チームの時代、本社オフィス機能はオープンイノベーションに特化する

大久保 幸夫/リクルートワークス研究所 所長

働き方改革や人口減少、ビジネススピードの加速といった変化を受け、転換期を迎えようとしている日本の労働市場。人材マネジメントを研究してきたリクルートワークス研究所 大久保幸夫所長は、その変化をどのようにみているのでしょうか。

「2030年の労働市場とオフィス」というテーマを掲げ、前編では日本の労働市場や組織の変化についてご紹介しました。後編では、それらの変化に個人がどう対応し、働く場所はどのように変わるのかを伺います。

記事前編:2030年の労働市場は「人材のシェア」と「ジョブの細分化」

ダイバーシティ時代に求められる人材は「バランス」より「尖った強み」

求められる人材像が変わる。(図は編集部作成)
求められる人材像が変わる。(図は編集部作成)

労働市場や組織が変われば当然、求められる人材像も変わります。個人の能力をレーダーチャートで表した場合、昔は正円に近い、バランス良く何でもできる人が好まれましたが、ダイバーシティが進むと尖った強みのある人が求められるようになります。さらに、自分の強みを弱みとしている人に敬意を持ち、補完し合ってチームワークを発揮できる人が強い時代となるでしょう。

同じことが組織にもいえます。ピーター・ドラッカーは企業がコア・コンピタンス(核となる独自の強み)を持つことの重要性を説きましたが、異なる強みを持つ企業どうしの「補完型チーム」が価値を生むようになります。また、補完し合うだけでなく、同じ強みを持つ企業どうしが組む「強み統合型チーム」もありうるでしょう。

これは人材不足への対応にも有効で、例えばマーケティングを重視する企業どうしが組むことで優秀なマーケターの能力を共有することができるかもしれません。「企業の強み」とは最終的には人に帰属する強みであり、専門人材の力を活用できるか否かにかかってきます。

多様な個人がエンパワーされ、異なる強みを持つ人々が一緒に働くことで組織の強みも尖ってくると、協調することでこそ価値が高まる世界になる。連携により価値を生み出す企業と、非効率な自前主義を続ける企業との格差は開いていくでしょう。2030年はチームの時代になります。

ワークプレイスが企業をつなぐ役割を果たす

しかし、企業どうしで連携することはそう簡単ではないので、つなぐ役割を果たすものが必要です。

その一つとして、組織や人をネットワークする専門家が活躍します。従来のコンサルタントとは少し違って、行動特性としてはいわゆる昔の"お見合いおばさん"のような人。数多くのキーマンと知り合ってとにかくたくさん引き合わせ、一定の割合で良い化学変化を起こそうとするネットワーカーが主役になるでしょう。

もう一つがワークプレイスです。近年、コミュニティ機能を持つコワーキングオフィスが多数登場し、社外の人との出会いやつながりを求める企業から注目されていますね。同じ空間で働くことは連携への近道です。例えば、過去にはグループ会社間で同じ職種の人を同じフロアに配置した事例もあります。グループ内に限らず、この取り組みは組織間の壁を取り払うヒントになるのではないでしょうか。

テレワークの本質は「集中とコミュニケーションの分離」

「チームの時代」という観点で未来のオフィスを想像してみると、本社などのヘッドクォーターオフィスの役割はオープンイノベーションに特化していくのではないかと思われます。自社の従業員だけでなく社外も含む多様な人がゆるくつながれる場所です。では、そのコンセプトに最もフィットするのはどのような空間なのか。私が考える条件は二つです。

まず、やたらと人が出入りすること。そのためには多様な人にとって居心地が良い空間である必要があります。そして、機密性の高い重要な情報・知識を管理する機能が高いこと。この二律背反な二つの条件を満たす場所が、オープンイノベーションが生まれる未来のオフィスの姿だと思います。

一方、一人で集中できる場所も必要です。オフィスワークはコミュニケーション6割と集中4割で成り立っていますが、今のオフィスはコミュニケーション機能に焦点が当たりすぎていて、残り4割の集中についてはあまり研究が進んでいないように感じます。集中に入っていくプロセスは個人差が大きく、無音の環境がいい人もいれば適度な雑音を必要とする人もいるし、同じ人でも時間や気分によって差があることも考慮に入れなければならない。自らの集中特性を理解して、自分に合った場所を選ぶことが生産性の高い仕事につながります。

だからテレワークが有効なのです。テレワークの本質は通勤時間削減ではなく、集中とコミュニケーションの分離です。自分が最も集中しやすい場所を、業務にあわせて選べるということが重要なのです。

ワーカーの多様化に伴う課題についても、ワークプレイスにテクノロジーを取り入れることで解決できる部分が大きいと思います。例えば、仕事の指示を出す相手が多国籍になるので、音声自動入力や自動翻訳機能がオフィス機能として求められるようになる。コミュニケーションツールもどんどん進化しているので、母国にいながら日本企業のために働くようなワークスタイルも可能になっていくでしょう。ダイバーシティとチームの時代にフィットしたオフィスの在り方を考えていく必要があります。

大久保 幸夫(おおくぼ・ゆきお)/リクルートワークス研究所 所長
大久保 幸夫(おおくぼ・ゆきお)/リクルートワークス研究所 所長 1983年一橋大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。1999年にリクルートワークス研究所を立ち上げ、所長に就任。2010~12年内閣府参与を兼任。2011年専門役員就任。人材サービス産業協議会理事、Japan Innovation Network 理事、産業ソーシャルワーカー協会理事なども務める。専門は人材マネジメント、労働政策、キャリア論。

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