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【WORKTREND⑤】変化に対応する企業のための、3つのキーワード

企業の経営課題は複雑化・多様化している

日本企業の労働生産性の低さが問題視されて久しい。日本生産性本部が発表している「時間当たり労働生産性」はデータ取得可能な1970年以降、主要先進7か国中最下位の状況が続いている。2020年10月にザイマックス総研が実施した調査でも、現在全社的に注力しているテーマとして多くの企業が「生産性の向上」「コスト削減」を挙げている。

さらには近年、ビジネススピードの加速と企業を取り巻く環境変化の激しさから、より多様な経営課題が急浮上している。たとえば「健康経営・ウェルビーイング」や「国際競争力強化」といった近年注目されつつあるテーマを挙げる企業も一定数いるほか、最近ではこれらに加えて「SDGs」や「DX」といったキーワードも追加されるなど、企業が取り組むべき課題は以前に増して複雑化・多様化している。

世界に先駆けて少子高齢社会に突入した日本において、縮小の一途をたどる国内市場での生き残りは厳しさを増すばかりである。一方、グローバルでも、海外企業との競争があり、その中で発生したコロナ危機は企業経営をより難しくしている。企業をサステナブルに経営するために必要なことは、社会の変化を捉え、顧客ニーズを先取りし、各種の経営課題に取り組んでいくことであろう。

ここでは、数ある課題の中から重要と思われる「人中心」「DX(デジタル・トランスフォーメーション)化」「イノベーション」の3つのキーワードについて紹介する。

「人中心」の働き方は企業にもメリット

企業にとって重要な経営資源の一つが「従業員」すなわち「人」である。サステナブルな企業経営には、労働力確保のため採用強化・離職率低下への対応や、限られた人材で効率的に生産性高く働くことが求められている。その対応として「人中心」の働き方に取り組む企業が増えている。「人中心」の働き方を提供することは、企業にとって離職率低下や優秀な人材確保以外にも、シニアやライフイベントで職場を離れざるを得なかった女性をはじめ、多様な価値観を持つ人が集まることによるイノベーションの創出も期待できる。

「人中心」の働き方の具体例としては、時間や場所に捉われない働き方を提供するテレワークの導入により、従業員の健康・幸福や自由なライフスタイルの実現をサポートすることが挙げられる。テレワークを支援するプラットフォームとしてのフレキシブルオフィスの拠点数も年々増加し続けている。さらに、従業員の健康や「ウェルビーイング」を重視した経営にも注目が集まっており、経済産業省では特に優良な健康経営を実践している法人を顕彰する健康経営優良法人(ホワイト500、ブライト500)認定制度を設けている。認定企業は年々増加しており、社会的な動きとして活発化している状況がうかがえる。

また、リカレント教育や副業・兼業といった制度に取り組む企業も増えている。これらの施策は、ワーカーの自己実現や活躍の場の拡大だけでなく、今後の社会の変化に合わせた必要なスキルを持つワーカーの育成という面で、企業にとっても大きなメリットとなる。サイボウズでは「100人いたら100通りの働き方」があってよいという考えに基づいた多彩な制度を用意しており、その一つに留学やボランティア活動等のために一度辞職しても一定期間の復職が確約される「育自分休暇制度」や、副(複)業を認める制度がある。ヤフーがオープンイノベーションの創出を目的に、ギグパートナー(副業人材)を募集し、10歳から80歳まで、居住地や本業が異なる計104名が選出されたことも話題となった。副業・兼業は、離職することなくワーカーの自己実現やスキルアップが可能となるため、優秀な人材の流出防止(副業を受け入れる場合は人材確保)につながり、社外でしか得られない経験や知見を自社に還元してもらうことで、企業としての生産性の向上やイノベーションも期待できる。

企業は「DX化」でビジネスを進化させる

IT技術の進化はわれわれの生活や活動に大きな影響を与えている。とりわけ企業にとっては「DX化」だ。DX化に取り組まず、効率の悪いレガシーシステムを使用し続けると生産性は低下し、必要以上に運用コストがかさむといったデメリットがある。また、今後いくつかのシステムのサポート終了が予定されるなか、システム障害の発生は企業にとって大きなリスクとなる。経済産業省では企業のDX化が進まないことによって2025年以降、毎年最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると予測している(「2025年の崖」)。日本は世界に後れをとりつつも、今年5月にデジタル改革関連法が成立、9月にはデジタル庁の創立が予定されているなど、DX化を進める動きが本格化し始めており、企業のデジタル化支援も行われる方針だ。

