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【WORKTREND⑩】グローバル:WFAモデルのためのワークプレイス戦略

ワークプレイスが過去70年間で最大の変革期を迎えている現在、企業は新しいワークプレイス戦略に大胆に取り組むため、慎重に模索や実験を行っている段階にある。オフィスに回帰するのであれば、将来のハイブリッドモデルを見据えてワークプレイスをどのように策定していくべきなのか。英国のWorktech Academyの共同創設者であるジェレミー・マイヤーソン氏(*1)とフィリップス・ロス氏(*2)は、「クリスタルの迷路: WFAモデルの次のステップを予測する」というテーマで議論し、ワークプレイス革新の新たな領域とパンデミックからこれまでに学んだ教訓を探った。

今回は、本ディスカッションで取り上げられた、変化するワークプレイスにおける新たな4つのテーマをご紹介する。

  • 筆者:
  • *1)ジェレミー・マイヤーソン氏は、Worktech Academy理事兼英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アートHelen Hamlynデザインセンターの教授。
  • *2)フィリップス・ロス氏は、UnWork社長兼未来学者。

記事原稿:Into the maze: forecasting the next steps for workplace strategy

オフィスの目的

パンデミック発生以前は、効率的に業務を行うためにはオフィスにいる必要があるという思い込みが根強かった。しかし、過去1年間の大規模な在宅勤務の普及により、この考え方は覆されてしまった。

今回のパンデミックで最初に問われたのは、「オフィスで働く方が生産性が高い」という考えであった。過去14ヶ月間で行われたワーカーの生産性に関する数多くの調査によると、ワーカーの生産性は当初は向上したものの、在宅勤務の期間を通じて長く維持されなかった。具体的には、在宅勤務の生産性は最初の数ヶ月は上がったようにみえたが、その後は停滞してしまった。

この結果は、少なくとも短期的にはリモートワークでも生産性を維持できることを示している。しかし、長期的には、オフィスの根本的な価値と重要性がますます高まっていくのである。
一方で、ワーカーはフレキシブルベースでオフィスに戻ることを強く望んでおり、その結果、オフィスが提供すべきものへの期待が変化している。この状況を受け、ジェレミー氏は「オフィスとは何かという考え方を根本から変える必要がある」と強調した。

相互作用とソーシャルキャピタル

次に両氏は、人々がオフィスに戻りたい理由について議論した。ジェレミー氏は、オフィスが従業員同士の交流とソーシャルキャピタルの構築を促す「ソーシャルマグネット」であると確信しているのに対して、フィリップス氏はソーシャルキャピタルがオフィスでしか構築できないという考え方に異議を唱えた。フィリップス氏は、ソーシャルメディアの影響を例として、他の人から物理的に離れたデジタルプラットフォームを通じて個人のブランドやソーシャルキャピタルの構築も可能であると指摘した。

ただし、確かにオフィスビルの外にソーシャルキャピタルを築くことは可能だが、相互作用と偶然の出会いは依然として物理的なワークプレイスの独自かつ重要なセールスポイントであり続ける。ここでは対面式の相互作用とテクノロジーとの衝突がみられるようになるだろう。フィリップス氏は、「Z世代がSnapchatを使って友達を追跡するのと同様に、人々は偶然性(セレンディピティ)を生み出すために他人を追跡するようになるでしょう」と語った。このアイデアは、デジタルプラットフォームを利用してコラボレーションの可能性がある同僚の位置を追跡するというものである。

ジェレミー氏も、デジタルBCGが提唱する「バイオニックワークプレイス」というコンセプトに言及した。これは、デジタルスクリーンを使ってバーチャルの人々と物理的にオフィスにいる人々をつなぐもので、たとえば会いたい同僚がいつオフィスの個室にいるかを追跡し、その個室のスクリーンに自分の顔を投影しながらタイムリーにチャットで話し掛けることができるアプリなどがある。同氏はさらに、「働き方のパターンはこれから急激に複雑化してゆくし、そのためにテクノロジーは不可欠になるでしょう」と予測した。

本社について考え直す

本社が相互作用と共同作業のハブになるという発想は、ワークプレイス戦略を見直そうとしている多くの企業によって広く受け入れられている。ただし、ハイブリッドモデルでは、ワーカーによるオフィスの占有率が予測できなくなり、不動産管理の面で課題が生じるだろう。

実際、HSBCやロイズ銀行などの一部の企業は、不動産ポートフォリオを削減すると主張している。ジェレミー氏は、「不動産は縮小するかもしれませんが、代わりに高品質のデザインと洗練された技術への投資は増えるでしょう」と予測した。フィリップス氏は同意し、「本社は再定義されるための準備ができている」と述べた。

パンデミック以前のワークプレイスの平均占有率は48%だった。現在、従業員が週に2日でも家にいると、この過程を適切に管理しなければ、オフィスにはまったく人がいなくなる可能性がある。ポストパンデミックのワークプレイス戦略においては、オフィスの占有率の適正化と管理がカギとなる。

どこからでも働けるWFAモデル

「オフィスはもはやシステムとデータのコンテナではなくなり、すべてはクラウドにある」とフィリップス氏は語った。過去10年間、ワークプレイスはラップトップやポータブルデバイスを仕事のメインポータルとして利用する方向にシフトしてきた。今やワーカーは「エンドポイント」を鞄に入れて持ち歩くようになり、真の意味でどこからでも働ける「WFAモデル」が可能となっている。

WFAモデルの重要な要素はデータである。企業は、ニーズや行動を理解し、予測するためにデータの採掘を必要としている。データと機械学習は、人々が何をしているかを予測し、その日のさまざまな変数に基づいてどこで何の仕事をすべきかについて微調整または提案することができる。そうしたワークプレイスアプリの必要性は、今後WFAモデルにおいてますます高まるだろう。

おわりに

フィリップス氏とジェレミー氏は、デジタルワークプレイス戦略を正しく理解している企業は将来のオフィスに戻る際に刺激的で豊かな旅ができるだろうと確信している。両氏とも、経験・文化・事実に基づくデータを元に変革を引き起こし、各組織の戦略に応じたワークプレイスを創るときが来ているという楽観的な結論でディスカッションを締めくくった。

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ジェレミー・マイヤーソン/WORKTECH Academy 理事、Royal College of Art 研究教授

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