ワークスタイル

PDF版ダウンロード

2017.04.13

働き方改革と多様化するオフィス

企業とワーカーそれぞれの視点から見えるオフィスの新しいカタチ

 高齢化の進展や生産年齢人口の減少による労働力不足の懸念などを背景に、企業は人材確保と生産性の向上のため、働き方改革への取組みを強化している。また、ICTツールの進化などにより、時間や場所に捉われない多様な働き方が可能な時代になってきている。働く場所であるオフィスは、企業にとって経済活動の基盤であり、オフィスワーカーにとっても、どこで働くかということは、効率性やワークライフバランスといった点で重要なトピックとなっている。

 昨年、ザイマックス不動産総合研究所では、働き方に関する2つのアンケート調査を実施した。1つは、企業調査(「大都市圏オフィス需要調査2016」として公表済み)であり、企業がさまざまな働く場所の整備に着手している実態を確認した。もう1つはワーカー調査であり、オフィスワーカーのテレワークの実態を聞いたものである。

 本レポートは、上記2つのアンケート結果を踏まえ、企業とオフィスワーカーの双方の観点から、働き方の変化と働く場所の関係(実態および現状の課題や今後の方向性など)について最新のトレンドをまとめたトピックレポートである。

Main Topics
  • ➢ 企業が働き方を変化させるなか、オフィスワーカーの働く場所が多様化している。主たるオフィス以外に、在宅勤務や様々な専用施設(サードプレイスオフィス*)の利用が始まっている
  • ➢ テレワーク**をする前のイメージと実際にテレワークをした人が感じているメリットとデメリットにはギャップがある
  • ➢ 主に自宅を利用して働く方が、自宅以外で働くよりも仕事のON/OFFの切り替えがしづらく、長時間労働につながる可能性がある
  • ➢ 若年層や子育て世代のサードプレイスオフィスに対する利用意向は高い。サードプレイスオフィスの活用は雇用の確保・新規採用の観点のみならず、生産性の向上に向けた環境整備の選択肢として有効である
*サードプレイスオフィス
会社のオフィスでも自宅でもなく、主に事業者がサービス提供するオフィススペース。サテライトオフィス、レンタルオフィス、シェアオフィス、モバイルワークオフィス、コワーキングスペースなどを含む。契約主体が会社か個人かは問わない。
**テレワーク
インターネットなどのICTを利用することで、本来勤務する場所から離れた場所で仕事をすること。具体的には、次のような場所で仕事をすることをいう。なお、1日単位ではなく、ICTを利用できる環境において仕事を少しでも(週1分以上)行っている場合を含む。
A)自宅(書斎などの専用スペース、リビングなどの共有スペースなど)
B)喫茶店など(喫茶店、マンガ喫茶、ネットカフェ、図書館、カラオケボックス、ホテルなど)
C)移動中など(電車・バス、飛行機、駅、空港、客先ロビーなど)
D)民間施設(原則個人による利用契約・登録が必要で自費負担する民間施設。レンタルオフィス、モバイルワークオフィス、 シェアオフィス、コワーキングスペースなど)
E)会社専用施設(会社などが開設または指定する自席以外でも仕事ができるオフィス。サテライトオフィスと呼ぶこともある。 出張先の自社事務所、費用が会社負担となる民間施設を含む)
※当レポートでは、上記のうちD)民間施設、E)会社専用施設をサードプレイスオフィスとしている。

企業が働き方を変化させている

 従来、日本企業は、社員の「働く場所」と「働く時間」をオフィスで画一的に管理してきた。決まったオフィスに通勤し、部署ごとに机が並ぶレイアウトの中、自席で仕事をするスタイルが一般的であった。また、社員は決まった時間に出社して退社するのが通常の働き方であったといえよう。

 しかし、この数年におけるテクノロジーの進化により、ICTツールを利用して外出時などに社外で仕事をするスタイル(モバイルワーク)が急速に普及してきている。このことは働き方のみならず、オフィスのあり方にも影響を及ぼすと考えられる。

