2019.12.19
首都圏オフィスワーカー調査 2019
~ワーカーの働き方と価値観の変化を捉える~
企業は働き方改革への取り組みを加速し、時間や場所に捉われない多様な働き方を推進しつつある。そうした新しい働き方は企業の経営戦略としてだけでなく、オフィスワーカーにとっても、生産性向上やワークライフバランス向上の点で重要なトピックとなっている。
そこで、ザイマックス不動産総合研究所では、企業とオフィスワーカー双方の視点から働き方と働く場所の変化を捉えていくため、企業については2016年秋より計7回、オフィスワーカーについては同年末から計3回のアンケート調査を実施し、今回は第4回目となる。本レポートはその結果を踏まえ、首都圏勤務者の働き方の実態や価値観について最新の潮流をまとめた定期レポートである。
- 1.働き方の実態と課題
- ・ 勤務先が働き方改革に取り組んでいるワーカーは6割を超えた。ただし、その半数以上が自身の働き方には変化がないと回答した。
- ・ 勤務先が働き方改革に取り組んでいるワーカーのうち、半数近くが効果を実感しており、具体的には「長時間労働(残業、休日勤務)の是正」(39.8%)と「ワークライフバランス向上」(38.3%)が上位であった。
- ・ ワーカーの71.7%は働き方および働く場所についてなにかしらの不満があることがわかった。
- ・ 勤務先オフィスの環境に関する不満としては、「リフレッシュしづらい」(48.9%)、「空調性能(気温・湿度など)」(45.7%)などが挙げられた。
- ・ テレワーク実施率は39.5%となった。
- ・ テレワーク関連の施策を「モバイルワーク」と「テレワークの場所」(*1)に分けると、「モバイルワーク」の利用率 は36.1%であったのに対して、「テレワークの場所」の利用率は13.4%にとどまった。
- ・ テレワーク以外の施策を含めても、モバイルワークは利用率が高かった。
- ・ 「テレワークの場所」を利用しているワーカーの73.7%は働き方改革の効果を実感しており、そうでないワーカーと比較すると、30.5ポイントの差があった。
- ・ ワーカーの属性別にみると管理職が、職種では「経営企画」や「商品サービス企画開発・マーケティング」、「営業」などからテレワークの普及が進んでいる。また、勤務先の従業員規模が大きくなるほど実施率が高かった。
- ・ テレワークの場所の利用者でも各場所の利用頻度は月1~2回以下であるワーカーが多く、テレワークの普及には伸びしろが感じられる。また、レンタルオフィス・シェアオフィスについては「いいアイデアが出せる」「仕事の成果が向上する」といった特徴的なメリットがあった。
- ・ 自宅の環境ではテレワークしづらい理由としては、「仕事のオン・オフが切り替えづらい」(49.6%)や「仕事に適したデスクがない」(49.6%)などが挙げられた。
- 2.働き方へのニーズ
- ・ テレワークに対するニーズは現在の実施率より高く、特に「テレワークの場所」に対するニーズは現在の利用率より21.7ポイント高かった。
- ・ 働き方に関する各施策で、ニーズが現在の利用率を上回る結果となった。特に「フレックスタイム制度」や、「在宅勤務制度」、「副業・兼業」は差が大きい。
- ・ 未就学児を持つ女性は利用率とニーズのギャップが大きかった。(PICK UPより)
- ・ ワーカーは「人や機能が集積している都心部で働く」(58.9%)こと以上に、「職住近接の実現のため、自宅近くのエリアで働く」(75.9%)ことに興味がある。
- 3.満足度・ウェルネス
- ・ 現状の働き方に満足していたり、働き方や働く環境が自身の心身の健康(ウェルネス)によいと思っているワーカーは、2人に1人しかいない。
- ・ 「テレワークの場所」を利用しているワーカーとそうでないワーカーを比べると、働き方に対する満足度およびウェルネスの評価に大きな差があった。
- 4.未来の働き方
- ・ 未来の社会や働き方がどのようになると良いと思うかを聞いたところ、「通勤電車の混雑が解消され、通勤時間を有意義に使えるようになっている」(85.3%)、「総労働時間が減り、仕事以外に使える時間が増える」(84.1%)、「自宅近くで働ける場所が増え、通勤ストレスが減る」(83.7%)、「育児・介護と仕事の両立がしやすい社会になる」(83.6%)といった項目が上位に挙がり、通勤ストレスの緩和やワークライフバランスの改善への興味関心がうかがえる結果となった。
1.働き方の実態と課題