企業はDX化に取り組むことで、生産、販売、顧客管理、財務、人事、総務などあらゆる業務領域での効果が期待できる。不動産業界を例に挙げると、AI査定やVR内見など、すでに最先端テクノロジーを活用したサービスが登場している。竹芝エリアにある東京ポートシティ内のオフィスタワーは全館に5Gを導入したスマートビルで、屋内外のセンサーおよびカメラの情報からワーカーの位置情報や共用スペースの混雑状況をリアルタイムで把握することなどが可能だ。これにより企業は従業員の管理がしやすくなるほか、ワーカーにとっても業務効率化や利便性向上につながる。さらには、来館者のサポートや、低層部の店舗テナントに対するデータに基づいたマーケティング支援、さらにはセキュリティ向上や効率的なビルマネジメントにも貢献している。また、清掃ロボットや警備ロボットの採用により人手不足を解消するなど、様々な局面にテクノロジー利用の可能性がある。

不動産業界に限らず、情報化社会が進んだ現代では、情報・テクノロジーの活用は欠かせない。IT分野は急激な進歩の真っただ中であり、今は最先端技術とされているAIやVRも、そう遠くない未来には当たり前に利用されているかもしれない。DX化により変革を続けることが、情報化社会における優位性の構築につながるだろう。

国内有数の大企業でも「イノベーション」の創出が急務に

企業を取り巻く環境は加速度的に変化し、企業のサービスや製品に対する顧客ニーズも多様化している。こういった変化をキャッチせずにこれまでと同じビジネスモデルで同じ事業を続けるだけの企業は淘汰されていくだろう。今後はイノベーションの創出が必須条件とされ、これは企業規模の大小や業界の別を問わない共通課題である。たとえば、航空会社であるANAホールディングスが、バーチャル空間で旅行や買い物、医療などを提供する「スカイホエール」という新事業の立ち上げを発表するなど、国内有数の大手企業が本業の領域を超えて新規事業創出に挑む例も増えてきている。

イノベーション創出には外部とのコラボレーションが有効だ。そのための場の提供も始まっており、その一つとして虎ノ門ヒルズビジネスタワーには、スタートアップ支援施設「CIC Tokyo」が設けられている。ここにはスタートアップだけではなく、大企業や大学、自治体も入居可能となっており、ベンチャーキャピタルやパブリックセクター、弁護士やマーケティングの専門家等との交流も可能だ。多様な分野における様々な組織・立場の人材との交流により、多面的なアイディアが交わる場となり、イノベーションが触発される。CIC(ケンブリッジイノベーションセンター)は世界各地にあるため、グローバルなコミュニティの形成も可能だ。そのほか、フレキシブルなオフィス空間やイベントの提供によりイノベーションの創出を促進する。

また、GoogleやAmazon、Facebookに代表される、社員の交流を促進しスポーツやエンターテインメントを楽しみながらリラックスして働けるオフィスは自由なアイディアを促す。最適なオフィス環境がイノベーション創出につながるという考えのもと、戦略的なオフィスづくりにも関心が高まっている。

柔軟に対応できる企業が求められる

ここまで、企業経営にとって重要となる3つのキーワードについて解説したが、これらは数多くの経営課題の一部に過ぎず、個別に対応するのではなく包括的に行うことでより効果を発揮するだろう。たとえば、老朽化したシステムやビジネスモデルを見直すにあたっては、必要なスキルを身に着けた優秀な従業員を採用・育成する必要があるし、総務・人事、経営企画、情報システム、新規事業開発といった従来からの企業組織形態を超えた組織マネジメントの在り方を柔軟に模索しなければならない。

また、2020年から流行し始めた新型コロナウイルスによる急激な社会の変化も相まって、企業の経営課題への対応の重要性はより高まり、「安心安全」や「レジリエンス」といった新たな課題も登場してきた。企業が生き残るためには、こうした誰も予測できなかった変化にも柔軟に対応しなくてはならない。コロナが収束した後も社会や企業を取り巻く環境は変化し続ける。これらの課題に対して今後、企業がどのように対応していくべきか、WORKTRENDでは働き方に関する事例や調査など経営課題解決のためのヒントを紹介していく。

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