高齢者介護は日本企業における新たな人事領域に

仕事とワークスペースをメインテーマとする世界的な知識ネットワーク「WORKTECH Academy」(ワークテック・アカデミー)では、グローバルトレンドを俯瞰する多彩な記事を発表しています。今回はその中から、超高齢化社会に突入した日本において従業員の介護と仕事の両立を支援するための日本企業の多彩なアプローチに関する、オックスフォード大学高齢化問題研究所ヒロコ・ウメガキ-コンスタンティーニ博士のレポートをご紹介します。

ザイマックス総研はWORKTECH Academyのグローバル会員として、今後も当サイトにて、同アカデミーの記事を日本の皆さまに共有していきます。ご期待ください。

記事原文:Why eldercare marks a new HR frontier in Japan’s workplace

国民の4人に1人以上が65歳以上である日本で、企業は従業員が介護と仕事を両立するための新たなアプローチを開発している。

あなたの雇用主は、あなたの親の介護ニーズに対する支援策を用意しているだろうか。また、その支援策は他の組織と比べてどのようなものだろうか。日本では企業による支援策の一覧が存在し、現在および将来の従業員が知ることができるようになってきている。

法律で義務付けられている以上に企業が多様な施策を講じていることは、介護中の従業員を支援する企業の役割を模索する人事部門にとって、これが新たな領域であることを示している。介護支援は日本が前代未聞の人口の高齢化に対して、社会が適応するプロセスでの重要な要素となっている。

人口動態は急速に変化している

急速な高齢化により、日本において高齢者介護はますます切迫した問題となっている。2018年には65歳以上の人口比率が28.1%に達した。寿命の伸びと出生率の低下により、生産年齢人口100人に対する老年人口の割合を示す従属人口比率は、2000年の27.3から2025年には54.4と、大幅に上昇することが予想されている*1

高齢者施設での制度化された介護と高齢者介護のニーズの間にはギャップがあり、それにより自宅での非公式な介護が極めて重要となっている。日本政府が高齢者の介護にかかる費用を厳しく抑制しようとしていることと、大量の外国人受入れによって介護セクターを拡大させることへの根強い抵抗により、在宅介護の負担は必然的にますます家族にのしかかっている。

男性による介護が増えている

他の先進国と同様に、日本でも高齢者の介護は伝統的に女性の仕事とみなされてきたが、人口動態の変化により、男性が介護に携わるケースが増えている。また、就労していない家族だけでなく、就労者も介護を担うようになってきている。「就労男性」という立場を理由に男性が介護に参加しないことは正当化されにくくなっている。

実際、家族の介護をしている40〜50代の男性の77.4%は就労者である。家族の介護をしている就労者の数は2016年時点で396万8,000人に上り(2001年から約35%増)、うち46%が男性である*2。また、そのうちの非常に高い割合が役職に就いている(2013年時点で約35%*3)。介護と仕事の両立が困難であることは言うまでもない。就労者の中には介護の負担が大きすぎるため離職する人もいる。

日本の大手企業が従業員の介護負担を軽減させるため、介護用の特別休暇や、仕事の時間や場所をはじめとした労働環境の調整、介護に要する経済負担への支援といった様々な施策を打ち出しているのはこのような状況を背景としている。従業員が仕事を続けながら介護を担う方法について認識を高め、学ぶためのワークショップを企業が提供することは一般的となっている。

「介護するための特別休暇や労働環境の調整…」

日本の法律は企業に対し、年5日間の有給介護休暇に加え、93日の介護休業を従業員に認めることを義務付けている(93日のうち何日を有給とするかは各企業の判断に委ねられている)。しかし、法律に定められた最低限の水準以上の休暇、つまり5日以上の有給介護休暇や、より多い通算休業日数を認める企業も数多く存在する。

例えば丸紅では、法定の5日に加え、50日間の有給休暇を認めている。また、みずほフィナンシャルグループは最長3年の休業を認めている(有給と無給が混在しており、介護関連の保険に加入することで一部賄われる)。製紙会社の王子ホールディングスは、退職時の勤続年数が3年以上であることを条件として、介護により退職した従業員が退職後5年までを上限として会社復帰することを促進する制度を導入している。

経済支援と柔軟な働き方

また、介護関連費用に対し経済支援を提供する企業もある。NECは、親を従業員と同居または近くに住まわせるための転居費用を最大50万円まで補助している。パナソニックは一定の要介護水準以上の親のために行った住宅改修に対して従業員に最大300万円の融資を行う。また、有料の介護サポートに対する支援を提供する企業もある。例えば旭化成では、一回につき7,500円、年間100回を上限に、ホームヘルパー費用の半額を補助する。

JFEエンジニアリングは柔軟な勤務形態を認める施策を導入している数多くの企業の一つだ。従業員が最長5年間にわたって一日の勤務時間を2時間削減したり、サテライト・オフィスで働くことを認めているほか、現在は完全な在宅勤務のトライアルを実施している。電子機器の多国籍メーカーであるブラザーは、9:30から14:00をコアタイムとするフレックスタイム制度と、週2日の在宅勤務を認めている。

多様な施策

これらの例が示すとおり、施策は多岐にわたっており、近親者を含む家族のニーズを経済支援の正当な理由と見なす企業が存在することを知るのは重要なことである。また、介護中の従業員のニーズを満たすために、他の従業員や役職者が自らの働き方を調整することを求める施策が存在するのも意義深い。

みずほフィナンシャルグループは介護中の従業員の仕事を手伝う従業員に対して賞与を上乗せしている。日本の事例は、介護と仕事の両立に向けた新たなアプローチや解決策を目指して企業が幅広い努力をしていることを示している。それを象徴する動きとして、日本航空が育児に関する同社のイノベーションラボで新たに介護を重点分野に加える決定をしたことが挙げられる。

弱っている親を介護する従業員の支援策を講じることは企業活動にとって不可欠な要素となっており、企業の社会的責任(CSR)の一環とみなされることが多い。それはまた、従業員の介護ニーズに企業が関与することを促す日本経済団体連合会の意向に合致していると同時に、政府の優先事項にも沿っている。

介護を担う従業員の支援には労働慣行の調整が必要となり、ひいては企業の経営者にとって大幅な組織の変革が求められることは今や広く認識されているが、介護支援策の費用と恩恵は、企業によって、特にその規模によって異なると思われる。介護支援策を中小企業に普及させることは近い将来の重要な課題となる。

「日本企業の実績は他国の企業の参考になるだろう…」

もちろん、制度や政策、文化は国ごとに異なる。日本で成功した施策が他国でそのまま通用するとは限らない。それでも、日本企業の従業員の介護ニーズへの対応における実績は、急速に高齢化が進む他のWORKTECH参加国の企業の参考となるだろう。

*1 出典:「統計からみた我が国の高齢者」総務省統計局、2019年

*2 出典:ここに書かれている大部分(ケース・スタディーを含む)は、日本経済団体連合会による2018年のレポート「仕事と介護の両立支援の一層の充実に向けて」より。

*3 出典:「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」厚生労働省、2013年

筆者:ヒロコ・ウメガキ-コンスタンティーニ博士はオックスフォード大学高齢化問題研究所マリーキュリーフェロー。この記事は同研究所のウェブサイトで初めて発表された。同博士は日本とフランスにおける介護と介護技術の研究を専門としている。

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