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【WORKTREND⑰】グローバル:週4日オフィス出勤のハイブリッドパターンは定着するか

仕事とワークスペースをメインテーマとする世界的な知識ネットワーク「WORKTECH Academy」(ワークテック・アカデミー)では、グローバルトレンドを俯瞰する多彩な記事を発表している。今回はその中から、コロナ収束後のハイブリッドワークのあり方や、オフィス回帰に寄与する要因分析に関する、カナダのワークプレイス・コンサルティングCollabogence会社のCEO兼創設者であるピーター・スミート氏のレポートの内容を、日本の読者に紹介する。

ワクチン接種が進むなか、いまだに恐ろしい数の新規感染者が発生し、ロックダウンを余儀なくされている地域もあるものの、もうすぐ事態が好転するといった楽観的見方が世界で広がりつつある。

こうした楽観的な見方は、オフィス回帰やそれへの期待にも及んでいる。在宅勤務に移行した際に失われたものを取り戻し、さらなる相乗効果とコラボレーションを構築していく好機だと考えられている。在宅勤務では1+1+1の効果は3に等しい。オフィスに回帰するにあたっては、どうすれば3を大幅に上回る効果が得られるのか、といった課題に注目が集まっている。

数多くの調査は、オフィス勤務と在宅勤務を組み合わせたハイブリッドな働き方を好む人が圧倒的に多いとしている。ワーカーは、在宅勤務にすでに慣れており、通勤時間の削減に満足している。一方、オフィス回帰についてはまだ不安を感じている人が多く、オフィス回帰の計画を公表している企業は比較的少ない。こうした状況の下では、ハイブリッドはどのように機能するのか。どのような制約やガイドラインがありうるのだろうか。

ハイブリッドワークはどのように機能するのか。どのような制約やガイドラインがありうるのだろうか。

コロナ以前のワーカーは、自宅で仕事をするのに「好ましい」曜日は月曜日と金曜日であると感じていた。しかし企業は、週2日もオフィスが無人の状態になることを受け入れないだろう。ハイブリッドワーク施策に関する発表をした企業の多くは、オフィスを縮小する動きもみられる。この事象は、今後どのような影響をもたらすのだろうか。

私たちは、4:1のパターン、つまり週4日出勤し、在宅勤務が1日という割合に帰結する何かしらの要素があると考えている。これは組織が指示するものではない。時間が経てば、人々は自然とオフィスで過ごす時間を増やすようになるという圧力がある。

つながりと相乗効果

パンデミック以前には、私たちは誰かとスペースを共有して仕事をするという隣接関係を確立していた。こうした環境で適切な人々とスペースを共有することで、集団的なつながりが35%以上増加したことも測定されている。しかし、コロナにより在宅勤務が広がって以来、この集団的なつながりの増加分の大部分は失われてしまったと考察される。

多くの企業は、在宅勤務が効果的で生産的であると従業員から評価され、在宅勤務への移行がいかにスムーズに行われたかを自画自賛するのに終始するあまり、この課題については、まだ十分に認識されていない。

ただし、人々をオフィスに戻すならば出勤を有意義なものにする必要がある。いつも一緒に仕事をしている人たちがいなければ、オフィスに来る意味がないだろう。出社時間を従業員にランダムに選択させるのは、クラップスゲーム(注:プレイヤーが2個のサイコロを振り、その出目によって勝敗が決まるというゲーム)をプレイするようなものだ。

そこで効果的な方法は、誰と誰が一緒に働いているかに基づいて、スケジュールに合わせたシフトで出勤することだ。さらに、より広いレベルでは、建物やキャンパスを「再配置」し、同じ空間を共有している人々全員の「つながり」を最適化することで、より多くの相乗効果を生み出すこともできるだろう。すべてのスペースと人を追跡し、その結果に基づいて、たとえばあるグループとスペースを共有している間に比較的少ない価値しか得られないなら、互いにより高い潜在的価値を生み出せる別のグループとの共有スペースに移動するなど、エビデンスをベースに調整することが可能となる。

仕事の未来のスペクトル:従業員の分布

コロナ以前、「仕事の未来とは何か」「それはどのように、なぜ重要なのか」といった数多くの議論がなされてきた。

図表1は、仕事のスペクトルにおける従業員の分布を示すものである。右側にいくほど「新型の働き方」の特徴が強く、左側にいくほど「従来の働き方」の特徴が強くなる。前述の「仕事の未来」に関する多くの研究では、図表1の右側に位置する個人または組織であるほど、パフォーマンスや生産性が高いとの結論で意見が一致している。

