商業・ホテル

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2022.02.04

ホテル運営に関するアンケート調査(2022年)

~事業環境の変化に伴う対応と今後の課題や不安が明らかに~

観光・ホテル業界は、新型コロナウイルス感染症の流行により大きな打撃を受けた。特に宿泊需要への影響は深刻で、ホテルの稼働率は著しく低下し、事業運営にあたって厳しい状況が続いている。2021年後半、国内でワクチン接種が進展し、一時的に感染拡大は収まった。しかし、2022年の年明け以降、オミクロン株の登場により急速に感染は拡大し、1月末には全国の1日の感染者数は8万人を超えた。そのため、再開が検討されていたGo To トラベルは再開時期の見通しが立たず、ホテル事業を取り巻く環境は先行きの不透明感が増している。

そこで、ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)は、2021年12月16日~2022年1月23日にかけて、早稲田大学建築学科石田航星研究室と共同で、全国約6,600ホテルを対象に、ホテル運営の現状や変化、Go To トラベルに対する考え、今後の見通し等についてアンケート調査を行った。

アンケートの回答からは、各ホテルがコロナ禍を通して起きた変化に対応し、新たな取り組みを行いつつも、今後に対する様々な課題や不安を抱えている状況がみえた。

なお、2019年にはホテル事業者を対象にアンケート調査を行っている(*1)。コロナ前のホテル業界を捉えるレポートとして参照されたい。

*1 2020年1月29日公表「ホテル運営に関する実態調査2019
主な調査結果

    1. 現在のホテル運営について

  • ・ 2021年12月時点の景況感は、「悪い+やや悪い」が「良い+やや良い」を大きく上回った。
  • ・ 約6割のホテルがコロナ前と比較して従業員が減っていた。
  • ・ コロナ前と比較した変化として、「旅行代理店経由の予約が減少した」「テレワークに関連したプランや設備を整えた」「主なターゲットとする客層を変えた」「ハウスキーピング会社との契約内容や業務内容、委託状況が変化した」が上位に挙げられた。
  • ・ ハウスキーピング会社との契約内容等の変化の内容は、「委託した業務の一部を終了し、委託内容の見直し(縮小)を行った」が約3割と最も多い。
  • 2. Go To トラベルについて

  • ・ 2022年再開予定のGo To トラベルに登録したホテル(予定含む)は9割を超える。
  • ・ 8割以上のホテルが、Go To トラベルの再開に伴い宿泊客が増えると回答し、新たな宿泊プランの作成や感染症対策の見直し、従業員の採用などの準備を行っている。
  • ・ Go To トラベルの再開にあたっての不安や懸念としては、「事務手続きの増加(給付金の申請など)」「フロント等の人手不足」「Go To トラベル終了後の宿泊客の急減」などが挙げられた。
  • 3. 今後のホテル運営について

  • ・ 経営の見通しに関しては、半年後と1年後を比較すると悲観派は減少し、楽観派は増加している。
  • ・ 今後のホテル運営における不安や懸念は、「従業員の採用・教育」「建物や設備の老朽化」「稼働率に応じた適正な宿泊単価設定」が上位に挙げられた。
  • ・ 政府や自治体等に対する期待として、インバウンドの早期回復や集客が見込めるイベント等の再開に向けた取り組みの推進、安心して宿泊できる基準の明確化などが挙げられた。

1. 現在のホテル運営について

1.1. 2021年12月時点における景況感

2021年12月時点における景況感は、「悪い+やや悪い」が「良い+やや良い」を大きく上回った【図表1】。新型コロナウイルス感染症の影響によりホテル事業は厳しい状況が続いているようだ。

【図表1】景況感(n=621)


1.2. ホテル従業員数の変化

コロナ前と比較して従業員数が「減った」と回答したホテルは59%であった【図表2】。雇用調整助成金など従業員の雇用維持を図る支援策が行われたが、それでも半数以上のホテルで従業員が減少している実態が明らかとなった。

【図表2】コロナ前と比較した従業員数の変化(n=621)


1.3. ホテル運営における変化

コロナ前と比較したホテル運営における変化は【図表3】のとおりとなった。旅行代理店が営業拠点を閉鎖する動きがみられたことや、インバウンド(訪日外国人)客が激減したことなどが、ホテルの集客に影響を及ぼしていると考えられる。一方で、新たなニーズとしてのテレワーク需要を取り込もうとする動きもでている。その他の回答としては、コロナ療養所施設として運営している、食事の提供方法を変更した(弁当、部屋食、テイクアウトなど)などが比較的多く挙げられた。

