ワークスタイル

PDF版ダウンロード

2019.12.26

フレキシブルな働き方と生産性の関係

~「働いてもらい方改革」のすゝめ~

はじめに――本トピックレポートの目的

企業がワーカーの働きやすさや私生活の充実を重視する“人重視”の潮流を背景に、企業における働き方改革の意識は「働いてもらい方改革」へと変わりつつある。その過程で、時間や場所に捉われないフレキシブルな働き方が推進され、テレワークに代表されるそうした新しい働き方は、従来画一的であった働く場所の在り方をも多様に変容させている。

しかし、こうしたフレキシブルな働き方がもたらすメリットを享受するのは、ワーカー個人だけなのだろうか。もちろん、ワーカーが公私ともに充実して働きやすいことが、企業に対するエンゲージメントや仕事へのモチベーション向上、さらに生産性向上や離職率低下などにつながることは想像に難くないが、企業に還元されるそれらのメリットを定量的に証明することは難しい。実際に、ザイマックス不動産総合研究所が行った企業調査※1では、「働き方改革および働く環境を整備する上での懸念事項/阻害要因」として38.8%の企業が「費用対効果が不明瞭」、24.5%が「KPI(評価指標)の設定が難しい」と回答しており、企業側のそうした懸念が、働き方に関するフレキシビリティの拡大を阻害している部分もあるだろう。

そこで、フレキシブルな働き方、中でも場所のフレキシブル化が、ワーカーはもちろん企業にとっても有意義であると証明することを目的に、企業調査およびオフィスワーカー調査※2の結果を複合的に分析したのが本レポートである。第1章では、働き方に関する企業とワーカーの実態や意識を比較することでギャップを示し、現状の課題を明らかにした。続く2章では、企業にとってのメリットとして「生産性向上」にフォーカスし、テレワークを行うことが、ワーカー個人および企業がそれぞれ享受するメリットに対してどのような影響を与えるのかを統計的手法により分析した。これらの結果から、企業がワーカーに生産性高く働いてもらうためにはどのような環境を用意すべきなのか、まさに「働いてもらい方改革」につながるヒントを提示していきたい。

※1 2019年10月実施「大都市圏オフィス需要調査2019秋」。なお、本レポートではオフィスワーカー調査と条件を揃えるため、首都圏に所在する企業のみを分析対象としている。
※2 2019年10月実施「首都圏オフィスワーカー調査2019②


1.働き方に関する企業とワーカー間のギャップ

1-1. 働き方改革に関するギャップ

第1章では、働き方に関する企業とワーカーの実態を比較していく。まず、働き方改革の取り組み状況について聞いた結果、企業調査では回答企業の63.1%が働き方改革に取り組んでいた【図表1】。

対してワーカー調査では、勤務先の取り組み状況とワーカー自身の働き方の変化について聞いた結果、勤務先が働き方改革に「取り組んでいる」と回答した人は62.9%で企業調査とほぼ同様であった。しかし内訳をみると、「自身の働き方にも変化がある」と回答した人は28.2%にとどまり、34.7%は「自身の働き方に変化はない」と回答した。

【図表1】働き方改革の取り組み状況(企業/ワーカー比較)


また、働き方改革に取り組んでいる企業のうち、62.4%はその効果を感じている(「非常に感じている」「やや感じている」の合計)【図表2】。一方、勤務先が働き方改革に取り組んでいるワーカーのうち、効果を感じているのは49.1%(同)であり、企業と比べるとやや低いことがわかった。

【図表2】働き方改革の効果実感(企業/ワーカー比較)


1-2. テレワーク実施率のギャップ

次に、テレワークの取り組みについて比較していく。今回の調査では企業・ワーカーともに、モバイルワークに関する施策三つ※3とテレワークの場所に関する施策三つ※4をテレワーク関連施策として、それぞれの実施状況を聞いた。そして、この合計六つの施策のうち、いずれか一つ以上実施している回答者の割合をテレワークの実施率として集計したところ、企業は80.7%、ワーカーは39.5%と、2倍以上の差があることがわかった【図表3(上段)】。

※3 「スマートフォンやモバイルPC等により、どこでもメールやスケジュールがチェックできる仕組みの活用(モバイルワーク)」、「スマートフォンやモバイルPC等により、外出時でもオフィス同様のネットワーク環境で仕事ができる仕組みの活用(モバイルワーク)」、「モバイルワークができるように、スマートフォンやモバイルPC、タブレットなどのIT端末が会社から支給されている」の三つを指す。
※4 「在宅勤務制度」、「専門事業者等が提供するレンタルオフィス、シェアオフィス等の利用」、「勤務先が所有・賃借するサテライトオフィス等の利用」の三つを指す。

【図表3】テレワーク実施率(企業/ワーカー比較)