図表1:従来の働き方/今後の働き方における従業員の分布
従来の働き方/今後の働き方における従業員の分布

リモートワークに移行するとデジタルツールを使わざるをえなくなるため、在宅勤務は人々を図表1の右側へシフトさせるきっかけになると当初予想された。しかし実際には、多くの人は在宅勤務を始めると独立して働くようになり、相互依存関係は弱まった。そうなると、自宅でより「アジャイル」かつ「クロスファンクショナル」な働き方を実現することも難しいだろう。

また、図表1の右側に位置する人ほど効果的なリモートワーカーである可能性が高くなるが、皮肉なことに、そうした人たちは非常に複雑な職務を担っており、一般的にオフィスにいることに高い価値を見出している可能性が高い。

今後、企業がオフィススペースの効率化を図りながら、従業員がオフィスに出勤する際に確実に座席を確保するためには、予約システムによる出社率の見える化やスペース利用の把握と管理が不可欠となるだろう。

個人のペルソナ

企業に属するワーカーのペルソナ分類の一つに「不法占拠者」というものがあり、特定職務の人がこのカテゴリーに当てはまることが多い。このペルソナの特徴は、毎日オフィスに出社して同じ席を占有し、勤務時間の80%をそこで過ごすことだ。一見すると、この人たちはリモートワークに非常に適している。しかし、彼らは強力な動的ネットワークを有していないため、在宅勤務では得られない社会交流を求めてオフィスに出勤することを好む傾向にある。

また、適切に評価されることもオフィスに出社したい理由の一つである。特にキャリアが浅い新人は、姿が見えないがために正しく評価されないことを懸念している。実際、いくつかの研究によると、リモートワーカーはオフィスに出勤している人に比べ、昇進・昇給の見送りのリスクが比較的高いことがわかっている。

対面型の会議

この15ヶ月間でオンラインの会議が急増し、自らのパソコンに向かって話すことに誰もが慣れてしまった。しかし、対面とオンラインの参加者が入り混じった「ハイブリッド会議」の時代を誰もが鮮明に記憶しており、「1人だけ」遠隔で参加することは間違いなく劣悪な体験だった。現在の会議ツールなどでは、相手がオフィスにいるのか、またはオンラインで参加するのかを確認できるため、会議の内容や相手の参加場所にあわせて出社するかどうかを柔軟に決めることが可能となった。

オフィス回帰の際には、企業は完全リモート会議やハイブリッド会議、完全対面型の会議の比率がどのように変化していくか、トレンドを適時に把握することが重要である。

ペルソナとデータに基づくデザイン

データの世界では、従業員がどのように働いているか、誰と交流しているか、どのようにスペースを使用しているかといった追跡データに基づいて、「ペルソナ」を定義することができるようになった。そして、同一空間内のペルソナの組み合わせに基づいて必要なスペースを決めることができ、スペースを使用する人にもっとも適したスペースのタイプを導くことが可能となっている。

たとえば、互いに協同作業の割合が非常に高いグループが同じスペースを共有している場合、ブースや開放的なミーティングスペースなどのインフォーマルなコラボレーションスペースが多数必要になる。一方、共同作業の相手が別のスペースや組織外にいる場合は、来客対応に適した会議室やオンライン会議を想定したスペースなどを増設する判断ができる。

おわりに

要するに、リモート重視、オフィス重視、ハイブリッド重視など、どのような戦略をとるにしても、働き方の変化に即してスペースの使われ方も変化していくのだ。自宅とオフィスの利用比率などの要素とあわせ、スペースの有効な使い方をデータにより追求することで、かつてないほどの相乗効果を生み出すために必要な見識を得ることができるかもしれない。

最新のツールとデータは、従業員がどのように働き、どのようにスペースを使っているかの洞察を可能とした。今後、週4日出勤:1日テレワークのトレンドが定着すれば、企業はたとえば、月4~6日のリモートワークを許可し、出勤とテレワークの日程は従業員に自由に決めさせるなど、データに基づいて自社の働き方に適した施策を計画することが可能となるだろう。

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