これまでとこれからの働き方とオフィス

 

 例えば、企業調査を見るとモバイルワークやTV・WEB会議システムは半数以上の企業が導入済みである。

企業におけるモバイルワーク導入の割合

 企業が社員の働き方を変えるにあたっては、人事制度の整備やペーパーレス化などを組み合わせた複合的かつ一体的な取組みが必要となる。このような取組みはどのようなきっかけで導入されるのかを聞いてみた。以下の図表のとおり、経営層の判断で進められることが圧倒的に多く、トップのコミットメントが要求される重大な事項であるといえる。

働き方の変化へ取組むきっかけ

 テレワークは働く場所によって、「モバイルワーク」「在宅勤務」「サードプレイスオフィス勤務」の3種類に分けられる。前述のとおり、企業でモバイルワークの導入が進む一方、ワーカー側の実態はどのようになっているのだろうか。現時点では、オフィスワーカーがテレワークを行うタイミングは、事前に場所や日時を決めて実施するのではなく、外出や直行直帰、出張などの移動に付随して行われていることが多いことがわかる。

テレワークを実施するタイミング

テレワークをする前のイメージと実際にテレワークをした人が感じているメリットとデメリットにはギャップがある

 テレワークに対して、オフィスワーカーが持つ期待と、実際にテレワークをしている人が感じたメリットを比較すると興味深い傾向がみえる。

 オフィスワーカーがテレワークに期待することとして、移動時間や通勤時間の削減があげられている。しかし、実際にテレワークを経験した人は、時間の削減や仕事以外の時間の創出よりも、「(テレワークだと)集中して仕事ができる」「仕事の成果が向上する」「いいアイデアが出せる」などの仕事の質の向上に繋がる効果を感じている。

 また、「ストレスが減る」ことも、メリットとしてあげられており、オフィスワーカーの健康維持の観点からもテレワークの効果が期待できる。

テレワークへの期待と実際に感じたメリット

(「あてはまる」と「ややあてはまる」の合計割合)
 

 一方、テレワークに対する不安と、実際に感じたデメリットの比較からも興味深い傾向がみられた。 まず、全ての項目で、イメージされている不安ほど、テレワーク経験者はデメリットを感じていないことに着目したい。オフィスワーカーの多くは「仕事のコミュニケーション量が減る」「ホウレンソウ(報連相)がしづらい」というコミュニケーションロスに関する不安を抱いているが、テレワーク経験者はそれほど感じていない。

 テレワーク経験者が上位にあげたのは、コミュニケーションロスに関することではなく、「仕事のON/OFFの切り替えがしづらい」「長時間労働になる」といった労働時間や労働負荷に関することである。

テレワークへの不安と実際に感じたデメリット

(「あてはまる」と「ややあてはまる」の合計割合)
 

 テレワーク経験者がデメリットとしてあげた上位2項目「仕事のON/OFFの切り替えがしづらい」「長時間労働になる」について、テレワークをしている場所の違いで、感じ方に差があるかをみた。

 主に自宅を利用して働く方が、自宅以外で働くよりも仕事のON/OFFの切り替えの難しさや長時間労働の懸念を感じているようである。 これらのデメリットにつき、実際に自宅でテレワークをしている人へインタビューをしたところ、自宅の設備環境や家族の在宅状況などが関連していることがわかった。

 今後、これらがテレワークを促進するにあたり事前に検討しておくべき課題になると思われる。

テレワーク実施場所とデメリットの感じ方

働く場所も変化し始めている

 昨今、働き方改革に関しては、長時間労働を是正するため、働く時間をどう短縮するかが議論の焦点になっているが、働く場所を多様化させることは、業務効率化にも繋がるため、時間だけでなく場所を議論に加えることが必要である。

