2019.06.04
通勤ストレスがワーカーの満足度に与える影響
~首都圏オフィスワーカー調査2019~
企業は働き方改革への取り組みを加速し、時間や場所に捉われない多様な働き方を推進しつつある。そうした新しい働き方は企業の経営戦略としてだけでなく、オフィスワーカーにとっても、生産性向上やワークライフバランス向上の点で重要なトピックとなっている。
そこで、ザイマックス不動産総合研究所では、企業とオフィスワーカー双方の視点から働き方と働く場所の変化を捉えていくため、企業については2016年秋より計6回、オフィスワーカーについては同年末から計2回のアンケート調査を実施してきた。第3回目となる今回のオフィスワーカー調査では、首都圏勤務者の通勤の実態にフォーカスし、通勤ストレスがオフィスワーカーに与える影響を調査した。本レポートはその結果をまとめた定期レポートである。
- 1.通勤時間の実態
- ・ 自身が在籍するオフィスへの通勤時間の平均値は49分であった。
- ・ 通勤時間が長い人ほど、通勤ストレスが高い傾向がみられた。
- ・ 性年代別では全体的に女性より男性のほうが平均通勤時間が長く、最も通勤時間が長いのは60代男性で60.3分であった。また、最も短いのは60代女性(36.7分)であった。役員・管理職・正規・非正規別では、管理職の通勤時間が最も長かった(56.8分)。
- ・ 勤務先の分布をみると、通勤時間が長い人は都心のオフィスに通う人が多く、通勤ストレスが高い一方、通勤時間が短い人は勤務先が郊外に分散しており通勤ストレスが低い傾向がみられた。
- 2.通勤ストレスが満足度に与える影響
- ・ 通勤ストレスが低いグループほど仕事満足度が高い(平均仕事満足度5.9)傾向がみられた。
- ・ 通勤ストレスが低いグループほどプライベート満足度が高い(平均プライベート満足度6.3)傾向がみられた。
- ・ 仕事満足度と相関の高い要素は、「自分の存在が認められている、尊重されていると感じる」や、「仕事において達成感を感じることがある」であった。プライベート満足度と相関の高い要素は、「ワークライフバランスがとれている」や、「自分の趣味の時間がとれている」であった。
- 3.通勤ストレスが生産性やエンゲージメントに与える影響
- ・ 通勤ストレスが低いグループほど、生産性やエンゲージメントに関する項目の評価が高い傾向がみられた。
- ・ 特に、「毎日楽しく働けている」と回答した割合は、通勤ストレスが高いグループ(35.3%)に比べ、通勤ストレスが低いグループ(68.1%)の方が30ポイント以上高い結果となった。
1.通勤時間の実態
- 自身が在籍するオフィスへの通勤時間の平均値は49分であった。
- 通勤時間が長い人ほど、通勤ストレスが高い傾向がみられた。
- 性年代別では全体的に女性より男性のほうが平均通勤時間が長く、最も通勤時間が長いのは60代男性で60.3分であった。最も短いのは60代女性(36.7分)であった。役員・管理職・正規・非正規別では、管理職の通勤時間が最も長かった(56.8分)。
- 通勤時間が長い人は都心のオフィスに通う人が多く、通勤ストレスが高い一方、通勤時間が短い人の勤務先は郊外に分散していて通勤ストレスが低かった。
今回の調査では、「職業が会社・団体の役員、会社員・団体職員、自営業主(飲食店・小売店・対人サービス業以外)で、主たる仕事場(オフィス、事務所)が首都圏(1都3県)」と回答した20~69歳の男女2,009人から有効回答を得た。
まず、自身が在籍するオフィスへの平均的な通勤時間(※)を聞いた。その結果、40分以上60分未満の人が最も多く、平均値は49分であった【図表1】。
【図表1】平均的な通勤時間の分布
【図表2】は、通勤ストレスを0(最低)~10(最高)の11段階で聞いた値と、通勤時間の関係を示したグラフである。通勤時間が長い人ほど通勤ストレスも高くなる傾向があることがわかった。
【図表2】通勤時間別にみる平均通勤ストレス
さらに、属性別の通勤時間や通勤ストレスについて分析した。
性年代別に平均通勤時間を比較した結果が【図表3】である。男女で比較すると、全体的に男性のほうが長いことがわかった。男性は年代が上がるにつれて通勤時間も長くなる傾向がみられ、最も長い60代男性の平均は60.3分であった。反対に、女性は年代が上がるにつれ通勤時間は短くなる傾向がみられ、最も短い60代女性の平均は36.7分であった。
【図表3】性年代別の平均通勤時間
