WORKTREND

【WORKTREND⑪】コロナ禍にみられる企業のワークプレイス戦略

ワークプレイス戦略見直しの必要性が高まる

周知のとおり、新型コロナウイルスの感染拡大は従来の働き方を大きく変えた。なかでもテレワークの急速な普及により、これまで企業が検討してきた「オフィス戦略」は、オフィス以外の場を含めた「ワークプレイス戦略」へとフィールドが広がり複雑化している。ザイマックス総研が2021年1月に実施した調査でも、8割以上の企業が「ワークプレイス戦略についてコロナを機に重要性や見直す必要性を感じた」と回答しており、コロナ禍で多くのワーカーがテレワークを経験したり、各企業でオフィス出社率を定めたりしたことが、オフィス以外の働く場についてあらためて検討する契機となったと考えられる。全員が毎日出社する働き方は当たり前ではなくなり、ワークプレイス戦略を見直す必要性が高まっている。

一方、4月に行った調査では、ワークプレイス戦略見直しの取り組み状況として「着手していてうまくいっている」と回答した企業は少数派であり、過半数の企業がいまだ模索段階であるという結果も明らかになっている。

【図表1】ワークプレイス戦略見直しの取り組み状況

オフィスの目的を再定義する

コロナ禍で多くの企業がテレワークを経験し、通勤時間・コストの削減といったメリットやオフィスにいなくてもできる仕事があることに気付かされた。なかにはオフィスを持たない企業も現れ、「オフィス不要論」が浮上するなど、その存在はインパクトを与えた。しかし、業種や社員全員がテレワークになじみフルリモートを選択できる企業は一握りであり、ほとんどの企業はオフィスに出社する働き方を継続し、オフィスとテレワークを使い分けている。メインオフィスで構築したチームワークはテレワークをより円滑にし、テレワークの柔軟な働き方は全体の業務を効率化させるだろう。今後は出社とテレワークのハイブリッドな働き方が主流になると考えられる。

オフィスでなくても仕事をこなせるとなれば、オフィスに出社するタイミングは何か特別な目的や理由があるときに限られる。ハイブリッドな働き方を前提に、オフィスを残す選択をした企業は、あらためて「オフィスとは何か?」を考え、オフィスを整備する目的を再定義することになるだろう。オフィスの役割も見直され、テレワークでは実現しがたいこと、具体的には「従業員のコミュニケーション活性化」や「企業文化の発信、共有」「テレワークのサポート」といった役割が今まで以上に重視されると考えられる。これらの役割を果たすオフィスにすべく、オフィスの機能や面積、拠点数、立地などからワークプレイス戦略を再構築する必要がある。
ニューノーマルのオフィスに求められる機能としては、たとえばセミナーや社内広報といった1対複数のコミュニケーションにおいて配信形式が広まったことから、オフィス内に簡易な配信スタジオを設けるニーズが生まれている。また、リモート会議の定着により、リモート会議専用の個室やブースを整備した企業も多いだろう。ほかにも、ワーカー同士のインフォーマルな対面コミュニケーションを誘発するためのマグネットスペースやカフェスペース、偶発的な出会いを促すようなレイアウトや動線設計も求められるだろう。

企業ごとにデザインされたハイブリッド

ひとくちにハイブリッドな働き方といっても、その内容は企業ごとにさまざまである。なかでも、ハイブリッドな働き方を実現する一つの手段として、テレワークの場所に従業員の自宅以外にサテライトオフィスを整備する動きが近年注目されている。在宅勤務では同居家族や自宅環境が障壁になる場合があるが、従業員の居住地からアクセスしやすいサテライトオフィスを設置すれば、通勤時間削減などの在宅勤務のメリットを損なわず、快適なオフィス環境を提供可能だ。また、自宅とは別に複数の選択肢があることで、その時々の都合に合わせて働きやすい環境を選べる。企業にとっても、従業員の生産性や働きやすさを担保できるだけでなく、BCPの観点や、短期プロジェクトなどでもフレキシブルに利用できるといったメリットがある。サテライトオフィスを積極的に活用する企業の例として、NECグループでは、本社ビル内に社員向けコワーキングスペース「BASE」を設けるほか社内外にサテライトオフィスを整備したり、外部のサテライトオフィスサービスを利用したりして、従業員が働く場所の選択肢を多く用意している。

