2022.02.25
フレキシブルオフィス市場調査2022
~東京23区におけるフレキシブルオフィスの供給拡大~
近年、働き方改革への取り組みが加速していく中で、企業がワーカーに働く場所の選択肢を与えることの重要性が増している。それにともない、必要に応じて時間や場所をフレキシブルに利用できるワークプレイス(フレキシブルオフィス)に注目が集まったことで、フレキシブルオフィス市場は急速に成長している。
また、2020年初頭から本格化した新型コロナウイルスの世界的感染拡大(以下、コロナ禍)は、多くの企業に働き方と働く場所の見直しを迫り、フレキシブルオフィス市場にも大きな影響を及ぼしている。
そこで、ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)では、2020年より毎年フレキシブルオフィス市場の成長傾向を定量的に把握するため、東京23区内におけるフレキシブルオフィスの拠点数や面積、事業者数などの定量データを集計・分析している(*1, *2)。第3回となる本レポートでは、フレキシブルオフィス市場拡大の背景や今後についての考察も行っている。
フレキシブルオフィス市場は提供されるサービスタイプの多様化・細分化が進んでおり、事業者によって「レンタルオフィス」「シェアオフィス」「サービスオフィス」「サテライトオフィス」「コワーキングオフィス」など、さまざまな呼称が使用されている。本レポートでは、今回の調査対象である「フレキシブルオフィス」を「利用契約・普通賃貸借契約・定期賃貸借契約などさまざまな契約形態で、事業者が主に法人および個人事業主に提供するワークプレイスサービス」の総称として用いた。なお、昨年調査までは対象外としていた一人用の個室ボックスは本年より調査対象に新たに加えた。
- ・ 東京23区内のフレキシブルオフィスは1,080拠点である。
- ・ 総面積は約21.4万坪であり、東京23区のオフィスストック(1,298万坪)の約1.6%である。
- ・ フレキシブルオフィスを展開する事業者数は108社である。
- ・ 東京23区内にあるフレキシブルオフィスのうち、総拠点数の7割以上、総面積の8割以上が都心5区に集中している。
- ・ 2021年に開業した拠点に注目すると、周辺18区の割合が増加している。
- ・ フレキシブルオフィスの市場拡大の背景としては、働き方改革およびコロナ禍を通じて、企業がテレワークのメリットとデメリットを実体験として理解しつつあることがあげられる。
- ・ 職住近接は従業員満足につながりやすいため、郊外立地のフレキシブルオフィスのニーズが高まってきているといえる。
- ・ 今後のフレキシブルオフィス市場は、引き続き量的な拡大が続く一方で、サービスやファシリティなど質的な変化が進んでいくものと考えられる。
1.フレキシブルオフィス市場の拡大
2.エリアの特徴
3.考察
1.フレキシブルオフィス市場の拡大
まず、フレキシブルオフィスの拡大傾向をみてみる。2022年1月の調査時点で営業中および開業予定の東京23区内のフレキシブルオフィスについて、拠点数および面積、事業者数を開業年をもとに経年で示したものが【図表1〜3】である。なお、開業年および事業者が市場に参入した年が不明なものは、「開業年不明」「参入年不明」としてまとめている。また、2022年以降の開業予定の拠点については、これから公表されるものも多いと考えられるため、拠点数や面積、事業者数は今後も増加すると予想される。
東京23区内のフレキシブルオフィスの総拠点数は1,080拠点である【図表1】。
【図表1】フレキシブルオフィスの拠点数(東京23区)
東京23区内のフレキシブルオフィスの総面積は約21.4万坪となっており、これは東京23区オフィスストック(1,298万坪)(*3)の約1.6%にあたる【図表2】。
【図表2】フレキシブルオフィスの面積(東京23区)
東京23区内のフレキシブルオフィスの総事業者数(参入年不明のものを含む)は108社であった【図表3】。
【図表3】フレキシブルオフィスの事業者数(東京23区)
2.エリアの特徴