また、「モバイルワーク」と「テレワークの場所」それぞれについても実施率を集計した結果(【図表3(下段)】)、「モバイルワーク」は企業78.0%、ワーカー36.1%と、テレワークの実施率とほぼ重複していた一方、「テレワークの場所」に関する施策を一つでも実施している割合は企業でも34.4%、ワーカーではさらに低く13.4%にとどまった。


<PICK UP>育児女性のテレワーク実施率とニーズのギャップ

ワーカー調査では、テレワークの実施状況だけでなくニーズについても聞いている。今回、回答者の属性別にその実施状況とニーズを比較したところ、同居している子供(末子)のステータス(未就学児~社会人)により、「テレワークの場所」に対するニーズに特徴がみられた。

【図表4】がその結果である。同居末子のステータスにかかわらず、一定して女性の実施率は低い傾向にあるが、特に「未就学児」と同居している女性は実施率が10.4%であるのに対してニーズが57.1%と最も高く、実施率とニーズのギャップが最も大きかった。未就学児を育てるワーカー(特に育児の負担が偏りがちな女性)にとって、フレキシブルオフィス※5勤務や在宅勤務は仕事と育児を両立するうえで必要であると認識されているにもかかわらず、現状では整備が追いついていないようだ。

※5 フレキシブルオフィス ……本レポートでは「専門事業者等が提供するレンタルオフィス、シェアオフィス等」と「勤務先が所有・賃借するサテライトオフィス等」を指す。

【図表4】<同居している子供(末子)別>テレワークの場所に対する実施率とニーズ


1-3. 働く場所に関する興味度のギャップ

続いて、働く場所に関する興味度を比較した。企業調査とワーカー調査で共通の4項目「職住近接の実現のため、自宅近くのエリアで働く」「人や機能が集積している都心部で働く」「飲食・生活サービスなどが充実したエリアで働く」「地方や海外など遠方でも働けるワーケーション※6制度を活用する」について、「興味あり/やや興味あり/あまり興味なし/興味なし」の4段階で回答してもらい、「興味あり/やや興味あり」のみ示した結果が【図表5】である。全体的にワーカーの方が働く場所に対する興味度が高く、特に企業とのギャップが大きかったのが「職住近接の実現のため、自宅近くのエリアで働く」(ワーカー75.9%、企業25.9%)であった。

【図表5】働く場所に関する興味度(企業/ワーカー比較)

※6 ワーケーション…旅行先などで働くことを意味する、ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を組み合わせた造語。


また、ワーカーには、テレワークよりさらに先進的な働き方である「デュアルワーク」(都心と地方など、複数のエリアに生活と仕事の拠点を持つワークライフスタイル)への興味度も聞いた【図表6】。その結果、興味のあるワーカーは47.8%に上り、働き方に対する価値観が多様化している状況がみられた。

【図表6】デュアルワークに対する興味度(ワーカー)


<PICK UP>通勤時間と通勤ストレスがオフィスワーカーに与える影響

「首都圏オフィスワーカー調査2019①」※7では、首都圏勤務者の「通勤」にフォーカスし、長時間通勤によるストレスがワーカーに与える影響について分析した。ここではその結果を改めて紹介する。

※7 2019年2月実施「首都圏オフィスワーカー調査2019①」の詳細は既出レポートを参照。

まず、通勤ストレスと仕事満足度との関係に着目した。本調査では通勤ストレスと仕事満足度を0(最低)~10(最高)の11段階で聞き、回答者を通勤ストレスによって「0-3」「4-7」「8-10」の3グループに分けたうえで各グループの平均仕事満足度を算出した【図表7】。その結果、通勤ストレスが低いほど仕事満足度は高くなる傾向がみられ、通勤ストレス「0-3」のグループ(平均仕事満足度5.9)は、「8-10」のグループ(同4.8)に比べて、平均仕事満足度が1.1ポイント(約23%)高い結果となった。

【図表7】通勤ストレス別にみる平均仕事満足度


次に、通勤時間がワーカーの心理面に与える影響について分析した。【図表8】は自宅から勤務先への通勤時間※8と、「毎日楽しく働けている」と感じる確率の関係を示したものである。「*」の数が多いほど統計的に有意な影響があり、数値が0より小さければ「毎日楽しく働けている」と感じる確率にマイナスの影響を与えるといえる。今回、通勤時間35分からマイナスの影響がみられ始め、45分以上になるとより有意な影響があることが確認された。

※8 回答者が通常使用している通勤手段(電車、バス、自動車、自転車、徒歩など)による、自宅からのドア・ツー・ドアの所要時間(片道)。

【図表8】通勤時間が「毎日楽しく働けている」と感じる確率に与える影響

上記二つの結果から、通勤による負担はワーカーの満足度やエンゲージメントといった心理面にマイナスの影響を与えるといえる。


2.働く場所の選択肢があることの有効性

2-1. テレワークと生産性向上との関係(ワーカー編)

