トピックレポート

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2025.01.08

オフィスワーカー意識調査からみるノンデスクワークへの関心

~人手不足問題の解決に向けて(第5回)~

1.  はじめに

ザイマックス不動産総合研究所(以下、ザイマックス総研)では労働市場の人手不足に問題意識を持ち、2023年5月から本シリーズ「人手不足問題の解決に向けて」を公表してきた。第1回(*1)から第2回(*2)にかけて、職業を「デスクワーク」と「ノンデスクワーク」に分解し、今後はノンデスクワーカーの労働需給ギャップが大きくなること、つまり人手不足問題の核心がノンデスクワークにあることを指摘した。

解決策の一つとして、生成AIの業務代替などにより需給ギャップの緩和が見込まれるデスクワーカーが、ノンデスクワークへ移動することが考えられる。しかし、長らく終身雇用文化であった日本企業のデスクワーカーにおいて、現状そのような動きは一般的ではない。

そこで、全国のオフィスワーカー4,738人を対象に、ノンデスクワークへの就業に対する興味度やその理由、仕事の価値観などを問う調査(*3)を実施した。本レポートではその結果について、特に年代に焦点を当てて分析を行い、仕事や働き方の新しい潮流を探ることで、人手不足問題を考えるうえでの材料を提示したい。

2.  ノンデスクワーク就業への興味度

現在デスクワークに従事している全国のオフィスワーカー4,738人に対して、将来的にノンデスクワークに従事することへの興味度を聞いた結果、「興味がある(「やや興味がある」と「興味がある」の合計)」は36.8%と、「興味がない(「あまり興味がない」と「興味がない」の合計)」(32.0%)を上回った【図表1】。

また、31.2%は「どちらともいえない」と回答した。現状、デスクワーカーがノンデスクワークへの転職を検討する機会はあまりなく、判断の材料も少ないことが背景にあると考えられる。

【図表1】将来的にノンデスクワークに従事することへの興味度


この結果を性年代別に比較すると、20代~40代の男性で「興味がある」が5割弱と高い傾向がみられた【図表2】。また、女性では30代で40.1%と比較的高い傾向がみられた。第3章で詳述する興味度の理由(自由記述)では、ノンデスクワークに興味がある理由として「子どもを育てながら思い切り働けそう」「子どもの教育資金を考えると収入を増やすべき」といった意見もみられ、男女ともに子育て世代は比較的興味度が高いといえそうだ。

一方、50代・60代は男女ともに3割前後が「興味がある」と回答した。40代以下と比べて割合は低いものの、日本の人口構成からみれば人数は多いと考えられる。定年退職を間近に控えた年代のオフィスワーカーでも「逃げ切り」ではなく、定年後のキャリアとしてノンデスクワークを視野に入れる人が一定数いることが明らかになった。

【図表2】<性年代別>将来的にノンデスクワークに従事することへの興味度

3.  関心の背景にあるもの

第2章で確認したとおり、将来的なノンデスクワーク就業に関心を持つワーカーはすでに一定数おり、特に若年層に特徴的な傾向である。こうした新たな価値観の兆しは、旧来的な雇用市場や仕事のあり方を変えていく可能性がある。そこで、第3章ではその関心の背景を探るため、約4,000件に上る「ノンデスクワークへの興味度」の回答理由(自由記述)を読み解いていく。

まず、「興味がある」の理由1,454件と「興味がない」の理由1,124件についてそれぞれ形態素解析を行い、名詞のみを抽出してワードクラウドによるビジュアル化を行った【図表3】。出現回数が多い単語ほど大きく表示される。なお、文字色に意味はなく、「こと」「デスク」「ワーク」など、読み解きに無関係な単語は除外している。

興味がある理由で出現回数が多かった名詞は「経験」「健康」「自由」「将来」「不安」などで、そのほかにもさまざまな単語が幅広く使われている。一方、興味がない理由では「体力」が特に多く出現しており、体力面の不安がノンデスクワーク就業への抵抗感の一因になっていることがわかる。そのほか「自信」「経験」「不安」「労働」などが多く使われている。

