中小企業の課題解決にも テレワーク・デイズ展開する総務省の思い
2018年7月23日(月)~27日(金)の1週間、全国の企業・団体に対してテレワークなどの多様な働き方を奨励するキャンペーン「テレワーク・デイズ」が実施されます。
総務省や経済産業省などが連携するこの取り組みは、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催期間中の交通混雑緩和を目標に、企業等がテレワークを活用する機会を創出し、さらには大会後も定着させることを目指すものです。第一弾となった「テレワーク・デイ」(2017年7月24日)には約950団体、6万3000人が参加し、テレワークという働き方の理解促進につながりました。
今年の参加者は、1週間の期間中に原則として計2日以上、テレワークに挑戦することになります。主催者側が掲げた目標参加数は2000団体、延べ10万人。舵取りを務める総務省 情報流通行政局 情報流通高度化推進室長の渋谷闘志彦氏によると、7月9日時点で参加登録は1000団体を超え、パナソニックや富士通、NTTデータといった大手企業が数千~数万人単位での参加を表明しているため、参加予定人数は20万人を突破しているとのことです。
テレワークで労働生産性1.6倍、求人応募数1.8倍
テレワークをはじめとする働き方改革の取り組みについては、「大企業がやること」「中小企業だから関係ない」という声も少なくありません。実際、総務省が行った調査(*1)によると、従業員300人以上の企業におけるテレワーク導入率が23%であったのに対し、300人未満の企業では10%と、企業規模によって差が見られました。渋谷氏は、今年のテレワーク・デイズを機にこの差を縮められれば、と考えています。
「2016年に行った調査(*2)では、テレワークを導入している企業はしていない企業に比べ、労働生産性((営業利益+人件費+減価償却費)÷従業者数)が1.6倍になるという結果が出ました。テレワークというと、従業員のワークライフバランスや育児・介護支援のため、というイメージもあるかもしれませんが、実は企業利益に直結する重要な取り組みになりつつあります。今回のテレワーク・デイズを、企業規模に関わらず、テレワークを試してみるきっかけにしてもらいたいです」。
同氏はまた、岡山県にある石井事務機センターという中小企業のテレワーク導入事例を紹介してくれました。従業員数約30名の同社では、2016年からテレワークを本格的に導入・推進したところ、1年間で残業時間が40%減った一方、売り上げ5%増加、粗利益14%増加、生産性8%増加という成果を上げました。さらに、2019年度卒業予定の大学生の就職希望先ランキングでは岡山県内9位となり、働き方改革の成功事例として多数のメディアに取り上げられています。
「中小企業の課題の一つが人材確保だと思いますが、採用競争のために、給与水準などを大幅に上げることは簡単ではないでしょう。その点、石井事務機センターさんでは、求人票に『在宅勤務可』の一文を追加しただけで応募者数が1.8倍になったそうです。テレワーク導入は、中小企業の抱える課題解決にも有効だと考えています」。
「適した仕事がない」にはまずトライアル
企業にとってのテレワーク導入メリットが認識されつつある一方、導入済み企業の割合は13.9%(*1)と、まだ道半ばの状況です。ザイマックス総研がオフィスワーカーを対象に行った調査(*3)でも、「週に1分以上テレワークをしている」と回答した人は8.1%に留まりました。
導入にあたっての課題は、技術(ICT)面や労務・人事面など多岐にわたりますが、特にネックとなっているのが文化面の課題のようです。前述の調査(*1)で「テレワークを導入しない理由」を聞いたところ、7割以上の企業が「テレワークに適した仕事がない」と回答しました。
「この課題に対する最も有効な対策は、試行導入でとにかく一度体験してみること。実際に試すことで、テレワークに対応するための業務改革も検討できると思います」と渋谷氏が話す通り、テレワーク導入にあたっては、従来の働き方の見直しを避けて通れません。例えばペーパーレスや無駄な会議の削減などを通して、テレワークしやすい状態になるだけでなく、労働生産性の高い働き方を取り入れるきっかけにもなるといいます。
「今は参照できる先進事例も多く、課題だと思っていたことが実は解決可能な場合もあります。まずは意識を変え、一歩を踏み出すことが重要です」。総務省では企業のテレワーク推進のため先進事例を収集し、セミナー・個別相談会の開催や、専門家の派遣事業といった支援策を行っています。テレワーク・デイズもその一環であり、参加企業がトライアルに手応えを感じることで、少しずつテレワーク導入率が高まっていく契機となるかもしれません。
在宅勤務だけでない、働く場所の選択肢
今年のテレワーク・デイズでは、100以上の応援団体(企業・自治体等)が、テレワークのためのワークスペース提供を予定しています。
ザイマックスが提供する「ちょくちょく…」をはじめ、サードプレイスオフィスサービスを提供する民間事業者も応援団体として多数登録しており、今年は昨年以上に、自宅以外の多様な場所でのテレワークを体験する参加者が増えると予想されます。また、地方自治体が提供するワークプレイスでは「ふるさとテレワーク(*4)」を体験することもできます。
この機会に多様な場所で働くことの効果が実感されれば、今後は本当の意味で、場所に縛られない働き方が実現していくかもしれません。政府は2020年までに「テレワーク導入企業数3倍(2012年度比)」等の目標を掲げていますが、そのためには受け皿となるワークプレイスの選択肢を増やすことも重要になってくるでしょう。
- *1 総務省「平成29年通信利用動向調査」(2018年5月25日公表)
- *2 総務省「平成28年通信利用動向調査」(2017年6月8日公表)
- *3 ザイマックス不動産総合研究所「首都圏オフィスワーカー調査2018」(2018年6月6日公表)
- *4 総務省が推進するテレワークの1つのタイプ。地方のサテライトオフィス等においてテレワークにより都市部の仕事を行う働き方のこと。
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