 企業調査をみると、在宅勤務制度やサードプレイスオフィスを整備・用意している割合は過去1年で大きく増加していることがわかる。

在宅勤務制度とサードプレイスオフィスを整備・用意している割合と
過去1年における変化

 これまで、オフィスワーカーは自宅からオフィスに通い、その場所で勤務した後に帰宅する働き方が一般的であり、働く場所は特定のオフィスに限定されていたといえる。しかし、この数年におけるICTツールや通信環境の進化とワークライフバランスに対する配慮などから、自宅でも働けるよう在宅勤務制度の導入や拡充が進みつつある。

 また、同時に、自宅でも主たるオフィスでもない第三の場所として、移動中や出張時など、特定のオフィス以外の場所でも効率的に仕事ができる「サードプレイスオフィス」を導入する企業が拡大していることにも注目したい。これは、これまでにない新たなオフィスの利用形態だといえる。

サードプレイスオフィスを選択肢として考える

 本来、テレワークとは、主たるオフィスから離れた場所で仕事をすることであるが、一般的には在宅勤務と捉えられている場合も多い。しかし、特に首都圏の住宅事情に鑑みると、自宅に仕事をする十分なスペースや設備が整っているとはいいがたい。また、自宅だけでは課題がいくつかみられることから、企業は、在宅勤務以外にもサードプレイスオフィスをあわせて導入することで、働きやすい環境を整えることができると考える。

 では、サードプレイスオフィスに求められる要件とは何だろうか。オフィスワーカーが最も重視することは、以下の図表のとおり「自宅から近い」で、続いて「セキュリティ」「静かさ」「プリンターなどの事務用機器」と、自宅では比較的整備が難しいと思われる要素が上位にあげられている。

サードプレイスオフィスを利用する上で重視すること

(「重視する」と「やや重視する」の合計割合)
 

 現在、事業者が行っているサードプレイスオフィスは、都心や郊外に立地するもの、単独で働くものから複数で協働することを中心にしたもの、さらに、キッズスペースを併設したものなど、様々なタイプがある。 名称は、モバイルワークオフィス、サテライトオフィス、レンタルオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペースなどあるが、同じ名称であっても異なるサービスを提供している場合も多く、現状は、提供するサービスの内容による明確な定義はない。

 しかし、注目点は、これまでのような特定の場所を一定期間賃貸借するオフィスではなく、場所や期間に縛られずに、必要な時に必要なだけ「利用」するオフィスの選択肢が増えていることである。このようなオフィスは不動産業にサービス業的な要素が加わってきたといえる。そして、今後このようなサービスがわかりやすく整理されていくと、働く場所の選択肢としてサードプレイスオフィスが一層定着していく可能性がある。

利用してみたいサードプレイスオフィスは、場所を選んで働けるオフィス

 今回のワーカー調査において、使い方が異なる以下の4タイプのサードプレイスオフィスを例示し、どのタイプのオフィスを利用したいか、「コンセプトチェック」を行った。

1. 場所を選んで働けるオフィス(1人で利用)

 【利用イメージ】首都圏ターミナル駅最寄りほか主要なオフィスエリアに複数あるなかから、自分のスケジュールの都合にあわせて場所を都度選んで利用できる

2. 場所を選んで働けるオフィス(複数人で利用)

 【利用イメージ】首都圏ターミナル駅最寄りほか主要なオフィスエリアに複数あるなかから、部署メンバーや複数社でのプロジェクトチームごとのスケジュールの都合にあわせて場所を都度選んで利用できる

3. 子育て支援型オフィス

 【利用イメージ】自宅からオフィスまでの通勤時間を短縮できる場所を選択し、そこでオフィス同様に働ける設備・仕組みの導入がある

4. コラボレーション型オフィス

 【利用イメージ】法人、個人など様々な業種・職種の人たちが利用する・オープンスペースが中心で、自由にコミュニケーションをとることができる

 