両者を比較すると、興味がある理由には将来の不確実性を見据えた意識が読み取れる(将来、可能、定年、老後、今後など)のに対し、興味がない理由には過去を重視する安定志向が読み取れる(自信、経験、満足、好きなど)といえるかもしれない。同時に、「イメージ」「想像」「無理」などの単語から、興味がない理由として先入観が先立っている状況もうかがえる。

【図表3】興味がある理由(左)と興味がない理由(右)に含まれる名詞のワードクラウド


次に、回答のローデータをそれぞれ読み解き、ノンデスクワークに興味があるワーカーと興味がないワーカーの意識や価値観を探っていく。特に今回、年代によって回答内容に傾向がみられたことから、「20代~40代」と「50代・60代」に分けて特徴を整理した。なお、付録として末尾にローデータの一部を抜粋して紹介しているので、あわせてご参照いただきたい。

【ノンデスクワークに興味があるワーカー】

仕事観・人生観

● AIや自動化技術の進展によってデスクワークの将来性に不安を抱き、選択の幅を広げるため、ノンデスクワークを含む新しい仕事や働き方を視野に入れている。

● デスクワークへのこだわりが薄い人や、現在の働き方に疑問を感じている人も多い。特に20代~40代で「給料が上がるのであればどんな仕事でもしたい」「デスクワークがAIに取って代わられるようになった際にも稼げるスキルを身につけたい」というフラットな姿勢が目立つ。

● 50代・60代は、定年退職後も働き続けることを前提に「デスクワークを続けたいが、需要が減っていくなら選択肢を広げないといけない」「そういった仕事でなければ就業できないと思う」など、若年層と比べるとデスクワークへのこだわりが強いものの、定年後の現実的な選択肢としてノンデスクワークを選ぶ意識がみられる。

● 年代を問わず「年金がどれだけ貰えるかわからない」「死ぬまで働かないといけない」といった悲観的な意見も多い。年金制度などの課題が顕在化するなか、生活防衛のためキャリアをシビアに考えている層がノンデスクワークに興味を持っているといえる。


ノンデスクワークについて

● 20代~40代では、「社会課題への貢献ができる」「人々の助けになることが実感できて、やりがいがありそう」「環境の変化が刺激になり退屈しなさそう」など、仕事自体に魅力を見出すポジティブな意見が目立つ。「アウトプットを求められるデスクワークより気楽に自分のペースで働けそう」「勉強しなくて良さそう」など、気楽さや融通が利くイメージも評価されているようだ。

● 50代・60代では、「最後まで社会に参画したい」「社会と関わりを持ち続けたいのと体力維持のため」「新しいことを覚えて働くことは若さを保つために必要」など、ウェルビーイング(肉体だけでなく精神的・社会的にも満たされた健康な状態)を意識した意見が多い点が特徴的である。

● 具体的に就きたい職業を挙げる回答もみられ、多いのはドライバー、接客業、医療関係者、介護士などであった。

● 都心部に集中するデスクワークと違い、全国どこでも働ける点も評価されている。「定年後も自宅近くで働けそう」「毎日出勤するのではなく地方都市などに移り住みながら働きたい」などの意見があった。翻って、デスクワークに対しては「通勤時間をかけて出社することに意味を感じない」といった指摘もみられた。コロナ禍を経て長時間通勤に対するワーカーの拒否感は相当高まっており、ノンデスクワークの優位性の一つになっている。


【ノンデスクワークに興味がないワーカー】

仕事観・人生観

● 現在の仕事や働き方に満足しており、変化を求めない現状維持の志向が強い。

● 20代~40代では「そこまで将来を考えられていない」「このままでも何とかなりそう」「FIREしたい」など、将来への無関心・楽観的なスタンスがみられる。「デスクワークのすべてをAIで対応できるとは思えない」など、興味がある層と比べると社会の変化に対する危機感はあまりない。