NEC本社ビルに設けられた社員向けコワーキングスペース「BASE」。現在は玉川事業場、府中事業場にも拠点展開している。

また、在宅勤務やサテライトオフィスを利用して従業員の働く場所は分散させながらも、集まる場所として自社で構えるメインオフィスは統合するケースもある。点在する拠点をまとめることでコストカットになるほか、それまで異なる拠点・フロアを利用していた人が顔を合わせるようになることで、部門をまたいだコミュニケーションの創出が期待できる。メインオフィス統合の例として、LIXILグループは、新しい働き方のなか従業員が集まる場所として、都内のグループ拠点23カ所を段階的に本社に統合する。従業員同士の連携を強化し、生産性の向上につなげる。一方で、サテライトオフィスの利用等を含めて引き続きテレワーク活用は推進していく意向を示している。

サテライトオフィスを利用した拠点の分散だけでなく、本社機能を地方に分散させる動きもある。たとえばパソナは、東京の本社機能を淡路島に分散させると発表して世間の注目を集めた。BCP対策だけでなく、地方創生の意味合いもあるようだ。そのほか、ジンズも東京の本社機能を前橋市の拠点に一部分散させて災害時に備えるとしている。

オフィス面積、半減させる企業から3倍にする企業まで

前述の通り、オフィスに必要な機能は見直されるため、全員出社を前提としないハイブリッドな働き方では1人1席確保する必要はなくなった。そのため複数の企業で、テレワーク実施時の出社率を一つの目安に、執務席数やオフィス面積を削減する動きが登場している。代表的な企業の例として、富士通では新しい働き方の推進に向けてオフィスを見直す過程で、2022年度末までにオフィス面積を半減させると発表した。そのほか、ENECHANGEなど、ハイブリッドな働き方で執務席を効率化することにより、オフィス面積を戦略的に縮小する企業は多い。

反対に、感染症対策のため1人あたり面積を広くとったり、新機能を追加・拡充したりすることで、縮小トレンドのなか敢えてオフィスを拡張する企業もある。10Xではテレワークの拡大により一時はオフィス廃止を検討したが、ハイブリッド戦略に意義を見出しオフィスを残す選択をしたという。新オフィスは、今後予定される人員増加の割合以上である3倍の面積に拡張し、製品開発のための独自設備やオンライン会議用のブース等、テレワークとの組み合わせで事業を推進することを目指したオフィスづくりを目指している。

さまざまな観点で自社にベストな選択を模索し続ける

ここまで、ハイブリッド戦略によりオフィスを利用する企業について述べたが、そもそもオフィスを廃止するフルリモートを選択する企業もあるなど、オフィスに対する考え方は千差万別だ。もともとオフィスを利用していた企業がフルリモートに切り替える際には、紙文化やオフィスありきのルールの改訂が必要になるため、入念な準備が必要になるほか、オフィスに出社しないことによる従業員の不安や孤独を軽減する施策や、心身の健康をサポートする仕組みの導入など、リアルなオフィスが担ってきた役割をカバーする施策が求められるだろう。こうした課題にきちんと対処したうえでのフルリモートという選択は、オフィスコストや通勤時間の削減、ワークライフバランスの実現といったテレワークのメリットを最大化するだけでなく、居住地を問わず優秀な人材を採用しやすくなり地理的多様性も確保できるといった採用面のメリットもある。コロナ以前の2016年から社員全員がリモートワークで働いているソニックガーデンでは、自社開発したバーチャルオフィスツールの活用や、社内ラジオやイベントといった施策によりオフィスで働く以上のコミュニケーション醸成を目指し、チームワークを損なうことなくフルリモートの働き方を実現している。

従来は、企業が成長するにつれて都心により大きなオフィスを構える動きが一般的であったが、コロナ禍を経た現在はさまざまな戦略が混在している状態である。これまでのように画一的な正解に合わせるのではなく、自社の働き方や企業風土、経営戦略に基づき、自社に必要なワークプレイス戦略を見極める必要が生じている。今回紹介してきたパターン以外にも、本社を「都心」に置くか「郊外」に置くか、オフィスは「所有」するか「賃借」もしくは外部のフレキシブルオフィスサービスの「利用」に切り替えて流動性をアップさせるかなど、選択肢が多様化し、企業の担当者はさまざまな選択に迫られることになるだろう。また、自社にとっての正解を導き出したとしてもそれは不変ではなく、一度採用したワークプレイス戦略が古くなることもあるだろう。現状の働き方や経営戦略などと照らし合わせて絶え間なく更新が必要という意味では、ワークプレイス戦略は常に「模索中」でなければならないのかもしれない。

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