続いて、平均通勤ストレスを性年代別に比較した【図表4】。女性は通勤時間と同様に、通勤ストレスも年代が上がるにつれ低くなる傾向がみられ、通勤時間が最も短い60代女性の通勤ストレスは、全体平均と比べ1ポイント程度低かった。対して男性は、通勤時間は年代が上がるにつれて長くなった一方で、通勤ストレスは低くなる傾向がみられた。
【図表4】性年代別の平均通勤ストレス
雇用形態別に平均通勤時間をみると、「管理職」が56.8分で最も長く、「非正規の社員・職員」が43.8分で最も短い結果となった【図表5】。
【図表5】役員・管理職・正規・非正規別の平均通勤時間
【図表6】(左)は、通勤時間が50分未満のワーカーの勤務先最寄り駅をプロットしたマップである。ドットのサイズはワーカー数、色は平均通勤ストレスを示しており、暖色に近づくほど通勤ストレスが高いことを示す。同様に、通勤時間が50分以上のワーカーの情報を【図表6】(右)に示した。
左右を比較すると、通勤時間が50分未満のワーカーは、勤務先が都心だけでなく郊外にも分散しており、通勤ストレスが比較的低い(寒色に近い)傾向がみてとれる。一方、通勤時間が50分以上のワーカーの勤務先は都心に集中しており、通勤ストレスも高いことがわかった。
【図表6】通勤時間別の勤務先分布および平均通勤ストレス
2.通勤ストレスが満足度に与える影響
2-1.通勤ストレスと仕事満足度
- 通勤ストレスが低いグループほど仕事満足度が高い傾向がみられた。
- 仕事満足度と相関の高い要素は、「自分の存在が認められている、尊重されていると感じる」や、「仕事において達成感を感じることがある」であった。(PICK UPより)
前項では、通勤時間と通勤ストレスの関係について述べたが、通勤ストレスの高さはワーカーにどのような影響を与えるのだろうか。通勤ストレスとワーカーの満足度の関係を調べた。
まず、仕事満足度との関係について着目した。本調査では通勤ストレス同様、仕事満足度を0(最低)~10(最高)の11段階で聞いている。回答者を通勤ストレスのスコアによって「0-3」「4-7」「8-10」の3つのグループに分け、各グループの平均仕事満足度を算出した結果が【図表7】である。通勤ストレスが低いほど仕事満足度は高くなる傾向がみられ、通勤ストレスが最も低い「0-3」のグループ(平均仕事満足度5.9)は、通勤ストレスが最も高い「8-10」のグループ(同4.8)に比べて、平均仕事満足度が1.1ポイント(約23%)高い結果となった。
【図表7】通勤ストレス別にみる平均仕事満足度
2-2.通勤ストレスとプライベート満足度
- 通勤ストレスが低いグループほどプライベート満足度が高い傾向がみられた。
- プライベート満足度と相関の高い要素は、「ワークライフバランスがとれている」や、「自分の趣味の時間がとれている」であった。(PICK UPより)
次に、通勤ストレスとプライベート満足度との関係について調べた。仕事満足度と同じく、プライベート満足度についても0~10の11段階で評価してもらい、その結果を通勤ストレスの高さで分けた3つのグループで比較した【図表8】。
仕事満足度ほどの差はないものの、通勤ストレスが低いグループほど平均プライベート満足度が高い結果となった。
【図表8】通勤ストレス別にみる平均プライベート満足度
<PICK UP>仕事満足度・プライベート満足度と相関が高い要素
通勤ストレスがワーカーの仕事満足度やプライベート満足度と相関することがわかったが、これをどのように捉えるべきか。ここでは仕事満足度およびプライベート満足度について掘り下げていきたい。
まずは仕事満足度と相関の高い要素について考えたい。本調査では、仕事満足度の段階評価に加え、仕事満足度に関する事柄を12項目提示し、各項目それぞれに自身がどの程度あてはまるか(※)を回答してもらった。この12項目と仕事満足度の相関を調べたところ、相関の高い上位4項目は「自分の存在が認められている、尊重されていると感じる」(相関係数0.60)、「仕事において達成感を感じることがある」(同0.58)、「チャレンジや学習を後押しする雰囲気がある」(同0.58)、「快適なオフィスで働いている」(同0.57)となった【図表9】。このことから、企業がワーカーにとって心地よい雰囲気づくりや快適なオフィスの整備をすることは、ワーカーの仕事満足度を向上させることに効果があるといえるだろう。