1-1.働き方改革の実態と課題
- 勤務先が働き方改革に取り組んでいるワーカーは6割を超えた。ただし、その半数以上が自身の働き方には変化がないと回答した。
- 勤務先が働き方改革に取り組んでいるワーカーのうち、半数近くが効果を実感しており、具体的には「長時間労働(残業、休日勤務)の是正」(39.8%)と「ワークライフバランス向上」(38.3%)が上位であった。
- ワーカーの71.7%は働き方および働く場所についてなにかしらの不満があることがわかった。
- 勤務先オフィスの環境に関する不満としては、「リフレッシュしづらい」(48.9%)、「空調性能(気温・湿度など)」(45.7%)などが挙げられた。
今回の調査では、「職業が会社・団体の役員、会社員・団体職員で、職種が管理的職業、専門的・技術的職業、事務、営業職業、通常時の勤務地が首都圏(1都3県)」と回答した20~69歳の男女2,060人から有効回答を得た。これらのアンケート回答者は現状どのような働き方をしているのか、実態をみてみる。
まず、働き方改革への取り組みについてワーカー自身と勤務先の状況をあわせて聞いた。その結果、「勤務先が働き方改革に取り組んでいる」と回答したワーカーは全体の6割を超えた(62.9%)【図表1】。しかし、34.7%は「自身の働き方に変化はない」と答えており、これは勤務先が働き方改革に取り組んでいると回答したワーカーの半数以上を占める。こういったワーカーにとっては、働き方改革は親しみのないものであり、我が事として捉えられない場合もあるかもしれない。
【図表1】働き方改革への取り組み実態
次に、「勤務先が働き方改革に取り組んでいる」と回答したワーカーに対し、働き方改革の効果実感を聞くと、「非常に感じている」「やや感じている」と回答した割合は合計で49.1%だった【図表2】。
【図表2】働き方改革の効果実感
働き方改革の具体的な効果としては「長時間労働(残業、休日勤務)の是正」(39.8%)と「ワークライフバランス向上」(38.3%)が上位に並んだ【図表3】。そのほかにも、多様な効果を実感していることがうかがえる。
【図表3】働き方改革の具体的な効果
ここからは現状の働き方に対する不満についてみていく。まず、現在の勤務先での働き方および働く場所についてなにかしらの不満がある人は71.7%に上った【図表4】。
【図表4】働き方及び働く環境についての不満
【図表4】で「不満がある」と回答した人を対象に具体的な内容を聞いた結果が【図表5】である。働く場所や制度など様々な不満を感じていることがわかった。特にテレワークに関して、「テレワークの制度がない」(25.7%)ことに不満を感じるワーカーのほかに、テレワークの制度があっても「テレワークに適した仕事がない」(12.2%)「自宅の環境ではテレワークしづらい」(9.0%)など、制度を活用しきれていないワーカーがいる様子がうかがえる。
【図表5】働き方及び働く環境についての具体的な不満
さらに、【図表5】で最も多かった「勤務先オフィスの環境がよくない」を選んだ人を対象に、その理由を聞いたところ、「リフレッシュしづらい」(48.9%)、「空調性能(気温・湿度など)」(45.7%)、「古い、清潔感がない」(41.3%)でそれぞれ4割を超えた【図表6】。そのほかにも様々なオフィスへの不満を感じているようだ。ワーカーのモチベーションや生産性にも影響するであろうオフィス環境は極めて重要であり、企業はそれぞれが抱えるオフィスの課題を認識し、ワーカーが働きやすい環境を整える必要がある。
【図表6】オフィス環境への不満
1-2.テレワークの実施率と課題
- テレワーク実施率は39.5%となった。
- テレワーク関連の施策を「モバイルワーク」と「テレワークの場所」に分けると、「モバイルワーク」の利用率は36.1%であったのに対して、「テレワークの場所」の利用率は13.4%にとどまった。
- テレワーク以外の施策を含めても、モバイルワークは利用率が高かった。
- 「テレワークの場所」を利用しているワーカーの73.7%は働き方改革の効果を実感しており、そうでないワーカーと比較すると、30.5ポイントの差があった。
ここからは、ワーカーの働き方の中でもテレワークについてさらに詳しく掘り下げていきたい。