【図表3】コロナ前と比較したホテル運営における変化(n=621)

上記設問で33%が選択した「ハウスキーピング会社との契約内容や業務内容、委託状況が変化した」について、具体的な内容をたずねた結果、委託内容の見直しや業務の内製化が上位に挙がった【図表4】。その他の回答として「最低保証の見直し」が多く挙げられていることからも、ホテルとハウスキーピング会社の関係性が変化している様子がうかがえる。

【図表4】ハウスキーピング:コロナ前と比較した変化の内容(n=202)

快適な客室を提供するうえで、客室清掃やベッドメイキングは手間と時間のかかる重要な業務である。しかし、これらを担うハウスキーピング会社においても従業員は不足しており、円滑な業務遂行に支障をきたしているケースがみられる。加えて、ホテルの休業や稼働率低下といった要因もあり、ハウスキーピング会社のなかには受託する業務を制限している会社もあるようだ。

また、リネン会社との変化があったと回答したホテルは16%とハウスキーピング会社ほど多くないものの、同様の課題を抱えており、選択肢のほかに「配送回数を減らした」という回答が多く挙げられていた。こうしたハウスキーピング会社、リネン会社の動きは、今後のホテル運営やコスト面に影響を与えるとみられる。


2. Go To トラベルについて

政府は2021年11月に新たなGo To トラベルの内容の一部を発表し、再開時期(*2)については、年末年始の感染状況を踏まえ判断するとしていた。しかし、その後1月6日に感染拡大の状況を踏まえ、Go To トラベルの再開は当面見送られることとなった。本アンケートの回答期間中にはGo To トラベルの再開時期は決まっていなかった点に留意されたい。

*2 2020年12月28日から全国におけるGo To トラベル事業は一時停止となっている。

2.1. Go To トラベルの登録状況

Go To トラベル事業への登録については、2020年、2022年とも、「登録した(する予定)」が9割を越えている【図表5】。

【図表5】Go To トラベルに登録した(する予定)の割合(n=621)

2.2. Go To トラベルの集客期待と準備

【図表5】で、2022年のGo To トラベルに「登録した(する予定)」と回答したホテルに対し、Go To トラベルが再開された場合、1年前(2020年12月)と比べて宿泊客数はどうなると思うか聞いたところ、8割以上が宿泊客の増加を見込んでいた【図表6】。

【図表6】Go To トラベル再開時の宿泊客数の見込み(n=594)

また、Go To トラベルの再開に向けた準備として、新たな宿泊プランの作成や感染症対策の見直し、従業員の採用などを行う予定のホテルが多く、再開に向けた期待の大きさがうかがえる【図表7】。

【図表7】Go To トラベル再開に向けて行っている施策(n=594)


2.3. Go To トラベル再開にあたっての不安や懸念

Go To トラベル再開にあたっての不安や懸念点をたずねた結果が【図表8】である。事務手続きの増加、人手不足、Go To トラベル終了後の宿泊客急減など様々な不安や懸念を感じている状況が明らかとなった。

【図表8】Go To トラベル再開にあたっての不安・懸念(n=594)


3. 今後のホテル運営について

3.1. 今後の経営の見通し

経営の見通しに関してたずねたところ、悲観派は半年後から1年後で減っている一方で、楽観派は増えており、ホテル側は今後経営環境が徐々に改善していくと考えているようだ【図表9】。

【図表9】ホテル運営の見通し(n=621)

3.2. 今後のホテル運営における不安や懸念

今後のホテル運営における不安や懸念に関しては、「従業員の採用・教育」(61%)が最も多い【図表10】。【図表2】でみたように、半数以上のホテルは休業や稼働率悪化を受けて従業員を減らしており、今後の本格的な営業再開や稼働率の上昇に備えて人員確保が課題となっているようだ。以前ホテルに勤めていた人材を採用しようとしても、現在は別の業種に従事しているケースも多く、未経験者を採用して教育することに対する不安もあるようだ。また、2位には「建物や設備の老朽化」が挙げられていた。売上が減少する中、従業員雇用に多くの資金がかかることや、費用回収の見込みが立ちづらいことから、老朽化した建物や設備の修繕・更新が後回しになっている状況にあると思われる。ほかには、人件費・建物維持管理費・外部委託費といった各種コストの上昇、宿泊単価設定や稼働率制限の懸念などの売上に直結する項目も上位に挙がっていた。