一方、プライベート満足度と相関の高い要素は何だろうか。プライベート満足度についても同様に、関わりの深い事柄を8項目提示し、どの程度あてはまるかを回答してもらった。この8項目とプライベート満足度との相関を調べたところ、相関の高かった上位4項目は、「ワークライフバランスがとれている」(相関係数0.44)、「自分の趣味の時間がとれている」(同0.40)、「家族との時間がとれている」(同0.40)、「友人との時間がとれている」(同0.37)であり、時間に関する項目が多いことがわかった【図表10】。
仕事満足度に比べ、従業員のプライベート満足度を高めるために企業ができることは限られるが、例えばテレワーク活用などによって時間効率のよい働き方を提供し、余剰時間を生み出すことが、プライベート満足度向上につながる可能性はあるだろう。
【図表9】仕事満足度との相関
【図表10】プライベート満足度との相関
3.通勤ストレスが生産性やエンゲージメントに与える影響
- 通勤ストレスが低いほど、生産性やエンゲージメントに関する項目について「あてはまる」と回答する割合が高くなる。
- 特に、「毎日楽しく働けている」と回答した割合は、通勤ストレスが高いグループに比べ、低いグループの方が30ポイント以上高い結果となった。
ここまで、通勤がワーカー個人に与える影響について着目してきたが、企業はそれをどのように捉えるべきだろうか。本章では、通勤ストレスがワーカーの生産性やエンゲージメントに与える影響を分析し、ワーカーの通勤について企業側の視点で考察する。
本調査では、ワーカーの生産性や勤務先に対するエンゲージメントに関する9つの項目について、どの程度あてはまるかを回答してもらった。
その結果を通勤ストレスのスコアが高いグループ(8-10)と低いグループ(0-3)で比較したのが【図表11】である。すべての項目において、「あてはまる」「ややあてはまる」の合計は、通勤ストレスの低いグループが高いグループを上回った。特に差が大きかった項目は「毎日楽しく働けている」で、通勤ストレスが低いグループ(68.1%)は、高いグループ(35.3%)より32.8ポイントも高い。次いで差が大きかった項目は「時間効率よく(時間の無駄なく)働けている」で、通勤ストレスが低いグループ(71.9%)は高いグループ(43.1%)より28.8ポイント高い結果となった。
【図表11】通勤ストレスと生産性やエンゲージメントの関係
<PICK UP>「帰属意識」や「毎日楽しく働けている」
などの評価に影響度の強い要素
ここまで、仕事満足度や生産性、エンゲージメントについて、通勤ストレスとの関係をみてきたが、企業が従業員の通勤ストレスを軽減するためにできることには限界がある。では、通勤ストレス以外で、従業員のエンゲージメント等に影響を与える要素にはどのようなものがあるのだろうか。ここでは「勤務先に対して帰属意識を感じる」「毎日楽しく働けている」という2項目(目的変数)に対して、企業が対策可能ないくつかの要素をピックアップし、その影響度を統計的手法により分析した。
今回ピックアップした要素は、「複数の出勤場所がある」「ワークライフバランスがとれている」「フレックス制やテレワークなどにより柔軟な働き方ができている」「快適なオフィスで働いている」の4つに加え、目的変数2つに対して影響がありそうな「個人年収」を加えた計5つである(※1)。
【図表12】は分析結果を示す表である。*の数が多いほど統計的に有意な影響があるといえる。それぞれの数値はオッズ比であり、*がついていて数値が1より大きいほど、各要素の有無により「帰属意識を感じる」確率や「毎日楽しく働けている」確率が増え、逆に1より小さいほどその確率は減る。例えば通勤ストレス(※2)が高いと、帰属意識を感じる確率も、毎日楽しく働けていると感じる確率も減り、このことは統計的に有意であることがわかる。なお、この結果は、それぞれ他の要素による影響を取り除き、各要素による影響のみを示すものであるため、ピックアップした4要素それぞれのオッズ比は、「個人年収」による影響を取り除いたものとしてみることができる。
【図表12】「帰属意識」「毎日楽しく働けている」への影響度(オッズ比)
このとき、「帰属意識を感じる」に最も統計的な影響度が強いのは「快適なオフィスで働いている」であり、快適なオフィスで働いていると感じているワーカーは、そうでないワーカーと比べて帰属意識を持つ確率が高くなる。次に影響度の強い要素は「柔軟な働き方ができている」であった。これらの結果から、ワーカーの帰属意識を高めるためには、働く環境や働き方の制度を整えることが有効であると考えられる。