今回の調査では働き方に関する各施策について現在実際に利用しているものを聞き、各施策の利用率(【図表8】)を算出した。その中からモバイルワークに関する施策三つ(*3)とテレワークの場所に関する施策三つ(*1)をテレワーク関連施策として取り出した。そしてこの六つの施策のうち、どれか一つでも利用しているワーカーを本レポートではテレワーカーとし、テレワーク実施率を再集計したところ39.5%であった【図表7(上段)】。
さらに、「モバイルワーク」と「テレワークの場所」それぞれについても利用率をみた結果(【図表7(下段)】)、「モバイルワーク」は36.1%であり、テレワーカーの大部分と重複していた。一方で、「テレワークの場所」を利用しているワーカーは13.4%にとどまり、テレワークには取り組んでいるがモバイルワークのみしか行っていないワーカーも少なくないことがうかがえる。
【図表7】働き方に関する施策の利用率(テレワーク関連施策のみ再集計)
テレワーク以外の施策を含めて利用率を比較してみても、モバイルワークに関する施策は上位に並び、働き方に関する施策の中でも比較的取り組みやすいと考えられる【図表8】。また、テレワーク以外の施策で最も利用率が高かったのは「フレックスタイム制度」で23.3%だった。
【図表8】働き方に関する施策の利用率(詳細)
次に【図表2】でみた働き方改革の効果実感について、テレワーク実施状況別にみてみると、効果を感じている(「非常に感じている」「やや感じている」の合計)割合はテレワーカーの方が23.1ポイント高い結果となった【図表9】(上段)。また、場所に関する施策だけに着目して、同様に利用状況別で比較してみると、効果実感の差はさらに大きく30.5ポイントとなり、「テレワークの場所」を利用しているワーカーの73.7%が効果を感じている結果となった【図表9】(下段)。働き方改革の様々な施策の中でも、働く場所が選べることは効果実感につながりやすい施策といえるだろう。
【図表9】<テレワーク実施状況別>働き方改革の効果実感
1-3.テレワーカーの実態
- ワーカーの属性別にみると管理職が、職種では「経営企画」や「商品・サービス企画開発・マーケティング」、「営業」などからテレワークの普及が進んでいる。また、勤務先の従業員規模が大きくなるほど実施率が高かった。
- テレワークの場所の利用者でも各場所の利用頻度は月1~2回以下であるワーカーが多く、テレワークの普及には伸びしろが感じられる。また、レンタルオフィス・シェアオフィスについては「いいアイデアが出せる」「仕事の成果が向上する」といった特徴的なメリットがあった。
- 自宅の環境ではテレワークしづらい理由としては、「仕事のオン・オフが切り替えづらい」(49.6%)や「仕事に適したデスクがない」(49.6%)などが挙げられた。
ここまでで、「モバイルワーク」と「テレワークの場所」では普及の仕方に差があるものの、テレワーク自体は世の中に徐々に浸透してきており、働き方改革としての効果実感にも良い影響があることがわかった。ここからは、現状においてテレワークがどのような人にどの程度利用されているのか、テレワーカーの実態をみていきたい。
まず、テレワーカーを属性別にみてみる。勤務先の従業員規模別にテレワーク実施率をみたところ、勤務先が大規模であるワーカーほどテレワーク実施率が高い傾向があった【図表10】。
【図表10】<勤務先の従業員規模別>テレワーク実施率
役職別にみてみると、比較的役職者の実施率が高い結果となり、「部長相当職」では60.3%がテレワークを実施していた【図表11】。一方で「役職なし」のワーカーの実施率は最も低く27.9%となった。
【図表11】<役職別>テレワーク実施率
最後に職種別にみた結果が【図表12】である。「経営企画」(68.3%)や「商品・サービス企画開発・マーケティング」(57.8%)、「営業」(50.5%)ではテレワーク実施率が5割を超えた。デスクワーク中心のイメージがある「総務」や「財務・経理」は、ほかの職種と比べると実施率は低いが、それでも3割程度がテレワークを実施している結果となった。
【図表12】<職種別>テレワーク実施率
続いて、テレワークの場所に関する施策三種類について、各利用者の利用頻度を聞いた結果、すべての施策において、最も多かったのは「月1~2回以下」と回答したワーカーであった【図表13】。すでに「テレワークの場所」を利用している人についても頻度に着目するとまだ普及の伸びしろがあるといえそうだ。また、週1~2回以上の頻度で利用しているワーカーは在宅勤務利用者では約3割、レンタルオフィス・シェアオフィスの利用者及びサテライトオフィス利用者では約2割であった。
【図表13】<テレワークの場所別>利用頻度