次にエリアの特徴として、フレキシブルオフィスの分布を都心5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)と周辺18区とで比較した。
【図表4】の上段に、既存のフレキシブルオフィス(開業年不明を含む2021年までに開業した1,040拠点、全体)に占める都心5区と周辺18区の拠点数および面積の割合を示した。そのうち直近の2021年に開業した拠点(268拠点、2021年単体)に占めるそれぞれの割合を下段に示した。
既存のフレキシブルオフィス全体では、拠点数割合は都心5区が70.5%、周辺18区が29.5%、面積割合は都心5区が84.1%、周辺18区が15.9%であった。
これに対して、直近の2021年に開業したフレキシブルオフィスに限ってみれば、拠点数割合は都心5区が57.8%、周辺18区が42.2%、面積割合は都心5区が65.4%、周辺18区が34.6%であった。拠点数・面積ともに都心5区のほうが周辺18区よりも多いものの、周辺18区の割合は全体と比較すると、2021年単体のほうが大きくなっており、郊外への出店が増えている状況がみてとれる。
【図表4】フレキシブルオフィスの分布割合(都心5区/周辺18区)
3.考察
本調査により、2022年の東京23区のフレキシブルオフィス市場は、拠点数、面積、事業者数のいずれも前年から増加していた。また、2021年はそれまでに比べて周辺18区で開業した割合が大きく、開業エリアの郊外への広がりがみられた。この市場拡大の背景としては、働き方改革およびコロナ禍を通じて、企業がテレワークのメリットとデメリットを実体験として理解しつつあることがあげられる。
ザイマックス総研が2021年7月に実施した首都圏企業調査(*4)によると、企業は、テレワークに対して従業員満足度の向上やオフィスコスト効率化などの面でメリットを感じている。一方で、テレワークの中でも、在宅勤務をする従業員は、什器やモニター、コピー機、ネット回線などの業務環境が整っていない、集中しづらい、業務に適したスペースがない、家が狭いといった不満を抱えている(*5)。そのような中で、従業員満足度と業務環境を両立するための選択肢として、フレキシブルオフィスへのニーズが強まっており、現在の継続的な市場拡大につながっていると考えられる。職住近接は従業員満足につながりやすいため、郊外立地のフレキシブルオフィスのニーズが高まってきているといえる。
また今後のフレキシブルオフィス市場は、引き続き量的な拡大が続く一方で、サービスやファシリティなど質的な変化も進んでいくものと考えられる。
量的な拡大としては、これまでのオフィスビルの専用部だけでなく、近年は宿泊施設、商業施設、金融機関にもフレキシブルオフィスは展開している。さらに、駅やオフィスビルの共用部へのボックスタイプの展開もみられる。
また前述のとおり、東京23区のフレキシブルオフィス市場はオフィスストックの約1.6%まで成長してきたが、海外と比較するとまだ低水準であり(*6)、今後の成長余地は大きいと思われる。
量的に拡大するにつれて、フレキシブルオフィス市場内での競争は激しくなると予想され、他社との差別化、高度化する顧客ニーズへの対応、すなわち質的な変化が重要なテーマとなる。具体的には、ウェブ会議に対応した一人用個室、自然を感じられるバイオフィリックデザイン、ラウンジやドリンクなどのアメニティの導入や充実化などが進むと考えられる。
以上のように、フレキシブルオフィス市場は、展開するエリア、進出するアセットタイプ、サービスやファシリティを多様化させながら、ワークプレイスのプラットフォームのひとつとして定着し、今後も成長していくだろう。
調査時点
2022年1月
調査対象
オフィス・商業施設・サービス店舗・駅・公共施設などで、事業者が主に法人および個人事業主などに提供するワークプレイスサービス
調査地域
東京23区
調査方法
インターネット調査、事業者への問い合わせ・ヒアリング等
- ザイマックス不動産総合研究所
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