「毎日楽しく働けている」についても、「快適なオフィスで働いている」の影響度が最も強く、次いで「ワークライフバランスがとれている」が2番目となった。
今回目的変数とした「帰属意識を感じる」と「毎日楽しく働けている」について、最も強く影響を与えていたのはどちらも「快適なオフィスで働いている」であった。このことから、ワーカーが快適だと感じられるようなオフィス環境を整備することは、勤務先に対する帰属意識や毎日楽しく働いてもらうことなどにつながる有効な手段であるといえ、今後優先して取り組むべき課題になると考えられる。
4.まとめ
本レポートでは、首都圏勤務者の通勤の実態に関する調査結果から、通勤ストレスがオフィスワーカーに与える影響について分析した。さらにその影響を、企業としてどのように捉え対策していくべきかを考察した。
まず、通勤時間が長いほど通勤ストレスは高くなることがわかった。通勤時間が短い人は勤務先が都心だけでなく郊外にも分散しており、通勤ストレスも低い傾向があった。郊外の自宅から近くの職場への通勤や、郊外へ向かう比較的空いている電車での通勤などが想像される。一方、通勤時間が長い人の勤務先は都心に集中しており、通勤ストレスも高い傾向にあった。勤務先が郊外であっても、通勤時間が長いと通勤ストレスが高い傾向がみられた。
そして、通勤ストレスが高いほど、ワーカーの仕事満足度やプライベート満足度が低くなることが確認できた。「仕事満足度」は職場環境に関する項目との相関が高く、ワーカーの仕事満足度向上のために、心地よい雰囲気づくりや快適なオフィスの整備等の対策が効果的であると考えられる。また、「プライベート満足度」については、時間に関する項目との相関が高く、企業が時間効率のよい働き方を提供することで、ワーカーのプライベート満足度向上につながる可能性が示唆された。
さらに本調査では、通勤ストレスがワーカーの満足度を下げるだけでなく、生産性や企業へのエンゲージメントに関する評価にも影響を与えていることがわかった。調査した9項目すべてにおいて、通勤ストレスが高いグループよりも低いグループの方が「あてはまる」と回答する割合が高い結果となり、特に「毎日楽しく働けている」と回答した割合の差は32.8ポイントに及んだ。このことから、通勤ストレスはワーカーだけの問題ではなく、企業としても対策を検討すべき課題であるといえるだろう。
また、通勤ストレスのほかに「複数の出勤場所がある」、「ワークライフバランスがとれている」、「柔軟な働き方ができている」、「快適なオフィスで働いている」などの要素がワーカーの生産性や企業へのエンゲージメントに対して影響度が強いことがわかった。つまり企業は、テレワークやフレックスタイム制度、レンタルオフィスなどの整備を行うことや、ワーカーが「快適なオフィスで働いている」と感じられるようなオフィス環境を目指すなどの対策によって、従業員の生産性やエンゲージメントを高めることが可能であると考えられる。
今回、オフィスワーカーの通勤ストレスを軽減することは、ワーカーと企業の双方にメリットのあることだとわかった。これにより、ワーカーの通勤ストレスに対して、企業として対策すべきことは何かを考えるきっかけを提示できたのではないだろうか。ザイマックス総研では今後も、オフィスワーカーの実態や価値観にフォーカスした調査を継続的に行うことで、働き方や働く場所の潮流を捉えていきたい。
《調査概要》
調査時期:2019年2月/調査地域:首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)/調査方法:インターネット調査
調査対象:①スクリーニング調査…15~69歳の男女20,000人を対象に実施。②本調査…スクリーニング調査で「職業が会社・団体の役員、会社員・団体職員、自営業主(飲食店・小売店・対人サービス業以外)で、主たる仕事場(オフィス、事務所)が首都圏(1都3県)」と回答した20~69歳の男女2,144人を対象に実施し、2,009人から有効回答を得た。
《回答者属性》
英語版:Effect of commuting stress on the working people’s satisfaction
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