2022.03.15
ホテル運営に関するアンケート調査(2022年)【ホテルタイプ別編】
~ホテルタイプ別のコロナ禍の影響の違いが明らかに~
観光・ホテル業界は、新型コロナウイルス感染症の流行により大きな打撃を受けた。特に宿泊需要への影響は深刻で、ホテルの稼働率は著しく低下し、事業運営にあたって厳しい状況が続いている。2021年後半、コロナの感染拡大は小康状態になり、宿泊需要は一時的に回復した。しかし、2022年の年明け以降、オミクロン株の登場により急速に感染は拡大し、3月に入っても感染者数が多い状況が続くなど、ホテル事業を取り巻く環境は先行きの不透明感が増している。
ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)では、2021年12月16日~2022年1月23日にかけて、早稲田大学建築学科石田航星研究室と共同で、全国約6,600ホテルを対象に、ホテル運営の現状や変化、Go To トラベルに対する考え、今後の見通しなどについてアンケート調査を行い、その集計結果を2月4日に発表した(*)。調査からは、宿泊需要の減少やハウスキーピング業務のひっ迫による宿泊客の受け入れ制限といったホテル運営における課題が明らかとなった。
第2弾となる本レポートでは、ホテルを「大都市宿泊特化型(ビジネス含む)」「地方宿泊特化型(ビジネス含む)」「リゾート」「シティ・フルサービス」の4つのタイプに分け、ホテル運営の現状や今後の見通しについてクロス集計を行った結果を公表する。結果からは、コロナ禍の影響が一様と思われていたホテルが、タイプ別に特徴および違いがあることが明らかになった。
- ホテルのタイプ別では下記のような特徴がみられた。
- ・ 大都市宿泊特化型(ビジネス含む):宿泊需要の激減からターゲットを見直し、テレワークなど新しい需要を取り込む様子がうかがえる。また、競合ホテルが増加したことで、価格競争が激しさを増しているようだ。
- ・ 地方宿泊特化型(ビジネス含む):もともとインバウンドの比重は高くなく、比較的安定した企業ニーズ(定期出張、研究・工事などの長期泊など)があるため、ほかのタイプと比べて景況感がよいホテルの割合が高い。また、伝統行事やスポーツ等の再開・振興による集客を期待するホテルも多いようだ。
- ・ リゾート:景況感は全体傾向と変わらないものの、観光地に立地しているホテルが多いため、求職者が少なく、従業員採用の面で苦労している様子がうかがえた。また、感染拡大防止に対する支援や、休日の分散化などの宿泊需要を喚起する施策に対する期待が高かった。
- ・ シティ・フルサービス:宿泊需要だけでなく、宴会や飲食需要も大きく減ったことから、従業員を減らしたホテルの割合がほかのタイプと比べ多い。稼働が戻った際の従業員確保を懸念する声もあった。
1. ホテルのタイプ別の特徴
1.1. ホテルタイプと立地
まず、回答者全体に占める各ホテルタイプの割合は以下のとおりである【図表1】。「大都市宿泊特化型(ビジネス含む)」(以下、大都市宿泊特化型)は、「宿泊特化型(ビジネス含む)」のホテルのうち、東京23区および全国政令指定都市(20都市)に立地するホテル、「地方宿泊特化型(ビジネス含む)」(以下、地方宿泊特化型)は上記に含まれない「宿泊特化型(ビジネス含む)」のホテルである。なお、今回の分析に際して、「カプセルなどの簡易宿泊施設」および「その他」のホテルタイプは全体に占める割合が小さいため、対象外としている。
【図表1】ホテルのタイプ(n=621)
それぞれのホテルタイプの立地は【図表2】のとおりである。大都市宿泊特化型、地方宿泊特化型、シティ・フルサービスは「中心市街地」に立地するホテルが多く、リゾートは「観光地」が7割以上を占める。また、地方宿泊特化型は、ほかのタイプとくらべて「幹線道路沿い」の占める割合が14%とやや多い。
【図表2】ホテルタイプ別の立地
1.2. ホテルタイプ別の特徴
客室数、立地、運営年数(平均値)、料金単価などの特徴は【図表3】のとおりである。