それぞれのテレワークの場所について利用者にメリットを聞いた結果、三つのテレワークの場所すべてにおいて上位2項目は「移動時間・通勤時間の削減」と「集中して仕事ができる」であった【図表14~16】。この2項目は具体的な場所に関わらず、オフィス以外の場所で働くことのメリットであると捉えることができる。
また、レンタルオフィス・シェアオフィスでは3番目以降に「いいアイデアが出せる」(23.2%)、「仕事の成果が向上する」(23.2%)といった項目が並んだ。これらの項目はほかのテレワークの場所のメリットとしては上位に入らず(在宅勤務:「いいアイデアが出せる」10.6%、「仕事の成果が向上する」14.8%/サテライトオフィス: 5.1%、15.2%)、レンタルオフィス・シェアオフィスに特徴的なメリットであると考えられる。
【図表14】在宅勤務のメリット
【図表15】レンタルオフィス・シェアオフィス等のメリット
【図表16】サテライトオフィス等のメリット
また、【図表5】(働き方及び働く環境についての具体的な不満)で「自宅の環境ではテレワークしづらい」を選んだ人に理由を聞いたところ、「仕事のオン・オフが切り替えづらい」(49.6%)や「仕事に適したデスクやチェアがない」(49.6%)、「自室や書斎がない」(39.1%)などの不満を感じている割合が高かった【図表17】。【図表14】で在宅勤務のメリットを示したが、その一方で自宅はあくまでも住むための場所であり、働く場所として利用するには環境が整っていないという状況があるのかもしれない。
【図表17】在宅勤務の不満
以上のことを踏まえると、企業はテレワークをただ推し進めるのではなく、オフィスや多様なテレワーク施策のそれぞれのメリット・デメリットを十分に理解し、従業員がより働きやすくなるように働く場所の選択肢を与えることが重要であるといえるだろう。
<PICK UP>働く場所の選択肢を持つことの重要性
ここでは、ワーカーの仕事内容や業務タイプの観点から、働く場所の多様な選択肢を持つことの重要性について考察していく。
まず、ワーカー自身の仕事内容について「新たな価値を生み出す仕事」か「運営や処理をする仕事」かを基準に四段階で聞き、回答者をグループ分けした(①~④)。さらに、「だれと(一人/社内の複数名/社外の人を含む複数名)」・「どのような(新たな価値を生み出す/運営や処理をする)」業務をしているのかという軸で業務を6タイプに分類し、自身が各タイプの業務をどの程度の割合(時間)で行っているかを聞いた。この結果を仕事内容による四つのグループごとに集計した結果が【図表18】である。
回答者全体の6割以上を占める「①運営や処理をする仕事」および「②どちらかといえば運営や処理をする仕事」グループの業務タイプ割合(時間)をみると、両グループとも「一人で、運営や処理をする業務」の割合が最も多く、特に「①運営や処理をする仕事」グループでは過半(53.7%)を占めている。次いで「社内の複数名で、運営や処理をする業務」が多く、「①運営や処理をする仕事」グループではこの2つの業務タイプの合計が8割を超えた。また、「④新たな価値を生み出す仕事」および「③どちらかといえば新たな価値を生み出す仕事」グループでも、「一人で、運営や処理をする業務」および「社内の複数名で、運営や処理をする業務」がそれぞれ3割以上含まれていることから、どのような仕事を担っているワーカーにとっても、一人または社内の複数名で集中して作業できるような場所は特に重要であるといえるだろう。
また、今回の結果から、①~④どのグループでも全く行わない業務タイプはなく、すべてのワーカーは多様な業務を担っていることがわかった。例えば、在宅勤務制度が利用できても複数名での業務を行うことは難しいように、企業は多様な業務タイプに適した多様な働く場所の選択肢を用意することが、ワーカーの生産性向上の観点において重要であると考えられる。
【図表18】<仕事内容(価値創造/運営処理)別>各業務タイプの割合(時間)
2.働き方へのニーズ
2-1.働き方に関する各施策の利用率とニーズ
- テレワークに対するニーズは現在の実施率より高く、特に「テレワークの場所」に対するニーズは現在の利用率より21.7ポイント高かった。
- 働き方に関する各施策で、ニーズが現在の利用率を上回る結果となった。特に「フレックスタイム制度」や、「在宅勤務制度」、「副業・兼業」は差が大きい。
- 未就学児を持つ女性は利用率とニーズのギャップが大きかった。(PICK UPより)