前項では、通勤時間および通勤ストレスがワーカーにマイナスの影響を与えていることが確認された。では逆に、通勤時間削減やストレス軽減手段とされるテレワークは、ワーカーにプラスの影響を与えているのだろうか。ここではワーカー調査※2の結果について、ワーカー個人が享受するメリットや生産性向上を「プラスの影響」とし、テレワークとの関係を分析した。

本調査は企業・団体に勤務するワーカーを対象としているため、「生産性向上」はワーカー個人というよりも勤務先が享受するメリットであるといえる【図表9】。しかし、生産性向上の背景に、ワーカー個人が享受するメリットが関係していることが確認できれば、企業が個人の働きやすさや私生活を大切にする“人重視”な企業経営の合理性を示す根拠となるかもしれない。

【図表9】テレワークが及ぼす効果

初めに、テレワーク(フレキシブルオフィス勤務および在宅勤務)を行うことと、ワーカー個人が享受するメリット※9を感じる確率との関係を検証した※10。【図表10】はその結果である。「*」が付いていれば統計的に有意な結果であり、数値が0より大きければプラスの影響があるといえる。今回の結果から、フレキシブルオフィス勤務および在宅勤務は、ワーカーが各種メリットを感じる確率を高めることがわかった。

※9 ワーカー個人が享受するメリットとして「働き方改革について具体的に感じている効果」を問う設問の選択肢から「ワークライフバランス向上」「リフレッシュ・健康促進」「長時間労働の是正」と、「現在の働き方に対する満足度」の評価を問う設問、合わせて4項目を選択した。
※10 【図表10・11・13】は説明変数、目的変数ともにダミー変数(0,1)化した上でロジスティック回帰分析を行った結果である。詳細はレポート末尾に記載。

【図表10】テレワークが、各種メリットを感じる確率に与える影響(ワーカー調査)

※11 この手法は他の説明変数による影響を取り除き、各説明変数による影響のみを示すものであるため、各係数はワーカーの「性別」「年齢」「勤務先の従業員規模」といった要素の影響を取り除いたものとしてみることができる。【図表11・13】も同様。


さらに、これら個人が享受するメリット4項目と生産性向上の効果実感との関係を示したのが【図表11】である。ワーカーが生産性向上の効果を感じる確率に対し、「現在の働き方に対する満足度」「ワークライフバランス向上」「リフレッシュ・健康促進」の3項目はプラスの影響を与える一方、「長時間労働の是正」だけはマイナスの影響を与えることがわかった。

【図表11】各種メリットが、生産性向上の効果を感じる確率に与える影響
(ワーカー調査)


上記二つの分析をまとめると、テレワークは長時間労働の是正に有効であるものの、長時間労働の是正は生産性向上に寄与しないと考えられる。一方で、「働き方に対する満足度」「ワークライフバランス向上」「リフレッシュ・健康促進」の3項目は、生産性向上に有効であることがわかった。

長時間労働の是正は日本社会が取り組むべき喫緊の課題であり、法改正など国を挙げた対策が取られる中、働き方改革のゴールを残業時間削減に設定する企業は多い。しかし、単に労働時間を減らすだけでは生産性を下げかねないという懸念はたびたび指摘されており、その懸念はワーカーの実感とも合致しているようだ。働き方改革においては時間削減に終始するのではなく、生み出された時間をワーカー一人ひとりの満足度やワークライフバランス向上といった要素にまでつなげる取り組みが必要であり、そうした取り組みができて初めて、生産性向上に寄与する改革となるだろう。

なお、フレキシブルオフィス勤務および在宅勤務を行うことと、ワーカーが生産性向上の効果を感じることとの直接的な関係についても同様の手法で分析した結果、ここでもプラスの影響があることが確認された。

しかし、ワーカーが生産性向上を感じるにあたっては複数の要素が影響していると考えられ、当然ながらテレワークさえすれば生産性向上の効果を感じられるわけではない。2-1.で行った分析結果(【図表12】)からは、テレワークの生産性向上に対する直接的な有効性だけでなく、その背後にある、ワーカーの個人的なメリットと生産性向上との関係についても確認することができた。

【図表12】テレワークと生産性向上の効果実感との関係(分析結果まとめ)



2-2. テレワークと生産性向上との関係(企業編)

続いて、企業調査についても同様の分析を行った結果、自社の従業員がフレキシブルオフィス勤務を行うことは、企業として生産性向上の効果を感じる確率を高めることがわかった。一方、在宅勤務については有意な結果が得られなかった【図表13】。

【図表13】テレワークが、生産性向上の効果を感じる確率に与える影響(企業調査)


