「オフィス移転」を働き方改革のチャンスに変える

「オフィス移転」を働き方改革のチャンスに変える

移転時に「働き方」を変えない企業は少数派?

オフィス移転を機に、従来の働き方を変えようとする企業が増えています。ザイマックス総研の調査(*1)によると、2016年~2017年の間にオフィスの移転や新規開設を行った企業の66.7%が、移転を機にフリーアドレス席の導入やペーパーレス化、テレワークの推進など、従業員の働き方を変える取り組みに着手していたことがわかりました。

*1 「オフィス入居に関するアンケート」調査期間:2016年6月~2017年12月/対象:2016年~2017年の間にオフィスの移転や新規開設を行った企業のオフィス担当者/有効回答数:207社

移転を機に働き方を変える企業が多い背景には、オフィス変革のハードルの高さがあるでしょう。柔軟かつ多様な働き方を目指す上で、旧態依然とした固定的なオフィスが適さないと感じている企業は少なくないはずです。しかし今いるオフィスで、通常業務を続けながら大きな変革を遂げることは、コストや労力の面から容易ではありません。だからこそ、オフィス移転や新規開設は働き方を変えるチャンスといえます。

実際に、オフィス移転を機に働き方改革に取り組んだ企業にヒアリングを行ったところ、意義や効果、そして課題も見えてきました。ここでは2社の事例をご紹介します。

事例1:ABW採用で、テレワークとの相乗効果へ

2017年度に本社を移転したとあるIT系企業では、以前のオフィスで採用していた島型対向式の座席配置から一変、移転先ではABW(*2)のレイアウトを採用しました。移転プロジェクトの中心となったA氏は、「主目的は親会社へのアクセス改善だったが、せっかくなので従業員が働きやすいオフィスをゼロから目指した」と振り返ります。

*2 ABW(Activity Based Working)……集中するためのブース、チームで作業するためのスペースなど、業務に合わせて選べる多様なワークエリアを配したレイアウト。

具体的には、ほぼ全員分の座席をフリーアドレス化して固定席を減らし、その分多様なワークスペースを導入。業務内容に合わせてオフィス内の好きな場所で働けるようにしました。

この際、オフィス面積の都合から、フリーアドレス席と固定席を合わせても全従業員数より少ない席数しか用意しなかったものの、今のところ席が足りない等の不満が出たことはないといいます。その要因の一つが、以前から導入していた在宅勤務制度やサテライトオフィスの利用を今まで以上に促進したことです。

「本社・自宅・サテライトオフィスの中から都合の良い場所を選ぶ働き方を推奨し、そのメリットを理解してもらうよう努めました。移転後は本社オフィス内もABWとなり、社内外での働く場所のフレキシビリティが従業員から好評です。特に、女性の離職率は明らかに下がっています」とA氏。定量的な効果測定は今後の課題だと話しつつ、人材確保の面ではすでに手応えを感じているようでした。

事例2:フリースペース拡充でコミュニケーション活性化

また、同じく2017年度に移転した別のIT系企業は、移転後からリフレッシュスペースやフリースペースを導入し、従来のオフィスよりも従業員1人あたりの面積を広くとるなど、オフィスの快適性向上を重視しました。

ベンチャー企業として急拡大している同社にとって、以前のオフィスは手狭になっただけでなく、快適性の面でも不満があったといいます。「業務拡大の中で残業が増え、離職率の高さも課題となっていた。拡張移転をするにあたって、ただ人員増加に対応するだけでなく、従業員が快適に過ごせるオフィスを目指すことは社長の意向でもありました」(オフィス担当者B氏)。

快適性を意識したオフィスづくりは、意外にも社内コミュニケーションの活性化につながっているそうです。例えば、広めに設けたリフレッシュスペースは、コーヒーを飲みながらの雑談から仕事の打ち合わせまで多目的に利用されています。また、フリー席を各自の固定席とは別に設け、気分を変えたい時や集中したい時に使えるようにしたところ、たまたま寄り合った他部署の従業員同士の接点にもなっているそうです。

「以前のオフィスには固定席しかなく、会議室が執務エリアと別の階にあったので打ち合わせのハードルが高かった。今は多様なスペースがワンフロアに点在していて、そこで偶発的な打ち合わせなども生まれているので、業務効率化や生産性の向上にも寄与していると思います」。

昨今の労働力不足などを背景に、企業では従業員満足度の重要性が認識され始めているものの、「何から手をつければいいのかわからない」「投資対効果がわかりづらい」といった声も聞かれます。B氏は「確かにオフィスコストは移転前より上がったし、具体的な効果というと難しいが、今は企業よりワーカーの立場が強い時代。気持ちよく働ける環境を用意しないと選んでもらえない」と話していました。こうした意識は今後、企業規模や業種を問わず拡大していくかもしれません。

目指すべき働き方を実現するためのオフィスづくり

紹介した2社に共通するのは、どちらも中小規模の企業であり、限られた予算の中で工夫し、自社に適したオフィスと働き方を模索している点です。特に従業員満足度とオフィスの関係は、ヒアリングしたどの企業でも関心の高いテーマでした。

近年、一部の企業では、働き方改革のためにオフィスを移転する例も見られますが、大部分の企業ではより直接的な必要に迫られて移転を行っているのではないでしょうか。例えば人員が増えて手狭になった、点在していたグループ会社を1か所に集約する……など、時間も物件の選択肢も限られる中での移転業務になる場合が多いと考えられます。

そうした場合でも、オフィスありきではなく、目指すべき働き方をまず策定し、その効果を最大化するためのオフィスの在り方を考えることが大切なのではないでしょうか。もし今、自社のオフィスや働き方を変えたいと感じているなら、次のオフィス移転がチャンスとなるかもしれません。

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