前項では、ワーカーの現状の働き方をもとに考察してきた。ここからは現状に加え、多様な働き方に対するニーズについてもみていきたい。
まず、働き方に関する各施策について、現在の仕事や状況に関わらず、利用したいと思うものを聞き、利用率とニーズを比較した【図表20】。【図表7】と同様に働き方に関する施策のうちテレワークに関する施策を取り出して再集計したものが【図表19】である。その結果、テレワークのニーズは実施率より高く、52.9%であった。内訳をみると、「モバイルワーク」は現在の利用率とニーズに大きな差がないが、「テレワークの場所」は利用率が13.4%であるのに対してニーズは35.1%と、21.7ポイントの差(2.6倍)があった。導入の実態は「モバイルワーク」と比較して「テレワークの場所」がかなり遅れをとっているが、ニーズは「モバイルワーク」と同等であるといえる。
【図表19】働き方に関する施策の利用率とニーズ(テレワーク関連施策のみ再集計)
テレワーク以外の施策も含めて各施策のニーズを利用率と比較すると、各項目でニーズが利用率を上回った【図表20】。特に、「フレックスタイム制度」や「在宅勤務制度」、「副業・兼業」は利用率とニーズの差が大きいことがわかった。また、全体的に現在の利用率が高ければニーズも高い傾向にあることから、未導入の施策は利用方法や導入後のメリットがイメージしにくく、結果的にニーズが顕在化していない可能性が考えられる。例えば、「レンタルオフィス、シェアオフィス」などでニーズが低い結果となった要因として、まだ普及が進んでいないことが影響していると思われる。
【図表20】働き方に関する施策の利用率とニーズ(詳細)
<PICK UP>テレワークのニーズがある人の属性
ここまでで、「テレワークの場所」に対するニーズが高いことがわかったが、具体的にはどのような人にニーズがあるのだろうか。
ワーカーが同居している子供のうち、末子のステータス(小学生未満~社会人)別に「テレワークの場所」に対する利用率とニーズを比較した【図表21】。子供のステータスにかかわらず一定して女性の利用率は比較的低いが、特に「小学生未満」の子供と同居している女性は、ニーズが57.1%と最も高くなっているのに対して利用率が10.4%であり、その差が最も大きかった。未就学児を持つワーカーにとってテレワークは子育てとの両立にもつながると考えられるが、「テレワークの場所」の整備は未だニーズに対応しきれていない状況がうかがえる。
【図表21】<同居している子供(末子)別>「テレワークの場所」の利用率とニーズ
2-2.働く場所に対する興味
- ワーカーは「人や機能が集積している都心部で働く」(58.9%)こと以上に、「職住近接の実現のため、自宅近くのエリアで働く」(75.9%)ことに興味がある。
【図表22】は、働く場所に関する五つの項目に対してどの程度興味があるか回答してもらった結果である。五項目の中で最もワーカーが興味を持っているのは「職住近接の実現のため、自宅近くのエリアで働く」であり、「興味あり」と「やや興味あり」の合計は75.9%に上った。「人や機能が集積している都心部で働く」(58.9%)と比べても17.0ポイントの差があり、【図表20】でみた在宅勤務へのニーズも含め、ワーカーは都心部よりも自宅や自宅近くで働くことに興味があることがわかる。
また、テレワークが徐々に普及してきている今、さらに先進的な働き方である「デュアルワーク」(47.8%)や「ワーケーション」(44.3%)も、それぞれ4割を超えるワーカーが興味を示しており、地域に捉われない新たなワークスタイルとして注目されている様子がうかがえる。
【図表22】働く場所に対する興味
3.満足度・ウェルネス
- 現状の働き方に満足していたり、働き方や働く環境が自身の心身の健康(ウェルネス)によいと思っているワーカーは、2人に1人しかいない。
- 「テレワークの場所」を利用しているワーカーとそうでないワーカーを比べると、働き方に対する満足度およびウェルネスの評価に大きな差があった。
前項では、テレワークのニーズや働く場所についての価値観について述べたが、ワーカーは現状の働き方にどの程度満足しているのだろうか。ワーカーの働き方とその満足度の関係を調べた。
まず、現在の働き方に対する満足度を聞いたところ、「満足」「やや満足」と回答したワーカーは54.1%であった【図表23】。約2人に1人が不満に感じている状況を踏まえ、企業はこれまでの働き方を変える必要に迫られている。
