞めて淡路島への移住を選択したご家庭もありました。
移住といっても、ずっと淡路島で働くのではなく、一時的なキャリアとして考えている社員も多いと思います。当社はベンチャーから始まりさまざまな社会課題に応じて変革してきた会社ですから、今後も新しい事業を展開していきます。そのような変化のなかで一人ひとりが自身のキャリアを考えるにあたり、そして、企業としては人材育成の観点からも、一定期間でキャリアチェンジをしながら個人の夢や志に近づけるキャリア構築を支援したいと考えています。
また、「社会人としての礎を築くファーストステップとして、若いうちから心豊かに人間力を培える環境で育成したい」という人財育成方針のもと、2022年度の新入社員の約100名はほぼ全員を淡路島が業務拠点となっている部署に配属しました。同年の新卒採用からは、激しい変化のなかでも自立して主体的に生きていける強い人材を育成することを目的に、1年目から配属先の業務以外のキャリアにチャレンジできる「ハイブリッドキャリア採用」という新制度を導入しています。淡路島での農業事業など、これまでパソナグループが取り組んできた事業を活用したカリキュラムを用意し、まずは社内で仕事と教養の両方を学んでもらうことでハイブリッドキャリアの構築をサポートする制度です。業務の遂行だけでなく、和太鼓やタップダンスなどの文化に触れながら教養を身に着けるとともに、チームビルディングを学び、豊かな人格が形成されていくことを期待しています。
オフィスをつくるだけではなく生活全体をサポート
BCPの目的もあったことから、ほとんどの部署が東京と淡路島の2拠点体制をとっており、私が所属する人事部門も両方にメンバーがいます。各チームに淡路島で働くメンバーと東京のメンバーが混在しチーム連携するアメーバ組織のような状態で、リモートコミュニケーションを活用しながらも、対面でのコミュニケーションのために首都圏と淡路島を行き来することもあります。コロナ以前に出張のあり方を一度見直し、オンラインとリアルを効果的に使い分けるよう整理したのですが、今も同じ考え方で、たとえば月2回の経営会議は、経営層が直接現場をみるためにも淡路島に集まって行われます。私も1週間おきに淡路島と行き来していますが、出張者用の社宅をシステムで予約して宿泊できるので、オフィスの近くを予約すればわずか30秒で職場に着きますし、グループの家事代行会社が清掃してくれるのでスーツケース一つで気軽に出張できます。仲間とともに淡路島のおいしい料理を食べることでリフレッシュにもなります。
現在島内には11のオフィス拠点がありますが、島外から通勤する人の多くはバスを利用するため、北部のバス停に近い拠点を設けています。また、洲本や南淡路からも通えるように島の中央あたりに拠点を設けるなど、アクセスのしやすさも考慮して展開しています。もちろん淡路島内でのテレワークも可能で、在籍する拠点は部署ごとにある程度決まっているものの、部門間で顔を合わせて打ち合わせをするなど、拠点間を自由に行き来しながら働きます。在宅勤務も認めていますが、東京に比べてオフィスも混みあっていませんし、快適な車通勤が可能なので在宅勤務をする人は少なく、お子さんのサポートやご家庭事情など必要に応じて活用しています。
淡路島で働くことを支えるためには、単にオフィスを設けるだけでなく、ひとり親家庭をはじめ働きたいと願う方々に対するサポートや、交通インフラ整備なども欠かせません。たとえば育児面では、託児施設併設の「パソナファミリーオフィス」が人気です。保育の需要が高く、お預かりするお子さん(保育園児と小学生)は50~60人にまで増えています。ファミリーオフィスが手狭になってきているので、近くに新しくオフィスを設け、保護者がお子さんの近くで安心して働ける環境づくりを整えています。教育面ではアフタースクールとして、社員の特技を活かしたバレエや空手、レゴ教室などを開催しているほか、この春からはインターナショナルスクールと提携しました。充実した教育環境は移住の後押しにもなっていると思います。生活サポート面での直近の課題は、移住する社員数に対して住宅の確保です。
交通インフラの面では、アプリで社有車を予約できるカーシェアの仕組みや、一部会社負担し休日にも生活の足として利用可能なカーリースの制度を整えました。また、社宅近くにバス停を設け、社宅とオフィス拠点をつなぐ周回バスも用意しています。バスの運用にあたっては、必要に応じて本数の調整が頻繁に行われることや、忘れ物の問い合わせのような細かい連絡が多いといった課題がありましたが、社内のリスキリング研修を修了した社員が提案・開発したアプリで解消しました。いまでは遅延したバスがどのあたりにいるのかも一目で確認できますし、オフィス拠点や住まいのエリアが増えていくなかで頻繁に更新される運行スケジュールも簡単に把握できるようになりました。
チャットルーム「淡路連絡網」で生まれるコミュニティ
淡路島を含め、働く場所が多様化したことで、マネジメントやコミュニケーションの工夫が必要になりました。職種や業務特性に沿って対応できるよう細かいルールは決めてはいませんが、チャットツールを使って勤務状況をこまめに報告するようにしたり、「雑談」や「ちょっとした会話」ができるようにランチタイムをリモートでつないだり、進捗確認としてオンライン上でも毎日顔を合わせるようにしたり、それぞれが工夫しています。コロナ禍で対面コミュニケーションが制限される懸念がある半面、オンライン上のコミュニケーションはどこにいても様子が見え、参加しやすいというメリットがあると思います。
淡路島のコミュニケーションで特徴的なのは、誰でも自由に入れるチャットルーム「淡路連絡網」です。今日(2022年6月)の時点で904人が参加しています。ここでは「●月●日にビーチクリーンをやります!」「○○体育館でバスケしませんか?」「マラソン大会に参加しませんか?」といった声掛けが盛んに行われ、若者からシニア、外国籍の方など所属も年代も違うメンバーが、時にはご家族連れで集まるきっかけになっています。もともと当社には「向こう三軒両隣」や「互助」を大切にする文化がありましたが、社員が自発的に行動し、今まで以上に層の厚いコミュニティができています。外国籍のメンバーも多いので、日本語のサポートや日本人メンバーの英会話スキル向上にもつながっています。また、コロナ禍では外食の機会も少なくなりコミュニケーションが希薄になりがちですが、社員同士が近くに住んでいることでご近所のコミュニティが生まれ、ケガや病気などのトラブルがあっても支え合えるようなあたたかい文化ができていると感じます。
淡路島から日本全体へ
淡路島への本社機能の移転は地方創生・雇用創造のモデルケースの一つと捉えており、今後はこういった取り組みをほかの地方にも拡大していければと考えています。2025年までに1万人の雇用創出を目指し、介護や育児などとの両立をはじめ、多様なライフスタイルにおいても持続可能なキャリア形成、生活と仕事を両立させながら自己実現できる環境づくりを目指してまいります。
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