【図表3】ホテルタイプ別の特徴
2. コロナ前と比較した現在のホテル運営について
2.1. 2021年12月における景況感
2021年12月時点における景況感をホテルタイプ別にみたものが【図表4】である。大都市宿泊特化型、シティ・フルサービスでは「悪い」が半数以上を越え、「良い」と「やや良い」の合計は1割を少し超える程度である。大都市宿泊特化型はインバウンド需要の減少、シティ・フルサービスでは婚礼・宴席などの減少が景況感に影響していると考えられる。
一方、もともとインバウンドの比重は高くなく、比較的安定した企業ニーズ(定期出張、研究・工事などの長期泊など)がある地方宿泊特化型は「良い」「やや良い」と回答したホテルが約3割、コロナ禍でも一定の需要が見込まれるリゾートも「良い」「やや良い」が約2割と、ホテルタイプによって景況感の良し悪しに差がみられた。
【図表4】景況感(n=621)
2.2. ホテル従業員数の変化
コロナ前と比較した従業員数の変化をみると、シティ・フルサービスで従業員数が「減った」と回答した割合が75%とほかのタイプと比べて最も多い【図表5】。これは、宴会や飲食の利用が減った影響と考えられる。ほかにコメントとして、「コロナ禍が終わるにあたって、人員の確保や同業他社との競争がより厳しくなると思う。」といった声もあがっており、今後宿泊需要や宴会需要が戻ったあとの人手不足が懸念される。
【図表5】コロナ前と比較した従業員数の変化
2.3. ホテル運営における変化
コロナ前と比較したホテル運営における変化について、全体の回答が多い上位4つを抜粋したものが【図表6】である。
大都市宿泊特化型では「テレワークに関連したプランや設備を整えた」「主なターゲットとする客層を変えた」がほかと比べて目立っている。インバウンドや出張需要が激減する中で、大都市部の企業において出社制限などが行われたため、テレワークニーズを取り込もうとした姿がうかがえる。コメントでは、「インバウンドの消滅、テレワークの導入、出張の制限によりビジネスホテルの需要がなくなりつつある。」といった声があった。
リゾートとシティ・フルサービスでは、「旅行代理店経由の予約が減少した」と回答したホテルが宿泊特化型に比べてやや多い。
大都市宿泊特化型とシティ・フルサービスで4割を越えている「ハウスキーピング会社との契約内容や業務内容、委託状況の変化」は、地方宿泊特化型、リゾートでは2割台となっており、ホテルタイプおよびエリアの違いの影響を受けていることがわかった。
【図表6】コロナ前と比較したホテル運営における変化
3. 今後のホテル運営について
3.1. 今後の経営の見通し
経営の見通しに関してたずねたところ、半年後の見通しでは、地方宿泊特化型がほかと比べて楽観派が多く、悲観派が少ない【図表7】。この傾向は、現在の景況感(【図表4】)と同様である。
【図表7】ホテル運営の見通し・半年後
1年後の見通しはタイプによる大きな差はみられない【図表8】。
【図表8】ホテル運営の見通し・1年後
3.2. 今後のホテル運営における不安や懸念
今後のホテル運営における不安や懸念に関して、全体の回答が多い上位5項目を抜粋し、タイプ別にみたものが【図表9】である。
大都市宿泊特化型では「稼働率に応じた適正な宿泊単価」「周辺ホテルとの競争の激化」が6割を超えており、全体と比べても高い割合となった。コメントでは、「インバウンド需要を見越したオープンラッシュのため市内ホテルは供給過多になっている。」「近隣ホテルにおいても低価格で販売しているため、値上げに躊躇している。」といった声があった。
リゾートでは「従業員の採用・教育」「建物や設備の老朽化」「従業員の賃金上昇」の回答が5割以上となっており、ほかのホテルタイプと比較しても多い。リゾートホテルの多くは観光地に立地しているため、大都市部に比べて従業員の採用などにおいて困難があるようだ。また、運営年数も最も長かったことから、建物の築年が経過していることが建物や設備の老朽化を懸念するホテルが多い要因のひとつと考えられる。コメントでは、「古いホテルの設備修繕費などは増すばかりのため、安心安全な施設の確保すら難しくなる。」といった声があった。