ワーカーにとっては、在宅勤務も各種メリットや生産性向上の効果実感に対してプラスの影響を与えている一方、企業にとっては生産性向上の効果実感への影響はみられず、ここにも企業とワーカーのギャップがあることがわかった。

在宅勤務による生産性向上の効果を企業が感じづらい要因としては、従業員の管理のしづらさがあると考えられる。例えば、企業調査において「働き方改革および働く環境の整備にあたっての懸念事項・阻害要因」を聞いた結果では、3割以上の企業が「情報セキュリティ上のリスクが高い」や「従業員の管理・マネジメントがしづらい」と回答しており、在宅勤務ではそれらの懸念がフレキシブルオフィス勤務以上に大きくなるのかもしれない。

また、ワーカーにとっても在宅勤務はメリットばかりでなく、「仕事のオン・オフが切り替えづらい」や「仕事に適したデスクがない」といった働く環境に関する内容を中心に、多様な不満を感じているワーカーが一定数いることがわかっている【図表14】。

【図表14】在宅勤務の不満(ワーカー調査)


テレワーク環境を整備するにあたっては、在宅勤務だけでなくフレキシブルオフィス勤務も選択肢として用意し、ワーカーにとって働きやすい環境を一体的に整備することが重要となるだろう。


3.まとめ

本レポートでは、フレキシブルな働き方がもたらす恩恵について企業とワーカーを明確に区別し、特に企業のメリットとして「生産性向上」にフォーカスすることで、ワーカーに働く場所の選択肢を与えることが生産性向上に寄与することを客観的に示した。一方で、企業主体の働き方改革が社会的に進展しているわりには、肝心のワーカー自身の働き方はいまだフレキシブルになっていない状況も明らかとなった。

ワーカーの満足度やワークライフバランス向上といった個人的なメリットに働きかけることが、結果的に生産性向上という企業のメリットにもつながると確認された今、企業はワーカーがフレキシブルに働ける環境整備を今以上に推し進めるべきであろう。特に、フレキシブルオフィスのような働く場所の選択肢を用意することは、限られた時間の中でワーカーに生産性高く働いてもらうための有効な手段となる。また、本レポートで示したワーカーの職住近接ニーズや、通勤時間・通勤ストレスの悪影響を考慮するならば、郊外エリアにその選択肢を設けることも効果的であるかもしれない。

現在、都心部のオフィス需給は全国的にひっ迫し、十分な質と面積のオフィスを確保することが難しくなる一方、フレキシブルオフィスサービス市場は急速に拡大し、働く場所の柔軟性を高めるプラットフォームの役割を担い始めている。そうした状況を鑑みても、通勤負担の重い都心オフィスしか選べない働き方は不合理であり、立地・タイプともに多様なワークプレイスを選択できるフレキシブルな働き方に移行することが、「働いてもらい方改革」を生産性向上というゴールに帰結させる近道となると考えられる。



【図表10・11】(ワーカー調査)で行ったロジスティック回帰分析のダミー変数は以下の通り。
・フレキシブルオフィス勤務/在宅勤務: 自身が行っている場合は1、そうでない場合は0。
・性別: 女性である場合は1、そうでない場合は0。
・年齢: 51才以上である場合は1、そうでない場合は0。
・勤務先の従業員規模: 従業員数1,000人以上である場合は1、そうでない場合は0。
・働き方に対する満足度: 現在の働き方に対する満足度を4段階で評価してもらい、「満足/やや満足」と回答した場合は1、「やや不満/不満」と回答した場合は0。
・ワークライフバランス向上効果/リフレッシュ・健康促進効果/長時間労働の是正効果/生産性向上効果: 「働き方改革について感じている効果」を問う設問の選択肢から各項目を選択した場合は1、そうでない場合は0。

【図表13】(企業調査)で行ったロジスティック回帰分析のダミー変数は以下の通り。
・フレキシブルオフィス勤務/在宅勤務: 企業として導入している場合は1、そうでない場合は0。
・従業員の平均年齢: 40才以上である場合は1、そうでない場合は0。
・従業員規模: 従業員数500人以上である場合は1、そうでない場合は0。
・設立年数: 西暦2000年以降の設立である場合は1、そうでない場合は0。
・生産性向上効果: 「働き方改革について感じている効果」を問う設問の選択肢から「生産性向上」を選択した場合は1、そうでない場合は0。

レポート内のグラフに関して
・構成比(%)は、小数点第2位を四捨五入しているため内訳の合計が100%にならない場合がある。
※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
※当社の事前の了承なく、複製、引用、転送、配布、転載等を行わないようにお願いします。

参考:働き方×オフィス 特設サイト

英語版:Relationship between Flexible Workstyles and Productivity

レポートに関するお問い合わせ

ザイマックスグループホームページへ
レポートの一覧へ