【図表23】働き方に対する満足度
実際に、ワーカーの利用ニーズが高いテレワークについて、実施状況別に満足度をみてみると20.5ポイントの差があり【図表24】(上段)、テレワークに関する施策に取り組むことはワーカーの働き方に対する満足度の改善に効果的であるといえる。特に、「テレワークの場所」のみに注目すると満足度の差は24.6ポイントであった【図表24】(下段)。
【図表24】<テレワーク実施状況別>満足度
続いて、現在の働き方や働く環境が自身の心身の健康(ウェルネス)によいと思うかを聞いた。その結果、「よい」「ややよい」と回答した割合は56.3%で、満足度と同様に半数近いワーカーが「(あまり)よくない」と捉えており、喫緊に改善すべき状況が浮き彫りになった【図表25】。
【図表25】ウェルネス
別途、現在の働き方や働く環境が自身の心身の健康(ウェルネス)に「(やや)よい」または「(あまり)よくない」と答えた理由を自由記述してもらったが、よい理由としてもよくない理由としても「通勤」に関する内容が多数見受けられたことから、通勤ストレスはワーカーのウェルネスの良し悪しを左右する要因の一つとなっていそうだ。そのほか、ウェルネスによい理由としては、社風の良さやワーカーが自律的に働ける環境が重視されていると思われる。一方で、ウェルネスによくない理由にはオフィスのファシリティやハード面に関する不満も目立ち、改善の余地がありそうであることがわかった。以下に自由記述の一部を紹介する。
■参考資料■ウェルネスによい/よくないと思う理由の自由記述(一部抜粋)
<ウェルネスによいと思う理由>
● 自宅で働けるので、通勤で疲れることが無い
● フレックスで通勤のストレスが少ない
● 自宅から近いので通勤が楽
● 何事も自由な雰囲気
● 人間関係が良く、風通しの良い職場環境であること
● 自分のペースで働ける
● 個々の裁量に任されているため、無理なく働ける
<ウェルネスによくないと思う理由>
● 通勤時間が長い
● 通勤時間が長く満員電車でエネルギーを消耗してしまう
● 混雑した電車で通勤しなければならない
● リフレッシュのためのスペースがない
● ビルが古くて汚く換気が悪い
● 空調が悪い
● 事務所での作業を前提とした仕組みのため、外出先での作業が出来ず、非効率
また、ウェルネス評価についてもテレワークの実施状況別、「テレワークの場所」の利用状況別に比較したところ、満足度と同様にワーカーの評価に差がみられた【図表26】。特に、「テレワークの場所」の利用状況は、ウェルネスの良し悪しを左右する要因として挙げられた通勤ストレスの軽減にもつながると考えられ、実際に利用状況によって24.2ポイントの差があった【図表26】(下段)。
これらの結果から、テレワークの場所の整備はワーカーの満足度の観点からも、ウェルネスの観点からも重要であると考えられる。
【図表26】<テレワークの実施状況別>ウェルネス
4.未来の働き方
- 未来の社会や働き方がどのようになると良いと思うかを聞いたところ、「通勤電車の混雑が解消され、通勤時間を有意義に使えるようになっている」(85.3%)、「総労働時間が減り、仕事以外に使える時間が増える」(84.1%)、「自宅近くで働ける場所が増え、通勤ストレスが減る」(83.7%)、「育児・介護と仕事の両立がしやすい社会になる」(83.6%)といった項目が上位に挙がり、通勤ストレスの緩和やワークライフバランスの改善への興味関心がうかがえる結果となった。
最後に、2025年の未来における社会や働き方に関するワーカーの価値観をみてみた。
未来の働き方として想定されるいくつかの項目について、「良いと思う」「やや良いと思う」「あまり良いと思わない」「良いと思わない」の尺度で聞いた。「良いと思う」「やや良いと思う」の合計に着目してみると、「通勤電車の混雑が解消され、通勤時間を有意義に使えるようになっている」(85.3%)、「総労働時間が減り、仕事以外に使える時間が増える」(84.1%)、「自宅近くで働ける場所が増え、通勤ストレスが減る」(83.7%)、「育児・介護と仕事の両立がしやすい社会になる」(83.6%)といった項目が上位に並び、通勤ストレスの緩和やワークライフバランスの改善への興味関心がうかがえる結果となった【図表27】。
【図表27】未来の社会や働き方に関する価値観
5.まとめ
本レポートでは、オフィスワーカーの働き方について実態を探るとともに、特にテレワークの場所が整備されることについて、満足度との関係性などからそのメリットや重要性について考察した。