【図表10】今後のホテル運営における不安や懸念(n=621)

3.3. 政府や自治体に対する期待

政府や自治体等に対する期待をたずねた結果が【図表11】である。インバウンドも含め感染症にかかわる対応の要望が多いほか、システム導入に対する支援や休日の分散化など、経営効率化や継続的な需要拡大に繋がる施策への期待も挙げられていた。

【図表11】政府や自治体に対する期待(n=621)


4. おわりに

コロナ禍によって、観光・ホテル業界の事業を取り巻く環境は激変した。今回のアンケート調査を通して、それぞれのホテルでは変化に対応する新たな取り組みを始めつつも、本格的な営業再開にむけた課題や不安を抱えている姿がみえてきた。宿泊需要の減少、人手不足、ハウスキーピング業務のひっ迫による宿泊客の受け入れ制限など、ホテルが対応しなければならない課題は多く、コロナ前と同様のホテル運営・オペレーションは困難になってきているようだ。

2月初旬ごろから再開するとされていたGo To トラベルは、1月に入ってのコロナ感染者の急増に伴い再開時期が延期されている。多くのホテルはGo To トラベルによる事務負担の増加を懸念しつつも、宿泊客の増加を期待しており、Go To トラベルの再開に向けて様々な準備を行っている。

ホテル経営の見通し改善には新型コロナウイルス感染症のコントロールや収束が必須となるだろう。ザイマックス総研は、ホテル事業が今後どのように変化していくのか、引き続き調査を行っていく予定である。

調査概要

調査期間

2021年12月~2022年1月

調査対象

全国のホテル6,620施設

有効回答数

621件 回答率9.4%

調査地域

全国

調査方法

Web回答による

調査内容

1.現在のホテル運営について

 景況感/従業員数/従業員数変化/コロナ前と比較した変化

2.Go To トラベルについて

 登録状況/宿泊客数変化/Go To トラベルに向けた取り組み/不安・懸念

3.今後のホテル運営について

 見通し/不安・懸念/行政に期待すること

4.貴ホテルについて

 開業年/立地/ホテルタイプ/客室数/正規客室料金/運営形態



《回答ホテルの属性》



参考:今後のホテル運営(自由記入)

今後のホテル運営についてのコメントを「人手不足」「Go To トラベル」「今後の経営方針等」について抜粋し、参考として記載する。

 人手不足

● 慢性的な人材不足であり、人が集まりにくい。また採用しても離職率が高く、中堅層が育たない。中堅層がいないと、サービスの向上がみられない。

● 先行きが不透明で採用に踏み切れない。

● 外部委託をしている清掃業務、リネンの供給が週末を中心に追い付いていない。


 Go To トラベル

● Go To トラベルはインバウンドの回復までは続けていないと、宿泊利用者減少の為、供給過多によるホテル・旅館の赤字脱却を回避できないと思う。

● Go To トラベルによりホテル業界全体が少し活気づいて欲しい。しかし、お客様の質が落ちることを心配している。

● Go To トラベルで恩恵を受けるのは、旅館、高級宿であり、ビジネスホテルにはそれほどの期待が持てない。Go To トラベルを出張でも利用できるようにして欲しい。

● Go To トラベルなどの支援は非常にありがたいが、手間が非常に多く現場が回らない。もう少しホテル運営に配慮した政策を出して欲しい。


 今後の経営方針等

● 足元では稼働率は前年並みに回復しつつあるが、単価を上げることができない。今後は稼働をキープしつつ単価を上げる対策が必要。

● 働き方が変わった(テレワークが増加した)会社が増えたことは、特に平日のビジネスホテル利用客の減少につながるだろう。感染が落ち着いてもコロナ前のようには戻らない可能性がある。

● 個々のホテルの企業努力だけでは状況を好転させることは難しい。事業者と行政が連携し、地域全体で本気で考えて観光業を盛り上げていかなければ、衰退する一方になりかねない。

● 学会やMICEのオンライン化により、イベントの誘致が困難になった。

● 将来、インバウンドが以前のように回復したとしても今回のコロナのような感染症(パンデミック)が世界中で起こりえることを想定して事業運営しなければならないと感じている。

● 当面インバウンドや大型の団体客は見込めず、国内の個人客の取り込みが最重要なので個人向けのプランの作成等に注力している。






レポート内のグラフに関して
・構成比(%)は、小数点第1位を四捨五入しているため内訳の合計が100%にならない場合がある。
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