働き方改革に必要な要素とは
働き方改革が成功する企業には、どのような特徴があるのでしょうか。働き方改革において誰が指揮をとるのか、どのように取り組みを進めるのかといった企業の悩みはよく耳にするところです。ここでは、働き方改革の実現に必要な要素を考えてみましょう。
働き方改革の実現に必要な要素
<経営層のコミットメント>
まず、何より欠かせないのが経営層のコミットメントです。働き方改革は、企業が経営判断として取り組みの意思決定を行わなければうまく進みません。現場からのボトムアップで取り組むケースは少なく、経営層の号令で始まる例が多くみられます。私たちの調査でも、働き方改革に取り組むきっかけとしては「経営層の判断」を挙げた企業が最も多くなっています*。
*ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィス需要調査2016<働き方の変化とオフィス編>」(2017)より
<人事制度>
近年、育児や介護といった事情を抱える従業員に限らず、全従業員を対象にテレワーク制度を導入する企業の例がみられ始めています。こうした抜本的な取り組みに欠かせないのが、柔軟な人事制度の導入やそれにあわせた評価制度の見直しです。働き方改革の目的の一つである「生産性の向上」を実現するために、従来の勤怠管理をどう変えるのか、新しい働き方に即した評価制度とはどういうものなのか、また、従業員全体にとって不公平感がない制度をどう構築するのか、人事面でも大きな経営判断が必要となります。
<ICT投資・ICT活用>
モバイル端末の普及やネットワークの進化により、従来のようにオフィスでしか仕事ができない時代ではなくなりました。外出先や自宅などで仕事ができるよう、従業員にモバイル端末を支給する企業も増えています。とはいえ、企業がICTにどこまで投資するかは簡単な決断ではないでしょう。テレワークが必要な部署はどこなのか、セキュリティはどう確保するのかなど、ICTの投資範囲と働き方をセットで考えて取捨選択していく必要があります。
<ワーカーの啓発・教育>
ワーカー側が、働き方改革の必要性や意義、重要性を理解していることも重要です。経営層や担当部署がいくら制度や環境を整えても、ワーカー自身が働き方を変える必要がない、または変えたくないと思っていると、形骸化したりすぐに廃止になってしまったりするケースは少なくありません。また、マネジャーなどの中間管理職層が部下の管理に不安を抱くなどして、トップダウンの改革を阻害してしまうことも多いようです。牽引する部門がレクチャーの場を設けるなど、働くひとりひとりが、なぜ働き方を変えるのか、どのように変えるのかを自分自身の問題として捉える機会を作ることも必要でしょう。
<オフィス環境>
働き方改革を論じる際、つい人事制度やICT環境ばかりに目が行きがちですが、そうした施策を有効活用する上で欠かせないのがオフィス環境の整備です。働く場所と時間によって勤怠管理をしていた時代から、より柔軟な働き方に移行する中で、オフィスのあり方も見直しを迫られています。
例えば、テレワーク勤務が普及すれば全従業員分の固定席は不要となり、余ったスペースを全く新しい用途に使うことができます。一か所に集まる機会が減る分、よりコミュニケーションの質を高めるオフィスが求められるかもしれません。また、固定的なオフィス賃料を縮減した分、テレワークを支援するような場所の整備に予算を回すこともできるでしょう。これまで、オフィスの施策といえばレイアウトや什器など“内”の環境を整えるだけでしたが、今後は働き方の多様化・流動化に合わせ、オフィスの“外”でも効率よく働ける場所(サードプレイスオフィス)を整備し、内外を一体的に捉えた施策が必要となっていくはずです。
オフィス戦略は働き方、ひいては生産性向上や採用に直結する経営課題ですが、オフィス関連の専門部署を設けている企業は少なく、企業内に知見が少ないという問題があります。また、コスト負担や投資対効果の不明瞭さがネックになる場合も多いため、必要に応じて専門家の意見を取り入れながら進めるという方法も有効です。
成功のカギは「横断的」&「継続的」
働き方改革が失敗する要因の1つとして、推進力を持つ専門部署や担当者がいないことが挙げられます。ダイバーシティ担当など、人事部門が主導する企業が多いようですが、「制度だけ」「機器だけ」など部分的な変更では効果が発揮されず、一時的な取り組みに終わってしまうこともあるようです。経営層の意思決定に基づき、専任担当が主導権を握り、関係部署の横断的なプロジェクトとして継続的に取り組む。効果が見えてくるまでは、粘り強く続ける覚悟を持つべきなのではないでしょうか。