まず、ワーカーの勤務先と自身の働き方改革への取り組み状況からは、勤務先が働き方改革に取り組んでいても自身の働き方が変わっていないというワーカーが最も多く、企業の取り組みが広がるなか(*7)依然ワーカーの働き方との差があることが確認された。また、テレワークに関しても、今回の調査では約4割に上り拡大が認められたものの、「モバイルワーク」の利用が主であり、在宅勤務やレンタルオフィス・シェアオフィス、サテライトオフィスといった場所の選択肢を持つワーカーはまだ1割程度と低い状況であることが浮き彫りとなった。
一方で、テレワークを含むフレキシブルな働き方に対するニーズは現在の利用率に比べて高い。現状、特に未就学児を持つ女性は「テレワークの場所」の利用率とニーズに大きな差があり、育児と仕事の両立支援のためにも、子育て世代の女性に対する一層のテレワーク普及が望まれている。また、子育て世代に限らず、都心で働くよりも自宅近くのエリアで働くこと(職住近接)への興味が高く、郊外を含めた多様な場所で働くことのニーズが確認された。さらにはデュアルワークやワーケーションといった、普段の居住地や勤務地に縛られずに働くことへの興味も一定数みられるなど、ワーカーの働き方、働く場所に関する価値観が多様化していることがわかった。
そして、企業が実施する働き方に関する施策をワーカーがどの程度利用しているかによって、ワーカーの満足度や、働き方・環境に対するウェルネスの評価に差があり、特に「テレワークの場所」を利用しているワーカーほど自身の働き方への満足度やウェルネスの評価が高いことがわかった。
しかし、重要なのはテレワークをただ推し進めることではなく、ワーカーが働きやすい環境を一体的に整備することである。例えば、現状の働き方および働く環境に対する不満を聞いた設問では、「勤務先オフィスの環境がよくない」ことを挙げるワーカーが多かった。テレワークの場所の整備だけでなく、主な勤務地となる、集まるためのオフィスの環境整備は引き続き重要視されるべきだろう。特に今回の調査では、どのような仕事内容のワーカーであっても多様なタイプの業務を行っていることがわかった。企業が主たるオフィスの中にも業務タイプに適した多様なスペースを用意し、ワーカーの働き方、働く場所の選択肢を整えることは、ワーカーが働きやすい環境を一体的に整備することへの第一歩となるかもしれない。そのうえで、ワーカーの通勤ストレス解消や職住近接ニーズへの対応策として、レンタルオフィスやシェアオフィス、サテライトオフィス等、オフィスの外にも様々な選択肢を用意していくべきだろう。
本レポートでは、企業がワーカーに対して働く場所の多様な選択肢を用意することの有効性に着目したが、企業の真の目的はワーカーが心身ともに充実し、より生産性高く働けるようにすることである。その目的を達成するため、企業は働き方に関する制度や設備をただ導入して終わりではなく、利用者であるワーカー側の視点に立って運用・改善を継続していくことも重要となるだろう。また、今回の調査では「テレワークの場所」に対するニーズが35.1%にとどまり、現在の利用率と比べれば高いものの、ワーカーの6割強は自身の働く環境に対して意識的でない状況が明らかとなった。今後、企業の取り組みがより効果を発揮するためには、ワーカー側にも、働き方や働く場所を自律的に選択し、自身の生産性向上や価値創造につなげようとする意識をより高めてもらう必要があるかもしれない。こうした意識や需要の変化が働く場所に与える影響を捉えるためにも、ザイマックス総研では引き続き、企業調査とワーカー調査を並行して実施していく所存である。
《調査概要》
調査時期:2019年10月/調査地域:首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)/調査方法:インターネット調査
調査対象:①スクリーニング調査…15~69歳の男女20,000人を対象に実施。②本調査…スクリーニング調査で「職業が会社・団体の役員、会社員・団体職員で、職種が管理的職業、専門的・技術的職業、事務、営業職業、通常時の勤務地が首都圏(1都3県)」と回答した20~69歳の男女2,060人から有効回答を得た。
《回答者属性》
英語版:Greater Tokyo Office Worker Survey 2019
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