 4つの中では、タイプ1の「場所を選んで働けるオフィス(1人で利用)」が最も高い支持を集めている。 これは、現状テレワークで行う仕事の多くが、主に1人で行う作業を対象としているためと考えられる。営業などでアポイントとアポイントの合間での利用のほか、単独で集中して行うような作業については、自分の都合にあわせて場所を選びたいという意向があるのかもしれない。
 また、タイプ2の「場所を選んで働けるオフィス(複数人で利用)」の利用意向が次に高く、チームや社内外を含めたプロジェクトなど、複数人で進める仕事でも利用したいと考えている人が多い。

 これらの結果から、オフィスワーカーが自らの都合にあわせて場所を選択し利用する、という新しいコンセプトのオフィスに対しニーズがあることが想定できる。

サードプレイスオフィスの利用意向

 

 年代別に利用意向をみると、いずれのサードプレイスオフィスのタイプにおいても若年層で利用意向が高く、年齢が上がるにつれて低くなる傾向となった。このことは、採用や人材確保の観点でも注目すべきポイントといえる。

 なお、タイプ3の「子育て支援型オフィス」は他のタイプと傾向が異なっており、25~34才の支持が高い。昨今の待機児童など社会的課題の解決のため、今後、一層の整備が期待される。

<年代別>サードプレイスオフィスの利用意向

1.場所を選んで働けるオフィス(1人で利用)

 

2.場所を選んで働けるオフィス(複数人で利用)

 

3.子育て支援型オフィス

 

4.コラボレーション型オフィス

さいごに

 従来、日本企業は、労働時間で社員を管理する雇用形態が主であり、働く場所であるオフィスはひとつに固定されてきた。また、企業にとって、オフィスはコストセンターという意識が定着しており、コスト効率が優先されてきたのが実態だといえる。

 しかし、今、働き方改革が進むなか、働く場所についても変化が生じている。冒頭でも述べた通り、今後、生産年齢人口減を背景に、雇用の維持・拡大や生産性の向上が課題とされ、企業は今まで以上に、社員に魅力的な働きやすい環境を整備することが求められている。オフィスは単なるコストセンターではなく、企業活動を支える基盤であり、オフィスについての戦略は、企業にとって重要な経営戦略の1つなのである。
 具体的には、企業は在宅勤務の制度導入のみならず、「サードプレイスオフィス」の戦略的利用や既存のオフィスの執務環境整備など、不動産を活用した企業価値向上戦略(CRE戦略)を実践していくことが必要となるであろう。そして、これらの推進においては、経営トップのコミットメントが要求されることはいうまでもない。

 ザイマックス総研は、社会的にも重要なテーマである「働き方」と「オフィス」について、今後とも調査・分析を行い、有用な情報を発表していく予定である。

《調査概要》

1 本調査対象者は性(男性、女性)×年代(20代以下、30代、40代、50代、60代)の10セグメントで、就業構造基本調査(H24、総務省)の1都3県における有業者数の比率に割付を実施した。
2 職業、主たる仕事場に加えて、「主に働いている場所」と「職種」についても本調査対象者の抽出条件としている。具体的には、「主に働いている場所」を「オフィス(事務所)」と答えた場合には「職種」を問わず本調査の対象としたが、「主に働いている場所」を「オフィス(事務所)以外」と答えた場合には職種が「総務・人事・経理・企画など、一般事務・受付・秘書、営業・販売、接客サービス、調査分析・特許法務などの事務系専門職、研究開発・設計・SEなどの技術系専門職、編集・デザイナー・ライターなどのクリエイティブ系専門職、医療・教育関係の専門職、現場管理・監督」のいずれかと答えた人を本調査の対象とした。
3 本調査で回答を得た3,094人のうち、本レポートで使用しているグラフは「主に働いている場所」を「オフィス(事務所)」と答えた人をサンプルとして集計した。
※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
※当社の事前の了承なく、複製、引用、転送、配布、転載等を行わないようにお願いします。
レポートに関するお問い合わせ
  • ザイマックス不動産総合研究所
  • TEL: 03 3596 1477
  • FAX: 03 3596 1478
  • お問い合わせ

ザイマックスグループホームページへ
レポートの一覧へ