● 50代・60代ではある程度キャリアを築いている人も多いため、「経済的にそこまでして働く必要はない」「65歳には引退したい」など、そもそも働く必要性を感じていない人が一定数いる。働き続けるとしても、「自分のスキルと人脈に自信があり、今のままの生活を続けたい」「デスクワークでまだまだやらなきゃいけない仕事がある」など、現在の仕事へのこだわりがみられる。


ノンデスクワークについて

● 年代を問わず、体力的・環境的な厳しさや低い対価を懸念する意見が多く、特に肉体労働や接客業に対する抵抗感の強さがみられた。なかにはアルバイトなどの経験に基づく意見もあるが、大半はイメージによるもの(「働く環境が過酷そう」「カスハラが多そう」「低収入という先入観がある」など)であった。

● 「働くイメージがわかない」「自分にできるかわからない」など、ノンデスクワークに関する経験や情報が乏しいがゆえに、興味を持つに至らない層も多いことが見受けられる。


なお、全体の3割を占める「どちらともいえない」の回答理由でも、「イメージできない」「わからない」を含む回答が大半を占めた。ノンデスクワークは仕事内容や働き方が多岐にわたり、具体的なイメージを持ちづらいという特徴がある。こうした情報不足からくる心理的障壁は、適切な情報提供が進むことで解消されていく余地があるといえるかもしれない。

4.  おわりに

本レポートの分析から、「働く」に関する新たな価値観の兆しがみえた。終身雇用を前提としたオフィスワーク信仰は薄れ、若い世代を中心に、社会変革に即した現実的な選択肢としてノンデスクワークを検討する層がすでに一定程度存在することがわかった。

今後、こうした層の存在感が増していけば、ノンデスクワークの社会的な位置づけが変わっていく可能性は十分にある。今回の調査で、ノンデスクワークに興味がある理由として「バイト時代から接客業が好きだったが、世間体を考えてオフィスワークを選んだため」という回答があったが、この回答が示す価値観ーー現場仕事をオフィスワークよりも下にみるような風潮ーーは、過去のものになっていくかもしれない。

また、今回の調査では「副業・兼業」や「二拠点居住で働く・地方へ移住して働く」といった新たな働き方への関心も若年層ほど高い傾向がみられた。こうした多様な働き方・生き方が広がれば、完全な「転職」ではなく、デスクワークとノンデスクワークを少しずつ担うような流動的な働き方も広がっていくかもしれない。すでにノンデスクワークの業界ではスポットワーカーが活躍しているが、そうした流動的な働き方を支える制度や環境の整備が進めば、あらゆる人にとってノンデスクワークへの就業ハードルは下がっていくだろう。こうした社会変革の兆しを捉えるため、ザイマックス総研では引き続き調査研究を行っていく予定である。

付録:「ノンデスクワークへの興味度」の回答理由(自由記述)

調査概要

調査期間

2024年10月

調査対象

①スクリーニング調査…職業が「経営者・役員、会社員」の調査対象地域に住む20~69歳の男女を対象に実施

②本調査…スクリーニング調査で職業が「会社・団体の役員、会社員・団体職員」、職種が「管理的職業、専門的・技術的職業、事務的職業、営業職業」、在籍するオフィスが「首都圏(1都3県)、大阪市、名古屋市、福岡市」、住まいが「首都圏(1都3県)、岐阜県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、福岡県、佐賀県」、現在の主に働いている場所が「オフィス(事務所)、自宅」と回答した人

有効回答数

4,738人 ※在籍するオフィスの所在地により割付している

(首都圏:2,060人、大阪市:1,030人、名古屋市:515人、福岡市:515人、札幌市:309人、仙台市:309人)

調査地域

首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)、岐阜県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、福岡県、佐賀県

調査方法

インターネット調査

レポート内のグラフに関して
・構成比(%)は、小数点第2位を四捨五入しているため内訳の合計が100%にならない場合がある。
※当レポート記載の内容等は作成時点のものであり、正確性、完全性を保証するものではありません。
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参考:働き方×オフィス 特設サイト

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