シティ・フルサービスでは「従業員の採用・教育」を懸念するホテルが68%と7割近くにのぼっており、「コロナ禍と同じ従業員数のままで稼働率が上昇し、業務が増え、負担が増えることが不安。先行きが不透明で採用へ踏み切れない。」といった声があった。
【図表9】今後のホテル運営における不安や懸念
3.3. 政府や自治体に対する期待
政府や自治体などに対する期待に関して、全体の上位6項目を抜粋し、タイプ別にみたのが【図表10】である。
大都市宿泊特化型とシティ・フルサービスでは「インバウンドの早期回復に向けた取り組みの推進」が6割を超えていた。「ホテルの客室数は供給過多であり、今後も回復が見込めないビジネス客の喪失分を補う以上にインバウンド客が増加しない限り、宿泊単価の長期的な下落は避けられない。」といった声もあり、ホテルにとってインバウンドの回復は見通しの改善において重要な事項のひとつであるようだ。
地方宿泊特化型では「地域伝統行事、コンサート、演劇、スポーツ等の再開の推進」が65%とほかのホテルタイプよりも高い。コメントでも「一時的な需要喚起では継続経営が厳しいので、地方の魅力発信の支援をお願いしたい。」といった声があることからも、行政や自治体が一体となってその地方を盛り上げていくことが求められているようだ。
リゾートでは「感染症拡大防止対策に対する支援」「休日の分散化に向けた取り組みの推進」と回答した割合がほかのホテルタイプよりも高い。特に休日の分散化については、「休日の分散化やGo To 事業の平日の割引率を有利にするなど、一般ゲストに平日にも使って頂けるような施策が必要だ。」といった声もあった。
【図表10】政府や自治体に対する期待
4. おわりに
今回のレポートでは、コロナ禍によって事業環境が大きく変わっていく中で、ホテル運営の現状や今後の見通しについて、ホテルのタイプ別にどのような特徴があるのかを明らかにした。
現時点では、新型コロナウイルス感染症の収束はみえず、Go To トラベル再開の見通しも立っていない。その一方で諸外国では徐々に海外観光客を受け入れる動きも増えており、今後の日本政府の対応が注目される。
一方、今後宿泊需要が戻ってきた際、ホテルの運営の現場では採用難や人手不足に陥ることが懸念されている。人手不足を解消する手段として、飲食店などではタッチパネル注文やキャッシュレス決済の導入などが進められている。ホテルでも同様に、フロント業務の機械化やIT化によって省力化・省人化の取り組みが一部では進んでいる。しかし、客室清掃の現場では機械化の導入による効率化はいまなお難しい面があるようだ。実際、「フロント業務は機械導入などにより合理化できても、ハウスキーピング、リネン補充などはまだ人手に頼らざるを得ないので機械化による合理化は難しい」という声があった。また、多くのホテルが「旅行代理店経由の予約が減った」と回答しており、旅行代理店だけでなくOTA(Online Travel Agent)を用いた集客が進んでいくと考えられる。コロナ禍により様々な影響を受けたホテル運営は、ポストコロナ時代に向けて従来と異なる姿に変化していく可能性があることが示唆されている。
ザイマックス総研は引き続き、ホテル事業が今後どのように変化していくのか、動向を注視していく。
調査期間
2021年12月~2022年1月
調査対象
全国のホテル6,620施設
有効回答数
621件 回答率9.4%
調査方法
Web回答による
調査内容
1.現在のホテル運営について
景況感/従業員数/従業員数変化/コロナ前と比較した変化
2.Go To トラベルについて
登録状況/宿泊客数変化/Go To トラベルに向けた取り組み/不安・懸念
3.今後のホテル運営について
見通し/不安・懸念/行政に期待すること
4.貴ホテルについて
開業年/立地/ホテルタイプ/客室数/正規客室料金/運営形態
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